谷口鈴
ストレージデバイスとかいうのを貰える事になったけれど、鈴は眠さが限界なので沙条君達に抱き着いて上目遣いでおねだりする。普通にやっても三時間しか許してくれない。
「お願い。鈴、もう寝たいの……いいよね? 今日はもう、お願い……」
もう限界だからお願いしたけれど、こんなことやりたくない。それにまともにお風呂にも入れていないし、汗とか埃とか鉄とかの臭いが酷いし。
「鈴ちゃん、本当に限界なんだね。私も他の皆より仮眠を取っているから大分ましだけど……」
かおりんはちゃんと寝ているからね。ずるいと思う。鈴しかできないから仕方がないけれど。
「確かに明日の事を考えたら休んだ方がいいかも」
「明日はオルクス大迷宮だから、休まないといけないか。いいだろう。ただし、夜には一度集まるぞ。ユーリが作ってくれたストレージデバイスの設定とかしないといけないはずだからな。だよな?」
「はい。要望を聞いて作りますが、最終調整は実際に使ってしないといけません」
「南雲君達はどうするの?」
「俺は残る。ユーリを一人にはできないしな。ハジメは……」
「僕も残るよ。ベルトコンベアとかも作らないといけないし、素材の加工は錬成師の僕にしかできない」
「じゃあ、私も……」
「いや、白崎さんは休んで」
「でも……」
とりあえず、許可は貰えたので鈴は先に出る事にする。
「鈴は先に行くよ~寝たい」
「谷口、ちょっと待て。これをやるよ」
沙条君からラング・ド・シャとシガールとういうクッキーのお菓子を貰えた。試しに箱を開けて一つ、シガールを口に入れるととても甘くて美味しい。夢中でカリカリと食べていく。効果は特にないけど普通に美味しいお菓子。
「リスみたいだな」
「にゃにを~」
「鈴ちゃん、寝る前にお風呂に行かないと駄目だよ」
「かおりんも一緒に行く? 臭うよ?」
「……行く……」
かおりんの口にもシガールを入れて、他は箱に仕舞う。
「風呂にいくならこれも持っていけ」
アロマキャンドルと入浴剤を渡してもらえた。確か、アロマキャンドル。疲労回復の効果があったはず。入浴剤はお肌がツルツルのスベスベになるらしいので、とても、凄く凄く嬉しい。寝不足で肌の手入れとか全然できてないもん。
「鈴ちゃん、今すぐお風呂に行くよ。さあ、早く」
「うん。れっつごー」
「あ、やっぱりちょっと待ってくれ」
「え? 嫌だよ? どうしてそんな酷い事を言うの?」
「いや、ユーリも連れていって欲しいと……」
「私は後でいいですよ。今はストレージデバイスを完成させる事が優先です。ですから、お先にどうぞ」
「だって」
「わかった。悪かったな、引き留めてしまって」
「ううん、いいよ。それじゃあ~」
「また後でくるね」
二人で部屋から出て歩く。
「鈴ちゃん、荷物を持ってあげるよ」
「ありがとう~お願い~」
普段なら普通に自分で持つけれど、今は寝不足と疲労でふらふらしているのでちょっと大変だから任せる。
「あ、二人共、やっとでて……」
「顔色悪いけれど、大丈夫? それに……」
「うう、言わないで……」
「あはは……」
しずしずと恵里の二人が廊下の先から来た。近付かれると流石に臭いと体調の事がばれちゃった。こうなる前に早く入りたかったけれど、仕方がないね。
「今からお風呂行って寝るの」
「私もお風呂に行こうかなって」
「もう終わったの?」
「バッテリーは多分、終わったよ。鈴はよくわからないけれど、後は自動で作ってくれるみたい」
「自動って……」
「じゃあ、もうこれから自由なの?」
「夜にまた集まりますね。ご褒美に何かの道具を作ってくれるらしいです」
「楽しみ~」
「そうなのね。ところでそれは?」
「これは鈴の努力と苦労の結晶だよ。二人にもあげるね~」
二人の口にもシガールを入れて、かおりんにももう一本あげて鈴も食べる。口に程よい甘さを感じながら、部屋へと移動する。
「私達は訓練だから、ここまでね」
「うん、またね」
「また~」
「ばいばい」
恵里としずしずの二人と別れて部屋へと到着。着替えを取ってからお風呂に向かう。お城だけど、流石にずっと風呂を焚きっぱなしにはされていない。だから、風呂の湯船にメイドさんが火属性魔法と洗浄の魔法を放って温めてくれる。そのお礼にラング・ド・シャの方を三枚あげた。お菓子の箱とアロマキャンドルを着替えの上に置いておく。入浴剤は持って入る。
「さあ、入ってねよ~」
「その前に身体を洗わないと駄目だよ、鈴」
「う~かおりんが洗って~」
「もう、仕方ないな~」
「えへへ~」
疲れて動きたくないから、かおりんにおねだりしたら、洗ってくれる事になった。どこから召喚された柔らかいタオルで身体を洗ってもらおう。流石に大事な所は自分で洗うけれど。お返しに背中を洗ってあげる元気もない。
「あれ、シャンプーとリンスが……」
「え?」
「無くなってるみたい」
「嘘……」
「みんな使ってたから仕方ないよ」
「うみゅ~残念……新しいの貰いに行くのもしんどいし、諦めよう~」
「そうだね。普通の石鹸はあるしそれで代用だね」
「髪の毛がゴワゴワするから嫌なんだけどね~」
「……鈴ちゃん、私達には切り札があるよ」
「ふぇ?」
「入浴剤。頭からお湯の中に浸かればつるつるのスベスベに……」
「それだ! かおりん天才!」
「それほどでもありません。と言いたいけれど、本物を見ちゃうとね……」
「あれはやばいよね~可愛いけど」
かおりんと話しながら肌や髪の毛がゴワゴワする石鹸で汚れを洗い落し、入浴剤を入れる。するとお湯が光り輝き、エメラルドグリーンに変化した。木々の良い香りが立ち込めてまるで檜風呂のような感じがする。
「投影型ディスプレイで自然を映して森の中みたいにしたいね~」
「それは贅沢だよ」
二人で髪の毛を結ばずに入り、本当に肌がスベスベになるか確かめる。するとあら不思議。一瞬で身体の老廃物が浄化されるような感じがして肌がみるみるうちにつるつるのスベスベになっちゃった。
「鈴ちゃん」
「かおりん」
二人で頷いた後、一斉に目を瞑って潜る。一分ぐらい頑張って息を止め、外に出ると髪の毛や顔を含めたお肌がツルツルのスベスベになった。それに肌はモチモチと柔らかくもなっている気がする。これは元からかもしれない。
「気持ちいいね~」
「そうだね~」
「眠りそうだね~」
「駄目だよ~」
「ん~」
「寝たら沙条君を呼んで運んでもらうよ」
「それはやだ」
仲良くはなったけれど、お肌を見せるほどにはなっていないよ。でも、胃袋は握られてるんだよね。そして、一緒になったら可愛いユーリちゃんからお姉ちゃん呼び……やっぱり駄目。考えたら坩堝に陥りそう。鈴は安い女じゃないんだから。
それにユーリちゃんがどう行動するかもわからないし、正直かおりんの話を聞いた限り、怖いんだよね。沙条君を取られた事で暴走でもされたら……鈴は瞬殺されちゃう!
「それよりもかおりんは南雲君とどうなったの?」
「う~ん、微妙かな。アプローチはしているんだけど……」
二人で湯船に身体を横たえながら会話していく。お行儀が悪いけれど、ここには鈴とかおりんだけだしね。それに全身に染み込ませたいから。
「南雲君、自己評価が低いからね。それに天之河君の事を面倒だと思ってるし」
「光煇君に悪気はないんだけどね……」
「まあ、手っ取り早く告白すればいいと思うんだけどね。手遅れになっちゃうかもしれないよ?」
「え?」
「だって、制作活動している時の南雲君ってカッコイイし」
「まさか鈴ちゃん!」
「鈴はかおりんの味方だよ! だからそんな怖い顔をしないで!」
なんかかおりんの後ろに般若の仮面を被った蛇が幻視できちゃう気がするよ!
「本当に?」
「神様に誓って!」
「……この世界、神様がいるんだよね……」
「嘘だったら神様殺しちゃう!」
「なら、信じてあげる」
「ほっ」
安心したら少しお腹が空いてきた。そういえばもう朝食の時間を過ぎているんだよね。うん、お腹が空くわけだね。お菓子でも食べて空腹を紛らわせて寝よう。
「そういえば鈴ちゃん」
「どうしたの? 何か凄く嫌な予感がするんだけど……」
かおりんが鈴を見る目がまるで養豚場に送られる豚さんのように……まあ、見た事もないから知らないけど。
「鈴ちゃん、トータスへ来てから全体的にふくよかになった?」
「え? まさか、そんなはずは……」
「沙条君からいっぱいお菓子貰って食べてるよね」
「いや、でも作業で頑張っているし、向こうでもあれぐらい食べてたし……」
「沙条君が出したお菓子とかの甘味って美味しいよね?」
「うん、美味しい」
「特殊な効果もあるよね?」
「あるね」
「南雲君や沙条君が鑑定してくれた結果、忘れた?」
「え?」
「カロリーはお察しとか、高カロリーとか、これさえ食べたら他はいらないとか……」
「あっ、あぁぁぁぁぁぁっ!」
考えないように、考えないようにしていたのに!
「現実を見よう。鈴ちゃん……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
試しにお腹を触ってみると摘まめた。これはやばい、やばすぎる。ダイエットしなきゃ! でも、お菓子がないこれからの生活なんて考えられない! 人は上の生活を一度経験したら生活水準を下げるのは大変なんだよ! 鈴達は経験したから理解しているの!
「ダイエットはする。でも、お菓子は食べる」
「釣り合わないと思うよ?」
「くっ、捻り出せ鈴の灰色脳細胞!」
お湯に沈みながら考える。何かないか、何かないか……
「あっ! 閃いたよかおりん! いくら食べても太らない方法!」
「え、そんな方法があるの?」
「うん! 鈴は結界師だよ! だから、胃に結界を張って味を堪能したら全部圧縮して出せばいいんだよ! そうすれば栄養素が吸収されないから太る事もないしね! 効果は受けられないかもしれないけれど、太るよりはましだから!」
「……鈴ちゃん……そこまでするの……?」
「する! これでダイエットしながらお菓子を食べられる~」
「遅すぎたのかも……?」
お風呂を堪能してからうきうきしつつ外に出る。脱衣所でふかふかのバスタオルで身体を拭いてから用意していた着替えを着ていく。そこでふと違和感に気付いた。まあ、気のせいだと思ってお菓子の缶に手をやって開け、口に入れるためにシガールを取ろうとして──
「あれ?」
──空を切った。掴むはずの物を掴めず、不思議がって探す。
「あはは、シガールを食べ過ぎたかな? でもラング・ド・シャは少ししかあげてないから絶対にあるはず──」
そう思って引き寄せた缶の中身は何も無かった。
「鈴ちゃん?」
「おかしい、おかしいよかおりん。鈴のね、お菓子さんが消えちゃった……」
「え? まだ貰ったばかりでいっぱいあったよね?」
「うん。いっぱいあったよ。あげた枚数を考えても半分以上あったのに……」
「盗まれたの? でも、そんな事をするなんて……」
「かおりん。直に探すよ。鈴のお菓子を奪うなんて許さないんだから!」
「まあ、あれだけ苦労して手に入れているんだもんね」
「30分仮眠してから、休みなく六時間結界を張り続けた対価なんだから当然だよ!」
いくら明るくて優しい鈴でも怒る時は怒るんだからね! 犯人は絶対に許さないんだから!
「あ、ちゃんと着替えてから出ないと駄目だよ」
「そうだった。急ぐよかおりん!」
「うん」
急いで着替えを終わらせて髪の毛を濡らしたままでも気にせず外に出て、犯人を捜す。
◇
犯人達はすぐに見つかった。何故なら堂々と訓練所でクラスメイトの皆が食べていたからだ。それぞれビニールの袋に包装されているから、確実に鈴の物だ。沙条君が鈴達以外に渡すはずがない。鈴に対する報酬としてキープしているのはわかっている。だって、出た時に鈴が一番欲しいのを選ばせて、それ以外を報酬として渡してくる鬼畜野郎だからね! 本当に駄目だと思った時に渡してくれるけれど、鈴はニンジンをぶら下げられたお馬さんの気分だよ!
「それ鈴のお菓子だよね! なんで皆が勝手に食べているの!」
「え? そうなのか?」
「これって中村と八重樫が持ってきたよな?」
「そのはずだ」
「どういう事! まさか盗んだの!」
「谷口! クラスメイトになんて事を言うんだ!」
「待って鈴ちゃん! ちゃんと理由を聞こう? ね?」
「うぎぎ」
かおりんに抱き着かれて頭を胸に埋められ、柔らかくて少し落ち着いてきた。
「それで雫ちゃん、恵里ちゃん、どういう事?」
「えっと、私達は二人と別れてからメイドさんに渡されたの。皆で食べるようにって……」
「確か、鈴からだと言われたよ?」
「鈴、そんな事言ってないし渡してないもん!」
「じゃあ、そのメイドが犯人じゃないのか?」
そう言われてすぐにそのメイドを探すように言う。一番怪しいのは鈴があげたメイドさん。
「一緒に来て!」
二人の手を掴んでメイドを探しに行こうとすると、天之河君が鈴の前に立った。
「なに?」
「今は休憩時間とはいえ、すぐに訓練の時間だ。それにそのメイドさんだって俺達を労うために渡してくれたんだろう。だから、許してあげよう」
「ふざけないで! あれは鈴が、鈴が頑張って、頑張って頑張って何度も限界を超えて手に入れた報酬なんだから、鈴のお菓子なの!」
「谷口もクラスの一員じゃないか。それなら皆のために提供するのは当然だろう?」
「ちょっと光煇君?」
「待って、それは……」
「黙っていてくれ香織、雫。俺は勇者として間違った道を進もうとする谷口を導かないといけない」
「ちょっと待って? 別に鈴はおかしなことを言ってないよ? 皆に鈴が鈴の意思であげて、それを食べるのは全然いいんだよ?」
「それなら同じ事だし、別にいいだろう?」
「全然違う! 」
「谷口が渡すか、メイドさんが渡すかの違いだろう? 結果は同じじゃないか」
「だから全然違う! 鈴が食べる分を残して別けるのと、全部取られるのは違うの! なんで鈴が頑張って労働の対価としてもらったものを自分の分も残さずに何もしていない人に取られないといけないの!」
「何もしていなくはない。俺達は訓練をしていた。むしろ、谷口達の方が訓練もせずに……」
天之河君が何かを言っているけれど、檜山君達も天之河君に賛同して鈴を責めてくる。かおりんとしずしずが止めようとしてくれるけれど、要は勝手に食べた事を開きなおって罪悪感を解消したいだけだよね?
鈴はなにもわるくない。なのになんで鈴が責められてるの? もう眠いし、さっさと犯人をみつけてこんな事が二度と起きないようにしないと……それには天之河君が邪魔だよね。どうせ鈴の話なんて聞いてくれないし押さえ込もう。
「見えざる盾よ、枷となりて拘束せよ」
「谷口!」
複数の障壁を同時に生み出して、天之河君の両手と両足を拘束する。いくら勇者でも一つの拘束は五重にしてあるし、大丈夫なはず。
「おい、マジかよ……」
「鈴、やりすぎだよ」
「うるさい! いいから犯人捜しをするの! 鈴のお菓子を盗んだ人とはしっかりとお話をしないといけないんだから! 食べ物の恨みは恐ろしいんだから!」
「犯人捜しなんて無益な事は止めるんだ! 一体どうしたんだ! 明るかった君がこんな小さなことで……」
「小さくない!」
「っ!」
色んな意味で怒った鈴は握り拳を作って、拘束している結界を
「「天之河君!」」
「「光煇君!」」
「やめんか! 誰か谷口の暴走を止めろ!」
「雫ちゃん! 沙条君からお菓子を貰ってきて! 急いで! お菓子を食べさせてベッドに叩き込めば大丈夫だから!」
「わかった!」
「それで解決するのか?」
「鈴が機嫌が悪いのは寝不足の部分もかなりありますから……」
「そうか……寝てないのか?」
「仮眠ぐらいです。全然足りていないです」
「これは改善させる必要があるな」
ぐぎぎぎぎぎ! 鈴の邪魔をするなら全員、結界に閉じ込めて──
「ほら、谷口。口を開けろ」
「ふえ?」
反射的に口を開けると、とても美味しいマドレーヌが放り込まれてきたので、味わって粗食する。
「ふみゅ……」
視線をやると、沙条君が居て箱を持っていた。中からとってもいい匂いがする。
「ほら、もう一個喰うか?」
「たべる~」
食べた瞬間、急激に眠気が襲ってきて意識が朦朧としてくる。
「ふむ。かなり効くな。この呪いのマドレーヌは」
なんてもの食べさせるの! 美味しいけれど!
◇
気がついたら、ベッドで眠っていた。起き上がると頭がスッキリとしてくる。隣には沙条君が持っていた箱がある。中身にはマドレーヌがあって、手紙が添えられていた。
「なになに……」
眠りのマドレーヌ。食べてから数分で食べた者を深い眠りへと誘う。疲労などが完全に回復するまで眠り続ける。病気などがある場合、それが完治するまで眠り続ける事になる。
これってつまり、自然治癒とかで完治しなかったら永遠に眠り続けるって事だよね。なんて恐ろしいお菓子なの! 確かに呪いのお菓子だよ! 安楽死とかにも使えそうだね!
「え、つまり鈴は寝ていたって事? 今何時?」
そう考えていると、すぐに扉が開いてかおりん達が入ってきた。
「あ、鈴ちゃん。起きたんだね」
「おはよう、鈴。それとごめんね」
「ごめんなさい」
「ううん、鈴の方こそごめんなさい」
先に謝られたので、鈴も謝り返す。ベッドから出て着替えながら質問する。
「今何時?」
「えっと、もうちょっとでオルクス大迷宮へ出発するところかな」
「鈴はそんなに寝ていたの?」
「そうよ。いけそうならオルクス大迷宮へ一緒に来るようにって」
「行く。あ、ユーリちゃんに謝らないと」
「大丈夫よ。説明はしておいたから」
「ありがとう~。で、犯人は?」
「結局見付かってないの。ごめんなさい」
「しずしずが悪い訳じゃないよ」
「それと香織や鈴が風呂場で見たメイドさんは白だった。その人はお風呂を沸かした後、すぐに別のメイドに呼ばれて離れたそうで、詳しい事はわからなかったわ」
「そっか」
恵里の言葉を聞きながら、何処か腑に落ちない。何かを見落としている気がする。でも、やることがわざわざ鈴のお菓子を盗む事なんておかしいよね。まるでメリットとデメリットが釣り合っていない。それこそ、鈴の評判が落ちて天之河君達と溝ができたくらい。そんな事をして得するのはメルド団長達、国の人じゃないし、クラスメイトでも違うと思う。こっちもメリットがないしね。
「よし、着替え終わり! じゃあ、行こう!」
「スッキリしたみたいで良かった」
「元気になったみたいだね」
「これで一安心ね」
「ご迷惑をおかけしました。鈴はこれからも頑張るよ」
握り拳を作ってから外に出て、食堂によってサンドイッチを貰ってから移動する。クラスの人達と合流すると、彼等から睨み付けられる。だけど、鈴は無視して沙条君やユーリちゃんを探す。
すぐに皆がバッテリーを配っていたので、鈴もお手伝いに入る。
「おはよう~遅れてごめんね!」
ユーリちゃんを優しく抱きしめる。
「鈴さん、もう大丈夫ですか?」
「うん、もう大丈夫だよ。昨日は行けなくてごめんね。本当は行くつもりだったんだけど……」
「いえ、大丈夫ですよ。でも、デバイスは最終調整ができてないので渡せません。誤作動すると危険ですからね」
「まあ、それは仕方ないか」
結界は座標指定だからね。設置場所が狂ったら、色々とおかしくなっちゃう。鈴が張りたい場所とデバイス君の方で理解している場所が別々の場所だと意味がないし。
「二人共、手伝ってくれ」
「「はい」」
欲しい人に渡した後、鈴も自分用のバッテリーが取り付けられたベルトを装備する。いざとなれば爆弾にもできる危険なバッテリーだけど、ユーリちゃんが幾重にもリミッターや破損した時に無害な状態として魔力を放出する機構を設計して取り付けてある。なので魔力爆発はそう簡単には起きないようにできているとのこと。実際に正確な手順でコードを解除しないと爆発しないので安全だと思う。実験も何度かしたらしいし、安心だね。
◇
オルクス大迷宮。全100階層からなるといわれている地下迷宮。下に進むにつれて魔物は強くなっている構造から、実力を測りやすいこと。それに加えて良質な魔石が手に入ることから、冒険者や傭兵、新兵の訓練の場として人気が高く、大迷宮の近くには宿場町ホルアドがある。
そのホルアドへと向かう途中にバッテリーへ魔力を込めてもらい、ホルアドで一泊して魔力を完全回復させる。それから大迷宮へと潜ることになっている。
そんな訳で、俺はユーリと一緒に眠り、大迷宮へと挑む日となった。ちなみにユーリが一緒なのは俺の召喚獣扱いだからだ。騎士団側はお金を出してくれないので、宿の人を言いくるめて同じ部屋にした。まあ、なんとも言えない視線にさらされたが気にしない。
「オルクス大迷宮。書物で調べる時間はありませんでしたが……大丈夫でしょうか?」
俺の隣では動きやすい服装のまま、バリアジャケットを展開していないユーリがいる。バリアジャケットの機能は現在のストレージデバイスには実装されていない。本当に魔法の演算を助ける補助的な機能しかない。そもそもストレージデバイスとはいえ、一から六つもたった一日や半日で作れるわけがない。キットとパーツが揃っているのならまだしも、コピペもできないのでユーリの手作業だからな。むしろ劣化品とはいえ六つも仕上げた事自体が偉業だ。
「しかし、少し楽しみです」
「そうだな」
「これからオルクス大迷宮へと挑むが。油断はするなよ。油断すれば死ぬ事になる。だから、迷宮では皆で助け合うように。例えどんな事があってもだ! それとくれぐれも指示に従うように!」
「「「「はい!」」」」
「なに、今回は安全圏で弱いモンスターを倒すだけだ。俺達騎士団が護衛をするから安心してくれ」
「「「「はい!」」」」
「では出発する!」
メルド団長達に従い、俺達は住民に見送られながらオルクス大迷宮へと足を踏み入れる。洞窟の中なのに不思議と灯りがある。光る苔みたいなのが生えているからだろう。
「少し採取していいですか?」
「そうだな。俺が取ってみる」
「お願いします」
苔を回収し、ユーリに渡してやるとタブレットを出しながら早速、解析していく。すると隣に谷口がやってきた。
「谷口は前の組じゃなかったか?」
「抜けてきたの」
「いいのか?」
「だって、鈴が居ると空気が悪いし、鈴だっていたくないもん。それに咄嗟に守ってあげられるかもわからないし、ユーリちゃんや沙条君の所に居た方が守るって気持ちになれるから」
「俺まで守る対象になるとは感激だな」
「沙条君はついでだからね! ユーリちゃんを守りに来たんだから、勘違いしないでね!」
「ツンデレか」
「違うよ!」
ユーリを挟んで三人で歩いていく。前方にメルド団長達がいて、後方には騎士達がいる。俺達はその間に居るという感じだが、モンスターが出たら説明しながら倒すまで止まるので歩幅が小さいユーリでも追いつける。
ユーリと谷口の二人と警戒しつつ騎士の人達に質問しながらゆっくりと進んでいると、前方から銃声が聞こえてきた。
「ハジメの銃だな」
「本当に作ったんだね~弾薬は大丈夫なの?」
「弾丸は魔力ですから、無限とは言いませんがバッテリーがあればそう簡単には無くなりません」
「鈴も欲しいかも」
「谷口の場合は結界の使い方を変えれば攻撃に使えるぞ」
「そうなの?」
「はい。まず、相手を拘束してから結界を縮めます」
「それはやったよ」
「じゃあ、薄い結界を飛ばして切るとか」
「それはやった事がないや。でも、結界を動かすのはできないかな。練習しないと」
「他には……あ、結界を大きくしたり、小さくしたりはできるんですよね?」
「できるよ~」
「それなら、それを繰り返せば移動させられるんじゃないですか?」
「なるほど。こんな感じ?」
展開された四角い結界が大きくなり、小さくなり、また大きくなってだんだんと移動していく。
「鈴さんの魔法はどちらかというとプログラムで考えるのがいいかもしれませんね」
「それってユーリちゃんの魔法と相性がいいってこと?」
「ですね。マクロを組んで同じ動作を高速で繰り返させれば移動できます」
「確かにそうだな」
「やった。鈴にも攻撃手段ができるかも!」
「結界に相手を閉じ込めて圧縮するとかもいいかもな。ぶっちゃけ、谷口だと時間はかかるが魔力を集める結界の応用で空気を外に排出するようにすれば生物は結界が破られない限り殺せるぞ」
「おお。流石沙条君! 鬼畜なだけあって酷い戦法を思い付くね!」
「褒めてるのか?」
「褒めてるよ?」
「そうか」
「あははは」
話しながら移動していると、そろそろユーリの体力が心配になってきたのでおんぶしてやる。肩車がいいが、迷宮でそれをやると天井に頭をぶつけるかもしれないからな。
「次、沙条と谷口! お前達の番だ!」
メルド団長に呼ばれたので前に移動してモンスターと戦うが、どこに居るかわからない。メルド団長が呼んだことからモンスターが居るのは確実だ。擬態しているのだろう。
「鈴に任せて!」
谷口が詠唱し、広域に結界を展開。即座に何かが洩れる音が聞こえてくる。
「閉じ込めるだけでは意味がないぞ?」
「大丈夫です。多分、これは……」
「そろそろかな」
メルド団長が不思議がっているのをハジメが説明していく。谷口が言葉を発すると、結界から破裂音がして急激に風が結界の中心に流れていく。中には岩に擬態したモンスターの死体が転がっていた。
「なんだ、これは……毒か?」
「違うよ~。ただ単純に空気を抜く結界を作ったの。呼吸できなかったら生物は生きていけないからね!」
「「「っ!?」」」
谷口の言葉に他のクラスメイト達が恐ろしい物でも見るような目を向ける。当たり前だ。気付かない内に苦しくなって酸欠で死ぬ事すらありえるのだから。いや、空気と言っているが、これを酸素のみに限定して二酸化炭素や一酸化炭素などだけ残るようにすれば簡単に死ぬんじゃないか? それも見えないようにした結界を使って。
「お兄ちゃん、綺麗な素材が手に入りましたね。流石は鈴さんです」
「エッヘン! もっと褒めていいよ!」
「確かに素材集めにはいいな」
移動して倒れているモンスターを分解し、素材を採取しておく。
「谷口、くれぐれもそれを味方の居る所で使うなよ」
「わかってます」
「ならいい。次は沙条とユーリだな」
「はい」
「頑張ります」
しばらく移動すると、今度は短剣を持ったゴブリンが出てきた。そいつはこちらを見るなり駆け寄ってくる。
「よし、ユーリ。君に決めた!」
「はい!」
ユーリがおんぶから降りて前に立ち、ストレージデバイスを展開。腕輪が装備される。そしてユーリは魔法陣を目の前に作り出して魔法を放つ。
「パイロシューター、シュート」
弾速が遅い炎の弾丸を三発作りだし、それを放つ。一発目を余裕で回避したゴブリンの前から二つの弾丸が少し間を開けて進んで来る。ゴブリンは笑いながら後ろに飛び退くと
「詠唱もなしか……まさか、魔力を直接操っているのか?」
「いいえ、詠唱は魔法陣を展開する事で肩代わりしています。これによって高速で放つ事ができるんですよ」
「バッテリーといい、その武器といい素晴らしい技術だ。是非、我が国でも採用したい」
「それは値段次第です」
「おい、沙条! 今は人類の危機だぞ! 無料で提供するのが当然だろう!」
「材料費や技術料とかかかるんだよ。だいたい無料で武器を提供してみろ。どうなるかわかってるのか?」
「皆が助かるだろう!」
「馬鹿か。そうなると騎士団や他の人に武器を供給していた人達が路頭に迷う事になる。なんでもかんでも与えたらいいというものではないんだ。経済が破綻するぞ」
少なくとも、本当の末期なら気にせず放出するが……そこまでの危機なのかわからん。だいたい一方的に人類側の情報しか聞いていない状況で判断できることでもない。魔人族の言い分を聞いて裏付けをしないといけないし、本当に互いを殲滅しないといけないのかもわからない。
「今はそれを気にしている時ではないと言っているんだ。強い武器を供給しなければどんどん人が殺されていくんだぞ!」
「そうだぜ。俺達にもその武器を寄越せよ。南雲やキモブタより有効活用してやる」
「は? ユーリが俺達のために寝る間も惜しんで作ってくれた奴を渡すわけないだろうが。頭湧いてんのか?」
「なんだと!」
「やめんか!」
「あの、そもそも個人用に調整して登録してあるので、他人では使えませんよ? 魔法だって個人で違うのですから」
「つまり、オーダーメイドの高級品という事か」
「はい」
「メルド団長。それにあくまでもこれは試作機です。これからデータを取って、試作を繰り返して問題点を解消。それからようやく製品化するものです。下手をしたら暴発とかもしますからね」
「ふむ。まだ実験段階という事か」
「はい」
ハジメが説明してくれたお蔭でメルド団長はわかってくれたようだ。
「さて、俺達の番は終わったから後ろで採取でもしてようかな」
「ですね」
「鈴も手伝うね」
「待て。まだ沙条は戦っていないだろう」
「そうだぜ」
「俺は召喚士だ。俺の代わりにユーリが戦った。何も間違いではない」
「屑だな」
「お前はこんな幼い子の後ろに隠れて恥ずかしくないのか」
「恥ずかしいに決まってるだろうが、馬鹿め!」
「あ、やっぱり?」
「戦う力がないんだから仕方がないんだよ。そもそも俺の魔力は全てユーリに供給されているから、ハジメみたいに魔弾を撃つこともできない。剣とか持っても意味がない。実際問題、普通に戦えないんだよ」
「それなら訓練をして少しでも強くなる努力をすべきだ。少なくとも俺はそうすべきだと思う」
「まあ、召喚の訓練はするが、後回しだな。今は全体の戦力を上げるためにバッテリーを開発していたいんだ。というか、そもそも使い捨ての攻撃手段は用意している。ただ雑魚敵に使うのがコスト的にあっていないだけだ」
なんで矢で倒せるような雑魚敵にバリスタとかの攻城兵器を使うんだって感じだ。かかる費用の桁が違う。
「ねえ、アレはなにかな? 上で水晶みたいなのがキラキラしているよ?」
「ん? アレは……」
白崎の言葉に上を見ると確かに水晶みたいなのがあった。綺麗だ。
「綺麗ですね」
「確かにちょっと欲しいかも」
「アレはグランツ鉱石」
「グランツ?」
「グランツ博士ですか?」
「いや、違う。その博士というのは知らないが、求婚の際に使われる指輪などに加工するのが人気だぞ」
「……すてき……」
「だったら俺達で回収しようぜ!」
「こら檜山! 勝手な事をするな! 安全確認もまだなんだぞ!」
メルド団長が止める間もなく、檜山がグランツ鉱石に触れて赤い光が溢れた。
「転移反応! 強制的に転移させられます! 気をつけてください!」
ユーリの叫び声に正気に戻り、すぐにユーリの言葉で何が起きているのか気付く。だから、まずはユーリと近くに居た谷口を引き寄せて指示を出す。
「谷口! 結界を全力で展開! 範囲は大きく取れ!」
「わかった!」
結界が展開されると同時に視界が一瞬だけ暗転し、どこか真っ暗な広い空間に出た。目の前には巨大な橋があり、後ろにも続いている。どうやら橋の真ん中のようだ。
「前方と後方に召喚用の魔法陣を確認しました。すぐに後ろの階段に引いてください! 退路を確保しないと全滅します!」
「嬢ちゃんの言う通りだ! 全員、急いで橋まで走れぇぇっ!」
「まだ敵も出ていませんよ!」
「そうだぜ。ビビる必要が……」
「馬鹿者! 退路を先に確保するのが戦術の基本だ! 敵が現れてからではおそ──」
「駄目です! 間に合いません!」
ユーリの言葉と同時に前方に巨大な地竜のような数メートル、下手したら数十メートルはありそうな凶悪な存在が現れる。背後には無数の骨の身体に剣と盾を持つモンスターが出てきた。
「ちっ、間に合わなかったか……しかもアレはベヒモスか……」
「団長!」
「すまん。俺と一緒に死んでくれ」
「「はい!」」
「全員撤退しろ! 俺達が防ぐ! お前達はなんとしても帰還するんだ! 全ての敵意と悪意を拒絶する! 神の子らに絶対の守りをここは聖域なりて神敵を通さず!」
メルド団長が障壁魔法を展開させる。
「谷口! 俺が抱えて走るからお前はメルド団長達の前に結界を頼む! ユーリは階段付近の敵を倒してくれ!」
「おっけー! 全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りをここは聖域なりて神敵を通さず! 全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りをここは聖域なりて神敵を通さず! 全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りをここは聖域なりて神敵を通さず!」
「任せてください!」
谷口が連打してくれるお蔭でなんとか猶予はできた。急いで谷口とユーリを抱えて橋まで走る。抱えて走っている間にユーリが複数のパイロシューターを生み出して、こちらに襲い掛かってくるスケルトンへと命中させていく。命中したスケルトンは炎に焼かれて崩れ落ちていくので、火力は問題ない。
それでもユーリだけでは流石に手が足りないが、他のクラスメイト達も俺達の後ろから階段を目指して移動しはじめた。彼等がユーリの討ち漏らしを処理してくれるおかげでどうにか倒せている。
ある程度は進むと、ユーリがブラストファイアーという爆発魔法を階段前に陣取っているスケルトンの集団へと放ち、纏めて吹き飛ばしてスペースを確保してくれた。そこに俺達は滑り込む。
「到着です!」
「これでどうにかなるか」
無事に階段へと到着できたので二人を降ろす。といっても、周りには敵がいっぱい居るので油断はできない。後ろに居たクラスメイト達の事もあるし、防衛網を構築しないと奪い返されるかもしれない。
「……ここは鈴が結界を張るから、二人は敵を排除して!」
「わかった」
「はい。任せてください!」
ユーリは即座にパイロシューターを放ち、スケルトンを排除してくれる。それを見たクラスメイト達も谷口を中心としてスケルトンの排除に協力してくれたので、どうにかなりそうだ。
階段前の確保はユーリと谷口に任せて前の方へと視線をやると、栗毛に切れ目が特徴のクラスメイトの一人、園部優花がスケルトンに襲われて地面に押し倒されていた。今にも剣が振り下ろされそうなので、俺の身体を割り込ませて起動状態にしたストレージデバイスの剣で受け止める。柄と剣の腹に手をあてて両手でなんとか耐えるが、腕がぷるぷるしだしているので長くは持たない。
「園部、立って急いで逃げろ! 長くは持たないからな!」
「沙条……」
「早く行け!」
「う、うん。沙条、ありがとう!」
さて、どうするかと思っていたら、横から別のスケルトンがやってきて剣を突き刺そうとしてきているのが見えた。やっぱかっこつけるべきではなかったか。
「私のお兄ちゃんに何をしようとしているんですか?」
その声が聞こえると同時にスケルトンが一体、小さな足で蹴り飛ばされて周りを巻き込んで倒れる。もう一体は炎によって燃やされていく。蹴りを放った子は立ち上がり、金色の可愛らしい瞳から冷たいエメラルドグリーンの瞳へと変化させ、周りに炎の翼を展開している。
そして、次々と炎弾を放って薙ぎ払っていっている姿はまさに魔法少女リリカルなのはの魔導師だ。
「ユーリ、助かった」
「何をしているんですか、お兄ちゃんは……早く下がってください。後でお説教ですからね」
「ああ。それでどれだけ持つ?」
「もうすぐ切れます」
「わかった」
ベルトを外してバッテリーをユーリに渡し、狩らせまくる。炎の翼から放たれる無数の魔法弾がスケルトンを纏めて排除していく。
ユーリが攻撃している間に後ろに撤退するが、どこも混戦状態だ。前の方を見ると結界が破られ、ハジメが錬成で足止めしている。
「援護するね!」
そのタイミングで谷口が空気を奪う結界を展開してベヒモスを弱体化させていく。ただ、ベヒモスの一撃を受けたら結界は簡単に壊れるだろう。
天之河達がハジメに何か言われてこちらへと突撃してくる。これで少なくとも雑魚はどうにかなるか。問題はベヒモスだ。討伐するには……一か八かだが、いけるか?
考えている間に天之河達がやってきてスケルトンを一掃してくれた。これでスケルトンの脅威は排除できたので、階段前の安全はひとまず大丈夫だ。
「無事か」
声に前を見ると、メルド団長が白崎を抱えてやってきた。前ではまだハジメが頑張っているから、攻撃して撤退の援護をしないといけないが……これはもしかしたらいけるかもしれない。
「全員、バッテリーは何個余っている?」
「どうしたんだ?」
「数さえあれば倒せるかもしれません」
「本当か!」
「はい。まず、バッテリーを爆弾の状態に変えてからハジメが足止めし、爆弾を投げ込んだところで谷口が結界を展開します。爆発で仕留めきれずにいたとしても、遠距離攻撃で傷口を狙えば倒せると思います」
「よし、やってみよう」
「はい」
全員からバッテリーを受け取り、ユーリと一緒に運ぶ。谷口は遠距離から結界を展開できるので入口で待機だ。
「ハジメ、作戦を説明する」
作戦を説明するとすぐに理解してくれた。まあ、ゲームやアニメでよくある方法だ。
「もう時間がない! はやくお願い!」
「わかった。ユーリ!」
「はい。最後の魔力で強化して投げます!」
安全装置を解除してユーリに渡し、次々と投げ込んでもらう。起爆時間まで多少の余裕がある。持ってきた全てを投げ込み、急いで逃げる。
「この速度では間に合いません。失礼しますね」
「「ちょ!?」」
俺達はユーリに捕まれて引きずられるようにして高速で橋を移動する。そのタイミングで目の前にころころとバッテリーが走っている橋の上に転がってくる。
「っ!?」
瞬時に反応したユーリは俺達を全力で順番に階段の方に投擲した。その瞬間、バッテリーは起爆して他のを巻き込んで連鎖爆発が起こる。俺達の前に転がってきたのも同じだ。
「……私は……大丈夫、です……」
爆発の中、ユーリの声が聞こえた気がしたが、爆発に巻き込まれてその姿は一切見えない。
「ユーリィィィィィィッ!」
ユーリの姿を探しながらも、俺とハジメは何度もバウンドし、最初に投げられた俺は無事に階段まで到着し、次に投げられたハジメは距離が届かずに橋の途中で止まった。ハジメが急いで立ち上がって走ってくるが、ユーリの事で頭がいっぱいになって考えがまとまらない。
「くそっ、ベヒモスはまだ生きている! 全員、遠距離攻撃で仕留めろ! 嬢ちゃんの犠牲を無駄にするな! なんとしても南雲を助けるぞ!」
無数の放たれた攻撃はベヒモスに着弾して悲鳴をあげさせる。
「二発目を放て!」
二発目が放たれた瞬間、炎の魔法がハジメの目の前に命中し、橋を破壊する。同時にベヒモスも倒され、呆然としていると白崎の悲鳴が聞こえる。
「南雲君! 南雲君! いやぁああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」
皆の視線が白崎に集まっている中、ふと爆発に巻き込まれて居なくなったはずのユーリがデバイスから幻影のようにチビットで現れる。
チビットのユーリが何かを伝えるかのように中村を指さす。同時にユーリがしきりに中村の事を気にして警戒していた事を思いだした。
彼女を見ていると、にやりと何かを企んでいるかのように微かに笑った。
その瞬間。
俺は慌てて中村と谷口を探すと、二人が端っこの方で追い詰められている姿を発見した。中村が谷口を庇っているように見えるが、彼女の天職は降霊術師だ。スケルトン達を操るにはもってこいの能力だったはずだ。
だからこそ、谷口の元へ一生懸命に痛い身体を我慢して走る。すると中村が無防備に振り返って谷口を崖へと押す姿が目に入ってきた。谷口は落下する時に両手を伸ばしてなんとか崖の端を掴む事ができて耐えた。その谷口を助けようとしゃがんだ中村と谷口の声が聞こえてくる。
「恵里、なんで……」
「光煇君を馬鹿にして貶して傷つけたでしょ?」
「な、なにを言っているの? そ、それだけで鈴を……」
「そう、殺すの。さようなら。ばいばい。友達ごっこは最低で最悪だったよ」
「あぁあああああああああああああぁぁぁっ!」
中村が谷口に何かをして谷口が叫び声を上げながら落ちていった。その光景に沸々と怒りが湧いてくる。谷口は友達だし、ハジメも失った。それにコイツはユーリが命を賭けてまで助けてくれたというのに、それを無駄にしやがった。そんなのは許せない。絶対に許しちゃいけない!
「ふふ、これで邪魔者はいなくなった……」
「なら、お前もいなくなれっ!」
「え?」
スケルトンごとタックルを決めて悦に浸っていた中村を突き落とす。俺も一緒に落ちるが気にしない。どうせ、もうユーリは居ないのだ。だったら、こんな世界で生きる必要はない。ガチャでまた引けるかもしれないが、それはもう別のユーリだ。俺と一緒にいてくれたユーリじゃない。
「なっ、なあぁぁぁっ! お前ぇえええええええぇぇぇぇぇっ!」
「因果応報だ!」
落ちたタイミングが同じだと落ちる速度も同じだから追い付くのは難しい。
だが、どうせなら谷口には色々と迷惑をかけたからクッションくらいにはなってやろうと思う。
「ちょっ!」
中村を掴んで上に放り投げる。これにより落下速度が上がり、どうにか谷口が見える場所まで追いつく。
「結界を足場にして展開しろ! それで衝撃が和らぐ!」
「っ!」
命令すると、反射的に谷口が結界を展開する。それによって速度が緩和されて追いつく事ができた。震える彼女を抱き寄せて俺が下になる。何度も障壁に身体がぶつかる痛みを感じていると、中村も追いついてくる。
「恵里!」
咄嗟なのか谷口が中村の手を掴んで引き寄せた。本当に谷口もお人好しだな。そう思っているとその衝撃で意識を失った。
「あれ、私の予定が変わった? でもいいわ。邪魔者は一時機能停止。絆を結んだ枷があるのだから、どうせ貴方は呼ぶでしょう? それなら私の計画に変更はない。早く会いたい……早く会いたい、早く会いたい! 私だけの王子様!」
ユーリ「現在、修復率は4%です。再召喚までしばらくお待ちください。バッテリーでブーストしてもこれが限界です。ベヒーモスなんかに勝てません」
なお、ユーリちゃんもただでは起きない模様。
ユーリ「次回。奈落の底へと落ちた一人と三人は果たして生きて合流する事ができるでしょうか? 鈴さんと中村さんのキャットファイトです!
ちなみに冗談です。そんな事をしていたら死んじゃいます。
本当の次回予告。ついにガチャ解禁です! 果たして呼ばれるのはいったい誰なんでしょうか!
そして怨霊の怖い彼女はいったいどこの根源少女なんでしょうか!
とりえずガチャを回してみましょう。あ、剣トルフォさんは38連で来ました。うさ耳メイド服っぽいアリスコスチューム可愛いですね。これが男だと信じられますか? 性別秀吉ならぬアストルフォですね。
難易度アンケート実施中です。怨霊さんはラスボスじゃないです。ちゃんとありふれた世界の登場人物がラスボスになります。怨霊さんは攻略方法は知ってさえいれば比較的簡単ですからね。
最後に誤字報告と感想、評価をありがとうございます。それとユーリのバリアジャケットってゲームの赤い方か青い方、どちらが好きですか? 私はどちらも好きですが、しいて言うなら赤い方です。どちらも着ますけれど。
っと、そろそろ時間です。また次回もよろしくお願いします」
清水君ヒロインアンケート 人になるます
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波の鳥 フ
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謳の鳥 コ
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空の鼠 ク
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深海のナニカ レ