清水の襲撃を終えてた翌日。朝日が昇り、被害が判明した。まず愛子先生だが、
食い殺された彼女の身体は水35L、炭素20㎏、アンモニア4L、石灰1.5㎏、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素、愛ちゃん先生の血液を少々使って作った人形だ。1/1サイズで匠の技で再現されたそれは細部に至るまでしかりと作り込まれている上に服は本人の物。身長や体重からスリーサイズまで全て同じようネコネ達に調べさせて作った。言ってしまえば魂が入っていないだけの動かない入れ物となっている。ちなみに南雲は技術者として完璧主義みたいなところがあるのでかなり綺麗に作り……ダッチワイフとしても使える可能性がある。どこまで細部に作られているかはわからないが、ユエやシアの身体を参考にしたのだろう。
「焼却焼却」
そのせいか、ユエによって残った部分は綺麗に燃やされた。ウルの方は悲惨の一言につきる。田畑や家々、ウルの村にあったほぼ全てが消失して地面が焼け焦げている。清水のいやらしい事は爆弾で吹き飛ばした後にナパーム弾を投下して徹底的に焼き払った。これに加えて津波によってこの場所全てを水の底へと沈める計画だったことだ。
そう、このウルの周りはくぼ地になるように計画的に破壊と建築が行われていて、水の逃げ場は清水達が脱出に使った場所以外はなかった。それ以外の全てが封鎖されていたのでスターライトブレイカーで水を消し飛ばさなければここは巨大な湖の底になっていた。
「これで人的被害が無いのって奇跡的よね。親衛隊にスカウトしたいくらい清々しいまでの破壊ね。才能あるわ~」
ケラケラと楽しそうに笑いながら軍服姿のルサルカ・シュヴェーゲリンが焼け跡を歩いていく。おそらく、魂が存在しないかどうか調べていたのだろう。文字通り焼け野原と湖しかないので意味はないのだが。
「事前に人は逃がしてたんだから当然だよ! だよね、マスター!」
「まあ、そうなんだがな」
アストルフォが抱き着いてきたので、そのまま抱き留めて彼の頭を撫でてやると嬉しそうに笑う。鈴の要請でアストルフォとルサルカを召喚したその直後、北方棲姫が引いた。そのタイミングでアストルフォの素早さを生かして愛ちゃん先生の人形と本体を交換し安全を確保。人形はルサルカが魂を入れて
「よう」
「南雲か。そっちはどうだ?」
「流石に村人達は意気消沈しているな」
「愛ちゃん先生達は?」
「愛ちゃん先生は目の前で自分が殺されるところを見て気を失った。相川達は気持ち悪そうに吐いたりしている。これからどうなるかはわからないが、ハルツィナ樹海に送るんだろう?」
「その予定だ。ルサルカ達を召喚したから、あちらの防衛戦力も不安だからな。一度俺達も戻る。それと早急にここを離れた方がいいだろう」
「連中が駆け付けてくるか」
「その可能性が高い。どちらにしろ、騎士達には情報を抹消した後で愛子先生の死体を持って帰らせる。ウルの村人はそっちに任せていいんだよな?」
「ああ、構わない。フューレンの支部長には今回の件で協力を約束させている。村人を引き取ってもらえるだろうさ」
「それならいい。悪いがそっちは頼むぞ」
「任せておけ」
これで相川達も死んだ事にして愛ちゃん先生達と一緒に俺達の国に来てもらえる。そこでどう過ごすかは任せるが、出来る限りの要望は答えてやる。ただ、ハルツィナ樹海からは出さない。これからの事を考えるとクラスメイト達の存在は邪魔になる。やる事はどう考えても清水が作り出した事以上だし、数百人単位で殺す事は確定だ。そうなると天之河達は必ず邪魔をしてくる。つまり、アイツとは殺し合いをする事になるってことだ。まあ、どちらにしろ邪魔するなら殺すし、天之河なら別の使い方もできるだろう。腐っても勇者なのだからな。
「ルサルカ、何か面白い物はあったか?」
「特に無いわね。あ、それと魔族の仕業に見せかけるついでに仕込みをしておくわ」
「頼む。恵里と協力してやってくれ」
「了解」
ルサルカにこの場所は任せて村人達を避難させた場所へと向かう。そこはウルの村からかなりの距離がある場所だ。最初は避難するのを嫌がった彼等だが、愛ちゃん先生の説得で動いてくれたので助かった。それに詩乃のハイペリアまで使ってたった一日で移動させたからこそ、清水の大規模攻撃から難を逃れることができた。逃げた場所が山の上だという立地も助かった。
同時に彼等はウルの村が焼き払われれるところをしっかりと目にしたのだ。まあ、彼等からしたら生きられた分だけ儲け物と考えてもらうとしよう。
さて、避難所のある山頂に到着した。そこでは複数のテントが立てられている。テントの周りには座り込んで泣いている人や抱き合って無事を喜んでいる人も要る。その一方で愛ちゃん先生の死体に縋り付いて泣いている者達も居る。そいつらは騎士の奴等や村人達だ。騎士の連中はヘイゼルが俺達の情報を抹消させてからここで解放して愛ちゃん先生の死体を渡した。もちろん、宮崎達の血がついた服の一部も提出してある。それでも愛ちゃん先生にしか悲しみを感じていない。他の村人達はちゃんとクラスメイト達に対しても悲しんいるのにだ。
「お帰り。どうだった?」
「やっぱり何も無いな」
「そう。確かにあの爆撃なら何も残らないのは仕方がないね」
詩乃がこちらに気付いて水が入った桶を持ちながらやってきた。詩乃はアルテナとネコネの二人と一緒に避難した村人達に治療を施してもらっている。というのもアルテナは薬草を使った治療が出来るし、ネコネに至っては巫術による回復とバリアを展開できるヒーラーだ。そんなわけで治療をしてもらっている。もちろん、亜人なので拒否している人も要るが、それでも治療はしている。
そちらの方は後で労うとして、詩乃と軽く話してから今は馬車に向かう。馬車には鈴と恵里、ヘイゼルが愛ちゃん先生や相川達の様子を見ている。馬車の中に入ると相川達がこちらに気付いたようだが、身体を両手で抱きしめて抱えたままだ。
「なあ、本当に俺達は大丈夫なんだよな?」
「ああ、身の安全は保証する。それに清水だって実際に殺すつもりはなかったはずだ。もしそのつもりなら北方棲姫と戦った時点で殺されているだろうしな」
「だ、だよな!」
聞いた限り、北方棲姫が狙っていたのは死なないであろうシアや鈴達だけのようだし、彼女の力なら外から砲撃を続けるだけでいい。わざわざシア達と接近戦をする必要なんてないしな。清水が制御できていないのなら知らないが。
「ただ俺達が参加しているのがこういう事が平気で起こる戦争だってことを忘れるなよ」
「わ、わかってる」
「ああ……身に染みてわかったよ……」
相川達はまだまだ負った心の傷は癒されていないが、こういう時は趣味に走ったりストレス発散をしたりするのがいい。もう一つの方法が一番いいが、相川達にはそういう相手が居ないみたいだし無理だ。
「はい、どうぞ」
「どうも……」
イヌイが飲み物を持ってきてくれたので、相川達が受け取っていく。座り込んでいるので渡す時にイヌイの大きな胸に目が行ってしまうのは仕方がないだろう。
「旦那様もどうぞ」
「ありがとう。それで他の面々は?」
「奥でお話しておられますよ」
「わかった」
奥へと向かうと寝込んでいる愛ちゃん先生を看病しながら鈴や恵里、優花が宮崎達と話しをしていた。優花はヘイゼルの姿ではなく、高校生の姿だ。
「ねえ、ゆかゆかもそう思うよね?」
「まあ、確かに不安な時や辛い時は抱いてもらうと嬉しい。嫌な事を全部忘れられるぐらい気持ち良くしてもらえる。それに私の全部を支配されて必要とされている感じがして好き……」
「それはちょっと……」
「優花は色々とあったし、仕方が無いよ」
「まあ、死ぬのが近付くと子孫を残すために身体も受け入れやすくなるし、今だと凄く気持ち良くなれるかも」
「いや、相手がいないって」
「私も~」
「何を話をしているんだ」
「辛い時を乗り越える方法だよ~」
どう考えても赤裸々な猥談になっている。宮崎達も興味があるみたいで結構盛り上がっているようだ。
「まあいい。恵里、ルサルカが仕込みをするから手伝ってくれって言ってる」
「場所は?」
「ウルだな」
「了解。それじゃあちょっと行ってくるね」
「頼む」
「行ってらっしゃい~」
俺は恵里を見送ってから愛ちゃん先生の容態を聞いてみる。
「愛ちゃん先生は大丈夫だよ。でも、やっぱりショックが大きいみたいだね~」
「動かせるか?」
「それは大丈夫だよ」
「あの、そんなに早く移動しないといけないの?」
「ああ。ここに居るとエヒト達に感づかれる可能性が高いからな」
「ユエユエ達ともお別れ?」
「またすぐに会う事になるだろうが、俺達はまず愛ちゃん先生達を俺達の国に移動させる。それからだな」
「やったね! あ、でも皆とはまたお別れか~」
「嫌か?」
「別にいいよ~」
鈴は鈴でやはり少しドライな感じでわだかまりはまだ残っているようだ。それでも仲良く話しは出来ているので致命的な事にはならないだろう。さっさと出発するとしよう。
◇◇◇
ハジメ達と別れ、俺達はハルツィナ樹海へと戻る。流石に数日も経てば愛ちゃん先生達は起きてきたが、元気はない。菅原達が励ましているのでなんとか普通に生活する程度はできるようだ。そんな暗い雰囲気がる一部だが、空気の読まない奴も居るので馬車内は明るかったりする。
「ふっふっふっ、どうだハートのQで作ったスリーカード!」
「残念でした。フォーカードだ!」
「なんと!」
「甘い。ロイヤルストレートフラッシュ」
「「待て!」」
馬車の中でアストルフォが相川達を誘ってカードゲームをしていたりする。ルサルカ達も参加して皆で楽しんでいる。愛ちゃん先生も無理矢理参加させられていて、少しずつ元気になっているとは思いたい。
「というかルサルサ、イカサマしてるよね?」
「バレなきゃイカサマじゃないのよ」
「コイツ!」
「鈴」
「任せて☆
「待ちなさい! カードゲームに聖遺物使ってんじゃないわよ!」
「勝てばよかろうなのだよ!」
「というか、魔術を使ってるルサルカも人の事言えないからね」
こんな感じで楽しくハルツィナ樹海に戻ってきたわけだ。ハルツィナ樹海に入ると亜人達から襲撃を受けるかと思ったが、そんな事はなく普通に入れた。というのもアルテナや詩乃達が前に出たからだ。彼等としてもこちらを襲撃すると痛い目に会うというのはわかっているので大人しい。
さて、俺達の国だが全体が分厚い霧や曇に覆われていて外からはわからないようにされていた。そんな物を気にせずに中に入るとなんというか凄まじい勢いで発展していた。
まず防壁だが、前に作った物が改造されていた。かなり大きな物となっていてまるで崖に見える。そこにトンネルがあり、そちらから入るとすぐに見えたのは人口の灯りとそれに照らされた停車している列車だ。
「お帰りをお待ちしておりました聖上」
そして、列車の前にあるホームにアサルトライフルなどで武装した獣人達を従えたオシュトル達が待ち構えていた。
「兄様!」
ネコネがすぐに抱きつきに行こうとしたが、すぐに止まってこちらを見上げてきたので頷いてやると嬉しそうに飛びついていった。オシュトルの方も優しく頭を撫でている。
「これってどう見ても駅だよな?」
「それにアレって列車……」
普通の列車に見えるが、列車砲が搭載されている辺り、戦闘用だ。まあ、ここは入口みたいだから仕方がないが……いったい誰がこんなのを作ったんだ?
「どうしますか?」
「まずはゆっくりと休みたい。オシュトル、構わないか?」
「宴の準備もしてあります。こちらへどうぞ」
馬車を預け、荷物の運び出しなどを頼んでから列車に乗って移動する。列車の揺れに仁村達はちょっと感動していた。それを見なかった事にしていると、分厚い防壁を抜けた。一面の田畑が広がる……なんてことはなかった。ラピュタにあった複数のロボット兵が整列し、かなり深くまで掘っている。
そこから第二の防壁までは軍事兵器である戦車が複数置かれている。流石にミサイルは用意されていないようだ。第二防壁を抜けると今度こそ田畑が広がっていた。こちらもロボット兵だけでなく、獣人達も一緒になって耕しているようだ。
「前に連れてこられた者達で働ける者達は働かせております」
「無理はないようにな」
「はっ」
渡された報告書を確認していくが、ユーリの方も大分形になったようだ。これもラピュタにあったロボット兵をハクが使えるようにしてくれたおかげだろう。それでも人手は全然足りていないようだ。今は防衛部隊の一部を開塾に向かわせているらしい。地下とライセンの方も同時だから仕方がない。
ユーリの方は前に教えてもらった通り動いているらしいが、見た限りではかなり進んでいる。この分では食料生産はかなり増えているだろうし、ユーリの方も大丈夫そうだ。そうなると問題は治療の方だな。
考えていると、列車が活気が出始めた街を通過して城の麓へと到着した。ここが終着駅なので、ここから降りてエレベーターで上へと向かう。
エレベーターが到着し、扉が開くと金色の何かが飛び込んできて俺に抱き着いてくる。下を見ればそれはユーリで、彼女は頭を俺にグリグリと擦りつけてきた。
「ただいま」
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
嬉しそうに微笑んでくれるユーリの姿を見ると戻ってきたと思える。なので、ユーリの顔をもっと見るために彼女を抱き上げる。すると両手を首に回してスリスリしてきた。
「ただいま~」
「ただいま」
「お帰りなさい。皆さん」
可愛らしく甘えてくるユーリを連れて宴の会場まで移動……する前に風呂に入って着替えてからということになった。そんな訳で皆は大浴場の方へ案内してもらい、俺とユーリ達は俺個人が所有している風呂へと向かった。