私は一糸まとわぬ状態で夫となった面倒な教え子の真名を膝の上に乗せ、彼の耳を掃除していく。彼はぐったりしている私の分身を抱き枕にして、身体を触りながら大人しくしている。ただ、こちら側に顔をやっているので、キスマークや噛み跡などがついた私の身体を見てきています。特に胸と顔、首ですね。
「こんな貧相な身体を見て触って、楽しいのですか?」
それに言葉にはしませんが、私の身体は汗や彼の体液が塗り込まれていて、すごい臭いになっているはずです。もう麻痺してしまっていて自分ではわかりません。そもそも男性の物を嗅いだり、飲んだり、体内に取り込んだりなんてしたことがありませんでしたので大変興味深い経験ですね。美味しいとは感じませんし、飲み物としては最悪です。慣れていないだけなのかもしれませんが、個々の味覚や中毒性があるだけなのかもしれません。この辺りも研究対象としましょう。
「楽しいな。ネネカを自分の物にしたとも思えるし」
「そうですか。わかっていましたが、変態ですね」
「ネネカに言われたくないな……」
「失礼ですね。耳かきを裸のままでさせるあなたにそんな事を言われたくないのですが……」
「でも、夢で色々とやっただろ」
「アレは必要な事ですから」
夢でやった事は考えうる限りの正気を疑うような変態的な行為から、悲惨な拷問のような行為です。もちろん、最初は普通に愛し合うことにしました。私としてもはじめては愛される方がいいですし。ええ、拘束されて並べられ、物のように犯されるのがマシと思えるぐらいの変態行為はごめんです。
この体験の目的は敵に捕まった場合に対処するため、精神や肉体の動きなどをデータ化し、それらを元にして夫である彼以外には何も感じないようにブロックするためです。
もちろん、心を守るための一番は捕らえられた身体を放棄して、別の身体に移動して残った身体は爆発などで処分することです。これらを行うためにも詳細な心と肉体のデータが必要になりました。死霊術師として優秀な恵理の力とユーリ達の力があれば魂と材料さえあれば新しい全く同じ肉体に蘇ることなど容易いのです。
ですので、比較的現実に影響を及ぼすことがない夢の世界で皆さんにも協力してもらいました。
発案者として私は全部やりました。ルサルカさん、アルテナさんも全部です。その他の子達はどうしても無理というのは止めて、それ以外のデータを提供していただきました。どうせ私達の痴態など、修復不可能なぐらい見せ会うことになってしまっているらしいので多少恥ずかしいぐらいなんともないでしょう。
まあ、流石に真名が変化した触手やモンスターにされるのは相手がわかっていても嫌でしたが、良いデータが取れました。媚薬に対する対策もできましたし、こちらが利用することもできるようになりましたからね。真なる神の使徒は女性型のようですし、たっぷりの媚薬を使って強制的に肉体を覚醒させ、そこから計測した私達のデータを叩き込むことで強制的に覚醒させて無効化というのも面白いでしょう。やりませんが。
「詩乃やリムリ、ネコネは大丈夫か?」
「大丈夫です。ちゃんとカウンセリングもしてありますし、夢の事なので記憶を消す事も可能です」
「優花は……」
「彼女はむしろノリノリ……ではないですが、喜んでいましたよ。全て貴方に上書きしてもらうと」
「そうか」
「ですが、やはり不安定になるでしょうからしっかりとカウンセリングをする事をおすすめします」
「頼めるか?」
「いえ、貴方がデートして甘えさせればそれで大丈夫ですよ」
「わかった」
耳かきを耳から取り出して取れた物をゴミ箱に捨てます。その後はどうするかはわからないので、膝の上に乗っている彼の頭を優しく撫でてあげます。撫でていると左手の薬指に嵌められた指輪が目に入ります。現実でする前に頂いた物ですが、こちらも私にとって未知の鉱石と技術が使われているようで大変興味深いです。分解するなと言われているのでしませんし、すると思われているのは少し心外ですね。確かにちょっとは思いましたが……
「そろそろ起きようと思うけれどどうかな? 朝食の時間も近いだろうし……」
「確かにそうですね。ですが、その前にお風呂に行かせて貰ってもいいですか?」
流石にシラフでドロドロな状態でいられません。乾いて色々と大変になっているのでしっかりと身体を洗わないといけませんし、手入れやケアも必要です。
「元からそのつもりだ」
真名が私の膝から頭を起こして立ち上がり、抱き枕にしていた分身を抱き上げます。
「この子はどうする?」
「「もう必要は無いので消しましょう」」
「消すのはちょっと……」
分身を抱きしめる真名。どうやら愛着が湧いてしまったようですね。まあ、随分と可愛がってくださいましたし、その子も私であるので以外と嬉しいです。
「問題はありません。出して欲しければ出しますから」
「ならこのままで」
「……いえ、今は必要ありませんから消します」
「そんな!?」
真名の声を無視してミラーミラーを解除して分身を消します。真名の腕から泡と消えた彼女と私を交互に見詰めてきます。
「はぁ……仕方がありませんね。汚れたままの姿になるので嫌なのですが……ミラーミラー」
改めて私の分身を呼び出します。当然、今の私と同じ姿で汚れも全て同じです。だというのに真名は現れた私を抱きしめて嬉しそうにしています。こちらを放置してです。
「私が拗ねていますよ」
「拗ねていません」
「ああ、そういう事か。もちろん二人共だ」
真名は何を勘違いしたのか、私も抱き寄せて手を私達のお尻に回して持ち上げました。私達は落ちないように首に手を回します。私と分身の顔が真名の顔を挟んで至近距離にあります。ですので、色々と臭ってきました。やはり出すのは間違いだったかもしれません。
「こんな状態で何時までも居たくありません」
「お風呂へ行ってサンプルを回収してから色々とを流しますので降ろしてください」
「このまま風呂まで連れていく」
「ああ、なるほど。風呂場でも玩具にされるようですよ私」
「そのようですね。面倒なので構わないではありませんか」
「それもそうですね」
ほとんど寝ていないので移動するのも怠いのです。連れて行ってくれるなら身を任せる価値は十分にあります。本当、無限に回復する夢の世界と違ってリアルではアバターの身体になったとはいえ、ユーリ達によって魔改造されている真名の相手を一人でするのは大変です。
私としては分身は例外として、やはり一対一で愛し合うのが一番良いと思っていました。他の人と同時に相手をされるのは興味はあれど、一人の女としては色々と嫌でしたが……現士実似々花としてアバターの力が無ければそもそも相手にもなりません。アバターですら体力が持ちませんし、何人も妻を持っているだけあって上手ですから何度も何度も気持ちよくされて気絶しては覚醒させられます。分身を使ってもきつかったので、二人か三人は必須ですね。改造しすぎですよ、まったく……ああ、でもおかげさまで一人で相手するのは無謀だという事が身をもって知らされたので初回は一人で初めてを捧げるのも納得できますね。これは他の子に味合わせなくてはいけません。
「到着だ」
「「ありがとうございます」」
運ばれたのは私達が住む後宮にある家族用に作られた風呂のようです。何時でもお風呂と絶景が楽しめる贅沢な場所です。内装も真名と妻達以外が使わないというのに質素のように見えて品の良い品で整えられており、決して安い値段ではありませんね。
「はい、本体のネネカはここな」
「えっと、洗い場の前なのはわかりますが、何故私を膝に乗せるのですか? それに頭に顎を乗せるのは止めなさい」
風呂の椅子に座った真名の上に本体である私が座らされました。彼は私のお腹に手を回しながら、備え付けられているボディーソープを掌に出して目の前でぬちゃぬちゃと泡立ていきます。
「まさかとは思いますが、私を子供扱いして洗うつもりですか?」
「子供扱いはしていない。そうじゃなきゃあんなに愛し合うこともないからな」
「くっ。ではこれは……」
「スキンシップと愛する嫁を労わるためのマッサージだ。疲れているだろう?」
「それはそうですが……」
「それにこれは趣味だ」
「変態め……んんっ!?」
掌が私の身体を這って隅々に泡を塗り込んでいきます。女の子の大切な場所も含めてマッサージのように身体中を揉まれて気持ち良くなり、開発されだしたせいか自然と声が出ます。
「そっちの子も本体が終わったらちゃんと洗ってあげるから待っていてくれ」
「それでは私は真名を洗いましょう」
「頼もうかな」
手付きはいやらしいですし、途中で顔を向かされてキスもされますが、長い桃色の髪の毛も丁寧に洗っていただけて大変気持ちが良いです。まるでとろけそうに感じるほどでした。私の身体を完全に把握して的確に気持ち良くなるようにしているようです。
「流すから目を瞑れよ~」
「やっぱり子供扱いですよね!」
「流すぞ」
「くっ……」
言われた通りに眼を瞑るとシャワーによって泡が流されます。それが終われば反撃として私も子供扱いして二人挟んで徹底的に洗ってやります。やられっぱなしのセブンクラウンズではありません。
「大変気持ち良かった」
「「……」」
洗い終えたのですが、子供扱いしても全然堪えてくれませんでした。むしろ、ママと呼んで甘えてくるしまつ……愚痴を言いながら最後まで洗うしかありませんでした。ですので、嫌がらせとして分身は消してやりました。ええ、決して負けを認めたからではありません。私を子供扱いした罰です。
「分身を消すなんてそんな……」
「維持するのが疲れました。ええ、疲れただけです。別にもう二人で居る必要もありませんからね」
「疲れたのなら仕方がないな。結構無茶させたし……」
「そうですね。かなり無茶させられました。私の身体は……小さいのですからね」
認めたくありませんが、事実なので仕方がありません。本当に何故成長しないのでしょうか? もう二十五も近いというのに……せめて身長だけはどうにかしたいです。
「湯に浸かるよ」
「きゃっ」
いきなりお姫様抱っこされ、湯船の方に運ばれていきます。抗議の視線を向けますが、気にされていませんね。そのまま広い浴槽の中に連れて行かれ、大自然の景色が手摺の先から伺えます。窓なんてありませんのですぐ外になります。
とはいえ、鈴の結界によって適度な風などは取り込まれ、それ以外の悪影響を及ぼすようなものは全て弾かれる設定らしいです。外から覗く事も無理なように幻影魔法を付与しているらしいので、安全だと思います。そもそも皇であり真名の妻を覗くとか極刑は間違いないですから、やる人は居ないでしょう。
「離してください。普通に浸かりますよ」
「無理だな」
「何故ですか? いい加減にしないと本気で怒りますよ」
真名の座る膝の上に乗せられて上を向きながら声をかけます。
「ネネカの身長じゃ物理的に無理だ」
「は?」
そう言われて試しに立ってみましたが、確かにお腹の辺りまで湯があります。周りには台のような物も存在しません。あるにはあるのですが、それは浴槽の外です。
「ほらほら、お座りよ」
「……いいでしょう。椅子になりなさい」
「喜んで」
立っているのもしんどいですし、わざわざ台を入れるのも負けた気がして嫌です。そもそも取らせてくれないでしょうしね。
「髪の毛を結ぶ紐は……」
「要らないよ。痛むとしても回復魔法とかがあるし、掃除も鈴の結界を使って一瞬でできるしな」
「……なるほど。髪の毛を気にせずにお風呂に入れるのは大変いいですね」
長い髪の毛を頭の上に纏めるのはかなり大変ですから、助かります。私の髪の毛は太ももよりも下までありますから、本当に面倒です。アバターだからリアルで出来ない髪型に設定したのですが、現実になるとは想定外でした。切るのも考えましたが、真名は許してくれないでしょう。今も私の頭に顎を乗せた状態で手を前に回しえて髪の毛を梳いていますからね。
それに行為中も変身して姿を変えるのは拒否されました。今のままの私がいいそうです。こんな貧相な身体の何処がいいのか、甚だ疑問です。それでもありのままの私を求めてくれるという事が何処かで嬉しいと思う私も居ます。
彼が彼であって彼で無い事もわかってはいます。ただ、実際に苦楽を共にしながら冒険した記憶もあるのです。プリンセスアリーナやひたすら
「どうしたの?」
「いえ、本当に摩訶不思議な現状だと思っただけです」
「この世界に召喚されたことが?」
「それもありますが、私の世界はリアルから仮想空間に移り、それが現実となりました。それが今度は本来の世界とはかかわりの無い異世界に召喚です。更には私が、私達が空想上の存在であったか、平行世界として存在しているか、どちらにしても驚きですよ」
「観測してしまったらそれは現実になる、という話もあるしな」
「シュレディンガーですね。その辺りもおいおい調べていきましょう」
背中に体重を預け、完全に身を任せます。普通の男性にならこんな事はしませんが、相手が夫であるのならば問題はありません。
「不思議といえば、この容姿で結婚できるとは思ってもみませんでしたね」
「え? なんでだよ。ネネカはとっても可愛いのに……」
「幼児体系ですから、普通に結婚相手としては駄目ですね。世間体もありますし、普通に付き合っていたら通報や職質されますよ。身分証明書が常に要ります」
「面倒だけどネネカを嫁にできるのなら甘んじて受けるだろ」
「そういう趣味の人はお断りです。色々と危ないですからね。生まれてきた子供に手を出されても困りますし、結婚するという事は子孫を残すためです。リアルの私では出産に身体が耐えれないかもしれません。帝王切開は確実でしょう。そうなると恋人や愛人はともかく、妻としては色々と問題が残ります」
まあ、私の周りの人達は名家の人や社長、政治家など多種多様な人か、奇人変人の類でしたので仕方がありません。
「俺は気にせず娶りたいけどな。子供よりもネネカの身体の方を大事にするし……」
「それはそれでありがたいのですが、やはり女性としては子供が欲しいですね。そういう意味では助かりました。この姿であれば問題はありませんし、ここの技術であれば母体が損傷する事もないでしょう」
知的好奇心としても子供は産んでみたいです。はたしてどの様な成長をするのか色々と実験できそうですしね。
「俺としては産んで欲しいが、産みたくなければ産まなくていいからな。ネネカが無理して産む必要もないし」
「それもそうですね。他の妻が産んだ子供を一緒に育てればいいだけですし」
「そういう事だな」
「そうなると残る問題は……」
「何かあるのか?」
「……いえ、この問題は些細な事です」
「どんな問題なんだ?」
「聞きますか? くだらないですよ」
「教えてくれ」
「真名の名前から千里真那を思い出すだけです。くだらないでしょう?」
振り返って真名の頬に手をやりながら答えます。
「あ~名前の読み方が一緒だからな」
正直、色々と萎えます。千里真那は男性ですが、プリンセスを目指す人です。つまり、男性の姿をしていても心は女性という事ですね。そんな彼女が脳裏によぎるわけですからね。
「そういう問題は慣れてもらうしかないな」
「ええ、だからくだらない事だと言ったでしょう。それに段々と上書きされて言っているので問題は最小限です」
「それは良かった。天才だけどあんなのと一緒にはされたくないからな」
「あの子はあの子で色々と抱え込んでいるだけですよ。それよりもそろそろ出ましょう。朝食の時間を少し過ぎています」
「確かに。皆を待たせたら駄目だな」
「はい。そんな訳ですから、よろしくお願いします」
「任せろ」
向かい合う形で両手を差し出せばお尻と背中に手を回してしっかりと抱き上げてくれます。湯舟から立ち上がった真名は私をお姫様のように抱いて運んでくれます。
脱衣所に到着すれば身体を拭いてくれます。髪の毛は魔法で手早く水毛を取った後に丁寧に乾かした髪の毛を梳くって一部をカールにするなど整えてくださいました。
「そういえば服を用意していませんでしたね。スキルで作りましょうか? 出来ればやりたくありませんが……」
「姿を変えているだけで、裸みたいな物か」
「正確には違いますが、元となるデータ、物質がありませんから……どうなるかわかりません」
「備え付けられているのはあるから大丈夫だ。今は大人しくあるのを着よう」
「それがいいでしょう」
実験は時間がある時で構いません。わざわざこの状況で危険を犯す必要はありませんしね。
「服は俺の趣味でいいか?」
「構いませんよ。私は貴方の妻になったばかりですし、夫の趣味を把握する必要があります。互いに尊重しあう事が夫婦円満の秘訣らしいですからね」
「ならこれでいいか」
渡されたのは可愛らしい子供用の下着です。はい、サイズが子供用のしか入りませんから仕方がありません。ええ、ありません。怒ったりはしません。それに白い生地にフリルが付けられた可愛らしい物ですが、肌触りも良いので普段使いとしても問題ないでしょう。ただ……
「これ、誰のですか? 流石に洗ってあっても別の人のを履くのは嫌なのですが……無理にとはいいませんが……」
私は来たばかりなので服や下着類なんて持っていません。あるのは最初に着ていた物ぐらいです。それこそ作るか買わないといけません。
「大丈夫だ。それ、新品だから」
「はい?」
「ガチャ産の奴だから」
「ああ、なるほど……って、そんなのも出るんですか?」
「大量に引いた奴の中にあったから、出るんだろうな。それを適当に置いてある」
「そうですか。わかりました。湯冷めするので服をください。エッチな下着は要りませんよ」
「了解。あったかいのがいいか?」
「どちらでもいいですよ」
「じゃあ、これに決めた!」
渡されたのは黒いクルーネックボリュームニットでした。少し大きいので私には余ります。肩の部分が出ていて、脇の部分が繋がっているタイプです。着てみると大きいので太ももに入る辺りぐらいまではあります。渡されたのは以上になります。ええ、スカートは貰えませんでした。
「なるほど、こういうのが好きなんですね。わかっていましたが、好き者です」
「絶対領域こそ至高」
「いえ、別に構いませんよ。ラフな格好で動きやすいですからね」
真名は真名でバスローブを着ています。私もそちらで良かったのですが、流石にサイズが無いのかもしれません。いえ、なんだか怪しいですね。服を取り出すときもタンスに頭から入れて何やらやってましたし。
「もしかして今、ガチャをしたりしていませんよね?」
「な、なんの事かわからないな」
「ああ、引きましたね。これは少しお仕置きしないといけませんね」
「俺の趣味はガチャだから何も間違ってはいない! デイリーガチャだ! それに朝食の時間がなくなる! 優花たちを待たすわけにもいかないだろう?」
「ふむ。わかりました。では一応参考にしておいてあげましょう」
そう言うと、真名はまた私を抱き上げました。おんぶや俵持ちではないのでまだ許せます。しかし、移動がお姫様抱っこというのはかなり恥ずかしいです。
「あの、自分で歩けますよ」
「感覚がおかしくなっているだろう。それに身体に負担がかかっているだろうからな」
「確かに動く度に違和感がありますが……重いでしょう?」
「大丈夫だ。ネネカはすごく軽いからな」
「そうですか。では、お任せしましょう」
「承ったプリンセス。お加減はどうですか?」
「苦しゅうありません。そのままよきにはからないなさい」
「ははぁ~」
大きな食堂まで連れて行ってもらったのですが、そこには誰も居ません。大きなテーブルがあるだけでキッチンの方も確認してみても居ません。
「誰も居ないではないですか……」
「朝食の準備もされていないな」
「作られて残されていなかったわけでもありません。朝食に使うであろう下準備はしっかりと終えて保存されています。これは……寝坊ですね」
「寝坊だな」
「まあ、夢の中でお楽しみだったわけですから、寝坊しても無理はありません」
望んだシチュエーションが全て叶えられるわけですしね。私のように好奇心の赴くままにエッチな実験三昧というのをやっていた子も多いでしょう。普通に遊んだ子もいるでしょうが、ほぼ全員と肉体関係があるらしいのでそういうのはやっているはずですし。
「どうするかな……」
「大人しく座って待っていてください。ここは私が作りましょう」
「できるのか?」
「一人暮らしはそれなりですし、これでも年長者ですから朝食ぐらい用意できます。まあ、優花ほどの腕は無いかもしれませんが……それでもいいですか?」
「もちろんだ。ネネカの手料理が食べられるのなら味は二の次でいい」
「……挑戦と受け取りました。いいでしょう。私が素晴らしい朝食を用意してあげます、行きますよ、ミラーミラー」
「いや、そこまでガチにならんでも……」
「ふふ、売られた喧嘩は買いました。これからの立ち位置や沽券にもかかわりますからね」
「そうか。まあ、俺も手伝う」
「要りません。キッチンは女の聖域です。そっちで大人しく待っていてください」
「いや、それは古い考えだろ……」
「優花が決めています。入れないように言われていますからね」
「マジで?」
「マジです。真名に頼まれたら私達、妻が用意するようにと」
まあ、点数稼ぎの面が無いとも言えませんが、人手はあるので問題ありません。夫一人に妻一人であれば確かに共同する方がいいでしょうが、女性が複数になれば話は別です。そもそもちゃんとカロリー管理をしてくれるかどうかなんてわかりませんし、味付けも適当にされる可能性があります。何より胃袋を掴んだ方が色々とやりやすいですから。
「ニヤニヤしているけどなんか企んでる?」
「いえいえ、何にもありませんよ」
「そうか。それじゃあ頼む」
「はい」
キッチンに入るとまず探すのはスイッチです。身長が低い人のためにしっかりと対策が用意されているそうです。スイッチを操作すると床がせり上がってきました。床の高さが上下する仕掛けなので私の身長でも楽に作業ができそうです。無駄にハイテクですね。部分部分の高さも調整できるので、棚などからお皿などを取り出す時も簡単です。
用意さている朝食はフレンチトーストと野菜スープですね。冷蔵庫に入っているボウルを取り出し、中に入っている物を確認します。中にあるパンがしっかりと溶き卵を吸収しているようです。これなら焼くだけなので味付けは必要ありませんね。
野菜スープはコトコト長時間煮込んだポトフが用意されています。お肉はソーセージが入っていますが、何の肉かはわかりません。野菜はここで採れた物でしょう。
フレンチトーストとスープが用意されているので残りはサラダぐらいでしょう。まずは玉葱の皮を剥いて薄くスライスします。面倒なのでスライサーに手を変化させてスパっとやってしまいます。十人以上の分を用意すると時間がかかるので短縮します。
切った玉葱は半分をボウルに入れて塩で揉んでから三分ほどおいて冷水に漬けます。残りは別のボウルに入れてラップはないので蓋をして密閉し、冷蔵庫に保管します。これで辛味が抜けるだけでなく血液をサラサラにしてくれます。時間は一時間から二時間必要なので用意されている物を使いましょう。何個か、炒め飴色の玉葱や辛味をい抜いた物が用意されていますね。他には自作のコンソメやカレーのルー、マヨネーズやケチャップなんかも作られているので料理に関する彼女の執念が伺えます。全部自作するとは少しお姉さんは驚きです。
続いてサニーレタスとミニトマトを用意しておきます。次はドレッシングの用意です。オリーブオイルと塩、酢を使います。これでドレッシングを作成し、小瓶に分けて置いておきます。後は牛乳と紅茶、コーヒーでも用意しておけばいいでしょう。
作業を分身と分担しているとはいえ、人数が多いので少し大変です。真名の方を見るとこちらを見詰めながらニヤニヤしています。私の後ろ姿やお尻でも見ているのでしょう。このキッチン、壁側に基本的な物が用意されていて、食堂のある方にはカウンターがあります。ただ、これは透明の支柱で支えられているのであちら側からもこちら側からも見れるようになっています。この空いている場所にはほとんど透明なワゴンが置かれていて、それで配膳や回収する仕組みですね。ほとんど透明な物を用意するなんて使う側も用意する側も時間もコストもかかるので無駄なのですが、用意している女の子をしか……見守るのにはちょうどいいんでしょうね。ええ、子供に向けるような視線をされています。そんな真名には少し教育的士道が必要なようですので、特別にメニューを追加しましょう。
「果物をください」
「どうぞ、私」
「ありがとうございます」
果物を剥いて細かく切って布に包んで潰してジュースを作ります。色々な果物や野菜で飲み物を用意していると、食堂の扉が勢いよく開かれました。
「ご、ごめんなさい!」
入ってきたのは生気が抜けて顔が青くなっている優花でした。彼女はすぐに真名の前で跪きました。そして、土下座しようとしたのに気付いた真名が優花の腕を取って引き上げて抱きしめます。事前に優花の精神状態について教えておいたからかもしれません。
「……お願い……捨てないで……」
「寝坊したぐらいで捨てないよ。むしろ俺は優花を手放すつもりはないから何があっても捨てたりしない」
「……本当……?」
「ああ。だから安心しろ」
「……うん……んっ」
キスを交わして落ち着いたのか、そのまま優花は身体を猫のように擦り付けて甘えだしました。少ししてから視線をこちらにやり、私に気づくと今度は顔を赤くしてこちらにやってきました。
「ご、ごめんなさい……」
「気にしなくていいですよ。もっと甘えていても構いませんから」
「こ、今度、二人だけの時にやるから大丈夫……だから忘れて……」
「そうですか。なら忘れましょう」
卵を吸収したパンを油を引いたフライパンに乗せて次々と焼いていきます。焼き終えたのを皿に乗せてからワゴンに置いていきます。優花も温めたポトフが入った鍋をワゴンに乗せていきました。
「えっと、アレは……」
「これですね」
「ありがとうございます」
私達が求める物を優花が用意してくれるのですぐに準備ができました。朝食を乗せたワゴンを運んでいくと、皆さんが集まっていました。
それぞれが席につき、食前の挨拶をしてから配られた朝食を食べていきます。私は優花と共にしっかりと配膳をしましたが、わざと配っていない物があるので席を立って配っていきます。
「果物と野菜ジュースを作りました。どうぞ」
「ありがと~」
鈴さん達に入れて渡した後、私は真名にも注いで差し上げます。
「どうぞ。身体が疲れているでしょうから、しっかりと栄養を取ってくださいね。私の手で愛情を込めて絞りましたから、味わってください」
「ああ、ありがとう」
真名は何の躊躇いもなく口にジュースを入れて……青ざめて口元を押えました。
「んぐっ!?」
皆の視線が一気に集まりますが、気にしません。
「安心してください。唐辛子による辛味や野菜による苦味、えぐみなど身体に害はないようちゃんと設計しました。栄養はたっぷりですよ。私を子供扱いしたくせにまさか、妻が愛情を込めて作った物を吐いたり、捨てたりしませんよね?」
ニコニコと微笑んであげると、真名は吐きそうになりながらしっかりと全部飲んでくれました。他の皆にはちゃんと事情を伝えておいたので問題はありません。なんでそれに怒るのかを不思議がっている子もいましたが、それはそれです。
「唐辛子を取り除けば成分的に栄養は豊富だと思う」
「えぐみなどを取り除くのは簡単です。ただ栄養素も抜けてしまいますので……」
そう話していると、真名がいつの間にか私の背後に居ました。そして、無理矢理口付けをしてきました。そのまま舌を絡められて……強烈な苦みや辛味などに襲われます。
「くっ、よくもやってくれましたね」
「自業自得だろ」
「そちらがでしょう」
「どちらもどちらだと思いますので、仲良くしてください。駄目な事はちゃんと話し合わないとメッ! です」
「「はい」」
ユーリに可愛らしく怒られました。流石に大人げないのでこの辺りで止めてあげましょう。ただ、勉強については厳しくいきます。ここに手を抜く事は元からありませんからね。ええ、予定していた三倍の量ですが、問題ありません。