ありふれた職業の召喚(ガチャ)士で世界最弱   作:ヴィヴィオ

42 / 88
タイヤの部分、勘違いがあったので修正します。
今回はほぼ原作をハジメの一人称に書き換えているだけなので三分の二ぐらいからでも問題ありません。
ウサギさんが可哀想な目に会いますが、仕方がありません。何故なら、理解あるルサルカさんでも、現状で沙条の女を増やすのは許容できないので虐めてハジメの方へ行くように誘導します。後、情報を聞くために脅しはする。第二次世界大戦で大量虐殺をした軍人だもの。


ハジメ

 

 

 

 

 他人の告白など見ていても仕方がないので、ユエと共に二人で魔法陣へ先に乗って移動した。魔法陣の光に満たされる。次の瞬間、何も見えなくとも空気が変わったことは実感してきた。奈落の底の澱んだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気に頬が緩む。

 やがて光が収まり目を開けた俺の視界に写ったものは……洞窟だった。

 

「なんでやねん」

 

 魔法陣の向こうは地上だと無条件に信じていた俺は、代わり映えしない光景に思わず半眼になってツッコミを入れてしまった。正直、めちゃくちゃガッカリした気分だ。そんな俺の服の裾をクイクイと引っ張るユエ。

 

「何だ?」

「……秘密の通路……隠すのが普通」

「あ、ああ、そうか。確かにな。反逆者の住処への直通の道が隠されていないわけないか」

 

 顔を向ける俺に慰めるようにユエは自分の推測を話してくれた。確かにユエの言う通りだ。そんな簡単なことにも頭が回らないとは、どうやら思った以上に浮かれていたらしい。

 頭をカリカリと掻きながら気を取り直す。緑光石の輝きもなく、真っ暗な洞窟ではあるが、俺もユエも暗闇を問題としないので道なりに進むことにする。沙条達が後から来るだろうし、先に進んで安全を確保しておいても問題ない。

 

 途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。俺達は一応、警戒していたのだが……拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。外の光だ。俺はこの数ヶ月、ユエに至っては三百年間、求めてやまなかった光。

 俺とユエは、それを見つけた瞬間、思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。

 近づくにつれ徐々に大きくなる光。外から風も吹き込んでくる。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。俺は〝空気が旨い〟という感覚をこの時ほど実感したことはなかった。

 そして、俺とユエは同時に光に飛び込み……待望の地上へ出るために一歩を踏み出した。そして、落ちた。どうやら崖の上に作られた洞窟のような場所のせいで、外は地面ではなかった。すぐに下を確認すると、太陽の光に照らされる地面が見えたので、そのままユエと共に着地する。

 

 ここはオスカー・オルクスが残した資料によると【ライセン大峡谷】と言われる場所らしい。この場所は地上の人間にとって、地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えないというのに、多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。

 深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はライセン大峡谷と名付けたらしい。

 

 俺達は、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口の下にいた。いや、上を見た限りでは魔法陣が消えているから、この辺りを探せばオルクスの指輪に反応して入口が見つかるのだろう。どちらにせよ、今はどうでもいい。谷底とはいえ、頭上の太陽が燦々と暖かな光を降り注がせ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐってくる。

 そう、ここがたとえどんな場所だろうと、確かにここは地上なのだから。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていた俺とユエの表情が次第に笑みを作る。無表情がデフォルトのユエでさえ誰が見てもわかるほど頬がほころんでいる。

 

「……戻って来たんだな……」

「……んっ」

 

 俺達は、ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そして思いっきり抱きしめ合った。

 

「よっしゃぁああ──!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

「んっ──!!」

 

 小柄なユエを抱きしめたまま、俺はくるくると廻る。しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っているが、気にしたら負けだろう。途中、地面の出っ張りに躓き転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、二人してケラケラ、クスクスと笑い合う。しばらくしてようやく二人の笑いが収まった頃には、……魔物に囲まれていた。

 

「はぁ~、全く無粋なヤツらだな……確かここって魔法使えないんだっけ?」

 

 ドンナー・シュラークを抜きながら俺が首を傾げる。座学に励んでいた俺には、ここがライセン大峡谷であり魔法が使えない場所であると理解している。

 

「……分解される。でも力づくでいく」

 

 ライセン大峡谷で魔法が使えない。理由は発動する魔法に込められた魔力が分解されて散らされてしまうからだ。もちろん、ユエの魔法も例外ではないが、かつての吸血鬼の姫であり、内包魔力は相当なものだ。今は沙条の馬鹿みたいな魔力が込められている外付けの魔力タンク、魔晶石シリーズを持っている。つまり、ユエは分解される前に膨大な魔力を使って分解される前に魔法を放てばいいということだ。

 

「力づくって……効率は?」

「……十倍くらい……」

 

 詳しく聞くと、初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要らしい。射程も相当短くなるようで、使い道がほとんどない。

 

「あ~、じゃあ俺がやるからユエは身を守る程度にしとけ」

「うっ……でも」

「いいからいいから、適材適所。ここは魔法使いにとっちゃ鬼門だろ? 任せてくれ。それに作った武器の実験台に丁度いい。沙条達が来る前に片付けたい」

「ん……わかった」

 

 ユエが渋々といった感じで引き下がる。せっかく地上に出たのに最初の戦いで戦力外とは納得し難いのだろう。少し矜持が傷ついたようだ。だからか、唇を尖らせてユエが拗ねた。

 そんなユエの様子に苦笑いしながら俺はおもむろにドンナーを引き抜いて発砲した。相手の方を見もせずに自然な動作でやることで相手を意識させずに射殺する。

 取り囲んでいた魔物の一体が何の抵抗もできずに、その頭部を爆散させ死に至った。辺りには銃声の余韻だけが残り、魔物達は何が起こったのかわからないというように凍り付いている。確かに、十倍近い魔力を使えばここでも〝纏雷〟は使えるようだ。問題なくレールガンは使える。

 

「さて、奈落の魔物とお前達、どちらが強いのか……試させてもらおうか?」

 

 俺は不敵な笑みを浮かべながらスっとガン=カタの構えをとり、俺の眼に殺意が宿る。その眼を見た周囲の魔物達は気がつけば一歩後退っていた。しかも、そのことに気がついてすらいない。

 

「ガァアアアア!!」

 

 相手が叫ぶとほぼ同時に引き金を引く。銃声と共に一条の閃光が走り、魔物は避けるどころか反応すらせずに頭部は吹き飛んだ。後はただの作業だ。辺り一面が魔物の屍で埋め尽くされるのに五分もかからなかった。

 ドンナー・シュラークを太もものホルスターにしまった俺は、首を僅かに傾げながら周囲の死体の山を見ていると、傍にトコトコとユエが寄って来た。

 

「……どうしたの?」

「いや、あまりにあっけなかったんでな……ライセン大峡谷の魔物といやぁ相当凶悪って話だったから、もしや別の場所かと思って」

「……ハジメが化物なだけ……」

「ひでぇいい様だな。俺で化物っていうんだったら、もっとやべえのが居るって。まぁ、奈落の魔物が強すぎたってことでいいか」

 

 そう言って肩を竦めた俺は、もう興味がなくなったので魔物の死体から目を逸らす。

 

「さて、この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが……流石に待っていないと五月蠅いだろうな。だが、時間の無駄もできない。ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、探索でもしながら時間を潰すか?」

「……それがいいかも?」

 

 さて、ユエと一緒に回りを確認しようとすると、遠くの方に砂煙が見えた。義眼の望遠機能を使いながらそちらを見ると、かつて見たティラノモドキに似ている大型の魔物(モンスター)が居た。もっとも、こちらは頭が二つあるので双頭のティラノサウルスモドキだ。だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミ女だ。

 

「……何だあれ?」

 

 ユエに宝物庫から取り出した双眼鏡を渡す。ユエはそれを使って確認していく。

 

「……兎人族?」

「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」

「……聞いたことない」

「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」

「……悪ウサギ?」

 

 俺とユエは首を傾げながら、逃げ惑うウサミミを尻目に呑気にお喋りに興じる。助けるかどうかという問題が存在する。俺とユエだけなら、赤の他人である以上、単純に面倒だし興味がないので放置する。

 これは別にライセン大峡谷が処刑方法の一つとして使用されていることから、ウサミミが犯罪者であることを考慮したわけではない。

 ただ、後からやってくるユーリ達が問題だ。谷口はわからないが、中村やルサルカは確実に見捨てる。いや、ルサルカは捕まえて玩具にする可能性は否定できない。園部は現状、主体性がなくなっているから、主人と決めている沙条に従うだろう。詩乃は助ける可能性もある。そして、ユーリは確実に助けるだろう。そうなると沙条も助ける事になり、沙条が助けると決めれば一気に助ける方になるのが目に見えている。

 考えていると、ウサミミの方が俺達を発見したらしい。双頭ティラノに吹き飛ばされ岩陰に落ちたあと、四つん這いになりながらほうほうのていで逃げ出し、その格好のまま俺達を凝視している。

 そして、再び双頭ティラノが爪を振い隠れた岩ごと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がると、その勢いを殺さず猛然と逃げ出して俺達の方へと向かってきた。

 それなりの距離があるのだが、ウサミミの必死の叫びが峡谷に木霊し俺達に届く。

 

「だずげでぐだざ~い! ひっ──、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

 滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろには双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。このままでは、俺達の下にたどり着く前にウサミミは喰われてしまうだろう。沙条達が来る前に処理できるのなら、その方がいいか? いや、見捨てるところを見られた方がリスクがあるな。

 

「モンスタートレインだよ。勘弁しろよな」

「助ける?」

「ああ、一応な」

「ん」

 

 ドンナーで素早く二発の弾丸を発射する。一条の閃光が通り抜けてそれぞれが双頭の後頭部を粉砕しながら貫通し、口内を突き破って空へと消えていく。ティラノサウルスモドキも瞬殺だった。

 力を失った片方の頭が地面に激突、慣性の法則に従い地を滑る。双頭ティラノはバランスを崩して地響きを立てながらその場にひっくり返った。その衝撃で、ウサミミは吹き飛ぶ。狙いすましたように俺達の下へとやってきた。

 

「きゃぁああああー! た、助けてくださ~い!」

 

 俺に向かって手を伸ばすウサミミ少女。その格好はボロボロで女の子としては見えてはいけない場所が盛大に見えてしまっている。たとえ酷い泣き顔でも男なら迷いなく受け止める場面だろう。沙条だってそうするだろうが、俺はしない。

 

「アホか、図々しい」

「えぇー!?」

 

 ウサミミは驚愕の悲鳴を上げながら俺の眼前の地面にベシャと音を立てながら落ちた。両手両足を広げうつ伏せのままピクピクと痙攣している。気は失っていないが痛みを堪えて動けないようだ。

 

「……面白い」

 

 ユエがハジメの肩越しにウサミミ少女の醜態を見て、さらりと酷い感想を述べる。なんだかんだでユエもルサルカと気があっている部分もある。影響されて欲しくはないのだがな。

 

「助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」

「断る」

「おねがいします!」

 

 俺はサッサと移動したいが、まだ沙条達が来ていないのでできない。だが、くるりと後ろを向いて拒否する態度を見せる。そうするとウサミミは俺の腰にしがみついてきた。

 俺は、しがみついて離れないウサミミ少女を横目に見る。そして、奈落から脱出して早々に舞い込んだ面倒事に深い溜息を吐く。

 

「私の家族も助けて下さい!」

 

 どうやら、このウサギ一人ではないらしい。仲間も同じ様な窮地にあるようだ。よほど必死なのか、先程から俺に抱き着いたことでイラついたのか、相当強くユエに蹴られている。それでも頬に靴をめり込ませながらも離す気配がない。あまりに必死に懇願するので、仕方なく……〝纏雷〟をしてやった。

 

「アババババババババババアバババ!?」

 

 電圧と電流は調整してあるので死にはしないが、しばらく動けなくなるくらいの威力はある。シアのウサミミがピンッと立ちウサ毛がゾワッと逆だつ。〝纏雷〟を解除してやると、ビクンッビクンッと痙攣しながらズルズルと崩れ落ちた。

 

「全く、非常識なウザウサギだ」

「ん……」

 

 何事もなかったように探索に出ようとするが──

 

「に、にがじませんよ~」

 

 ゾンビの如く起き上がり俺の脚にしがみついてきやがった。流石に思わず引いてしまった。

 

「お、お前、ゾンビみたいな奴だな。それなりの威力出したんだが……何で動けるんだよ? つーか、ちょっと怖ぇんだけど……」

「……不気味」

「うぅ~何ですか! その物言いは! さっきから、肘鉄とか足蹴とか、ちょっと酷すぎると思います! 断固抗議しますよ! お詫びに家族を助けて下さい!」

 

 ぷんすかと怒りながら、さらりと要求を突きつけるふざけた奴。案外余裕そうだな、おい。このまま引き摺っていこうかとも考えたが、何か執念で何処までもしがみついてきそうだ。血まみれで引きずられたまま決して離さないウサミミ……完全にホラーだが、問題は他者から見た場合だ。沙条達が来たら、どう見えるだろうか? 確実に俺が襲っているように見える。

 

「ったく、何なんだよ。取り敢えず話聞いてやるから離せ。ってさり気なく俺の外套で顔を拭くな!」

 

 話を聞いてやると言われパアァと笑顔になったシアは、これまたさり気なく俺の外套で汚れた顔を綺麗に拭った。本当にいい性格をしている。イラッと来た俺は再び肘鉄を食らわせると「はぎゅん!」と奇怪な悲鳴を上げ蹲った。

 

「ま、また殴りましたね! 父様にも殴られたことないのに! よく私のような美少女を、そうポンポンと……もしや殿方同士の恋愛にご興味が……だから先も私の誘惑をあっさりと拒否したんですね! そうでッあふんッ!?」

 

 なにやら不穏当な発言が聞こえたので蹲るシアの脳天目掛けて踵落としをする。

 

「誰がホモだ、ウザウサギ。っていうか何でそのネタ知ってんだよ。ユエと言いお前と言い、どっから仕入れてくるんだ……? まぁ、それは取り敢えず置いておくとして、お前の誘惑だがギャグだが知らんが、誘いに乗らないのは、お前より遥かにレベルの高い美少女がすぐ隣にいるからだ。ユエを見て堂々と誘惑できるお前の神経がわからん」

 

 そう言ってチラリと隣のユエを見る。ユエは俺の言葉に赤く染まった頬を両手で挟み、体をくねらせてイヤンイヤンしていた。腰辺りまで伸びたゆるふわの金髪が太陽の光に反射してキラキラと輝き、ビスクドールの様に整った容姿が今は照れでほんのり赤く染まっていて、見る者を例外なく虜にする魅力を放っている。

 格好も、俺と出会ったばかりの頃の様なみすぼらしい物ではない。前面にフリルのあしらわれた純白のドレスシャツに、これまたフリル付きの黒色ミニスカート、その上から純白に青のラインが入ったロングコートを羽織っている。足元はショートブーツにニーソだ。どれも、オスカーの衣服に魔物の素材を合わせて、ユエ自身が仕立て直した逸品だ。高い耐久力を有する防具としても役立つ衣服であり、生成魔法も施してある。

 ちなみに、俺は黒に赤のラインが入ったコートと下に同じように黒と赤で構成された衣服を纏っている。これもユエがルサルカ達と一緒に作ってくれた。

 当初、ユエは俺にも白を基調とした衣服を着せてペアルック気味にしたがったのだが、流石に恥ずかしいのと、俺の髪が白色になっているので全身白は嫌だと懇願した結果、今のスタイルに落ち着いた。

 そんな可憐なユエを見て、「うっ」と僅かに怯んだようだ。確かにこいつも美少女ではあるが、ユエや香織には負ける。

 少し青みがかったロングストレートの白髪に、蒼穹の瞳。眉やまつ毛まで白く、肌の白さとも相まって黙っていれば神秘的な容姿とも言えるだろう。性格を知らなければ。手足もスラリと長く、ウサミミやウサ尻尾がふりふりと揺れる様は何とも愛らしい。ケモナー達が見れば感動して思わず滂沱の涙を流すに違いない。おそらく、沙条達に見付かれば玩具にされる事請け合いだ。実際に詩乃が玩具にされて威嚇をよくしているからな。

 

「で、でも! 胸なら私が勝ってます! そっちの女の子はペッタンコじゃないですか!」

 

 〝ペッタンコじゃないですか〟〝ペッタンコじゃないですか〟〝ペッタンコじゃないですか〟

 峡谷に命知らずなウサミミの叫びが木霊する。恥ずかしげに身をくねらせていたユエがピタリと止まり、前髪で表情を隠したままユラリと移動する。

 俺は「あ~あ」と天を仰ぎ、無言で合掌する。ウサミミよ、安らかに眠れ……。

 ちなみに、ユエは着痩せするが、それなりにある。断じてライセン大峡谷の如く絶壁ではない。震えるシアのウサミミに、囁くようなユエの声がやけに明瞭に響いた。

 

 ──── ……お祈りは済ませた? 

 ──── ……謝ったら許してくれたり

 ──── ………… 

 ──── 死にたくなぁい! 死にたくなぁい! 

 

「〝嵐帝〟」

 

 ──── アッ────!! 

 

 

 突如発生した竜巻に巻き上げられ錐揉みしながら天に打ち上げられるウサミミ。彼女の悲鳴が峡谷に木霊し、きっかり十秒後、グシャ! という音と共に俺達の眼前に墜落した。

 まるで犬○家のあの人のように頭部を地面に埋もれさせビクンッビクンッと痙攣している。完全にギャグだった。その神秘的な容姿とは相反する途轍もなく残念だ。ただでさえボロボロの衣服? が更にダメージを受けて、もはやただのゴミのようだ。逆さまなので見えてはいけないものも丸見えである。百年の恋も覚める姿だ。

 ユエは「いい仕事した!」と言う様に、掻いてもいない汗を拭うフリをするとトコトコと俺の下へ戻ってくる。ユエは俺を下からジッと見上げる。

 

「……おっきい方が好き?」

 

 実に困った質問だ。俺としては「YES!」と答えたい所だったが、それを言えば未だ前方で痙攣している残念ウサギと仲良く犬○家だろう。それは勘弁して欲しい。

 

「……ユエ、大きさの問題じゃあない。相手が誰か、それが一番重要だ」

「……」

 

 取り敢えずYESともNOとも答えず、ふわっとした回答を選択して誤魔化す。ヘタレだと言われようと、俺には沙条のような馬鹿みたいな防御力はない。だから、この解答しか用意できない。ユエはスっと目を細めたものの一応の納得をしたのか無言で俺に抱き着いてきた。

 内心、冷や汗を流し、居心地の悪い沈黙を破ろうと話題を探すが何も見つからない。

 視線を彷徨わせると、痙攣していたシアの両手がガッと地面を掴み、ぷるぷると震えながら懸命に頭を引き抜こうとしている姿を捉え、これ幸いにとシアに注意を向け話のタネにする。

 

「アイツ動いてるぞ……本気でゾンビみたいな奴だな。頑丈とかそう言うレベルを超えている気がするんだが……」

「……………………ん」

 

 いつもより長い間の後、返事をしてくれたことにホッとしていると、ズボッという音と共にシアが泥だらけの顔を抜き出した。

 

「うぅ~ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに……」

「……こんな残念ウサギを助ける必要ない……行こ、ハジメ……」

「そうだな」

「まっでくだざい~~! 謝りますからぁぁぁっ!」

 

 泣きながら抱き着いてくるウサギをどうにかしようとユエと一緒に剥がそうとした瞬間。複数の気配が降りてくる。

 

「事案が発生している。アウトかセーフか」

「アウトね」

「アウト~」

「アウト」

「あ、アウトで」

「あ、あの、ハジメさんはそんなことしないので、セーフで……」

「ご主人様に従うから、どっちでもいい」

「遊んでないで、とりあえず確保して事情聴取?」

 

 ユーリと詩乃以外、擁護してくれるのがいない。いや、詩乃は事情を聞いてからの判断か。

 

「ん、このウサギがハジメを取ろうとした」

「ギルティね」

「ギルティでいいと思うよ?」

 

 しかし、ユエの言葉で一瞬にして有罪になるシア。そら、こいつらからしたら、沙条を取られるのと同じだから、そうなるな。

 

「よ~し、ユエちゃん。お姉さんに任せない。こいつで拡張して身体に痛みと恐怖を教え込んでやるから」

「ひぃぃぃっ! その手に持ってるのはなんですかぁ!」

「女性の大事な所に突っ込んで開く物よ。あ、口でもいけるわね。開けたらその辺の岩でも詰め込んであげるわ」

「た、助けてください! この人ガチですぅぅぅ!」

「言い忘れていたが、そいつは拷問好きだ」

「いやぁぁぁぁぁっ!! って、私の素敵な耳を引っ張らないでください!」

 

 ルサルカに迫られて俺から離れ、後ずさっていったシアはいつの間にか隣に居た谷口と沙条にうさ耳を捕まれて弄られている。

 

「これ、本物?」

「感触的にはどうかな?」

「とりあえず引っこ抜こう! うさ耳は二人も要らない!」

「あなたのはつけ耳ですよね! 初めて見ました! お願いですから止めてください!」

 

 一瞬でカオスになった。このまま何処かに行きたいと思っていると、ユーリと詩乃が近付いてきた。

 

「何があったんですか?」

「ああ……実はな……」

 

 あった事を伝えると誤解はあっさりと溶けた。

 

「とりあえず、真名……ご主人様と鈴が満足するまでは放置していましょう。私の被害が減るから」

「詩乃さん、尻尾とか耳を良く狙われてますからね」

「ユーリもつけたら一発で落ちると思うけど?」

「猫耳の躯体、ちょっと考えてみます」

「本当にやるのね……しかも、思ったよりも本格的な奴」

「どうでもいいけれど、逃がさないように囲んでおかない?」

 

 中村の意見に賛成し、俺達はとりあえずシアを取り囲む。ちなみに中村の手には禍々しい魔導書が現れており、臨戦態勢を取っている。そのせいか、周りの空気がひんやりとしてきていて、本当にゾンビやスケルトンがでてきそうな雰囲気すらある。それと彼女の手には銀色の指輪が左手の薬指にしっかりと嵌められているのが見えた。

 

「あの、恵里……いいのかな?」

「いいの。それよりも姿を変えておいた方がいいからね」

「わかった」

 

 園部の姿が成長し、大人の姿へと変わっていく。そして、マフラーを引き上げて口元を隠し、そのまま気配を消していく。

 

「やめろって。怖いわ」

「あ、ごめん。まだちゃんと使えてないから」

「気をつけろよ。誤射する可能性もあるから、制御だけはしっかりとしてくれ」

「うん。ありがとう」

「仲間だからな」

 

 園部は気配遮断のスキルをジャックから手に入れ、スキルにない技術、プレイヤースキルと呼べるような奴をヘイゼルから手にいれている。気配を消されると本当に何処にいるかもわからないし、情報抹消のスキルがあるので痕跡も記憶も消えてあやふやになる。本当にやばい。

 

「沙条、いい加減にしてソイツの話を聞いてやるか、そのまま放置して去るか選ぼうぜ」

「あ~」

「聞いてください! いえ、なんでも一つだけ言う事を聞きますから、私の仲間を助けてください!」

「なんでも一つなのね。じゃあ、その仲間ごと全員奴隷になりなさい」

「え”」

「一つでなんでもでしょう?」

 

 ガタガタと囲まれる可哀想なウサギは拷問官に身体を拘束されていく。というか、ルサルカの奴……ギロチンを取り出しやがった。

 

「ま、まっ!」

「あ、ちゃんと答えないと首を切り落とすからね」

 

 両手と首を枷に嵌め、うつ伏せではなく仰向けにして拘束。刃が見える状態になっている。

 

「このギロチン、亜人を何十人、何百人と処刑してきた物よ。あなたを殺すのに丁度いいでしょう?」

「ひぃぃぃっ!」

「ルサルカ、やりすぎですよ」

「このウサギがしっかりと答えたらいいだけよ。簡単でしょう?」

「沙条」

「まあ、こっちの方が確実に情報を吐くからな。というわけで、可愛い可哀想なウサギさん。洗い浚い喋ってくれ」

「わ、わかりました! 何もかも話します! 私はどうなってもいいので仲間だけは助けてください!」

「いいよ。じゃあ、鈴。結界を頼む。アイツの影響を排除してくれ」

「鈴にお任せだよ」

 

 それからシアが色々と喋っていく。その間、アストルフォとレヴィにウサミミを弄られているが、仕方ないだろう。

 

 シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていたらしい。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いとのことだ。

 性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。

 そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。

 当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。

 だが、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物(モンスター)とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵だ。国の規律にも魔物(モンスター)を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないとあり、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もあるらしい。

 また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即座に殺すのが暗黙の了解となっているほどとのこと。

 故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たらしい。

 行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシと考えたのだろう。

 しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまった。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。

 女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。

 全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。

 しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待っているらしい。

 そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い……

 

「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

 最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。どうやら、シアは、俺やユエ、沙条達と同じ、この世界の例外というヤツらしい。特にユエと同じ、先祖返りと言うやつなのかもしれない。

 

「あの、お兄ちゃん……」

「レヴィ、ユーリ」

「はい!」

「なに~?」

「レヴィは即座に帝国方面に空を駆けろ。ユーリは俺に憑依してサーチャーを大量に放て。手に入れた情報は全員のブレインコンピュータに送り、レヴィに伝えてくれ。優先目標は帝国の輸送隊に運ばれている兎の確保だ。ルサルカを連れて俺が追う。アストルフォ」

「はいは~い!」

「鈴を背負って全力で走ってくれ。最優先は兎達と合流。合流後は鈴が結界を張って、アストルフォは魔物(モンスター)を狩ってくれ」

「任せて!」

「お願いね」

「うん!」

 

 報酬も決めてないのに助けるようだが、何を考えているのか。指示された沙条の嫁達が即座に行動を起こし、馬鹿みたいな数のサーチャーが全方位に放たれた。

 

「方向はこっちだっけ?」

「そっちだ」

「じゃあいってくるね~」

「ああ」

「びゅーん!」

 

 レヴィが雷を纏って空を高速で飛んで行く。アストルフォも鈴をおんぶして走り出した。

 

「沙条。報酬はどうするつもりだ?」

「それはこのシアという女をもらう」

「やっぱりか。だが、刺されるぞ」

 

 沙条がそう言った瞬間、殺気がやばい。だが、沙条の言葉で俺は驚いた。

 

「俺がもらうんじゃない。ハジメが貰うんだ」

「おい、待て」

「俺は詩乃や優花を持っているから、ハジメがバランス的にいいだろう」

「いや、要らん。それなら、案内とか、この辺りの知識でいいだろう」

 

 そう言ったら、沙条が俺に顔を近付けてこっそりと話してくる。

 

「こいつのレアスキルが欲しい。蒐集したらかなり使える」

「未来予知だったか。確かに便利だがそこまでの価値はあるか? 先の未来を見れるのはたまにで、近い未来しか見れないのだろう?」

「こいつのスキルを改造し、ブレインコンピュータに送って射撃支援システムにすれば価値はある」

「なるほど。それに使うのか。だが、飼う理由にはならない」

「それだけだとシアの部族を全部助けるには代価が見合わないからな」

 

 確かに代価と考えると割に合わないな。沙条は安全な場所に連れて行って放置するつもりもないんだろう。それにしてもなんだかんだ言ってシアを奴隷として俺が貰う事になっているが、ユエを見ると膨れている。

 

「ユエ」

「私は反対。香織の事もある。だから……」

「ユエ、これは──」

 

 沙条達がユエに何かを囁いていく。そうすると、ユエは頷いた。

 

「ハジメ、私も賛成する。とりあえず、奴隷として使って要らなければ売る。それでいい」

「いいのか?」

「ん。保険は大事」

「保険? おいまさか……」

「言っただろう。俺達は白崎の味方だ」

 

 恵里と園部までうんうんと頷いている。こいつらの狙いははなっから、俺にシアをあてがう事だ。そして、なし崩し的にハーレムを作らせ、ユエと香織の勝負がどちらに転んでも問題ないようにするといったところだろう。こうなると勝負の結果はどちらが上かでしかないから、最低限の幸せは確保できているといった感じか。沙条がそれを実戦しているからユエも納得しやすい。

 

「わ、私の身で皆が助かるのなら構いません! おねがいします! ハジメさんの所がいいです! こっちは怖すぎます!」

「まあ、強制はしないから好きにすればいい。どちらにしろ、樹海を攻略するまで獣人の案内は必要だ」

「詩乃でもいけるんじゃないか?」

「私は土地勘がないし、仮初だから……わからないよ」

「ちっ。わかったよ。だが、ユエは本当にいいのか?」

「負けるつもりはない。でも、ハジメを想って手を尽くしてくれている香織に少しは恵んであげるの」

「はいはい」

 

 拘束具を外してやり、解放してやると嬉しそうに泣きついてきた。とりあえず、手で頭を押さえて引き剥がしておく。まあ、沙条の所に行くよりは、シアにとってはいいだろうな。

 

「まあいいか。じゃあ、全員で魔物(モンスター)掃除と行くぞ」

「楽しい散歩の始まりだ」

 

 乗り物を出して、移動していく。天井に詩乃が乗り、狙撃を初めていくので安心だ。しかし、本当にハウリア族全員を助けるつもりなんだろうか? いや、そうか。国を作ると言っていたし、ハウリア族を人手として使うつもりか。オルクス大迷宮を支配しているのだから、隠れ潜む場所を提供するぐらいは容易いが、その辺りをどう考えているかはわからないな。

 

 

 

 

 




空から帝国の輸送部隊に襲い掛かる蒼い稲妻! 轟く雷鳴! 帝国兵は果たして生き残れるか……
ハウリア族は生き残れるし、幸せになります。ルサルカさんの脅しでしっかりと信憑性のある情報を手に入れましたからね。
ちなみにギロチンまで使った理由は簡単。シアはハジメにとはいえ、ハニートラップを仕掛け、ぺったんことか言った。ルサルカにとっては脅威でしかなく、プロポーズしてもらったばかりなので断じて許容できず。ハジメではなく沙条に迫っていた場合、手が滑っていた可能性もありますね……胸にヒロインルートを取られているからね!

清水君ヒロインアンケート 人になるます

  • 波の鳥 フ
  • 謳の鳥 コ
  • 空の鼠 ク
  • 深海のナニカ レ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。