「は? 今、なんて言ったの?」
光輝の言葉に思わず聞き替えたした。それほど私達を集めた光輝が言った言葉は有り得ない内容だった。
「だから、マーナ・ラインと決闘をする事になった。だが、安心してくれ! 俺は必ず勝つ!」
「決闘も問題だけどそっちじゃないわよ!」
「雫、落ち着くんだ。確かに君達を賭けに使った事は悪いと思っている。だが、今も苦しみながら助けを待っている人達がいるんだ! だからこそなんとしても彼女達を助けなければいけない!」
「詳しくご説明いたしますね」
光輝に続いた司祭様が説明してくれたけれど、先程と内容は変わっていない。マーナ・ライン……つまり、沙条君と戦うという事。こればかりは光輝だから仕方がないのかもしれない。確かに奴隷を連れているのはどうかと私も思う。でも──
「それって負けたら私達が奴隷になるって事じゃない! 絶対に嫌よっ!」
「……そんなの……いやぁ……」
──負けたら私達が奴隷にされるとなると話はかわってくる。想像しただけで鳥肌が立ってくる。相手は沙条君だから、そこまで酷い事にならないかもしれないけれど怖い物は怖いし、嫌だ。
治癒術師の辻綾子は両手で身体を抱きしめて震えている。そんな彼女を付与術師の吉野真央が抱きしめながら反論していく。他にも抱き合ったり、蹲ったりしている子達もいる。
「だが、彼女達を救う為には仕方がなかったんだ……すまない。だが、安心してくれ! 先も言った通り、俺は負けない! 必ず勝つ!」
光輝はそう言うけれど、勝てる可能性は正直わからない。確かに迷宮での一件から光輝は凄く強くなったみたい。でも、あの滅びの光ともいえる攻撃を放った沙条君に確実に勝てるって言えるの?
「天之河。何故、俺達に……いや、百歩譲って俺達はいい。だが、賭けの対象にされた彼女達に相談もなく何故決めた! せめて彼女達の了承を取るべきだろう!」
「彼女達は助けを求めていたんだぞ! 助けられる力と手段があるんだ! だったら助けるべきだろう!」
「そういう話じゃない!」
永山君が光輝と言い合っている中、龍之介と野村君は黙って見守っている。遠藤君はオロオロしているし、檜山君達は私達を心配そうに見てくる。でも、視線が私達の身体をいったりきたりしていやらしい感じもする。
「それに恵里や鈴、彼女達を助けた後は南雲に連れていかれた香織を助けないといけない! そのためにも俺は必ず勝つ! 勝てば問題ない! 俺が必ず守る!」
「お前っ! 守れてないだろうがっ!」
「なんだと!」
「落ち着けよ! そこまで酷い事にならないって!」
「酷い事にならないってどういう事よ遠藤! 他人事だからって言っていい事と悪い事があるわよ!」
「……ひどいです……」
「違うって! だって、アイツは……いや、実際に本人達が居るんだから、谷口や中村に聞けばいいだろ?」
「あ~確かにそうだな」
「その方がいいだろう」
遠藤君の言葉に野村君や龍之介が納得して、壁際の席でわれ関せずと言った感じでもきゅもきゅと用意されたお菓子を食べている鈴とその鈴に後ろから抱き着いて色々と世話をしている恵里を見る。二人は百合百合しい感じすら漂わせているので、あえて無視していたところもある。
「ん? 僕達の事はお構いなく。君達がどうなろうと、僕達の知ったことじゃないしね」
「恵里! なんてことを言うんだ! 皆は君を救うためにその身を危険に曝してくれているんだぞ!」
「別に救ってくれなんて頼んでないしね。ねえ、鈴」
「うん! 鈴はまなまなやえりえり達と過ごすの楽しいもん! それにエッチな事もいっぱいして気持ち良くしてくれるしね! はやく子供が欲しいなぁ~」
「「「っ!?」」」
鈴の言葉に全員が呆然としてから鈴を見て想像して顔を赤らめる。鈴の方は気にせずにお菓子を食べながら、南雲君が連れていたミュウという子やユーリ達の可愛さについて語り合ったりしている。二人は本当になんとも思っていないみたい。
「何を言っているんだ! そんな事認められる訳ないだろう!」
「別にお前の許可なんて必要ないんだよ。両親の許可もここじゃ要らないしね」
「え~鈴は要ると思うよ? 流石に子供の事になるとお母さん達に相談しないと……」
「平気平気。日本じゃ育てるのは大変だろうけれど、こっちならそれこそ奴隷に世話させてもいいわけだしね」
「そっか! えりえり頭良いね! 確かに一人じゃ大変だけど、いっぱい子供を産んだ人達が居るから平気かも! あ、でも出産の時の死亡率とか大丈夫だっけ?」
「その辺は鈴の結界と回復魔法を使えばいいよ。それこそだ……ご主人様の物を使えばいくらでも治療できるから平気だよ」
「じゃあ、問題ないね!」
二人の言葉に光輝が反論しているけれど、二人は一切気にしていない。二人にとって今、話している事は当然の未来として確定している事なんでしょう。でも、そこに私達も入る事になるのは嫌だ。ここはしっかりとお願いして、契約を無かった事にしてもいましょう。私達は同意していないのだから、まだなんとかなるはず。
「というか、彼女は女性じゃないのか?」
「え? 女性じゃないよ。ちゃんとした男性だよ~?」
「なんだと!? 彼女自身がそう言っていたんだぞ!」
「あははは、女の子達を賭けた決闘を受けさせられたんだね!」
「ま、まさか騙されたのか?」
「ころころされたんだね~」
「くそっ!」
光輝が項垂れている間に二人に近付いてお願いしてみる。
「ねえ、お願い。二人からこの決闘をなかった事にしてもらうよう説得できない?」
「やだ」
「うん。面倒だね」
即座に断ってきた鈴と恵里に全員の視線が突き刺さるけれど一切気にしていない。
「前の事を怒っているなら謝ったじゃない! それにお詫びとしてお菓子もいっぱい用意したから……お願い! 奴隷になんてなりたくないの!」
「ん~どうする?」
「ごめんね、まおまお。鈴達は嫌われたくないから止められないよ~」
「まあ、皆とご主人様なら、ご主人様の方を取るよね」
「うん! それに奴隷って言ってもたいした事ないよ。ちょっと女の子としての尊厳がなくなるくらいで、死ぬわけでもないしね!」
「な、なにを言っているんですか……? それって重大な事ですよ?」
「ん~? あやあやはわかってないんだね。手足を斬り落とされたり、食べられたりするよりも人前で身体を使ってご奉仕する方が何倍もいいよ?」
「排泄も含めて何から何まで管理されちゃうけど、自由に生きて動けるっていいよね」
「うん! ちゃんと治って良かったよ~」
二人の言葉で彼女達が私達と別れてから何があったのか、おぼろげながら見えてきた。二人は一度手足を失った事がある。だから、身体を捧げる程度は構わないと思っているの……?
「それは間違っている! 二人は囚われているだけだ!」
「そうかもね~」
「ふふ、確かに囚われてるかも。まあ、戦ってみたらいいんじゃない? 勝てるかはわからないけどね」
「皆が奴隷になったら鈴は歓迎するよ~」
「それはない。何故なら俺が勝つからだ」
光輝は揺るがない。それがまだ助かるけれど、今回の事態を引き起こしたのは光輝自身。本当にこれからどうなるかわからない。
「うぅ……これから私達、どうなるの?」
「奴隷になるのは……嫌だけど、確かに死ぬよりは……愛ちゃん先生達も死んじゃったし……」
「どうしたらいいの?」
「大丈夫だ。助っ人を連れてきた」
悩んでいたら扉が開いてメルド団長が入ってきた。メルド団長はすぐに横にずれて入口を開ける。するとそこから金髪碧眼の綺麗な少女と少年、それにお爺さんが入ってきた。
「リリアーナとランデル殿下にイシュタルさんまで」
「一体どうしてここに?」
「今回の話を聞いて急ぎ早馬で王都に戻り、姫様と殿下、猊下をお連れした」
「はい。詳しい事は聞いております。この度は我が教会の者がとんだご迷惑をおかけしました」
「いえ、悪いのはマーナ・ラインです。イシュタルさん達は悪くありません。それよりも、彼女のせいで何人も自殺させてしまった事が悔やまれます」
イシュタルさんが頭を下げてくる。すぐに光輝が悪いのは沙条君だと言っていく。確かに沙条君が自殺するように誘導したのは悪いとは思う。
「あの、それで私達は助かるんですか?」
「契約を無効にする方法ってあったり……」
「ああ、それなんだが……姫様」
「はい。こちらの契約書を読む限りでは全て本物ですから、
「それじゃあ……」
「いえ、だからこそ、無効にできます」
「なるほど。この契約を交わしたのはあくまでも天之河であり、彼女達ではないという事ですか?」
「そうです」
「どういうこと?」
「もしかして、私達は勝手に契約されたから魔法も効果を発揮しない?」
「そうなります。この契約書では勇者様の僕や奴隷など所有物であれば確かに効果を発揮します。ですが、皆様は違いますよね?」
リリアーナの言葉に私と真央、綾香達、女性陣は頷く。光輝もしっかりと頷いている。
「彼女達は俺の所有物なんかじゃない。仲間だ!」
「その仲間を売ろうとしたんだがな……」
「なんだ?」
「なんでもない。それで無効にできるって事でいいですか?」
「はい。この契約内容であれば対象になる雫さん、綾香さん、真央さんや皆さんが認めなければ効果を発揮する事はできません」
永山君の質問にリリアーナがしっかりと答えてくれた。これでほっとして胸を撫でおろす。
「ですが、問題もあります」
「えっと、どういう事ですかイシュタルさん」
「この契約では勇者様が負けた場合、教会として正式に認めることになります。この件に関しては我々教会は口出しできないのです。相手が異端者であるならば別ですが、敬虔なる信徒であれば破棄するような事はできません」
「それじゃあ、無理矢理認めさせるように動けるって事?」
「誘拐とかの可能性があるのか」
「そうなります。でも、安心してください。王国としてしっかりと皆さんの後ろ盾になって守ります。それになんとしても皆さんはお守りします。ですから安心なさってください」
リリアーナさんの言葉によれば、教会の庇護は受けられないけれど、王国の庇護は受けられるって事よね。だったら、大丈夫よね?
そう思って恵里の方を見ると、彼女はニヤニヤと笑っていた。鈴の方は気にせずお菓子を頬張っている。なんだか、嫌な予感がする。それでもどうしようもないので私達は別れて眠りについた。
◇◇◇
数日が経った。私達は宿場町のホルアドから外に出て少し行った所にある荒野へとやってきていた。沙条君達が町中での決闘を拒否し、いくら破壊しても問題無い外での戦いを望んだからだ。被害が出た場合は決闘を挑んできた光輝が全ての責任を負うのであれば街中でも構わないと言った。それに対して光輝は街中でも問題ないと言ったのだけれど、リリアーナが外でするように強制的に決めて、両者はそれを飲んだ。
「この辺りでいいだろう!」
「まあ、いいだろう」
荒野で向かい合う二人。そこから離れた場所に私達は居る。ユーリちゃん達もこちらに居て、何処から取り出したのかパラソル付きのテーブルまで設置していた。
「ユーリ、お茶が入りました」
「ありがとうございます。シュテルも一緒に見学しましょう」
「ええ、もちろんです」
「お菓子も作ってきた」
「わ~い!」
「僕はサンドイッチを用意してきたよ」
恵里や首輪をつけたヘイゼルさん……優花も一緒に居て、更にユーリちゃん以外にも小さい子までいる。彼女達は決闘を見るというより、ピクニックをしにきたと言った感じだ。
「あの、ユーリ。お久しぶりです」
「えっと、確かランデル殿下でしたね。お久しぶりです」
「覚えてくれていたのですね!」
「はい。
「それは良かったです」
ニコニコと話す幼い金髪碧眼の美少年と金髪金眼の美少女。話している姿は絵になるけれど、互いの感情は違うように思えてしまう。
「では、決闘の前に条件を確認致します」
「「ああ」」
互いに条件を交わしていく。光輝は沙条君に奴隷の子達の解放を要求する。
「そちらの条件は奴隷の解放だな」
「ああ、そうだ!」
「こちらの条件は女性陣を奴隷として引き渡してもらう事だ」
「いいだろう。俺が負けたら好きにするといい」
「では、両者同意できたのでエヒト様の名の下に決闘を執り行う」
イシュタルさんの声と共に光輝が聖剣を構える。たいして沙条君は虚空から機械仕掛けの大剣のような槍を取り出した。明らかに普通の武器じゃない。
「その武器はどうした?」
「ユーリの手製だ。かかってくるがいい」
大槍を片手で持ちながら回転させている。互いの準備ができたのか、それを確認したイシュタルさんが離れてから声をあげる。
「始めっ!」
「行くぞっ!」
「来い」
光輝が私が目でなんとか終える速度で踏み込み、高速で斬りかかる。それに沙条君は反応できておらず、あっさりと聖剣が大槍に命中する。巻き上げるようにしたのか、大槍が空へと飛んでいく。
「その程度か? 降参しろ」
光輝が聖剣を首筋に添える。
「なあ、普通に天之河の方が強くないか?」
「確かに……」
「これなら心配はいらなかった?」
「ユーリさん、どうですか? これであなたは……」
そう思ったけれど、ユーリちゃん達は気にもしていない。
「お兄ちゃん頑張って!」
「やっちゃえ~!」
「ふれーふれー」
沙条君は笑いながら聖剣を──
「は?」
「え?」
「ちょっ!?」
──素手で掴んだ。
「嘘、怪我してない?」
「お兄ちゃんの防御力は最強なのです!」
エッヘンと胸を張るユーリちゃん。可愛くてほっこりする。って、違う。そうじゃない。聖剣を持った光輝が更に力を入れていくけれど、びくともしない。そこで沙条君が空いている片手を光輝の顔に向ける。
「くそっ、離せっ! 光翼天翔!」
沙条君はそのまま光輝の顔を掴もうとするけれど、その前に光輝が近距離から攻撃技を放つ。盛大に光の爆発が起きて視界が一瞬、塞がれる。視界が戻ると、そこには相変わらず聖剣を持ったままの沙条君が居て、光輝は少し離れた場所に移動していた。
「ちっ、あのまま居たら面白い事になったのに……」
「ねえねえ、何をしようとうしたの?」
「気になります」
「説明しますと、私の技を使おうとしたんです。でも、逃げられちゃいましたね」
恵里と鈴、紫髪の女の子の言葉にユーリちゃんが答える。光輝は光の魔力を無数の剣に変えて放つ。けれどもそれも全て無数の赤色の菱形で構成されたバリアみたいな物によって防がれる。
「あれって鈴より凄い防御だよね~?」
「当然です! お兄ちゃんには私の防御力に加えて古代ベルカの聖王の鎧も参考にして徹底的にあげました。生半可な攻撃じゃ傷つける事は無理です!」
「痛いのは嫌だもんね」
「はい。痛いのは嫌だと思うので防御力に極ぶりにしました!」
「魔力もふってるから二極じゃない?」
「そうでした」
沙条君は笑いながら両手を広げ、無数の魔法弾を生み出していく。その数73個。どれも上級魔法並みの魔力が込められているように感じる。
「パイロシューター、シュート」
「あ、私の技ですね」
光輝は魔弾を避けるけれど地面に着弾した瞬間、半径10メートルくらいを飲み込む火炎へと変化し、周りを灼熱の業火で焼き払っていく。それが73発。
「上級魔法か!」
「これは上級魔法ではない。ただの初球魔法だ」
「
即座に剣身の長い光の剣を生み出して、信じられないような卓越した剣技で魔弾を斬り裂き、誘爆させながら突撃していく。それに対して沙条君は聖剣を虚空に仕舞いこんで新しい大槍を取り出して上段に構えた。
「砕け散れ! 雷神滅殺! 極光斬!」
「万象切り裂く光、吹き荒ぶ断絶の風、舞い散る百合の如く渦巻き、光嵐となりて敵を刻め、天翔裂破!」
青色の雷によって作られた数百メートルを超える巨大な剣が振り下ろされる。それを光輝も限界突破を重ねながら対抗として無数の光の剣を生み出す。どちらも馬鹿みたいな爆発が起こり、こちらへと被害が広がってくる。
「鈴にお任せ☆ Rei shen shou jing rei zizzl」
鈴の前に大きな鏡で出来た扇みたいなのが現れ、それを鈴が取って前に向けると巨大な結界が展開され、二人が攻撃し合って発生した余波が綺麗に無効化される。鈴も沙条君も光輝も次元が違ってしまっている。それを見て私は……自分がいったい今まで何をしていたのかわからなくなった。技術が無い沙条君でもこんな戦いができるのだから、私が鍛えてきた技術は無駄だったの?
本人達が同意してないので、契約魔法は履行されません。だって、別に天之河の物でもないですしね。もちろん、それも想定済みで動いてますが。
天之河 現在ステータス72000
沙条(聖餐杯・美遊) HP500,000 MP10,000,000 VIT200,000 DEF7,000,000 それ以外0から10 スキル補正有り。
貫通攻撃がないと話になりません。ラスボスの身体を魔改造して使ってるから仕方がないね。聖餐杯は砕けない!
ぽっけにないないされた聖剣ちゃん「助けて!」