ありふれた職業の召喚(ガチャ)士で世界最弱   作:ヴィヴィオ

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おかしい。決闘までいくはずだったのに……


キャスターアルトリア爆死。一万五千と石200、符20枚でこないとか……いいもん、アビーの水着に全力だすんだもん……くすん

ロストフラグも水着全滅したけど負けません!


第73話

 

「……ハジメ君……ハジメ君、ハジメ君、ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君ハジメ君」

「怖いからちょっと落ち着きなさいよ」

 

 八重樫がそう言ってくるが、相変わらず白崎は俺に抱き着いたままだ。それに感化されたのか、ユエやシアまでこっちに来ている。ミュウはキングプロテアと一緒に遊んでいるから大丈夫だが、目の届く場所に居させている。そもそも、ここはシュテルが用意した店舗にある沙条達の執務室なので端から端まで見渡す事ができるがな。

 

「離れろ、白崎」

「嫌。それと、か・お・り。はい、Repeat after me」

「……か、香織……」

「はい、ハジメ君♪」

 

 スリスリと身体を擦りつけてくる白崎、香織に対抗してユエも同じようにしてくる。そして、互いに見つめてしばしば見つめ合った後、互いに俺を半分ずつにしてきた。

 

「ラブラブね」

「喧嘩は駄目です。仲良くしてくれて嬉しいです」

「まあ、そっちもだけど。本当になんでこんなことになってるのかしら?」

 

 八重樫とユーリの言葉に執務室の主である沙条の方を見る。沙条は俺が座っているソファーの反対側でユーリとシュテルを膝の上に乗せ、二人は沙条の手をそれぞれで掴んで自分の前に持って来ている。その左右には詩乃と園部が身体を沙条にもたれ掛からせている。園部に関しては首輪に鎖が取り付けられて沙条の腕に繋がれているが、これは檜山を殺しに行かせないための措置だろう。

 

「八重樫は他の連中の所に居なくて良かったのか?」

「香織が暴走しているし、こっちでいいわよ」

「助かる」

 

 八重樫からしたら俺と沙条の事は納得ができないのだろう。まあ、彼女からしたら納得はできないだろうな。大切な親友が複数の女と交際するような奴と一緒になろうとしているのだから。

 

「それでどうするんだ?」

 

 沙条の言葉にこれからの事を考える。既にホルアドには用はない。そもそも通り道だから寄り道をしただけなのだから、当初の予定通りにすればいい。

 

「ああ、それならミュウを親元まで届けるために海上の町エリセンまで行こうと思ってる」

「なるほど……明日の早朝に出発する方がいいな。アイツが起きる前の方が面倒はないだろう」

「そうした方がいいだろうな」

 

 沙条の言う通り、香織を連れて行くとなると天之河が鬱陶しい事を言ってくるだろう。アイツが起きる前にさっさと出るべきだな。

 

「ユエ達もそれでいいか」

「大丈夫。ハジメが居ればそれでいい」

「私もですよ~」

「こちらも問題はないのぉ~」

「ミュウも~」

「もちろん、私もだよ」

「そういう事だ。明日の朝、出発する。見送りはいい」

「了解。それじゃあ、ここらで解散するか。今夜はお楽しみだろうしな」

「おい」

 

 沙条の言う通り、別れた後は寝室に移動する。当然のように香織もついてくる。普段ならユエ達もついてくるので、不思議に思って扉の方を見る。何とも言えないような表情をしたユエは扉を閉めようとしている。

 

「今日は独り占めにさせてあげる。でも、今日だけだから」

「ありがとう、ユエちゃん!」

「明日からは私達も混ぜてもらいますからね!」

「ミュウ、パパと一緒に寝たい……」

「今日は駄目じゃ。我等と一緒に寝よう」

「う~」

「そうじゃ、プロテアと一緒にならどうじゃ? 明日から離れ離れになるしの」

「わかったの。じゃあ、一緒に寝るの~おやすみなさい、パパ!」

「ああ」

 

 なんだか、ミュウが取られた気がして嫌だが、これは仕方がない。それと沙条に連絡してキングプロテアは今日、別に寝させるようにしておこう。

 

「ハジメ君。それじゃあ……私を貰ってください」

 

 ユエ達が扉を閉めたのを確認して振り返ると、服を脱いだ香織がベッドに座ってこちらに両手を開いて差し出してくる。

 

「本当にいいのか?」

「うん。ハジメ君がいいの……いいえ、ハジメ君じゃないと駄目なの。だから…ね?」

「ああ、わかった」

「大好きだよ」

「俺は……」

「いいの。必ず私を好きにしてみせるから」

「それでいいのか?」

「うん。もうユエちゃんとも話はついてるし、絶対に逃がさないからね」

「……わかった。だが、やっぱり違うな」

「?」

「香織、俺の女になれ」

「……はいっ!」

 

 俺から口付けを交わし、互いに愛し合っていく。気が付けば長い時間が過ぎていて、嬉しそうで幸せそうな香織を抱きしめながら共に眠りについた。

 早朝、起きてから身体を拭いて身だしなみを整えて外に出ると、ユエ達が抱き着いてきた。

 

「これで同じだよ、ユエちゃん」

「ん。負けない。私が勝つ」

「受けて立つよ」

 

 色々と準備をして宿場町ホルアドから海上の町エリセンへと向かう。装甲車で行く事にしたのだが、その席順で色々と問題があった。そちらはどうにか話し合いで解決できたので良かったとは思うが、この辺りの事は全て話し合いか何かで問題無く決めるように言って投げる事にする。沙条の方もユーリ達自身で決めさせているしな。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 救出作戦から数日。ハジメ達を見送ってから日課になっている仕事を机に向かいながら行う。宿場町ホルアドはオルクス大迷宮があるからこそ発展してきた。それ故に売れるのは武器、防具、携帯食料、鉱物などが売れる。それら全てをシュテルが用意した店舗で売っている。全てオルクス大迷宮で作られている物資を使っているので、入手経路も問題なく資金に変えられた。その資金でホルアドに生まれる奴隷を購入する。

 奴隷といっても、亜人奴隷以外にも様々な奴隷がいる。基本的には犯罪者しか認められていないが、奉公に出るということで同じように扱う事も可能になっているからだ。また、奴隷以外にもこの町の特性上、死を賭けた戦いを経験した後は生殖本能が刺激されて娼婦や男娼などでスッキリする場合が多い。高級な娼館などではしっかりと教会で避妊魔法による対策はされているが、寄付という値段はそれなりに高い。

 故に結果として子供が生んでから、治療魔法をかける方が安くなる。産まれてきた子供自体は捨てるか、売るかだが、どちらも子供にとってはろくな未来がない。そこで子供の引き取りもやる事にした。子供なら洗脳を解除すればどうとでもなるし、英才教育を施せば国力上昇へと繋がる。連れて来た親にはお金を渡してやれば感謝されることになるし、奴隷ではない扱いだから問題もない。子供と一緒に過ごしたいという家族も親には仕事を紹介し、ここで働くか別の場所で子供と一緒に働くかを選んでもらう。資金力が無いと無理な事だが、幸いにも売れば売るだけ金は入るので可能だ。

 

「ええへ~マスター~」

「お兄ちゃん~」

 

 座っている俺の膝の上に乗って向かい合うように抱き着きながら首元にキスマークを量産してくるキングプロテアとユーリ。背後ではお仕置きとして優花がメイド服を着て胸を使った肩叩きをしてくれている。机の下には詩乃がクッションを持ち込んで俺の足を枕代わりにしながら眠っている。詩乃に関してはケットシーという猫の特性か、暗くて狭い所は好きみたいだ。たまに寝る以外にもこの状態で色々としている。

 

「仕事が終わったら遊んでくださいね」

「いっぱい可愛がって愛してください……」

「わかってる」

 

 鈴と恵里は八重樫と一緒に永山達のパーティーのところにいって話し合いを行っている。鈴のわだかまりを解消するためでもあるが、彼等が愛子先生の死を受けてどう動くかの判断をする必要があるからだ。それに檜山や天之河の事もある。アイツは白崎がハジメについていった事を知って荒れに荒れた。ハジメ達を追って連れ戻そうとしたが、皆で止められている。そもそも何処に行ったか、彼等にはわからないし追いようがない上に移動速度も違うから追いつける事はない。

 さて、そうなると天之河が目を付けてくるのはこちらになる。アイツの目の前で堂々と奴隷を扱っているわけだし、色々と言ってきたわけだ。しかし、これは国に認められている行為なので無視している。奴隷以外には鈴や恵里はもちろんのこと、ユーリまで引き渡せと言ってきている。当然引き渡すつもりもないので断固拒否だ。戦争も辞さない。

 ユーリに関してはバッテリー関連の事もあって国や教会も手に入れたいので煽ってくるだろう。そう考えると俺もハジメ達と一緒にさっさとこの街から出ていってもいい。

 

「どうしました?」

「なんでもないさ」

 

 ユーリを撫でると、キングプロテアも頭を差し出してくるので二人を撫でていく。そうしていると下の方が騒がしくなる。また招かれざる客が来たようだ。

 

「殺しておく?」

「……食べちゃいましょうか……?」

「止めておいた方がいいですよ。面倒な事になると思います」

「ちっ」

「残念」

 

 優花とキングプロテアが後ろから物騒な事を言ってくるが、ユーリが止めてくれている。まあ、殺す事に関しては止めていないのでかなりご立腹である様子だ。召喚者である俺に散々な事をしておいてユーリに好かれると思っているのだから笑える。まあ、あんなでも勇者なので色々とすると面倒だ。なので会わない為にも引き篭もっているわけだ。デートも出来ないので、更に不満が溜まったりもしているので悪循環になっている。

 

「ですから困ります! 今、お仕事をしておられてお忙しいのです! アポイントメントがないと通せません!」

「前もそう言ってたじゃないですか! 居るのはわかっているんです! 通してもらいます!」

「そうです。通しなさい!」

「駄目だって言ってるでしょう!」

 

 言い合う言葉が聞こえてきた。どうやら、シュテルの制止を振り切ってこちらまでやってくるつもりのようだ。

 

『お兄様。申し訳ございません。実力行使で止めていいですか? 教会の司祭と神官まで居て止められません。連れて来られたのが私の手の者ならどうとでもなったのですが……』

『なるほど。それならこちらに通して構わない。ただし、何時でも実力行使と撤収ができるように準備だけしておいてくれ』

『了解しました』

 

 急いで書類を仕上げるのもあるが、ユーリ達を降ろさないといけない。二人を降ろそうとするが、拒否した。

 

「嫌です。離れません」

「です。ぎゅーとしています」

「ゆ……ヘイゼル」

「私もこのままでいい」

「詩乃は……」

「あ、私は隠れてるからお構いなく」

 

 詩乃は我関せずと言った感じでそのまま俺の足を枕にして眠ってしまった。仕方ないのでこのまま書類を処理していると、扉が開かれて廊下から天之河やローブ姿の司祭や神官達が入ってくる。

 彼等は俺達の姿を見ると顔をしかめた後、ユーリ達の姿を見てニヤリと顔を歪めるが、天之河は気付いていない。キングプロテアとヘイゼルは完全に無視して俺に甘えてきている。一応、ユーリだけは俺の方とあちらを見てから、やっぱり抱き着いてきた。それに苦笑いしながら見て、机の上にある書類を読みながらサインしていく。

 

「鈴と恵里、その子達を解放しろ! 人を隷属させるなんてなにを考えているんだ! 大丈夫だ。俺がすぐに助けてみせる! さあ、はやくしろ!」

 

 完全に無視しようと思ったが、ユーリがギュッと抱き着いてきたので、視線を上げて天之河の方を見る。アイツは自分の言っている事が全て正しいと盲信しているままだ。

 

「そうです。勇者様の要請に従い、その者達はこちらで引き取らせていただきましょう」

「それがよろしいかと。強い者達のようですし、勇者様や引いてはエヒト様のお役に立てることでしょう」

「おお、それはなんて素晴らしいことでしょうか!」

 

 神官達も同じようで、あきれ果てるしかない。だが、これはこれで面白いので少し遊ばせてもらおう。ルサルカのせいとは言わないまでも、彼女に影響されて人を弄ぶのは意外に楽しく思えてしまう。

 

「お断りさせて頂く」

「なんだと!」

「それはどういう事でしょうか? 教会を敵に回すと?」

 

 天之河や神官達が怒鳴ってくるので、キングプロテアとユーリがビクンッと震えた。俺は二人を抱きしめながら優しく撫でていく。どちらかというと不安ではなく、殺しにかかるのを止める意味合いだが。

 

「そもそも勇者とは誰だ? 我々は()()()()()()()()()()()()を確認していない」

「「「は?」」」

「勇者とは俺の事だ」

「御冗談を。それは()()()()()。いや、勇気ある者としてなら勇者と言えるかもしれないな。蛮勇だが」

「俺のどこが蛮勇だ! それにありえないとはどういう事だ!」

「何故なら、我々は()()()()()()()で一度も勇者の存在を確認していない。勇者とは我々の先頭に立ち、魔人族を皆殺しにし絶滅させるべきお方だ」

「何を言っているんだ? 皆殺しだと?」

「これが勇者? 片腹痛い。妄言も体外にせよ。勇者の名を騙った異端者とし、処刑を帝国と王国、教会に進言すべきか。シュテル、書類を用意してくれ。それと民への情報の拡散を」

「はい、マスター」

「っ!? お待ちなさい! それは貴方が決める事ではありません!」

 

 ニコニコとしながら答えた大人姿のシュテルに慌てて偉そうなローブ姿の司祭であろう奴が声をあげて制止してくる。そんな事になったら色々と大変だからな。揉み消しもしないとならないし、本物か偽物かの審議をしなくてはいけなくなる。

 

「おや、そちらが決める事でもなかろう? それにこちらは命令を受けて魔人族との戦場に戦力を送る仕事をしている。上に報告すればそれ相応の対処はしてくれる」

「待て! 俺は名を騙っていない!」

「そうです! この方は正真正銘の勇者様です!」

「偽の勇者に偽の神官か。衛兵を呼んで捕らえろ。畏れ多くも教会に、何よりもエヒト様に泥を塗る愚か者だ」

「何故そうなるのですか!」

「決まっている。そもそもれっきとした神官ならば礼節を重んじてアポイントメントは必ず取るであろうし、この様に無理矢理押し入ってくる事など有り得ない。先も言った通り、我等が神の名に泥を塗る行為だ。そのような事を神官がする? 断じてありえん」

 

 ユーリがこちらを見ながらうわぁって顔をしているが、気にしない。青い顔をして冷汗をダラダラと流している神官達を見ると楽しくなってくる。何せ、こちらは正論であり、敬虔な神の信徒を貫いているだけだしな。それに帝国との繋がりをしっかりと伝える事も重要だ。

 

「何を言っている。この人達は間違いなく教会の人だ。俺が保証する!」

「お前が保証したところで偽物だという判断に代わりはない」

「お、お待ちなさい! この方のステータスプレートを見れば勇者様である事がわかります!」

「ふむ。確かにそうだな。では、まず勇者である事を証明してもらおう」

「いいだろう。これが俺のステータスプレートだ」

「では、受け取らせていただきます。マスター、どうぞ」

 

 シュテルを通して受け取ったそれを確認するとステータスがかなり高い。8000越えで色々と特殊能力を習得している。羨ましい限りだが、やばいスキルも取られている。

 

『取ったら駄目よ? 玩具にするのはいいけれど』

『殺さない限りは良いって事ですか?』

『むしろ、受難をどんどん与えてちょうだい。その方がより、私の王子様に近づくもの』

 

 脳内で愛歌と美遊の声が聞こえてくる。二人の会話からこちらの計画は順調に進んでいるようだ。だが、どう転ぶかはわからないが、仕返しはさせてもらう。

 

「確かに天職が勇者である事は確認した」

「そうか。では……」

「ああ、そうだな。エヒト様が間違えたなどあり得ぬ。ならばひよっこ勇者としては認めよう」

「ひよっこ勇者だと!? 俺はちゃんとした勇者だ!」

「なら魔人族を何人殺した?」

「そんな事をするはずがないだろう!」

「本当にこれが勇者か? まあいい。そちらが言っていた彼女達を解放するという話だが……」

「ああ、解放してくれ。これは勇者としての命令だ」

「なら、魔人族の首を百個、取ってこれば解放しよう」

「なっ!? ふざけるな!」

「ふざけてなどいない。我々が一人前と認めるのは十人以上の首級を上げた者だけだ。そして百人を超えて精鋭だと認められる。千人を超えれば英雄だ。精鋭や英雄の言葉であればこちらも考えるのは構わない」

「そんな酷い事ができるか!」

「では、無理だな」

「何故だ! 俺は勇者だぞ!」

「碌に魔人族の首を上げられない無能な勇者とこちらの命令通りに百人以上を殺してくる彼女達。どちらが戦争に使えるかは誰の目にも明らかだからだ」

「俺が無能だと!?」

「魔人族を滅ぼす事こそがエヒト様が我等に与えられた使命である。その使命を邪魔をするというなら、やはり貴様は偽物の勇者だ。いや、エヒト様が間違える事はないのだから、魔人族に操られたか」

「確か、神の使徒と名乗っていた人が裏切り、魔人族に寝返るために食料生産に重要な力を持つ人材を殺したらしいですよ」

 

 シュテルが報告をするという形で追撃を入れてくれる。彼女も凄くニコニコしている。

 

「俺は裏切った沙条や清水とは違う! イシュタルさんや皆を裏切る事はない!」

「ならば、その証明として魔人族の首を百以上持ってきていただこう」

「何故そうなる!」

「口でいくら言ったところで信じられないからだが?」

「俺を信じろ!」

「無理だな」

「いい加減になさい! エヒト様の御意思に逆らうつもりですか!」

「そうだそうだ!」

「ああ、そう言えばそちらも居たな」

 

 机から出すふりをして宝物庫から複数のナイフを取り出し、彼等の方へと投げる。それを受け取った彼等は不思議そうに首を傾げている。

 

「今すぐ自害しろ」

「「「なっ!?」」」

「貴様等はエヒト様の顔に泥を塗った。神敵として討滅するのではなく、慈悲を持って自害を許してやる」

「「「っ!?」」」

「な、何を言っているんだ! 彼等は間違った事などしていない!」

「いえ、間違ってはおりません。死んでお詫び申し上げます」

 

 神官の一人がナイフを取り出して実際に首を躊躇なく切り裂き、血を噴き出しながら倒れて動かなくなった。出て来た魂はしっかりと頂く。それを見た他の神官も自害する。残ったのは偉そうな奴と震えている取り巻きと天之河が止めた奴だけだ。

 

「何故だ! こんな事で何故死を選ぶんだ! まさかお前っ!」

 

 天之河は本当にわかっていないようだ。信徒が、それも狂信者が神の名に泥を塗ったのだから、これぐらいは当然である。例え最初の一人がさくらだとしてもな? 

 

「操ってはいない。彼等はお前に同調してやってはならない事をして罪を償っただけだ。この事を教会に報告すればどうせ死罪は免れぬ。拷問されて殺されるか、潔く自決して苦しみを無くすかの違いだけで死ぬ事にかわりはない」

「そんな事があるわけないだろう!」

「これが現実だ。勇者という存在は常に言動には気を付け行動せねばならない。良かったな。また一つ賢くなれたぞ」

「ふざけるな!」

「ふざけてなどいない。至って真面目だ。さて、そちらは自害しないようだし、神敵として手足を捥いだ後、磔にするか」

「そんな事はさせない!」

「言っておくが、ソイツ等とお前がやった事は魔人族に利する行為である利敵行為だ。裁かれて然るべき行いである」

「なにが利敵行為だと言うんだ! いい加減な事を言うな!」

「言っただろう。我々は魔人族との戦争の為に戦場へ戦力を送ると」

「それがどうした?」

「送る戦力はここで購入した奴隷だ。その戦力が届かなければ前線で戦っている優秀な者達がより多く殺され、前線が崩壊する。そうすれば待っているのは戦う力の無い無辜の民が蹂躙されるだけだ。王国とて前線を支えている帝国が落ちれば無事ではすまない」

「だったら俺が全てを救う!」

「なら、さっさと戦場に出るんだな。こちらはそちらが百人以上の首を取れば彼女達を解放してもいいと言っている」

「今すぐ解放するんだ!」

「話にならんな」

 

 シュテルに視線をやると、偉そうな神官の奴を殴り倒して縛っていく。ヘイゼルもいつの間にか移動して同じようにしていく。

 

「待て! 何をしているんだ!」

「この件とそちらの件は別だ。信徒と教会の問題である。そちらは口出し無用で願おうか。コイツ等は異端審問にかける」

「待ってくれ! 私は司祭だぞ! こんな事をしていいと思っているのか!」

「司祭? それならば何人の魔人族を殺してきた? まさか、司祭ともあろう者がエヒト様より与えられた至上命題である魔人族の殲滅を行っていないなどありえないよな?」

「わ、私は後方での重要な仕事があってだな?」

「ほう? 重要な仕事? それはエヒト様より与えられた神託より優先されると? 馬鹿も休み休み言え! 司祭ほどの者が戦場に出ずして何が信徒か! 手足を失うような怪我をして後方に下がるのならまだわかる。だが、貴様等の手足はついてるよな? なら、何故後方に居る? それにこのブクブクと太った腹はなんだ? エヒト様の教えをなんと心得る!」

 

 絶望の表情をした奴等の一部が舌を噛んで死んだ。ああ、これって結構楽しいな。教義をついて殺しにかかるのはなんという愉悦か。

 

「止めろ! 止めるんだ!」

「イ・ヤ・ダ・ね!」

「この悪魔めっ!」

「おいおい、この敬虔なる我が神の信徒である私を悪魔だと? ぶち殺すぞ!」

 

 我が神=エヒトだとは言っていない。俺の神様はユーリやキングプロテア達だ。故に嘘は言っていない。

 

「させない! 決闘だ! 彼女達と彼等を賭けて勝負しろ!」

「だが、断る」

 

 自分の提案が断られるとは思っていないので、多分用法はあっていると思われる。不思議がっている天之河だが、こちらとしては受け入れる気はない。

 

「なんだと? 貴様、それでも男か」

「女ですが何か?」

 

 縛ってある髪の毛を解いてフワフワのウェーブがかかったロングヘアーを解放する。こうなるとどう見ても女にしか見えない。俺がそう言った瞬間、天之河は唖然として他の皆は噴き出した。

 

『あはははははは、良いわ、それ良いわね!』

『ご主人様、酷い……ふふふっ、はぁーっ、はぁーっ』

「おいおい、何時から俺が男だと錯覚していた? 誰も言っていないんだがな?」

 

 ユーリとキングプロテアを降ろして立ち上がる。すると机の下から詩乃の笑い声も聞こえてくる。かなり震えを我慢しているみたいた。

 

「さて、決闘だったな。こちらが受けるメリットが一切ない。故に断る。互いの利益を提示しそれに見合える者であれば決闘は受けても構わん。だが、こちらばかりに不利になるその提案では交渉すらできないな。何せこちらが勝った時のメリットが表示されていない」

「俺は負けん! だから必要ない! それに君の考えは間違っている! 俺が勇者として正しい道に導いて見せる!」

「そ、そうです! 勇者様からの提案を蹴るなど言語道断! 異端者認定をされますぞ!」

「後方に籠ってるだけの似非信徒共が、事も有ろうに忠実なる信徒である我等を異端者認定だと? よろしい。ならば戦争だ。前線に送る戦力と本国の戦力を持って異端者である貴様等を殲滅してくれる! 教会の総本山が異端者共に占拠されたとなれば致し方あるまい!」

「「「何故そうなる!」」」

「全ては我等が神の御心を叶えるためであるからだ! 多少の犠牲は致し方あるまい!」

 

 キングプロテアもお腹が空いているだろうから、たらふく食わしてやるよ。シュテル達は凄くワクワクしている。というか、シュテルは何かしでかす準備をしだしている。命令一つで何時でも王都を殲滅する気だ。

 

「おに……お姉ちゃんも皆も駄目です。めっ!」

「……ちっ、ユーリに叱られたら仕方がないな。そちらも魔人族に利する行いは本意ではあるまい?」

「……それは……」

「言っておくが、そちらがやるならこちらもやるぞ。一切の容赦なく灰燼に帰す」

「こちらには勇者様が居ますが?」

「それがどうした? この程度の実力ならどうとでもなる」

「なら、俺の力をとくと見せてやる。決闘だ!」

「見せられる必要もない。そもそも互いに賭ける者が釣り合っていないのだからな。何か良いのはないか?」

「ございます。八重樫雫。マスターが勝てば彼女を奴隷として頂きましょう」

「ふざけるな! 雫を奴隷になんかにするはずがないだろう!」

「ふざけてはないない。彼女はそれほどの価値があるのか?」

「ございます。皇帝陛下が彼女を妾として欲しておられました」

「ふむ。それならば規定数に満たなくても咎めを受ける事はあるまい。しかし、やはり一人ではお前達と釣り合わないな」

「でしたら、女性陣、全員を頂きましょう」

「それならばまあ、数合わせにはなるか。この条件ならば受けてやろう」

「こんな事が認められるはずがないだろう!」

「そちらが言っている事と同じだ。決闘を受けて欲しければそうするのだな。何、勝てばいいのだ、勝てば。私は勝つつもりだぞ? そちらもそうなのだろう?」

「当然だ!」

「なら何の問題もないな」

「それは……だが……」

「断るのならばこの話は無しだ。俺はそもそも彼女達を解放するつもりは一切ない。便利な手駒なのだから、最後まできっちりと使わせてもらう」

「彼女達をは手駒じゃない! そんな考えは止めるんだ!」

「なら、決闘でわからせてみせろ。どちらもスリルがあって面白いだろう?」

「いいだろう! その決闘、受けてやる!」

「では、契約書を交わしましょう」

 

 シュテルが商談に使うガチの契約書を持ってきた。反故させないための奴だ。そこに天之河と俺の名前を書く。俺の名前の方はしっかりと本名を書いてから偽装しておく。これで問題はない。二枚用意して、見届け人として司祭の男の役職と名前を書かせて教会が正式に認めた決闘とする。愚かな愚かな天之河。お前はこの契約書が勝っても負けてもお前を追い詰める事などわかっていないのだろう。そして、何より……俺は負けたとしてもデメリットなど存在しないのだ。だってそうだろう? 彼女達を解放する? そもそもキングプロテア以外は解放したいぐらいだからなぁっ! 

 優花は解放したら速攻で檜山を殺しに行きそうだが、そこは勇者様がどうにかしてくれるだろう。キングプロテアは解放したら周りを際限なく飲み込んでいくだろうが、そこも勇者様がどうにかしてくれるだろう。期待しているぞ? 

 

 

 

 

 


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