愛ちゃん先生の護衛として王都から抜け出し、俺は同じく一緒に来たクラスメイトや騎士達と共にここまでやってきた。当然、俺が連れている北方棲姫や戦艦レ級も一緒だし、彼女達の生態などを研究して深海棲艦化のメカニズムを闇術師として解析している。
一緒にやって来た連中は
デビットの部下に副隊長のチェイス・ドミノ。デビットに比べるとまだ良識を弁えているのか、こちらに手を出さないようにしている。まあ、二匹が
「レ、レ、レ~♪」
「あっ、こらっ! それは食べちゃ駄目ですよ!」
「ダイジョウブ、モンダイナイ」
「いえ、ありますからね!」
そう言いながら、愛ちゃん先生がレっちゃんとほっぽを止める。二匹が食べようとしているのはデビットの剣や鎧だ。俺や自分達の事をよく思っていないデビットは二匹とっておやつみたいなものなのだろう。
デビットも抵抗しようとするが、ここに来るまでに襲撃してきた
「おのれ魔物共めっ! 愛子様の命令がなければ殺しているものを……」
「清水君! 二匹を止めてください」
「ソイツが態度を改めたらいいだけだ。それに殺さず、怪我させないようには言い聞かせてある。問題ない」
「いや、問題ありすぎでしょ。まあ、可愛いからいいんだけど」
「だね~。ほら、お菓子あげるからこっちおいで。食べるよね?」
「タベル」
「レ~!」
菅原と宮崎の二人が果物を差し出すと、レっちゃんとほっぽは受け取って口で食べていく。馬車の中がこんな状態でも、御者である相川達が交代でちゃんとしているし、襲撃があれば即座に知らせてくれる。戦いたくない連中がほとんどなので、戦いたがっているほっぽやレっちゃんに任せることにも抵抗がない。男連中で知ってる奴は二匹が深海棲艦だという事を知っているからだ。それに自分達が食べられるより、
「レ?」
「コノニオイハ……」
こんな風に仲良くしつつ、膝の上に身体を乗せているほっぽとレっちゃんを撫でていると、急に二匹が頭を上げて鼻を動かしていく。
「ゴハンダ!」
「レ!」
二匹が即座に立ち上がり、馬車から飛び出していく。街道を走っていた馬車から出て、森の中へとあっという間に突撃していった。
「あ、あの、清水君。なにがあったんですか?」
「……わからない。だが、何かを見つけたみたいだ」
「愛ちゃん先生! どうしたらいい!」
「とりあえず、馬車を止めるか?」
「止めてください! 襲撃かもしれません!」
まあ、レっちゃんとほっぽなら大丈夫だろうが、警戒しながらしばらく待つ。だが、帰ってこない。
「もしかして逃げだしたのではないか?」
「低俗な魔物風情だ。有り得るな」
「いや、それはない。だが、少し様子を見てくる」
「そうですね。もうすぐ日が暮れますから、ここで野営しましょう。皆さん、準備をお願いします。清水君と何人かはほっぽちゃん達の捜索をお願いします」
「「「はい!」」」
「俺は一人でいい。皆は準備だけしておいてくれ」
「大丈夫ですか?」
「平気だ」
「こう言っているのです。大丈夫でしょう」
「わかりました。気をつけてください」
「わかってる」
俺だけが森に入り、レっちゃんとほっぽを負う。二人は木々を蹴散らしながら進んでいるから、行先はわかる。
しばらく進むと地球で嗅いだことのあるような臭いがしてきた。そのまま進むと、すぐにレっちゃんとほっぽが見つかった。二匹は尻尾と顔を黒い沼につけるどころか、飛び込んで全身から黒い液体を吸い込んでいっている。おおはしゃぎで喜んでいるのが見てとれる。
「レッ、レ~~♪」
「ワ~イ♪ オイシイ~!」
「そういう事か」
そう、黒い沼。言い換えれば黒い液体だ。この黒い液体はとても臭く、独特な感じがしている。この液体の正体は原油だ。つまり、蒸留すれば重油となって深海棲艦である彼女達の食料になる。
ドラム缶はないが、入れ物は……確か、馬車の中に樽があったか。宮崎に頼めば蒸留してくれるかもしれない。宮崎は水術師だから、扱える可能性がある。
「今日はそこまでにしておけ。明日、相談して蒸留と回収できるか聞いてみる」
「レ!」
「ワカッタ。キョウハガマンスル」
「それで頼む」
「おや、もう帰るのかい?」
「う?」
「レ?」
振り返ると、そこにはオールバックの髪型をしている魔族の男が隣に立っていた。いつの間に居たのか、わからない。ほっぽとレっちゃんも気付いていなかったみたいだし、やばい相手かもしれない。これが隠密特化の相手ならまだましだが、期待できそうにない。
「テキカ」
「レ!」
俺が呆然としている間にレっちゃんが俺の前に立ち、尻尾を上げてその口の中から砲を出す。ほっぽが猫型の艦載機を生み出して何時でも攻撃できるようにしてくれた。どちらも人形みたいに小さい幼体のままだが、ステータスはかなり高い。
「ああ、待ってくれ。戦いに来たのではない」
両手を上げて戦う意思がない事を伝えてきたが、すでに周りはほっぽが展開した無数の猫耳をつけた球体に口がある浮遊砲台が浮いている。それらは俺の周りと敵である魔族の周りを囲うようにしている。戦闘が開始されれば十字砲火が放たれるし、背後からの奇襲に対する備えもしてある。戦術をしっかりと教えてきたが、効果がでていて嬉しい。
「レ?」
「……テキ……ジャナイ……?」
「どういう事だ?」
「端的に言えば君を我等が魔族陣営にスカウトしにきた」
スカウト、引き抜きということか。確かに魔族だと思う奴等から
「……スカウトッテ……ナンダ……?」
「レ~?」
「引き抜き……ようは味方じゃない人を味方に変えることだ。この場合、人類勢力から魔族勢力に鞍替えしないかと誘われている」
「ナルホド……ワカンナイ! ゼンブ、テートクニマカセルノ」
「まあ、それがいいか」
レっちゃんもほっぽと一緒に頷いているので、二匹を抱き上げてから相手を見る。相手も何時でも戦闘行動をとれるようにはしていると思う。そうじゃないと一人で出てこないだろう。
「それで、詳しい条件と待遇を聞こうか。全てはそれからだ」
「問答無用で戦いはしないのかい?」
「俺はそこまで野蛮人じゃない。それに正直、言ってこの世界の人類がどうなろうが知ったことじゃない」
シュテルから聞いている情報を考えると、人類は洗脳している者と洗脳されている者で別れているだけだ。魔族はどうかはわからない。だが、歴史を考えると魔族も人族もひたすら争い続け、滅び、滅ぼされ、作り直されている事を考えたら自ずと答えは見えてくる。
普通、ここまでの殲滅戦を行い合っていれば一時的に和平やもう少し歩み寄りがあってもおかしくないのにそれもない。まるで互いの神が相手を嫌いあって殺し合わせているかのようにすら感じられる。この事から、おそらく魔族にもエヒトの影響が入っていると考えられる。
「条件は畑山愛子の抹殺だ。それをなせば魔族の勇者として迎え入れる」
「それほど作農師の力が恐ろしいか」
「ああ、恐ろしいさ。それで、どうだろうか? 見た感じ、君はその子達の事もあって勇者とは上手くいっていないのだろう?」
「そうだな……」
確かに愛ちゃん先生を殺せば魔族側に入れるのだろう。前の俺なら、飛びついたかもしれない。だが、よくよく考えるとなんでスカウトされているのに条件をつけられなくてはいけないんだ?
逆だろう。それに南雲や沙条達の事を考えると魔族はそれほど恐ろしい敵ではない。だが、鬱陶しいのも事実だ。
「愛ちゃん先生を殺せば……ほ、本当に俺を勇者として迎え入れてくれるのか……?」
「ああ、約束する。殺す方法もこちらで用意してある。後はお前がその準備をして実行するだけだ」
「そうか……それなら……いいかもな……」
「そうだろう。よろしく頼む」
「だが、断る」
「何? わかっているのか? そのような幼体でどうにかできると思っているのなら、愚かな事だぞ」
そう言いながら、男の周りにある空間からにじみ出るようにして大型の
「コイツ……」
「レェ……」
「やはり戦力を隠していたか」
こちらが包囲している間にあちらも姿を隠したミノタウロスのような
「やはり断る。条件と難易度があっていない。そもそもスカウトしに来たのはそちらだ。それで何故条件をつけられると思ったんだ?」
「戦力差がわからないのか? あの程度の勇者ごとき、我等の敵ではない」
「まあ、そうだろうな。だが、あいにくと俺にはお前達が負けると理解している」
「なんだと?」
どう考えても沙条と南雲の戦力のほうが多い。あいつら、完全にチート状態だしな。既に神を殺す事を前提として戦力を集めてやがる。その時点で魔族と人族のスケールが違う。内輪揉めしてくれている間に力を蓄えるわけだし、戦争というのは沙条や南雲にとっては得だな。
「それと一つ勘違いを正してやる。ほっぽ」
「シズンデェ!」
空中にあるのと、ミノタウロスモドキに埋め込まれた猫耳艦載機が一斉に赤い光に覆われて砲撃を開始する。前後左右、上下から砲弾の雨に襲われたミノタウロスモドキ共は穴だらけになり、倒れる。周りの木々も例外ではなく、隠れていた増援も含めて纏めて排除してくれた。そして、ここには原油があるが、そこは外れるようにしっかりと計算して撃たれている。
「ば、馬鹿な……」
手足が吹っ飛び、達磨状態で転がっている魔族を見下ろし、レっちゃんの尻尾をあてながら聞いてやる。
「おい。追加はまだあるのか?」
「それは……いや、それよりもこんな事をしてただで済むと思っているのか!」
「それはこちらの台詞だが、まあいい。で、スカウトだったな。条件つきでそちらについてやってもいい」
「何?」
「俺も天之河はムカつくからな」
「じょ、条件はなんだ?」
「
「わ、わかった。それでいい! だから助けてくれ!」
「交渉成立だ。とりあえず治療してやるから動くなよ」
「あ、あぁ……」
さぁて……懐から取り出したのは瓶の中に入っている小指サイズの猫だ。それをレイスと名乗った魔族の傷口へとあてる。連絡用に貰ったものだが、問題ないだろう。
「あがっ!? ぐっ、ぎぃぃっ!」
身体が膨張し、触手のような物が現れて近くの死体となったミノタウロスモドキへと近付く。その身体を蒐集して素材へと変えて魔族を作り変えていく。
「タベテイイ……?」
「レ、レ~」
「残ったのは食べていいぞ」
「レ!」
「ヤッタ!」
ミノタウロスモドキなどを原油につけてからパクパクと食べていく二匹を木に背中を預けながら見ていると、立ち上がる音がしてレイスの方をみる。すると彼は両手を開いたり閉じたりした後、首をコキコキと鳴らしてから女性の声を出す。
「ご苦労様でした。魔族の肉体を手に入れられたのは望外の喜びです。まだ、魔族の領域までは出向けておりませんから」
「だろうな。それで、ソイツの精神はどうするんだ?」
「支配下には置かず、このままにしておきます。思考の誘導ぐらいはしますが……」
「そうか。それでどうする?」
「彼の計画を実行してください。ああ、先生は殺したように見せ掛けて確保するのもありですね」
「それは時期尚早じゃないか?」
「……確かにまだ早いですね。聖教教会の求心力も排除しておきたいですしね。ですが、護衛をつけないのも不味いです」
「俺は魔族の所に向かうしな。だが、殺される心配はないだろう。精々、幽閉されて洗脳されるぐらいじゃないか?」
「……やはり、魔族に行かずに残ってください。魔族の方は私がどうにかしておきます」
「だが、聖教教会の騎士連中が邪魔だぞ」
「排除してしまえばいいじゃないですか。幸い、計画は用意されています」
「いや、俺は魔族の方に行く。やりたい事もあるが、それは愛ちゃん先生の傍だと絶対にやらせてくれない」
「そうですか……では、護衛は……いえ、いい方法がありますね」
「レっちゃんとほっぽはやらんぞ」
「レ?」
「ン~?」
原油を掘り返し、飲み干していっている二匹が穴から顔を出して見詰めてくるが、気にしないように手で指示しておく。二匹もすぐに食事へと戻った。
「いえ、清水さん以外にも私共の方でテイマーを確保しております。ですので、そちらから愛子先生に護衛として
「それならそうしてくれ。それで、計画というのはなんだ?」
「この魔族から話してもらいます。私は奥深くに潜り込んでいますので、お任せしますよ」
「わかった」
シュテルがそう言いながら、何かを投げてきた。それはストレージデバイスのようで、指輪タイプだ。試しに機動してみると、目の前に黒い空間が現れた。
「その中に色々と物を仕舞っておけます。それとこちらも差し上げましょう」
そう言ってポンプと蒸留機械、大量のドラム缶をくれた。速攻で作ったみたいで、周りの物が一部なくなっている。錬成でもしたのだろう。まあ、ありがたく貰う。
こちらが使い方を確認していると、シュテルが目を瞑る。するとすぐに目をあけて不思議そうにしているレイスの姿が見えた。
「俺は……」
「治療は終わった。違和感はないだろう?」
「た、確かにそうだ。自分の身体みたいに動かせる! その上、力が湧いてくる!」
「じゃあ、計画について教えてくれ。俺はどう動けばいいんだ?」
「ああ、それなんだが……この辺りの
「わかった。それと
「ある」
レイスも協力的になり、魔族側の道具を全て出してくれた。一時的に強化する方法だったりしている。闇の魔法が使われているようで、解析データと合わせれば色々と使えそうだ。
「しかし、
「それならそれでいい。ああ、面白い実験を思い付いた……ああ、楽しみだ」
「そ、そうか……それでどうする?」
「なあ、この黒い水って魔族の領土でもあるか?」
「これならそこら中に湧いている場所がある。使い道もわからんから、放置しているのが現状だな」
「そうか。じゃあ、それも貰うとして……水の魔法って得意か?」
「得意だ」
「それなら頼みたい事がある」
俺も一応、水の魔法が使えるのでレイスと一緒に原油を集めてポンプに入れて操作する。
それから溜めた原油を蒸留してドラム缶に溜め込んでいく。一瞬で蒸留まで終わるのはこれがアーティファクトである証拠だろう。
レっちゃんとほっぽは二匹で手をつないで不思議な踊りをして喜んでいるので、ご機嫌だ。これからいっぱい働いてもらわないといけないからな、大変だが……おやつができたし大丈夫だろう。
現在のレ級と北方棲姫
ステータスはだいたい1900前後。flagShip化による強化で5倍化。
地上なのでステータス半減。でも、9500/2なので4750ぐらいの力はあります。これに装備のステータスが加わるのでもう凶悪。
だいたいこんな感じかも?