ありふれた職業の召喚(ガチャ)士で世界最弱   作:ヴィヴィオ

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第52話

 

 

 

 

 

 ネコネとリムリが訪ねてきたのは驚いたが、聞いた感じでは二人共、形だけの関係ではなく、ちゃんとした肉体関係も含めた妾か妻になってくれるらしい。嫌ではないかと聞いたら、嫌ではないと答えられたので受け入れようと思う。そもそも肉体関係を許しただけであってまだまだ心の距離はある。そちらを埋める努力はこれからするべきだろう。

 もっとも、今日はオシュトル達と過ごすべきだと思ったので一度は追い返そうとも思ったが、聞いたら二人に追い出されたようなのでそのまま一緒に寝ることにした。

 どうせベッドは広い。全部で三十畳ある内の二十畳ぐらいの場所を全てをベッドにして柵をつけてある。柵の手前には出入口を除いて枕が置いてあり、所々に抱き枕用のぬいぐるみや通常サイズの布団とかが置かれているような感じなので大人数でも普通に寝れる。

 残りは靴を脱ぐ場所と風呂場とトイレ、キッチンに通じる扉、それにクローゼットや棚などが置かれている。この棚には本などそれぞれが好きな物を置いてるが、今はどうでもいいな。

 そんな部屋でネコネとリムリの耳や尻尾を堪能してから、一部のメンバーを除いて一緒に眠ってもらった。俺も寝るふりはしたが、しっかりと起きている。というのも──

 

『計画通りに進行していますね』

『アストルフォさんが先行した事は予想外でしたが、殺傷を禁止しなくても殺さないようにしてくれたのは助かりました』

 

 ──森人族と熊人族の襲撃があるからだ。その為に隠密行動に優れている暗殺者の優花と狙撃手の詩乃に頼んでおいた。彼女達なら殺さずに無力化する事はできる。詩乃はデバイスを使った魔法なので気絶させられ、優花は毒を使って痺れさせて無効化する。アストルフォの事が予想外だったが、持ち前の勘でしっかりと対応してくれたようだ。

 こちらが俺が起きている理由の一つだ。もちろん、アルテナや他の者達もサーチャーを使って監視し、彼等のバイタル情報を常にチェックしている。容態が急変したらすぐさま治療を行う体制は整えている。

 

『輸送を開始するよう通達してくれ』

『わかりました。ユーリ、私が伝えるのでサーチャーをよろしくお願いします』

『はい。任せてください』

 

 美遊とユーリが手伝ってくれているので、かなり楽だ。ルサルカの方は火照った身体を収めるために眠らせているので起きていない。ルサルカが起きていたら平気で熊人族を拷問するだろうからな。それにキャパシティーの事もあるので休眠状態で念の為に待機してもらった。その分のリソースは詩乃とアストルフォに渡しておいた。これだけの人数を維持して戦闘を行わせるには今の俺が持つ魔力でも足りない。早く拠点を作ってそこに魔導炉を設置し、オシュトル達を配置しないと戦闘どころの話ではなくなる。

 

「さて、俺も向かうか。ハジメ達にも一応は伝えてくれ。こちらで対処するから大丈夫とも告げてな」

『はい』

 

 寝ている鈴、恵里、ネコネ、リムリ達を見てから、彼女達を起こさないようにこっそりと同じく寝ているアルテナを抱き上げて抜け出す。リムリはともかく、ネコネはヴライに襲われて心が参っているだろうからこのまま寝かせてやる。アルテナは起こさなくてはいけないかもしれないが、今はこのまま寝させておく。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 コテージの前で迎え入れる準備を行う。まず、夜なので篝火をつけてコテージの前に作った広場を照らす。この篝火はハジメの錬成で作ってある。

 篝火の灯りで周りの土が盛り上がって壁が作られている事もしっかりと理解できる。椅子を用意してそちらにアルテナを寝転ばせておく。

 

「う~ん、いまいちだな」

「よう、何が今一なんだ?」

 

 声に振り返るとオシュトルとハクが居た。それもそれぞれ酒瓶を持っているし、酒臭い。

 

「身体は大丈夫だが、飲酒は余りしないようにしろよ」

「今日だけだって」

「たぶんだけどな。それで、何があった?」

 

 直に雰囲気が変わったので、こちらの事情を教えると二人が頷いて手伝ってくれる。三人でああでもこうでもないと言っていると、ハジメまでやってきた。

 

「ユエやシアと寝ていたらいいぞ?」

「すでに二人は寝たからな。それに面白い事をしているじゃねえか。俺も混ぜろ」

「まあいいか。じゃあ四人で遊ぶぞ」

「ん~ここにガウンジを配置したらどうだ?」

「いいな、それ」

 

 椅子の後ろに先程手に入れたガウンジ*1を配置。相手からしたらそいつが控えているのでとても怖いだろう。いっそヒュドラも置いてみるか? 

 

「……なあ、思ったんだが……左右にグスタフとドーラ置いとけばいいんじゃないか? この世界の連中なら何かわからんだろうし、化け物にしか見えないだろう」

「ナイスだハジメ」

 

 ガウンジを中心に置いて、左右に80cm列車砲のグスタフとドーラを配置する。グスタフとドーラは全長 47.3 m、全幅7.1 m、全高11.6 mもある巨大な兵器だ。ブラフとして見せるには十分な存在だろう。

 

「こいつはとんでもないな……」

「また古いもんを出してきたな……」

「ハクからしたらそうだろうな。まあ、俺達の時代でもそうだが」

「だが、ロマンだろう?」

「ああ、ロマンだ」

「まったくだ」

「あんちゃん達が何を言っているのかはわからないが、どことなく惹かれるものはある」

 

 しっかりとライトアップまでして待っていると、美遊から知らせが来たので椅子に座り、アルテナを膝の上に乗せて待つ。ハジメは裏方に回り、ハクとオシュトルはそれぞれ俺の横につく。魔力を解放しながら待っていると、アストルフォ、詩乃、優花に挟まれて縄で縛られた森人族と熊人族が連れてこられ、ガウンジとドーラ、グスタフを見て呆然としている。

 そんな彼等を無視してアストルフォがこちらに駆け寄ってくる。そして俺の目の前で停止した。アルテナを抱いていなければすぐに抱き着いてきたのだろうな。

 

「マスター! 褒めて褒めて! 襲ってきた人達を殺さずに倒したよ!」

「ああ、ありがとう。よくやった、アストルフォ」

「ん!」

 

 頭を突き出してくるので撫でてやると、嬉しそうにした後、ご褒美を強請ってくる。

 

「ボクにご褒美を頂戴!」

「何が欲しいんだ?」

「えっとね、バイク!」

「わかった。後でアストルフォに予備のフェンリルをやろう」

「やったね! マスター大好き!」

「はいはい」

 

 他の皆は少し呆れているが、すぐに俺の後ろに回って後ろから抱き着いてくる。かと思ったが、ハクの隣に並んで軽く挨拶をしたので、こちらの意図は伝わっていると判断していいだろう。

 

「その者達はこちらで引き取ろう。其方たちは好きにするといい」

「了解。警備に戻る」

「うん。まだ来るかもしれないから警戒している」

 

 詩乃と優花の二人はハクに森人族と熊人族を引き渡すと、森の中に消えていく。ただ、気配は感じているので少し離れた場所に居る事はわかる。そちらをサーチャーで確認すると、詩乃は木の上に登ってヘカートを構え、優花は詩乃が居る木の下で背中を預けて目を瞑っていた。時折開いてはこちらと視線が合うのでサーチャーには気付いているみたいだ。

 二人を確認している間にハクが森人族と熊人族を並ばせて正座させて座らせていく。改めて姿を確認するが、彼等は両手を後ろで結ばれ、足も縛られてあまり動けないようにされているのが見てわかる。

 

「さて──」

 

 声を発すると、ドーラなどを見て驚愕していた森人族と熊人族の二種族はビクッと身体を震わせる。それを見る限り、森人族の一部には話が通っていないようだ。どんなロールプレイで行くか悩むが、やはりアレだな。魔力を解放して重圧を感じるようにしながら、演技を行う。

 

「卿等は我等とフェアベルゲンの協定を無視し、襲撃してきた。これはフェアベルゲンの総意か?」

「ち、違うっ! これは俺の一存だ!」

 

 熊人族の男が声を上げて否定する。当然、総意だと答えればそれはフェアベルゲンの壊滅を意味するのだから当然だろう。

 

「熊人族は卿等の一存か。して、森人族の卿等はどうだ?」

「我等もそうだ。全ては姫様を連れていった貴様等を許せなかっただけだ! 姫様に会わせろ!」

「「「そうだそうだ!」」」

「ふむ。アルテナか。アルテナならここに居るではないか」

 

 見せないように抱いていたアルテナの顎を片手でクイッと持ち上げて眠っている姿を見せる。髪の毛が変色しているので、森人族はわからなかったようだ。

 

「きっ、貴様っ! 姫様に何をした!」

「何、少し実験を手伝ってもらったまでだ。それに卿等にとやかく言われる言われはない。アルテナは我に譲渡された者だ。例え我が玩具として扱おうが何の問題もあるまい」

「ふざけるなっ!」

「ふざけてなどいない。それに卿等はアルテナを助けに来たようだが、卿等の浅慮によってアルテナの立場がさらに悪くなったのは事実だ」

「くっ……」

「そうだな。足の腱を切り、ペットとして飼ってみるのも一興かもしれんぞ」

「ま、待ってくれ。頼む、我等はどうなってもいい。姫様には手を出さないでくれ」

 

 森人族は頭を地面につけて必死に懇願してくる。それを見て熊人族は驚いている。オシュトルやハクは俺をじっと見詰めてきているが、まだだ。

 

「まあ、卿等のその心意気に免じて卿等の家族と共に奴隷のように働く事でアルテナの件は水に流してやろう」

「お、お待ちください! 家族にまで類を及ぶのは契約に反します!」

「先に破ったのは卿等だが、確かにその通りだ。だが、責任は個人のみに及ぶ。それは何もフェアベルゲン側だけが享受できる条件ではない。我等もまた同様の権利を有する」

「ま、待て、それは……」

 

 熊人族はいち早く気付いたようで、顔色を悪くしている。

 

「卿等は十六人か。では、ガウンジを十六体ほど送り込むのもいいかもしれん」

 

 そう言いながら、頭を下げてきたガウンジを撫でる。

 

「こ、こんなのが十六体もっ!」

「ふぇ、フェアベルゲンの終わりだ!」

「卿等が招いた事だ。だが、我等も鬼ではない。こちらの提示した条件を飲むのであれば、我等も無茶を通したのだから、許そう」

「そ、その条件が先の家族ですか?」

「森人族はそうだ。アルテナの事もあるから、この程度で許してやろう。ただし、熊人族は問題だ。ジンと言ったか、身の程知らずの愚か者は一度ならず二度も我に不敬を働いた。故に罰を与えたが、貴様等で三度目だ」

「そ、それは……」

 

 熊人族からしたらたまったものではないだろうが、こればかりは事実だ。話し合いをしている相手の連れを殺そうと殴ったんだから、それ相応の罰は当然だ。それにこいつらは俺達を殺しにきた。俺だけならば多少は許しても構わないが、嫁達にまで手を出そうとしたのだから許さん。

 

「お、俺達は森人族にそそのかされて……」

「やめろ。これは俺達の責任だ」

「そうだ。我等森人族は我等だけで襲撃するとも言ったはずだ。自らの責任をなすり付けるな」

「静まれ。御前であるぞ」

 

 オシュトルの声に言い争っていた森人族と熊人族はすぐに押し黙る。

 

「さて……」

「んん……あ、るじ……さま……」

「起きたか。早速だが、彼等を見ろ」

 

 アルテナが薄っすらと目を開けて周りを見ていくと、捕らえられている森人族を見て顔色を悪くしてすぐに俺に謝ってくる。

 

「主様。この度は我が同胞が何かしでかしてしまったようでまことに申し訳ございません……つきましては自害してお詫び申し上げます。どうか、私の命だけでお許しいただけますよう、せつにお願い申し上げます」

「個人的に少し罰を与えるが、腹を切る必要はない。これから森人族を纏めて我に仕えればよい」

「あ、ありがとうございます。主様のご慈悲に感謝いたします」

 

 アルテナが自分の首を両手で絞めようとしたので、綺麗な喉には彼女の手の跡がある。アルテナは聞いていたと思ったが、気が動転しているのかもしれない。とりあえず、喉を撫でておく。

 

「熊人族の罰は……そうだな。どうして欲しい?」

「俺の命でどうか収め、皆を返して欲しい」

「不可能だ。価値が釣り合っておらぬ。故に……ああ、森人族を除き、卿等を無事に帰してやろう」

「本当か!」

「うむ。ただし、大樹を含めたその辺り一帯の土地は我等が貰う。我等は大樹に攻略する時のために簡易的な拠点を作成するつもりだったが、森人族や兎人族の事を考えれば恒久的な住居は必要であろう」

「そ、それは……」

「そちらはどう思う?」

「はっ。確かに必要かと存じます」

「此度の襲撃を許す代わりに土地の譲渡であれば我等も矛を収める理由になりましょう」

 

 ハクとオシュトルがこちらの意図を察して言ってくれる。このタイミングでハジメがドーラを動かして威嚇していく。

 

「では決まりだ。熊人族は帰って長老達に伝えるといい。我等は大樹の下に新たな国を興す。卿等を許す事で義理は果たした。もし不服を申し立てるのならば力を持ってくるがいい。その時はフェアベルゲンを滅ぼし、我等がこの樹海を完全に支配する。だが、卿等も言い分はあるであろうから、こやつらの家族を連れてくる時に森人族の長老、アルフレリックに来るように伝えよ。奴以外は認めぬし、護衛は同じ森人族だけにせよ。アルフレリックは孫娘のアルテナに会いたいであろう。以上だ。オシュトル、ハク。これでどうだ?」

「良いかと思いますが、彼等を送る時にガウンジで道を作りながら送るとなおよろしいかと」

「ふむ。オシュトルの意見はわかった。ハクはどうだ?」

「こちらも問題ありませぬ。ガウンジはその巨体故に木々を粉砕して道を作る事になりますが、それはこちらにとっても素早くフェアベルゲンに移動できるので都合がよろしいかと」

「ではそのようにしよう。アストルフォ、仕事だ」

「なになに!」

「この者達をガウンジに乗って運んでいってくれ。念の為に優花と詩乃もつける。また、何かあれば知らせよ。そちらからの応援要請を受ければ支援砲撃を行う。この位置からフェアベルゲンを焼き払う事は容易い故、その間に撤退せよ」

「了解! まあ、必要ないと思うけどね」

 

 アストルフォが楽しそうに笑っているが、他の連中はガタガタと震えている。実際に空砲を放たせればこちらの言葉が事実だと理解できるだろうが、昼間の戦闘もあるので問題はないだろう。

 

「以上を持って今回の件は終了とする。後は任せるぞ」

「「はっ」」

 

 オシュトルと覚醒ハク、この二人が居れば本当に安心できる。すぐに二人が行動してハジメが作っていてくれた檻つきの台車に熊人族を入れて、ガウンジに繋いでフェアベルゲンへと一直線に向かわせる。騎乗Aがあるアストルフォなら問題ないし、テイミング技能を持つ詩乃もいるので扱うのは大丈夫なはずだ。

 しばらく彼等を見送り、その姿が闇に消えるまでじっと見詰めてもう大丈夫と判断できるまでアルテナを撫で続ける。

 そして、見えなくなった時点で両手を叩き、魔法を発動して森人族達の拘束を解除する。

 

「はい、お疲れ様でした」

「「お疲れ様でした」」

「お疲れ~」

「終わったおわった」

「本当に怖かったですよ」

 

 俺が労うと、森人族の者達は返事をしながら後ろに倒れて身体をだらけさせる。足が痺れているから仕方がないだろう。ハク達もそれに続いた。

 

「演技、どうだった? 騙せたと思うんだが……」

「40点だな」

「ん~30?」

「威厳を魔力で出してただけだしな。まだまだだ」

「ちぇ~厳しい」

 

 森人族の人から普通に怖かったと伝えられたので良かった。ほぼ演技ではなかったらしいし、彼等を歓迎するために改めて治療してから宴を開く。アルテナも楽しそうに皆と話していたのでよしとする。次の日、結構ダウンしていたのでネコネ達に怒られてしまったが、まあ問題ない。

 それに予定通り、夕方にガウンジが戻ってきて檻の中には森人族が入れられていた。子供は不安そうにしながら両親に抱かれていたりもするが、親は怖そうにはしていない。

 

「首尾は?」

「計画通りだったよ。ほとんどを熊人族に押し付けられた。我等は同胞を差し出す事で矛先を逸らした。その事もあって無事に交渉役に任じられた。後は上手くやればいいだけだ」

「では、そちらはよろしくお願いいたします。お義父さん」

「うむ。心得た婿殿」

 

 アルフレリックさんと杯を交わしてからオシュトルとハクを紹介し、三人に色々と話し合ってもらう。政治的な事は任せてしまえばいいんだ。それよりも俺とハジメ、ユーリ達は城の設計と開発があるからな。ハクやリムリ達にも手伝ってもらうが、和風建築の城にしようかと思う。

 

 

 

 

*1
ガウンジ。3メートルはある巨大な角の生えたアルマジロや地竜のような生物。獰猛で凶悪な存在で人を軽く丸呑みにだってできる。その鱗は剣や槍などを弾き、強靭な皮に守られているので生半可な攻撃ではダメージを与える事はできない。達人ならば関節などの弱点を攻撃すればダメージを与えることは可能。法術などで攻撃すべき相手。ベヒモスみたいな存在ともいえる。

アルテナ・ハイピストの行き先

  • ハジメルート
  • 真名ルート

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