蝋燭の光で照らされた暗い世界。気がつけばそこに戻っていた。ここに太陽の光はなく、吊り下げられている身体を支える両手と両足に縄が体重で食い込んで痛い。背中に乗せられた沢山の蝋燭が、蝋を垂らして素肌を焼いていく激痛。声を上げて悲鳴を出そうにも、口を開いた状態で固定する口枷を嵌められている。そして開いた口に色々な物を入れられていた。
「さあ、本日は爪を剥ぎましょう。口に入っている物を落としたらお仕置きですからね」
「お仕置きは水責めでいいか」
銀髪のメイド服を着た女と金髪の貴族の男。その姿を見て恐怖が湧き上がってくる。爪と指の間に針が入れられて無理矢理外されていく。激痛にすぐに口の中のを放り出して悲鳴をあげると、鞭が胸や股間に飛んできて、痛みに呻いていると二人が笑いながら鎖を下げ、傷だらけの私を下に置いた水槽へと入れていく。
傷が水に触れる激痛と電撃による感電で絶叫を上げながら、必死に助けを魂願するけど許してもらえず、気絶しても何度も何度も行われる。反応がなくなってきたら、回復魔法が使われて強制的にもとの状態へと戻される。救いなんてない地獄に私は戻っていた。
「いやぁあああああああああああぁぁぁぁっ!! 」
絶叫を上げて身体を起こし、ガタガタと震える身体を両手で押さえる。歯がガタガタと打ち合って音を響かせていく。全身から嫌な汗が沢山流れでている。
「いや、いやぁ、やめて、たすけてぇ……」
「優花、大丈夫だ。安心しろ」
腕を引っ張られて倒れ、抱きしめられる。混乱して悲鳴を上げながら助けを求めていく。
「平気じゃないね」
「お水だよ!」
「え?」
灯りがつけられて、温かい声に周りを見ると、そこにはすぐ近くで心配そうに見ているご主人様の顔と、服も着ずにこちらを心配そうに覗き込んでいる皆の姿。
「ゆ、夢……」
「そうだ。もう助かったんだ」
その言葉と身体を優しく撫でられる感触でだんだんと震えが収まってくる。落ち着いて周りを見ると、あの地下室のような場所ではなく、調度品が整った場所で壁際にある魔法の光が部屋全体を照らしている。そんな部屋のほとんどを埋めているベッドの上で服を着ずに私は居た。
「よ、よかった……」
安心したら、色々と思いだしてきた。昨日はご主人様に抱かれたんだ。身体中を舐められたり、身体の中を掻きまわされたり、鈴達は気持ちいと言っていたけれど私には気持ち悪さの方が勝った。それでも機嫌をそこねてしてくれないと捨てられるかもしれないから、必死でご主人様を楽しませるために我慢した。それにご主人様が助けてくれたから、あの地獄から抜け出せた。あのままだったら、あいつや檜山に買われてまた拷問される生活に戻っていた。そこから助け出してくれたのだから、心や身体をあげるくらい拷問されるよりも全然ましだ。
天井の染みでも数えていたら終わるって聞いた事もある。だから、それをやろうと思ったけれど本格的にされだすと色々な物が混ざってわけがわからなくなって気が付けば……あの地獄に居た。
「よかった……もう、あそこじゃない……」
安心したら身体から力が抜けて──
「あっ、いやっ、止まって……」
「これは風呂からだな。掃除を頼む。俺は優花を風呂につれていってくる」
「任せて~」
「うん。まあ、これは仕方ない」
「ご、ごめんなさい……」
──粗相をした。それからお姫様抱っこで抱き上げられ、隣にある風呂場へと連れていかれた。そこで身体を綺麗に洗われる。自分で洗いたいけれど、ご主人様のしたいようにしてもらって楽しませるのが奴隷である私のできることだって教えられた。それを破ると身体が拒絶反応を起こしてパニックになるぐらいにされているのが自分でもわかっている。止めたくても止められない。捨てられないとわかっていても、心と身体が拒否する。
「夢か?」
身体を洗われてから、湯船に移動して温まる。男性の膝の上に乗せられて、身体を預けるなんて前からは想像もできなかった。
「う、うん……捕まって拷問されている時の夢が……」
「やはり、そう簡単にはいかないか」
「ごめんなさい……たぶん、次も寝たらああなると思う……だから、私一人にして欲しい、です……皆に迷惑をかけちゃうから……」
「却下だな」
「な、なんで……」
「まあ、確かに夜中に起こされるのは問題だが、優花のせいじゃないからな。皆、理由はわかっている。誰も怒らないさ。さっきだってそうだったろ?」
「でも……」
「そうだな……俺と後一人か二人、優花と交代で寝よう。優花が克服するまではそれでいいだろう」
それでも皆に迷惑をかける。この年でお漏らしまでしちゃってるし、身体を色々と改造されてしまっている。
「む、無理……克服なんてできっこない」
あんなものを克服なんてどうやったらいいかわからない。考えるだけでも、思いだそうとしただけでも恐怖が心の底から湧き上がってくる。
「いや、できるさ。任せてくれ」
「ほ、本当にできると思っているの?」
「ああ。優花は克服できると信じているし、そうだな……じゃあ、賭けをしないか?」
「賭け?」
「そうだ。優花がトラウマを克服できるか、できないかの賭けだ。こう言ったら愛歌みたいになるが、俺が優花を助ける王子様になってやる」
「お、王子様?」
愛歌っていうのはご主人様の名前と似ているけれど、別人なんだよね。
「夢の中だって颯爽と現れてしっかりと助けてやる。だから、俺が勝ったら優花の全部をくれ」
「もう全部あげてるよ。心も身体も、全部。捨てないで飼ってくれたら、私の事、本当に好きにしてくれていいから」
「いや、それだけじゃなくて未来もくれ」
「え?」
「これから何年経っても、死がふたりを分かつまでずっと一緒に居てくれ」
「そ、それって……プロポーズ……?」
「俺はちゃんと責任を取るからな」
「私なんかでいいの? 汚されて穢れてるよ……?」
「穢れてなんかいない。優花は綺麗なままだよ」
ご主人様の目を見ると、本気で言っているのがわかる。檜山みたいな軽い無責任な言葉でもない。嫌悪感も感じないし、これから死ぬまでずっと一緒だと想像すると……別に悪くない。むしろ、嬉しい、かも。
これなら賭けなんてしなくても別にいい。今のままでも構わない。でも、それだとトラウマを克服していないから、ずっと、ずっと迷惑をかけることになる。それは嫌だ。
これは私がトラウマを克服するために提案してくれたことで、すでに全部をあげているのだから、ご主人様に得なんて一切ない。それでも、こう言ってくれているんだから、頑張ってみようかな。
「うん。わかった。でも、私が無理だったら、どうするの?」
「それだったら、なんでも一つ、優花の言う事を聞こう」
「なんでも?」
「ああ、なんでもだ。優花の人生を全部もらうんだから、それぐらいのリスクは負うさ」
「そっか。じゃあ、私が勝ったらユーリ達と別れて」
「え”」
「そして、私だけを見て」
本当はそんな事を望んでいない。でも、こうする事でご主人様の本気度がわかる。
「むぅ……ユーリ達と別れる、か」
即答せず、真剣に悩んでいる。それだけ、皆を大切にしているって事なのか、それともハーレムを手放したくないだけか。
「わかった。ただし、ユーリ達の生活に関わる事は関わらせてもらう。魔力の提供とかは絶対に必要だからな」
「本当にいいの? ご主人様の立場なら、私の願いなんて無視できるよ?」
「それでもだ。それに負けるつもりは一切ないからな」
「……わかった。じゃあ、その賭けに乗る。私をちゃんと救い出してね」
「ああ、任せろ」
身体を預けて、ふと思いついたので不敬だろうけれどこれぐらいはいいと思う。そっと頬にキスする。
「さて、夢に入る方法をどうするかだ」
「ノープランなんだ」
これは本当に私達が支えないとまずいのかもしれない。
「いや、切り札はあるんだ。だが、清水にプレゼントするのに使ったから、少し時間を置かないと駄目だ」
「そういうことなら、ルサルカお姉ちゃんにまっかせなさ~い」
「「っ!?」」
風呂場の扉が開いてお姉ちゃんが入ってくる。いや、それだけじゃなくて皆も居る。ユーリ様も居て、こっちに来るとご主人様に抱き着いた。
「お兄ちゃん、絶対に勝たないと許さないですからね! 絶交です。離婚です……嫌ですからね?」
「ああ、わかってるよ」
「そうだそうだ~!」
「うむ。ユーリを悲しませるなら、殺す」
「致し方ありませんね」
「おい」
「駄目ですよ」
「冗談だ」
「はい。精々お仕置きするぐらいです」
「お仕置き……そういえばお尻叩きをしていなかったな」
「ハジメさんにグリグリされたので許しては……」
「許そうと思ったがやめた」
「折衷案です。エッチしながらしましょう」
「……まあ、それならいいか」
楽しそうにわいわい話している中、鈴と恵里がやってきて抱き着いてくる。二人の幸せを壊すような事を言ったから怒られるかも。
「大丈夫だよ。真名君がやるって言ったら、やり遂げるしね」
「うん。大丈夫。僕達はほとんど気にしていない。気にしているのは無茶しないかって事。サクリファイスして解決とか、認めないから」
「だから、私にまかせなさいって。夢に介入するだけでしょ? 余裕よ、余裕。魔女なめんなっての」
「方法は?」
「とりあえず、二人がエッチして心を一つにするでしょ? そこから感覚共有を通じて一緒の夢を見る。そして、介入すればいい。この場合、拷問されている時にカッコよく颯爽と乱入して助けるだけ。問題は相手があのメイドって事ね。現実ほどじゃないにしろ、くそ強いでしょうね!」
「そうなの? 夢なら勝てそうだと思うけど……」
「夢っていっても、優花の夢だかね。心の底からメイド達に恐怖を植え付けられているから……その強さに比例するわ」
「つまり、私の心の持ちよう……」
「ハリー・ポッターでいうモノマネ妖怪か」
「ばかばしいって奴……それなら知ってる」
ハリー・ポッターは有名だし、私も読んだ。
「あー一番強い助っ人をよんでもいいか。お~い、どうせ起きて聞いてるんでしょ。アンタも手伝いなさい。そうしたら、アンタの王子様も来てくれるかもしれないわよ? アンタも私と同じように変わっていかないと、本当に来ても逃げられちゃうぞ~」
誰に言っているのか、わからない。そう不思議に思っていると、どこからともなくお姉ちゃんの上に水が降って来た。
「つべた!? なにするのよ!」
「五月蠅いわね。余計なお世話よ。それよりもアストルフォをどうにかしなさい! こっちは抱き枕にされて困ってんのよ!」
ご主人様の口が勝手に動いたのか、ぜんぜん違う声がでてくる。
「あ、そっちに行ってたのか」
「そうだそうだ~ボクだってマスターと寝たい!」
「あ~」
「というわけで、アストルフォも一緒に寝る日を一度は用意しなさい。このままずっと私が抱き枕にされてるとか、コイツを消し飛ばしたくなるわ。それは困るでしょう?」
「ああ、困る。だが、こちらも優花の事で忙しい。そうだな、お泊りでアストルフォと遊ぶ一日を作る代わりに、優花の事を手伝ってくれ」
「夢に入る程度、貴女でも簡単でしょうに」
愛歌がルサルカを見詰めながら告げてくる。確かにルサルカならそういう力は持っていてもおかしくはない。
「いや~そうなんだけどね? 私ってほら、拷問具を使うでしょ? そうなると優花の心が……」
「逆に考えなさい。優花が拷問されるんじゃなくて、優花が拷問するのよ」
「なるほど!」
「後はマスターに優花を優しく拷問させて、SMプレイとして上書きでもしたら大丈夫じゃない? あと、夢なんだからユーリも連れていきなさい。完全体のその子が相手なら、優花が考えられる程度の強さなんて意味ないし、物理的に改竄だってできるわ」
「……なんという力技だな」
「やりましょう。ディアーチェ、シュテル、レヴィ。準備してください。スピリットフレアもできましたし、紫天の書も大丈夫です。久しぶりに全力全開で暴れます!」
可愛らしく力拳を作る。ユーリ様。どこにそんな凄い力があるのかわからない。でも、誰も疑問に思っていない。大丈夫なのかな?
紫天の盟主・ユーリ・エーベルヴァイン(ディアーチェ、シュテル、レヴィ入り)VS真・神の使徒。果たして結果は……
なお、ユーリに対する支援効果として聖杯と魔導炉によるバックアップがつくもよう。
ただのオーバーキルかな?
完全体ユーリ・エーベルヴァインL:紫天の盟主としての全能力解放状態。蒐集してきた技術や魔法を十全に使いこなす上に手数は最低でも四倍であり、火力も増加している。なによりヤバイのはユーリの防御力を得た状態でシュテルやディアーチェの砲撃チャージが瞬時に可能。そして、レヴィの雷を使った高速移動も可能であり、転移と合わせたらどこにいるかはほぼわからない。単身で次元震ぐらい起こせるぐらいは平気でやってのける幼女。
スピリットフレアSSR:ユーリ・エーベルヴァインのデバイス。生成魔法によってアーティファクト化され、収集された技術やルサルカの魔術、FATEの魔術回路や宝具の概念なども使われている。魄翼はエイヴィヒカイトを改造してあわせることで魔力や生命力を無尽蔵に吸収して力と変える。当然、魂も含まれる。
完全体ユーリは現実では使用できません。ユーリの機能回復と真名の適合が終わってない上に全力だしたら世界がやばい。生命一つない死の大地が完成します。やったね! そう、これこそ対愛歌用決戦兵器! ビーストにはビーストをぶつけろ! それで勝ってゲームオーバーだ!
ゲームじゃ、ユーリは闇の書にくっついて幾つもの世界を滅ぼしているから、ビーストの中でも上位かもしれない。本当、外見詐欺な幼女である。
なお、本編とは関係ないかもしれません。
ひとつ思ったのですが、夢の中なら血塗られた古木の枝使ってもユーリなら、勝てるんじゃないかと思いました。
次の話で優花は少しトラウマを残しつつもある程度は普通に暮らせるようになります。流石に本物はトラウマですけど。
清水君ヒロインアンケート 人になるます
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波の鳥 フ
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謳の鳥 コ
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空の鼠 ク
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深海のナニカ レ