ライセン大迷宮の地下でニコちゃんマーク顔の人間大ゴーレムであろう物体。そいつがこの大迷宮を支配する主らしく、ハジメが尋問していくと彼女がライセン大迷宮を作り出した解放者の一人、ミレディ・ライセンだということが判明した。だからこそ、彼女の魂はとても美味しく思えるのだ。
「おい、それ〝宝物庫〟だろう? だったら、それごと渡せよ。どうせ中にアーティファクト入ってんだろうが」
「あ、あのねぇ~。これ以上渡すものはないよ。〝宝物庫〟も他のアーティファクトも迷宮の修繕とか維持管理とかに必要なものなんだから」
「知るか。寄越せ」
「あっ、こらダメだったら!」
ハジメは本当に根こそぎ奪っていこうとしているみたいで、焦った様子で後退るミレディ。彼女が所有しているアーティファクト類は全て迷宮のために必要なものばかりらしく、それ以外には役に立たないものばかりとのこと。しかし、それらはこの大迷宮を手に入れようとしている俺達からしたら必要な物だ。
「ほぅほぅ、よくわかった。じゃあ寄越せ」
容赦なく引渡しを要求するのは必然だ。どこからどう見ても、唯の強盗だけどな。そんなハジメ達の会話を聞きながら、シュテルと共にライセン大迷宮へとアクセスする。俺とシュテル、それに美遊の力で最深部から直接大迷宮の機構に接続し、乗っ取っていく。
「ええ~い、あげないって言ってるでしょ! もう、帰れ!」
どうやら、ミレディは壁際まで走り寄り、浮遊ブロックを浮かせると天井付近まで移動したようだ。
『お兄様、少し身体を浮かせておきますね』
『わかった』
シュテルが何かに気付いたようなので、そちらは任せる。こちらは大人しく重力魔法をもらう事にする。これでスーパーロボット大戦のシュウ・シラカワごっこができるかもしれない。いや、もうちょっと必要か。
「逃げるなよ。俺はただ、攻略報酬として身ぐるみを置いていけと言ってるだけじゃないか。至って正当な要求だろうに」
「それを正当と言える君の価値観はどうかしてるよ! うぅ、いつもオーちゃんに言われてた事を私が言う様になるなんて……」
「ちなみに、そのオーちゃんとやらの迷宮で培った価値観だ」
「オーちゃぁ──ん!!」
ハジメが呆れた視線を受けつつも、今までの散々弄ばれた事を根に持っていたユエとシアも参戦し、ジリジリとミレディ包囲網を狭めていく。半分は自業自得だが、もう半分はかつての仲間が創った迷宮のせいという辺りに何ともやるせなさを感じているのかもしれない。
『ご主人様、46%の制圧を完了しました。これ以上は気付かれる可能性があります』
『残りは一気に行くべきか。シュテル、美遊。準備しておいてくれ』
ミレディを押さえてから一気に制圧する。管理者が魂だけの状態としても、生きていたのならそちらをどうにかした方が楽だ。それにとっても美味そうだしな。
「はぁ~、初めての攻略者がこんなキワモノだなんて……もぅ、いいや。君達を強制的に外に出すからねぇ! 戻ってきちゃダメよぉ!」
今にも飛びかからんとしていたハジメ達の目の前で、ミレディはいつの間にか天井からぶら下がっていた紐を掴みグイっと下に引っ張った。
「「「?」」」
一瞬、何をしているのかわからなかったが、次の瞬間にはガコン!! というトラップの作動音が聞こえてきた。
「「「!?」」」
その音が響き渡った瞬間、轟音と共に四方の壁から途轍もない勢いで水が流れ込んでくる。正面ではなく斜め方向へ鉄砲水の様に吹き出す大量の水は、瞬く間に部屋の中を激流で満たしていく。同時に、部屋の中央にある魔法陣を中心にアリジゴクのように床が沈み、中央にぽっかりと穴が空いた。激流はその穴に向かって一気に流れ込む。
「てめぇ! これはっ!」
ハジメは何かに気がついたように一瞬硬直すると、直ぐに屈辱に顔を歪めた。白い部屋、窪んだ中央の穴、そこに流れ込む渦巻く大量の水……そう、これではまるで〝便所〟だ!
「嫌なものは、水に流すに限るね☆」
ウインクするミレディはユエ達が咄嗟に魔法で全員を飛び上がらせようとするが、この部屋の中は神代魔法の陣があるために分解作用がない。そのため、ユエに残された魔力は少ないが全員を激流から脱出させる程度のことは可能だった。
「〝来……〟」
「させなぁ~い!」
しかし、ユエが〝来翔〟の魔法を使おうとした瞬間、ミレディが右手を突き出し、同時に途轍もない負荷が俺達とハジメ達を襲った。上から巨大な何かに押さえつけられるように激流へと沈められるが、俺自身は膨大な魔力を使って対抗する。重力魔法で上から数倍の重力を掛けられたのだろうが、逆にこちらも自分の身体に重力魔法でかかるベクトルの位置を変更すればいい。
慣れない魔法だが、こっちとらブレインコンピュータに複数のデバイスによる演算能力。理のマテリアルであるシュテル、そして聖杯である美遊もいるので対抗するのは容易い。いや、ミレディが使った40倍ほどの魔力を使ったが、問題はない。
「それじゃあねぇ~、迷宮攻略頑張りなよぉ~」
「ごぽっ……てめぇ、俺たちゃ汚物か! いつか絶対破壊してやるからなぁ!」
「ケホッ……許さない」
「殺ってやるですぅ! ふがっ」
「というか、俺達もたすけ──」
ハジメ達はそう捨て台詞を吐きながら、なすすべなく激流に呑まれ穴へと吸い込まれていった。穴に落ちる寸前、ハジメだけはこちらに気付いたようなので、手を振っておいた。どうせミレディも殺す気はないはずだ。せっかく大迷宮攻略者を殺すはずがないだろうし、大丈夫だろう。それにデスマーチ中に強制された恥辱を忘れていない。
ハジメ達が穴に流されると、流れ込んだときと同じくらいの速度であっという間に水が引き、床も戻って元の部屋の様相を取り戻した。
『ご主人様……』
『お兄様、怒られてもしりませんよ?』
大丈夫だ。言い訳はある。流石にミレディの重力魔法に対抗するのには一人分しか無理だったのだから。以上、証明終了。
「ふぅ~濃い連中だったねぇ~。それにしてもオーちゃんと同じ錬成師、か。ふふ、何だか運命を感じるね。願いのために足掻き続けなよ……さてさて、迷宮やらゴーレムの修繕やらしばらく忙しくなりそうだね……ん? なんで、いるの?」
「それはね、ミレディ。お前を食べるためだよ」
そう言った瞬間、瞬時に接近して展開しているルシフェリオンと神喰を杖から籠手の状態にする。そしてミレディを掴み取る。
「っ!? あぶなっ!」
だが、流石に長い年月を生きてきただけあって瞬時に飛び退った。それも重力魔法を使って自らを強制的に移動させたのだ。普通の回避なら追いつけたのだが、流石にこのような回避方法は想定していなかった。まだまだ甘かった。
「外れたか。流石は解放者というところか」
「さっきの子も大概だけど、君も大概だね~。ミレディちゃんを食べようなんて、見ての通り鉱石なんだけど~? もしかして、食べるは食べるでも鉱石フェチ? ミレディちゃん、それはどうかと思うな~」
「生憎と嫁は沢山いるので、その趣味はないな」
「嫁? 婿じゃなくて?」
「ああ、この姿は融合や合体と言われる形態なだけで、男だ。だから嫁でも問題ないさ」
指を鳴らして神喰を展開しつつ、シュテルに逃げられないようにリリカルなのはの世界で使われる結界を展開してもらう。これでこいつは逃げられない。周りに複数の神喰を浮かせ、手はルシフェリオンクロー。
「それじゃあ、ミレディちゃんは性的に食べられちゃうの? やっぱり変態……」
「物理的にお前の魂を食べて我が力と変える」
「え”」
「喜べ。卿の魂は我が糧となり、エヒトを倒す礎となろう。そうなれば卿も本望であろう?」
「いやいや、そんなこと魂魄魔法でも普通は無理だし、よしんばやったとしても魂が混ざり合って狂った化け物になるだけじゃない!」
「その方法はある方法を使えば解決する」
確かに魂を混ぜるだけならば問題だが、そこに聖遺物を間に挟めば問題は解決される。適性は必要だが、実際に魂が燃料として融合させられるのは聖遺物の方だ。使用者は聖遺物から力を引き出すだけなので、安全面は確保されている。もっとも、聖遺物が壊されれば使用者も死ぬが。
「そんなはずは……」
「我等はこの世界の者ではない。エヒトによって強制的に召喚されたのみ。故に卿等の技術体系とはまったく違う物だ。それに数百年か数千年かは知らぬが、この中に籠っていたのならば技術がどれだけ進歩したか知らぬであろう?」
「それはそうだけど……って、どっちにしろミレディちゃんは大ピンチじゃない!」
ミレディがこちらの話を聞いている間にシュテルと美遊が色々仕掛けを施してくれているが、それに気付いたようだ。本当に残念だ。
「ええい、こうなったら戦略的撤退!」
「遅いです」
「っ!? なにこれ!」
ミレディが行動を起こす前に彼女の両手両足が輪のような物で空中に固定され、動けなくされる。
『バインドですでに動けないようにしてあります』
『魂になっても逃がしません』
リリカルなのはの世界で使われる一般的な拘束魔法、バインドだ。主に高町なのはが砲撃を命中させるために使う。それに加えて美遊が
『二人共、ありがとう。助かった』
『彼女は逃がすには勿体無いですから、当然です』
『悪いとは思うけれど、野放しにはできない』
ここで逃げられたらライセン大迷宮の支配が滞る。それに解放者からすれば、俺達が大迷宮を独占する事は俺達以外の新たな攻略者が生まれないことになる。エヒトを倒すという目的だけなら、広く開放した方が彼等からしたら得なのかもしれない。それに敵対したのだから、別の所に新たに大迷宮が作られる可能性だってあるし、それこそ神代魔法をばら撒かれる可能性も微かにある。
まあ、色々と並べたが……目の前に経験値を大量に持っている弱い
「ひぃっ!?」
接近してルシフェリオンクローでミレディの頭にアイアンクローの要領で掴み、持ち上げる。思わず舌なめずりしてしまったが、まあいい。
「さて、ミレディ・ライセン。自由を渇望した解放者である卿等に敬意を表して選択肢を与えてやろう」
「いやいや、解放してくれるのが一番嬉しいかな~ってそうミレディちゃんは思うんだよね。うん、絶対にそうだよ」
「遠慮しなくていい。まず一つ目はここで魂を完全に喰われてただのエネルギーとして存在し、我が一部となる」
「地獄じゃない!」
「もう一つは我と契約し、我に服従せよ。さすればエヒトとの戦いに新たな肉体を与えて参加させてやる」
「だが断る!」
「ほう」
「どちらも自由がない!」
『まあ、解放者からしたら、エヒトからお兄様に変わるだけですしね』
『でも、彼女ほどの者を何の枷もなく自由にしたら……色々と大変だよ?』
『ええそうでしょうね。アストルフォが増える感じかもしれません』
それは困ることになるだろうな。
「契約条件はこちらの命令を聞くこと。それ以外は週休二日制で三食と住居の支給。勤務時間は基本的に八時間と休憩一時間の合計九時間。例外は戦争時などの場合。身体を壊されたとしても、新たに身体を用意してやるので死ぬ事はほぼない職場だ」
シュテルがしっかりと話した内容をデータとして、グラフや文字などで壁に投影してくれる。
「……あれ? 何か思ったよりもいいかも……?」
「国家の一員として敵対勢力を排除し、最終的にはエヒトを殺してこの世界に多種族国家を作りだすのが目的だ。その後はエヒトの代わりに我が君臨し、大量虐殺を禁止して戦争を辞めさせる。その代わり、大迷宮を利用した競技を作成し、その成果を持って問題の解決を行わせる。それ以外は基本的に干渉はしない」
「君臨しても統治はしないと?」
「面倒な事は他人に丸投げし、責任だけ取って後始末をする。必要がなければ遊んで過ごす。どうだ、いい計画であろう?」
「確かに一部の自由は制限されるけど、この内容なら問題はない……かも?」
「更に今なら新しい人の身体がついてくる。しかも、この高スペック状態だ」
「お得!」
俺のスペアボディをミレディ用に調整して使えばある程度の時間は短縮できる。むしろ、性別を変えなくてすむからその分は格段にはやくできる。もっとも、神結晶とかは入っておらず、精々が魔導炉と竜の因子ぐらいだ。それでも充分だろう。
「さらに今ならオスカー・オルクスの復活にもチャレンジできるチャンスが……」
「オー君とまた会えるの!」
「ああ、我が陣営には超優秀な降霊術師が居る。そして、オスカー・オルクスの遺品や遺骨も残っているから、後は彼を良く知る人物が居れば呼び出せるだろう。さて、以上を持ってプレゼンは終了だ。選ぶがいい」
「ちなみに選ばなかったら?」
「喰らうだけだ」
「自爆装置なんてものもあるけど?」
「無意味だな。卿等の力では我に張られた防壁を突破できん」
「知ってる? 重力操作を極めればどんな現象を起こせるか……」
「ブラックホールのような物ができるんだったか。まあ、どうとでも対応は可能だ。そもそも、魔法を発動しようとした時点で喰らうのだから、意味のない話だな」
ミレディの頭部がミシミシと音が鳴りだしてルシフェリオンクローの爪が食い込んでいく。その音によってミレディの顔文字に焦りが浮かんでいる、
「さて、そろそろ決めてもらおうか、ミレディ・ライセン」
まあ、どちらにせよミレディ・ライセンの力は使わせてもらう。ラインハルト・ハイドリヒやヘルシングのアーカードのように影として強制的に使役するか、Fate/Zeroのイスカンダルが使っていた王の軍勢のように自らの意思で協力してもらうかの違いでしかない。どちらにせよ、
『出せるかどうかはわからないですし、そもそも溜めた魂は召喚の触媒として使用しているから……ストックはないよ?』
『いっぱい殺さないと駄目だな』
『その予定はありますので、問題ありませんが……人族は弱ければ必要ありません。彼等を使うぐらいなら、
『それもそうか』
『それに戦力というのなら、このライセン大迷宮を使って作りたい物もあるので、ミレディ・ライセンを蒐集してから食べてください』
『わかった。シュテルの願い通りにしよう』
『ありがとうございます』
シュテルが何を作るつもりかはしらないが、戦力になるのならいいだろう。
「それで、どうする?」
「わかったわよ。仲間になってあげる。私としてもエヒトの野郎を殺してやりたいしね」
「仲間ではあるが、部下である事も忘れるなよ」
「ちっ、わかってるわよ」
「では、まずは蒐集させてもらおう」
「え? ひにゃぁああああああああぁぁぁぁっ!?」
ミレディの魂から力の情報を引き出す。重力魔法など、これまで彼女の歩んできた過程や思いを確認できるが、それらは全てシュテルに丸投げする。流石に妻でもない女性の全てを見るのはまずいからな。
「さて、喰らうか」
「だ、だまし──」
「喰らわないとは言っていない」
「──おのれぇぇぇっ!」
ミレディの魂を喰らい、聖杯に注ぎ込む。彼女の魂は他の者と別けるようにして特別なエリアへと配置。そこで美遊と柴天の書というか、夜天の書にもあった力を使い、しばらくは微睡の中で居てもらう。同時に記憶や性格などを保護しつつも、ミレディの魂を
ミレディが俺達を裏切らない限り、何もないが……裏切れば容赦なく泥によってその性質を反転させ支配下におくようにしておく。ただし、これを使えば美遊や俺にも
ミレディの身体ができれば聖杯から移すが、当然のように身体にも色々と仕込ませてもらう。そもそもミレディに与えるのは色々と弄るとはいえ、ユーリと俺のスペアボディな訳で、機密情報が大量にあるのだから仕方が無い。
「シュテル、こちらの技術をミレディに夢の中で教えておいてくれ」
「わかりました。それとその身体はどうしますか?」
「コレか。もはや不要の長物だが、残しておいてやれ」
「では、宝物庫だけ頂きましょう」
俺の身体から出た子供姿のシュテルが、抜け殻となったミレディの身体から宝物庫の指輪を引き抜き、身体の方は椅子に乗せる。それから、宝物庫の指輪を右手に装着し、虚空に手を突き入れて中身を確認していく。
普通なら死んでは居ないし、死んだとしてもミレディでないと開ける事ができないようにプロテクトが施されている可能性がある。だが、ミレディを蒐集した事でその生態データを得られたシュテルならば容易く突破できたようだ。
「どうだ?」
「これなら私が望むものを作れそうです」
「そうか。このライセン大迷宮を任せていいか? 俺は一旦、ハルツィナ樹海に戻り、それからハジメ達を追う」
「はい。こちらはお任せください。ハジメさん達が送られた出口はこの位置のようです」
「なるほど。なら、迎えに行くか。それじゃあ、頼む」
「はい。ハルツィナ樹海にある城と転移門を作成します」
シュテルが魔法陣を描き、城の転移門と繋げる。これにより、行き来できる。シュテルが作業してくれている間に神代魔法を習得した。もっとも、適性はほぼないので俺には意味がない。
『あ、覚えられました』
『流石は美遊か』
魔法少女をできるだけあり、美遊は覚えられたようだが……俺には適性がなかった。頑張ればできそうだが、数センチくらいの重力球を作り出すのに数百センチの物を作り出すほどの魔力が必要だ。ぶっちゃけ、これなら俺が使わずに美遊に使ってもらった方がいいくらいだ。それに重力といえばディアーチェだろう。
「それじゃあ、戻る。またな、シュテル」
「はい。それと清水さんが愛子先生と一緒にウルという村に向かっています。そちらとも一度、合流してみてください」
「了解した。身体に気をつけて、無理はしないように」
「ありがとうございます。気をつけます」
シュテルを抱きしめて、軽くキスしてから大迷宮を後にする。これからシュテルはここを改造するのだし、しばらく動けないだろう。それに帝国の方にも派遣しているようだし、そちらがどうなっているかはわからない。
にしても、清水と愛子先生か。こちらに引き入れたい人材だな。特に愛子先生。だが、そうなると教会や国が黙っていない。現状、相手側の戦力はまだ把握しきれていない。特に天使なんて存在がいるんだから、どんな隠し玉があるかわかったものじゃない。まずは穏便にエヒトの影響力を削ぐ方法を考えないといけないな。