ありふれた職業の召喚(ガチャ)士で世界最弱   作:ヴィヴィオ

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地上側のベヒモス戦はカット。鈴と恵里の代わりにSキャットと清水が参戦。これにより、戦力比は逆転! 単純にベヒモスが二体、味方になってる感じだしね!



第30話

 

 

 

今、なんて言ったのかな? 

 

 私はオルクス大迷宮にて皆が合流し、マスターの身体を作っている間に報告の為に王宮にある工房へとやってきました。そこで清水さんと香織さん、雫さんに人払いが出来た状態でマスター達の無事を伝えました。すると香織さんは泣き崩れて、良かった……と、なんども呟いて泣きました。清水さんは手を出そうかどうか悩んでいましたが、雫さんが来て抱きしめた事でほっとなさいました。ここまでは良かったのです。ここまでは……

 皆さんの話になり、奈落でのハジメさんとユエさんについて報告すればこうなりました。背後に般若が生まれて、ちょっと怖いです。

 

私の聞き間違いかな? そうだよね? 南雲君に私以外の女ができたなんて……そんな泥棒猫が現れるなんて……

「じ、事実です……南雲ハジメはオルクス大迷宮の奈落で出会った少女と……」

「ひっ!?」

 

 睨み付けてくる香織の表情に思わず悲鳴がでてしまいました。

 

「八つ当たりはよくないわよ」

「……これ、私が悪いのかな?」

「悪くはないけれど、もっと積極的になった方が良かったかも? さっさと告白していれば……」

「ふふふ、そっか。そうだよね。私、今から飛び降りて南雲君に合いに行くね!」

「待って! それは本当に待って! 自殺になるから!」

「いや、それは大丈夫だろう。聞いた話ではすでにオルクス大迷宮はユーリの手に落ちている。なら、後はシュテルが手伝ってくれれば安全に下に行けるはずだ」

シュテル? もちろん、手伝ってくれるよね? 

「で、できません……」

なんでっ! なんでなのっ! 

「落ち着きなさいって。どうしてできないの?」

「現在、マスターの治療にオルクス大迷宮の力をほとんど注ぎ込んでいます。ですので転送などのリソースを大量に使用する物は使えないのです」

 

 香織は協力者なので願いを叶えてあげたいのですが、マスターに害が及ぶ事であれば私達はマスターであるお兄様を優先します。

 

「香織、流石にこれは無理を言えないわ」

「う~~~でも、このままじゃ私はもう南雲君と……」

「その、何を言っているのですか? ハジメがユエと付き合いだしたとしても、香織も一緒にハジメの雌……女になればいいじゃないですか」

「え?」

「な、何を言っているのよ!」

「いえ、マスターはユーリを含めた私達三人と、鈴と恵里。それに召喚した二人の女性と結婚する事になりました」

「なんだと!? それってハーレムって事じゃないか!」

 

 私の言葉に香織は不思議そうにし、雫は信じられないといった感じです。清水さんに関しては叫んできましたが、事実です。

 

「そ、それってシュテルちゃん達が幼い事をいい事に騙しているんじゃ……」

「それはありません。どういうことか、ちゃんと理解していますし、そもそもこれは私達が相談して決めたことです。そこにマスターの意思は少ししかありません」

「そう、なんだ?」

「はい。全面戦争も辞さない感じで、誰も譲るつもりなんてありませんでした。一番危険な人は足を引っ張ると堂々と宣言してくれましたしね。厄介な事に強いですし、現状の私達ではユーリぐらいしか対抗できないレベルです。

 その人と恵里が組んで暗躍と妨害をされればたまったものではありません。マスターの命令で直接的な被害は出せなくても、人を操って間接的に私達を妨害したり、亡き者にするぐらい平気でやってくる魔女が相手ですから、妥協しました」

「いや、魔女と同列みたいに語られる恵里って何したのよ?」

「それは秘密です。ただ、私達は争う事を嫌ってマスターを私達とあちらで共有する事になりました」

「むしろ、鈴ちゃん達は納得しているの?」

「はい。彼女達もマスター以外には考えられないとのことです」

 

 まあ、無理もありません。極限状態に置かれ、相手が存在しないと生きていけない場所でしたから。言ってしまえば極限の吊橋効果といった感じですね。

 

「くそっ、沙条の奴め……ウラヤマシイことを……」

「アンタ……」

「やっぱり、男の子ってハーレムとかに興味があるの?」

「当たり前だ!」

「そっか……じゃあ、ちょっと考えてみる」

「ちっ」

「そんなにご不満なら、試しに清水さんも同じ体験をして女性を虜にすればいいでしょう」

「マジ?」

「ただ、少し失敗すると魔物(モンスター)に食べられて死にます」

「……」

「マスターは身体の半分以上と一部の感情、感覚、記憶の一部を失ってかろうじて生きている状態でした。鈴は両足を失い、恵里は片腕と片足がありません」

「「「そんなっ!?」」」

 

 改めて三人と南雲ハジメの詳しい状況を伝えていきます。すると三人共、真っ青になりました。

 

「清水さんならひょっとしたら、適応できるかもしれません」

「テイミングでワンチャンかよ。失敗したら食べられるのが確実……」

「それで一緒に連れていく候補は誰がいいですか?」

「やっぱり止めておく」

「それがいいと思います」

 

 諦めてくれて良かったです。もしも、頼まれたら相手を見繕わないといけませんし、とっても大変です。まず、死んでもいい人から容姿端麗で清水さんが気に入る人なんて条件になりますしね。

 

「こちらの報告は以上ですが、そちらは何かありますか?」

「一緒に行ってたから詳しい報告はないが……しいていうなら、ベヒモスに再戦を挑んで倒したぐらいだ」

 

 65階層のボス、ベヒモス。私の本体が召喚された時に利用した触媒ですね。あの魔物(モンスター)がマスターを奈落に落とす原因の一つになったともいえます。そんなベヒモスですが、清水さんが言った通り、私も討伐に参加しています。

 もちろん、人型ではなく使い魔として三人をお守りしました。具体的に言うと結界を展開して守り、口から火炎を吐いて攻撃したりしました。

 

「地上の事です」

「ああ、それならウォルペンさんがバッテリーの箱を誤差なく完璧に仕上げたぐらいだな」

「ウォルペンさんがですか……まあ、彼ならできるでしょう」

 

 ハイリヒ王国直属の筆頭錬成師ウォルペン・スターク。この国の錬成師のトップです。最初は彼もバッテリー作りなど意味の分からん仕事をやっている暇はないと言っていました。ですが、派遣されてきた錬成師が投げ出した後、しぶしぶやってきました。そんな彼は他の錬成師と違い、実際にバッテリーを作る現場を見せ、理由を説明したら部下の人と何個も試作品を持ってきて、試していました。この国は使える人と使えない人の差が激しいです。

 

「あ、それなら帝国って国から人が来るみたいよ」

「帝国ですか。調査対象ですね。わかりました。ありがとうございます」

「ねえ、シュテルちゃん」

「決めましたか?」

「うん。まず南雲君と話し合ってみるよ。それで行けない理由は理解できたけど、連絡を取る手段はない?」

 

 香織さんと南雲ハジメの連絡……それぐらいならどうにかできなくはないですが、盗聴される可能性も否定できません。そうなると、確実に安全で問題がない手段……ありますね。

 

「香織さんと南雲ハジメ、ユエさんで実際に会って話し合う手段が一つだけありました」

「本当!?」

「はい。ただし、それは代償があります」

「もしかして蒐集か?」

「はい。お二人は蒐集しているので、香織さんを蒐集すれば後は私とあちらに居る私との間を取り持ちます。簡単に言えば量子コンピュータを使ったVR空間を作るので、そこで話し合ってください」

「そこで南雲君と会えるのならいいよ。なんでもやって!」

「本当にいいの?」

「色々とデメリットもあるぞ」

 

 蒐集についてのデメリットまでしっかりと教えましたが、香織さんの意思は固いようです。なので、彼女を蒐集してあちらの私に二人を強襲して作った空間に放り込みます。そこで何が話し合われようと私達は関与しません。ただ、相談や戦略についてはお手伝いしました。

 トイレや食事休憩を挟んで三日三晩話し合いが行われましたが、その間はそれなりに大変でした。その結果、とりあえずは現状維持で会った時に気持ちが変わってなければ一旦、付き合うことにしたそうです。それからお兄様や私達の関係などを見つつ色々と検討していくことになったそうですね。

 疲れ切った南雲ハジメがそう言っていました。誰が正妻かはまだ不明らしいですが、私達は香織さんを押します。お兄様がそうですし、私も友達ですからね。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「おい。なんて事をしてくれたんだ……」

 

 リビングにしている場所でくつろいでいると、ハジメさんが文句を言ってきたので説明してあげます。

 

「私はマスターであるお兄様が香織さんにつくような発言をしていました。地上に居た時に応援もしていたので、お二人が一緒になれるように頑張っただけです」

「それが余計な事だったんだ。どれだけあの二人を止めるのが大変か……」

「頑張ってください」

「ディアーチェ!」

 

 厨房から出てきたディアーチェがミトンをつけた手にトレイを持っています。その上には焼けたばかりのクッキーが沢山置かれており、とてもいい匂いがします。

 

「我はどちらでもないな。全ては南雲ハジメ。お前次第だ。だが、一人を選んだら、もう一人の方は確実に悲しみ、不幸になる可能性が高い」

「ああ、色々と否定しようとしたら、シュテルに自殺しそうだって言われたわ!」

「そうなのか?」

「私はただ、香織さんが悲しそうに手首を見たり、ナイフを持ったりして身体にあてていたと伝えただけです」

 

 頑張りました。涙だけでなく、絶望した感じの香織さんにナイフを渡して、身体に触れさせてから、それをハジメさんに伝えるだけの簡単なお仕事です。本当に自殺するかどうかは関係ありません。これによって香織さんがかなり追い詰められているという事をハジメさんに知らせ、こちらの要求を受け入れやすくしただけです。本来、他人の事ならどうでもいいともいえるでしょうが、これが地上で仲が良く、互いに好意を抱いていたような相手なら、ハジメさんの性格から考えてなんだかんだと理由をつけて必ず救おうとします。

 後は彼を蒐集したレヴィのデータから、ハジメさんとユエさんの趣味嗜好を読み取ってそれを香織さんに伝え、交渉を有利に運ぶようにするだけです。情報収集は戦いの基本ですし、こちらは恋の戦いでも変わりません。そして、戦うからには勝たなければなりません。

 

「沙条に絶対、文句言ってやる!」

「残念だが、あやつは香織の味方であろうよ」

「ちっ。ユーリは……沙条に付きっきりか」

「うむ。このような些事でユーリの手を煩わせるならば、朝昼晩の御飯が激辛麻婆豆腐になる覚悟をするのだな」

「嫌な嫌がらせだな! 自分で作って……」

「厨房には入らせん。ああ、ユエは構わんぞ。花嫁修業は必要であろうしな」

「他の奴は……」

 

 ハジメさんの視線がソファーに座ってトランプをしている他の皆に向きますが、問題ないでしょう。

 

「ごめんね。鈴はかおりんの味方だから!」

「僕は鈴と真名の味方だから」

「面白そうだから見てる!」

 

 鈴と恵里は理由はどうあれ、知り合いの香織を助けます。アストルフォは面白そうという理由でこちらにつきました。ルサルカと詩乃は居ません。ルサルカはユーリと一緒にお兄様を見ていますし、詩乃はあの時の事を気にして一人でこの辺りをよく散策しています。それにレヴィがついていっています。一人にするのはまずいですし、訓練もしているようですからレヴィが相手をするのがちょうどいいのです。少し前は詩乃が射た矢を追いかけてキャッチするような遊びを獣状態のナハトと一緒にやっていましたね。

 

「敵しか居ない、だと……」

「この件に関しては仕方があるまい。我等は既に真名を共有する事で決着をつけた。故にハジメも同じようにすればよかろう解決策は」

「だが、それは……」

「後はお前の甲斐性があるかないかであろうよ」

「日本じゃ嫁は一人だぞ」

「こちらでは知ったことではないな。それこそ建国すらできるぞ」

「……確かに土地も戦力もあるな」

「うむ。このオルクス大迷宮が我等が国とも言える。それに歴史を考えると、(エヒト)は人々を誘導し、操ってくるのは確実だ。そうなると我等も数を揃えねばならん。国を作るか、乗っ取るのはそれなりによい手であろうよ」

「面倒な事になるだろう。それに俺達は地球に……いや、沙条は帰る気がないんだったな」

「我等という爆弾を抱えておるのだ。このまま地球に、日本に戻れば大変な事になるであろう」

「確かにそうだな。二次元の存在が三次元に現れるんだ。著作権とか色々と……」

「まっ、知った事ではないがな!」

「敵対するのなら滅ぼすまでです」

 

 会話がひと段落ついた感じなので、飲み物を入れて皆さんに配ります。すこしするとユエさんも降りてきました。

 

「ハジメ、私負けない。絶対に勝つから見てて」

「あ、ああ。頑張ってくれ」

「ん」

 

 抱き着いてきたユエさんを撫でて真剣に悩んでいるハジメさん。果たしてどうなるか、とても楽しみではありますが、二人には、三人には幸せになって欲しいです。少なくともこちらの世界に居場所は用意しておいてあげますので、気兼ねなく決めて欲しいですね。

 

 

 

 

 

清水君ヒロインアンケート 人になるます

  • 波の鳥 フ
  • 謳の鳥 コ
  • 空の鼠 ク
  • 深海のナニカ レ

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