儀式が終わり、私達は一つの建物に入ったのです。これはハクさん曰く、きゃんぴんぐかーなる物のようなのですが、私達にはわかりません。
「
ベッドと呼ばれる柔らかい寝所に身体を横たえている兄様。その隣に立って私は兄様の身体をペタペタと触りながら確認していくです。
「ああ、身体自体は問題ない。少し怠いくらいだな」
「詳しく聞いておいたが、飲食どころか酒も問題ないらしいから大丈夫だろう。傷は塞がっているが、魂の力までは戻っていない。こればっかりは今後に期待だな」
「命があるだけ……いや、ネコネやハクに再会できただけでも儲けものと考えるべきだろう」
「確かにな」
「なのです」
兄様に抱き着いて身体を擦りつけると、兄様が優しく頭を撫でてくれるのです。
「相変わらずブラコンだな」
「うるさいのです」
「ネコネって普段こんな感じなのですね」
「り、リムリ……」
「少し、新鮮です」
口元を袖で隠しながらクスクスと笑うリムリの姿に顔が勝手に赤くなっていくのです。
「リムリ殿はクナシコルの皇とお聞きしましたが……」
「こちらでは私はしがないネコネの双子の姉。リムリで結構ですお兄様方。それかイヌイとお呼びください」
「もしもの場合を考えて姿と呼び名は分けておいた方がいいのですよ」
兄様もどうせウコン*1として活動するのです。その事を考えたらリムリとイヌイは別にした方がいいのです。
「それもそうですね。では、この姿ではリムリとお呼びください」
「かしこまりました。リムリ様」
「呼び捨てで構いませんよ」
「ですが……」
「いいじゃないか。俺はハクと呼んでくれ。リムリ、これからよろしくな」
「はい。よろしくお願いいたします。ハクお兄様」
「おおう……これはなんかくるな」
とりあえず、ムッとしたのでハクさんは小突いておくのです。
「やめろって。とりあえず、俺達は対外的には兄弟姉妹になるんだ。固くならないように行こうぜ」
「ハクさんにしては良い事を言うのです」
「ひでぇな。もうちょっと自分は良い事を言っているはずだぞ。ネコネだって慕って……あれほど信頼して色々としてくれたのに」
「アレはハクさんが兄様だったからです。兄様としてのハクさんは頼りがいがあってす、好きですが、だらけているハクさんは嫌いです」
「言われてるぞあんちゃん。しっかりとしないとな」
「兄様も例外じゃないのです。ウコンの時は余り好きではないのです」
「ぐふっ」
「ネコネに色々と迷惑をかけてたからなあ……」
クドクドと二人が一緒に居て元気だった時の話をして、如何に駄目だったのかを話していくのです。それから、姉様の事も話していくのです。リムリが楽しそうに聞いてくれるので、ついつい話してしまいました。
「思い出の話はここまでにしよう。これからの事について決めないといけない」
「そうだな」
ハクさんの雰囲気が変わり、兄様と同じ……いえ、反逆者からヤマトを取り返し、その後の神様との戦いでも勝利へと導いたオシュトルへと変わりました。
「まず、某達……ここでは自分でいいか。自分達がする事は国を運営する統治機構の作成と守るための軍隊を組織する事。政府機関を作る事など多岐にわたるが……正直言ってこれらはどうとでもなる。面倒だが、やってやれない事はない」
「そうだな。某とハクが居ればできる事であろう。幸い、ここにはクナシコルの皇がおられる」
「確かに私は教育を受けていますので、お手伝いできます。こちらでは亜人族でしたか。彼等も幸い、私が治めている……いえ、治めていたクナシコルと同じ力ある者が上に立つ感じですから、同じ統治が可能だと思います」
確かにリムリは皇継承に異義を申し立てられ、私達も協力したのです。その時は一対一で戦って勝利した方が皇になるという儀式でした。それも勝利した場合、気持ち悪い太ったオジサン……デコポンポの親戚みたいな人と結婚する事にもなりましたね。トウカさんが勝利してくれたので、本性を現して力で解決しようとしてきましたが。
「そのシステムを入れるのです?」
「無理であろう」
「無理だな」
「ですね。
「そもそも畏れ多いのです」
我等を作りたもうた我等が父から、その地位を簒奪するなどできるはずがありません。
「まあ、オシュトルやネコネ達には考えもつかないか。だが、この世界では平気で起こる事だろう。まず、これは理解しておくんだ。自分達が居る場所は元の世界ではない。自分達の常識があてはまらない場所だ。油断していると寝首を搔かれるぞ」
「うむ。特にネコネは帝となられる方の妻か妾となるのだ。暗殺される可能性が非常に高い」
確かにその通りなのです。帝様のようにホノカ様お一人ではなく、複数の方を娶っておられるので、内部での権力闘争が凄く心配なのです。
「そもそもネコネは嫌じゃないか? 嫌なら断る事もできるぞ。どうせあちらも言っていたようにオシュトルへの権威付けの一貫だからな」
「いえ、別に嫌ではないのです。兄様が取り立てられて貴族になった時から、政略結婚をする可能性も考えていたのです。流石に生理的に無理なのは嫌なのですが、我慢はできるのです」
兄様は否定されていましたが、兄様の地位を確固たる物にするために私が何処かの貴族に嫁入りするのが一番手堅く、利益のある方法だったのです。そうすれば後ろ盾を得た兄様が色々と妨害を受ける頻度も下がったはずなのです。
でも、兄様は私の事を思って政略結婚をなさらなかったのです。それなのに私は兄様の邪魔ばかりして、兄様を殺す原因まで作ってしまった上にハクさんの人生を全て狂わせた最低最悪な奴なのです。だから、本当に兄様とハクさんの役に立てて
「その点、
胸を触りますが、本当にぺったんこなのです。悲しくて涙が出そうなのですよ。
「ネコネは可愛いので問題ありません。と、言いたいのですが……これ、自画自賛になってしまいますね」
「確かにそっくりだしな。ネコネもリムリのようにお淑やかであればいいのだが……」
「ハクさん? それは……」
「ネコネ」
「は、はいなのです。リムリはオシトヤカナオンナノコです……」
刀を持って切ったはったをする女の子じゃないのです。イヌイという人とは別人なのですよ。
「まあ、それはよい。ネコネには辛い思いをして欲しくはないのだが、納得しているのならやって欲しい。看過できない重要な問題がある。そうだな、ハク」
「ああ、そうだ。問題は自分達の召喚者、真名とその妻達、特に警戒しないといけないのはルサルカ・シュヴェーゲリンだろう」
「であろうな。今の所は問題ないようだが、あの狂気と嗜虐心に満ちた表情からして奴は心の底から悲鳴を楽しんでいた」
「うぅ……」
今、思いだしただけでも恐怖が湧き上がってくるのです。
「アレは百人や数百人では足りないほど殺しているであろう。そんな人物が帝の傍に居るというのは非常にまずい。話を聞いた限りでは軍にも関わりができるであろうしな」
「なるほど、お二人が警戒しているのはルサルカ・シュヴェーゲリンが無辜の民に牙をむかないかですね」
「それもあるが、一番に恐ろしいのは帝が感化されて無駄な虐殺を行う事だ。そのような事が起きれば、我等が何としてでも止めなくてはいけない」
ハクさんと兄様の言葉で私の役割がわかってきたのです。ようは同じ妻という土俵に立って、悪逆非道な事をしないように調整するという事なのですね。それには少なくとも寵愛を受ける必要はあるのです。
「自分達に知らされていない情報も必ずある。そういうのは寝物語として聞き出せることも多いだろうが……」
「それは危険だ。あちらから教えていただくまでは気にせず行動しておけばいい」
「うが~! 私にできるとは思えないのです!」
頭を掻きむしりながら想像したえっちぃ事を頭から追い出すのです。どう考えてもこんな貧相な身体と私のような性格の人を好むとは思えないのですよ。
「ネコネ、それでは今度は私が身代わりになりましょうか?」
「それは駄目なのです。私達の事は全てバレていると思うので、この胸で気付かれるのですよ。この胸で!」
「ん、痛いですネコネ。揉まないでください」
「この脂肪が! ふしゃー!」
ぐにぐにと胸を揉んでやると、リムリが慌てて私を抱き寄せてきたので大人しくしてやるのです。本当に羨ましいです。
「ネコネ、再度聞くが本当にいいのか? ハクが言う通り、この世界は某達が住んでいた世界でもない。また母上だって居ない。それこそ、我等には縛られるものなどないのだ」
「もう決めたのです。それよりも、兄様は何故召喚に答えたのですか?」
「この世界で無辜の民が苦しめられているから、と答えればいいのだろうが、某が心配だったのはネコネの事だ。召喚される時、
「兄様……」
「まさか、ヴライまで現れるとは予想だにもしなかったが……」
「聞いた限りでは運が悪かったって事だろう。というか、自分の心配はなしか」
「ハクなら問題なくやり遂げてくれると思っていたからな。実際、やり遂げてくれただろう?」
「ああ、本当に大変だった。お前が死んだせいで、ネコネが……」
「わ~! わ~! 止めるのです! それ以上言ったら許さないのですよ!」
あの時の事を兄様に知られるなんて絶対に嫌なのです。
「よし、決めました」
「リムリ?」
「私もネコネと一緒に妻か妾、最悪でも愛人にしてもらいましょう。そうすればネコネのサポートができますし、二人で対抗すれば勝てないまでも負けないように戦えるでしょう」
「良いのか? クナシコルの皇たるものがそのような……」
「問題ありません。何れは子をなさなければならなかったのです。クナシコルは強い者が率いることとなっていますので、強い方の子……ましてや
「だが……」
「それに悪い事でもありません。相手は妻が沢山いるのですから、私達が負う負担も相応に減ります。私達は身体が小さいので負担は大きいでしょうが、双子のような見た目を活かせば二人同時を基本とすれば更に負担が少なくなります」
「いいじゃないか。本人がこう言ってるんだし、確かに武器にはなるだろうからな。それに軛は多い方がいい。そんな予感がする」
ハクさんは神様まで上り詰めた人なので、その予感というのは起こる未来の事かもしれません。それに私達も納得しているのですし、
それになにより、兄様のために畏れ多いですが血液を提供してもらう必要があるのです。代価を私自身で支払っていると思えばどうとうことはないのです。これも私への罰なのですよ。だから、本当はリムリも巻き込みたくはないのですが……
「すまぬな」
「まあ、考えようによっちゃ、玉の輿だしな。遊んで暮らせるぞ」
「ハクさんみたいに自堕落にはならないのですよ」
「でも、それはそれで楽しそうですよ?」
「リムリ……駄目なのです。ハクさんみたいなダメ人間になってしまうのです」
「俺はダメ人間か」
「わかった。とりあえずは二人の情報を待ちながら、国を作る準備を整えよう。それではネコネとリムリど……リムリはもう行くといい」
「え?」
「あ~そうだな」
「今日は私一人だけで行ってきます。オシュトルお兄様とネコネは一緒に居たいでしょうから」
なるほど。確かに心配だったので兄様と一緒に寝るつもりだったのですが、妻という扱いをされたのですから、兄弟姉妹とはいえ一緒に寝るのはまずいです。それに来たばかりの初夜であちらに行かないのも対外的に考えるとかなりまずいのです。
「わかったのです。私は行くとするです。ハクさん、くれぐれも、く、れ、ぐ、れ、も、兄様をよろしくお願いするのです」
「ああ、任せろ。今日はしっかりと話し込むつもりだからな」
「お手柔らかに頼む」
「さて、ここからは男同士の話だ。二人は行った行った」
「はい。それでは行ってまいます。また明日。おやすみなさいませ」
「おやすみなさいです。兄様、ハクさん……また明日なのです。何処かに行ったら嫌なのですよ」
「わかっている。おやすみ二人共」
「はい、おやすみさん」
ハクさんにきゃんぴんぐかーから追い出され、鍵まで閉められました。
「じゃあ、女の戦場に行くのです」
「そうですね。まずは湯浴みからしにいきましょうか」
「湯浴み、あるのですか? 普通は水浴びだと思うのですが……」
「あるそうですよ」
「……それは楽しみなのです」
それから、リムリが差し出してくる手を繋いで二人で進んでいきます。軽い口調で話してはいますが、握った手からは震えや緊張が伝わってきます。それでも、これからの事を思うといくしかないのです。
そう思っていったのに肩透かしをくらったのです。今日はアルテナさんの様子を見ないといけないから、何もせずに普通に寝るだけらしいのです。よくよく考えたら、今は移動中で何時襲われてもおかしくない場所に居るのでした。
野営場所が余りにもしっかりとしていたので忘れてしまっていたのです。ただ、耳と尻尾は二人していっぱい優しく触られました。肝心のルサルカ・シュヴェーゲリンについては居ないようでした。どうやら、
ネコネも少し病んでいます。立ち直ってはいますが、やはり少しは思うところがあります。
ちなみにオシュトルとハクはこの後、キャンピングカーに備え付けられていたお酒で酒盛りをして自分が死んでから何があったかをハクから聞いています。
アルテナ・ハイピストの行き先
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ハジメルート
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真名ルート