ありふれた職業の召喚(ガチャ)士で世界最弱   作:ヴィヴィオ

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残酷な描写があります。具体的には普通に手足が飛びます。
前半は恵里のお話なので、ほぼ原作と変わらないです。もちろん、少し弄って編集はしています。ですが、あまりかわらないので過去話がはじまったら、飛ばす人はねぇねぇ、どうしてから読むのでいいと思います。
そして、アンケートの結果。ひとまず恵里のラスボスルートは防がれました。良かったね鈴。
そしてガチャ解禁。


第9話

 身体を襲う痛みで目が覚める。目を見開くと暗い天井が見えた。頭を動かして視線を横にやれば鈴の下に沙条君がいる事がわかった。沙条君に抱きしめられていて、落下の衝撃から助かったみたい。周りにはいつの間にか展開したのか、結界が張られている。

 沙条君の腕から抜け出して、すぐに沙条君に手を充てて観察すると生きているのがわかる。沙条君の身体を至近距離で見てみると、身体中に擦り傷があった。それなのに鈴の身体に傷は少ない。

 

「良かったよぉ~」

 

 ユーリちゃんが死んで沙条君まで居なくなるのは凄く悲しい。座り込んで泣いていると、少し離れた場所で音がした。ビクッと身体が震える。暗闇の中で凄く心細いけれど、今は鈴が確認するしかない。ここはオルクス大迷宮の中で、とてもじゃないけれど鈴達が活動できる階層じゃないはずだから。

 

「それに恵里を探さないと……」

 

 沙条君の周りに結界を張ってから、音のした方へおっかなびっくりぬかるんでいる地面を移動すると、物陰に恵里が背中を岩に預けて座り込んでいた。

 

「恵里っ!」

「鈴……生きてたんだ。まあ、それも当然か」

「どういう、事?」

「僕達は落ちている途中で壁に無数の穴があったの。そこから鉄砲水が滝のようにでていた。その中の一つに押し流されてここまでやってきたの。鈴の結界が無かったら死んでたわね」

「確かに鈴は無意識で結界を張ってたかも」

「まあ、もしかしたらこの迷宮が落ちても死なないように色々と細工されていた可能性もあるけれどね」

「そうなんだ。やっぱり恵里は賢いね。鈴にはそんな事わかんないよ」

 

 ニコニコと笑いながら、恵里に近付く。すると恵里は鈴に杖を向けてきた。

 

「いい加減にして! 僕が鈴に何をしたのかわかっているの?」

「うん。鈴を騙して恵里がここに突き落としたよね?」

「それを理解していながら、なんで僕を助けたのよ……僕は鈴を殺そうとしたのよ?」

「何を言っているの? 友達を助けるのに理由はいらないよ?」

「本気で言っているの? だいたい、僕は……」

「友達ごっこって言ってたよね。凄く傷ついた。でも、鈴が傷ついたのは鈴が思いこんで本当の恵里を見ていなかったから。自分の事だって私から僕に変わってる。そっちが恵里の本性なんだよね?」

「そうだよ。僕の本来の性格は利己的で残忍な外道だよ。だから、僕の天職は降霊術師なんだ」

「そっか。でも、恵里がどう思っているかなんて鈴には関係ないよ。鈴は恵里の事を友達だと思っているし、鈴がやりたいようにやるの。沙条君達からそう学んだよ? そうじゃないとどんどん仕事が増えて、難易度が上がって寝れなくなるの!」

「鈴の勝手な思いを押し付けないで! 何も知らないくせに!」

 

 確かにそうだけど、今は次のチャンスがあるかもわからない。ここを逃したら恵里は鈴から離れていく気がする。離れていくにしても、ちゃんと話して納得してからがいい。だから、お話をしてそれでも恵里が嫌なら、鈴は悲しいけれど納得する。天之河君みたいに人の話を一切聞かないような人にはなりたくないしね。

 

「うん。そうだね。意思を否定されるのは嫌だし、鈴は確かに本当の恵里の事を知らないよね。だから、お話しよ? 例え恵里が逃げても追いかけてお話するよ? 鈴は改めて恵里のお友達になりたいからね!」

「悪魔か……」

「うん。悪魔でもいいよ? だから、悪魔らしい方法で聞いてもらうの」

 

 鈴が恵里の周りに結界を展開して逃げられないようにして、至近距離へと移動してから正座する。

 

「さあ、お話しよう! 話してくれるまでずっと待つよ!」

「はぁ……本当に聞くつもり? 言っておくけれど、光輝に近づくために鈴を騙して親友になったんだからね」

「うん。それでも聞くよ。鈴達はもう少ししたらここで死んじゃうかもしれない。だから、後悔の無いようにしておきたいの……一生のお願い!」

「まったく、それが一生のお願いって……」

「駄目?」

「いいわよ。話してあげる。僕が一番記憶に残っているのはお父さんが死ぬ光景だよ。五歳の時にね。公園で遊んでいて、気が付いたら車道に飛び出していたの」

「それって……」

「うん。悪魔的なタイミングで突っ込んで来た自動車から僕を庇ったお父さんが死んだっていう探せばどこにでもあるありふれた事故だよ」

 

 それから恵里が話してくれる。事故の後、お母さんの態度だった。恵里のお母さんは、流石に人前では控えたものの家に帰り二人きりになると事故の原因を作った幼い恵里を憎しみのままに責め立てたらしい。

 

「お母さんは少しいいところのお嬢様だったの。お父さんとは家の反対を押し切って結婚して、幼心にも恥ずかしくなるくらいべったりだったんだよ。だから、こうなるのは仕方がなかった。だって、お母さんが僕を愛していたのはお父さんの娘だからという理由だけだったんだ」

「恵里……」

「毎日のように行われる暴力を振るわれながら、僕のせいでお父さんが死んだと言われ続けた。確かにその通りだし、自分の不注意が父親を殺したんだから、お母さんに言われるまでもなく誰よりも、そう信じていた。だから、お母さんに僕なんか生まれてこない方が良かった。と、言われた時は思わず納得したよ。そんな日々にひたすら耐えた。何時か、罰が終わったら優しいお母さんに戻ってくれると信じていたから。でも、違った」

「ど、どうなったの?」

「お母さんはある日、家に知らない男を連れて来たの。ガラが悪く、横柄な態度の屑野郎。その男に甘ったるい猫なで声を発しながらべったりとしなだれかかっていく姿を見せられたんだ。

 あの時は自分の眼を疑ったよ。だって、信じられなかったんだ。お父さんを心の底から愛していたからこそ、自分にあれだけの怒りと憎しみをぶつけていたはずだったのに。しかもそいつ、幼い僕に性的な目を向けてくるんだよ? ちょうどユーリちゃんみたいな年齢か少し上の時かな」

「うっ」

 

 ユーリちゃんは平気そうだけど、たまに沙条君もそういう感じで見ている気がする。そう思うと恵里と沙条君の相性は最悪なのかな? 

 

「屑野郎が家に住むようになって、毎日身体を這い回るような気持ち悪い視線にさらされながら、今まで以上に息を殺すようにして過ごしたんだ。それでも、アイツの言動は徐々にエスカレートしてきたから、僕は自分を〝僕〟と呼び、髪を乱暴なショートカットにしたの。女の子として見られなければいいと思ったけれど、それでもアイツはお母さんが夜勤の時に襲ってきたの。幸い、何時襲われても悲鳴を上げて助けが来てもらえるように備えていたから助かった」

「凄いね。鈴だとそんな事できないよ。そのまま襲われてたかも」

「僕がこんな性格になったのは間違いなくアイツ等の影響だね」

「それで警察に逮捕されてめでたしめでたしになったの?」

「そうなれば良かったんだけど、結果は最悪だった。お母さんは僕が誘惑したと言って暴力を振るってきたんだ。お母さんにとって、僕は自分の男を奪っていく憎い泥棒猫でしかなかったの。にゃ~ってね」

「恵里……」

 

 不謹慎にも恵里のにゃ~が可愛いと思った。こんな時なのに。ごめんなさい。

 

「こんな事があって、母は僕を絶対に愛さない。昔の優しい母に二度と戻らない。昔の穏やかな姿ではなく、眼前の醜さに溢れた姿こそが、母の本性だと理解した。だから、僕はこの時に壊れたんだ。鈴、知ってる? 夢や希望がなくなった子供がどうするか……」

「まさか……」

「お母さんの傍で死にたくなかったから、ふらふらと歩いて大きな川をみつけたの。そこで死のうとした時に光煇君が声をかけてきたんだ」

「それで?」

「その時、光煇君が無理矢理僕から話を聞き出した。今の鈴みたいにね」

「一緒にしてほしくないけど、否定はできないや」

「ふん。それで言ってくれたんだ。──もう一人じゃない。俺が恵里を守ってやる」

「ちょ、それって……」

 

 全然守れてないよね! 凄く病んでるよ! 

 

「心の底で、ずっと誰かからの愛情を求め続けた幼い僕にとって、友達まで作ってくれた光煇君はまさに白馬に乗った王子様だった。僕だけの王子様……でも違った。光煇君にはすでに特別がいて、僕はその他大勢の一人だった。他のクラスメイトだって、光煇君に言われたから話しかけてきただけ。結局、僕の居場所はなかった。ねえ、鈴……」

「な、なに?」

「おかしいよね? 

 光煇君はもう一人じゃないって言ってくれたのにね? 

 光煇君は守ってくれるっていったのにね? 

 僕は光煇君の特別だよね? 

 ねぇ、どうして同じ言葉を僕以外のその他大勢にも言っているのかな? 

 ねぇ、どうして、僕だけを見てくれないのかな? 

 ねぇ、どうして、今、こんなに苦しいのに助けてくれないのかな? 

 ねぇ、どうして、他の女にそんな顔を向けるのかな? 

 ねぇ、どうして、僕を見る目が〝その他大勢〟と同じなのかな? 

 ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして…………どうしてなんだよぉぉっ!!」

「知るかぁっ! そんなの鈴が知る訳ないよ! でも、友達になりたいから答えてあげる! 天之河君にとって恵里なんかその他大勢でどうでもいい存在なんだよ! 既に放り捨てた過去の存在じゃないの! 知らないけれど! きっとアクセサリーとかそんなのなんだよ! 飽きたら仕舞われて、また必要になったら出してつけるの! 生き物を拾ったらちゃんと世話をしないといけないんだよ! 女の子は寂しくて壊れるんだって鈴は理解したよ!」

 

 うん、恵里は遅すぎたんだ。せめて鈴と出会ったのがその時ならまた違ったのかもしれない。でも、鈴はそれでも諦めない。だって、最後かもしれないんだから、我儘になってもいいよね? 

 

「違う! 違う違う違う! 僕は! 僕の居場所は!」

「恵里の居場所は鈴の隣だよ! 何分かりきったことを言っているの! とっくに居場所を持ってるし、恵里は鈴の特別な親友だよ!」

 

 恵里を抱きしめて、額を合わせて真正面から瞳を覗き込みながら言ってやる! 

 

「鈴だって光煇君に言われて話しかけた!」

「残念でした! 鈴はかおりんの友達になって、そこで恵里を紹介されたんだもん! だいたい、話しかけるように言われたからって、それってあくまでもきっかけでしかないんだよ! それからずっと友達として、親友として過ごしたのは鈴の意思なんだから、恵里にだって否定は絶対にさせないからね!」

「嘘! 嘘よ! だって、鈴は僕の事を渾名で呼ばないじゃないか! 香織や雫みたいに!」

「それは恵里が嫌だって言ったからだよ!」

「あれ? そうだった?」

「うん。えりりんって言ったら、中学生の時に止めてくれって泣きながらお願いされたの。だから、名前で呼ぶようにしているんだよ?」

「そう……だった。うん、確かに。だってえりりんなんて名前はない」

「え~可愛いと思うのに~」

「小学生ならともかく中学生でそれはない」

 

 鈴が不貞腐されて頬っぺたを膨らませると、恵里が笑ってくれた。

 

「なんだ。馬鹿みたい。僕って空回りばっかりしてたんだ」

「そうだよ? だから、友達に……ううん、親友に戻ろう?」

「駄目だよ」

「なんで?」

「もう引き返せないんだ」

「どういうこと? 確かにここから生きて帰れる可能性は低いけれど……」

「それもあるけれど、僕はユーリを殺した」

「え? 恵里?」

 

 ユーリちゃんを殺した? 何を言っているの? アレは爆発で……

 

「ずっと僕を警戒して監視していた邪魔な彼女を沙条君と南雲君、二人も纏めて始末するために残しておいたバッテリーを置いておいて、あそこに居た骨のモンスターを操って橋に投げ込ませた」

「でも、あの時は始末していたはず……」

「うん。だから、僕が呼び戻して死体の、骨の山に隠しておいた。結果は見ての通り、ユーリは死んであの二人は助かった。これ以外にも色々とやったよ? 例えば鈴のお菓子を盗んだのだって僕だよ。鈴の評判を落として、殺した後でも問題なく周りを操れるようにしたの」

「え? でもしずしずとずっと一緒にいたって……」

「死体を操れるんだよ? 偽メイドを作ったり、霊を憑依して操らせることだってできるんだ。本当は鈴が寝ている間に霊を憑依させてやろうと思ったけれど、常に香織か誰かがついていたからできなかった」

「お菓子を盗んだのは恵里の暗躍!」

「他にも買い物デートをばらして四人にヘイトを集めて、檜山が南雲を殺すように誘導もした」

「うわぁ、うわぁ~」

 

 でるわでるわの暗躍内容。元の世界でもかなり色々とやって恵里の邪魔になりそうな女子達を排除していたみたい。

 

「それで最後に鈴を殺そうとした。沙条に妨害されて僕まで落ちて結局は死ぬだろうけどね。わかったでしょ? もう遅いんだよ」

「遅いって誰が決めたの?」

「え?」

「我儘になった鈴を舐めないで。その程度、受け入れてあげる! だから、改めて親友になろう?」

「……ばっかじゃないの! ありえないんだけど! どこの世界に自分を殺そうとした奴と親友になる奴がいるのよ!」

「ここにいるよ!」

「阿保らし……わかった。親友になってあげてもいい。でも、これだけは答えて」

「何?」

「結婚したりして結局、僕の居場所じゃなくなるよ? それとも鈴は一生、僕と一緒に居てくれるの? それならなってあげてもいいけど」

「うっ……それは無理かな。鈴も結婚して子供が欲しいとは思うし」

「ほら、無理じゃない」

「そこは前向きに考えようよ。もしかしたらいい方法があるかもしれないし!」

「まあ、保留にしてあげ──っ!?」

「恵里?」

 

 恵里が鈴を突き飛ばした。不思議がっていると、突き飛ばした恵里の腕が緑色の光をした円形の刃で鈴の結界ごと斬り落とされた。

 

「あっ、ぐぅぅぅっ!」

「恵里!」

「いいから逃げて!」

「嫌!」

 

 急いで結界を展開し、恵里の傷口にも結界を展開して止血する。そして、襲撃してきた奴を探すと、そこに奴はいた。2メートルを超える白い毛皮の巨大な熊。爪は緑色に光っている。どう見てもやばい存在で、鈴達ではかないっこない。

 

「鈴が足止めするから、恵里は逃げて沙条君に伝えて二人でできるだけ生き残って」

「駄目。残るなら僕が残る!」

「それこそ駄目だよ。引き留める適任は鈴だよ。だから、お願い……」

「鈴っ!」

 

 鈴は走って結界を熊に展開する。相手は軽く腕を振っただけで結界を破壊してきた。だから、何枚も展開して、こちらに引き寄せてできる限り逃げる。でも、熊はまた緑の環を恵里に放つ。急いで障壁を展開して二つはどうにか軌道を変えたけれど、一つは恵里の片足を切断した。

 すぐに止血の結界を展開した後、熊に石を投げつけてから逃げる。熊は恵里を一瞥した後、すぐにこちらへと追ってきてゆっくりと距離を縮めていく。まるで嬲って遊んでいるみたい。でも、それでいい。

 そのまま逃げるけれど、何度も何度も障壁や結界を展開して魔力は底をついて限界がきた。それに壁際に追い詰められていて、もう逃げ場はない。それなのに熊は油断なく、まるでこの場からでも逃げられるんだろうというかのように何時でも攻撃できるようにしながら接近してきた。

 背中を壁に預けながら、鈴は座り込む。近付いてくる熊の怖さに思わず漏らしてしまう。でも、どうせ死ぬんだから、もうこれでいいか。最後に恵里と親友に戻りたかったけれど。

 

「え?」

 

 そう思って目を瞑ったら、熊は鈴を掴んで持ち上げた。そして、足から口にいれてがぶりと噛みついた。最初は痛くて、次に熱くて、寒くなっていく。

 

「やっ、やめてっ、やめてぇぇっ! あっ、あぁっ、あぎぃいぃぃっ!! 痛い痛い痛いぃぃぃっ! いやぁぁぁっ!」

 

 余りの痛みと恐怖。それにわざといたぶるようにゆっくりと下から食べられる恐怖に鈴は悲鳴を上げ続けるしかない──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっ、やめてっ、やめてぇぇっ! あっ、あぁっ、あぎぃいぃぃっ!! 痛い痛い痛いぃぃぃっ! いやぁぁぁっ!」

 

 谷口の悲鳴で意識が覚醒する。身体中が痛いのを我慢して目を見開くと、周りがほとんど何も見えない。どうにか手探りで探すと、デバイスの残骸がみつかった。

 もうチビットのユーリもいない。それでも断続的に聞こえてくる谷口の悲鳴を頼りに移動する。やけになった中村が谷口に手を出した可能性がないでもない。

 声が聞こえた方へと移動すると、中村が地面を這いずっている姿がみえた。暗い中で地面を片手を使って必死の形相で這いずっている。彼女の片手と片足がそれぞれ一つずつ無かった。

 

「っ!」

 

 こちらへ気付いた中村が必死に見詰めてくる。彼女は進んできた方を向く。おそらく、この先に谷口が居るのだろう。

 中村の姿からろくでもない事が起こっているのは確実だ。襲っているのは中村ではなく、モンスターだったのがある意味では幸いかもしれない。

 

「沙条! お願い、助けて……」

「断る。お前は何をしたのかわかっているのか?」

「わかっている! だから僕じゃない! 鈴を助けて!」

「お前が殺そうとしたんだろう?」

「それでも、頼むから鈴を助けて! 僕にできる事ならなんだってする! 奴隷にだってなるし身体だってあげる! だから、だから僕の、本当の居場所になってくれる鈴を助けて! 罠じゃないかって疑うのもわかる! それでもお願い!」

 

 必死に頭を地面に擦りつけてお願いしてくる中村の姿を見る限り、嘘を言っているようには感じない。

 

「嘘じゃないだろうな? なんでもしてくれるのか?」

「当たり前だ! 本当になんでもしてやる!」

「そうか。なら、その依頼を受けてやる。ギブアンドテイクだ」

「ありがとう……」

 

 中村を抱き起して急いで移動する。その先は地獄だった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 急いで駆け付けると、そこには白い毛皮で、2メートルを超える巨躯の熊のようなモンスターが存在した。足元まで伸びる長い腕で谷口を持ち上げて足からゆっくりと食べていた。

 悲鳴を上げている谷口の表情は苦痛と絶望に塗れていて、食べられながらも泣きながら障壁を何度も張ってなんとか出血を防いでいる。だが、熊のような奴はなんでもないかのように気にせず破壊している。そもそもこのような状況ではまともな障壁を展開できない。

 熊は谷口を楽しそうにみつめながら、ゆっくりとゆっくりと時間をかけながら食べている。まるで憂さ晴らしをするかのようにだ。

 

「ああ、くそっ!」

 

 どう見ても勝てない。谷口の障壁や結界を紙のように切り裂き、破るような化け物だ。普通の方法では勝ち目がない。だったらやるしかないだろう。起死回生に賭けるしかない。

 スマホを確認すると召喚キャパシティーが上昇していた。レベルが6ほど上昇しているから、キャパシティーも増えたのだろう。

 今のキャパシティーは10/70で、ユーリの召喚が継続されているのがわかる。ユーリを再召喚して倒す事はできない。

 ユーリの部分は次に召喚までの可能な時間がかかれているし、そもそもユーリの実力なら瞬殺される。もうどうしようもない。

 

「どうにか、できそう?」

「やるだけはやってみるが、期待はするなよ」

「期待するよ」

 

 無茶を言ってくる中村に何かを言ってやりたいが、どう考えても召喚ガチャに賭けるしかない。やはり最後に頼るのはガチャだ。分の悪い賭けになるが、それしかない。更に間が悪い事にガチャにできる金はほぼ全て地上だし、魔力はまったく足りない。それでも谷口を助けるためにはやるしかない。ここに至っては俺にやれる事はたったの一つだ。

 

「発動。サクリファイス」

 

 ガチャで手に入れたスキル・サクリファイスを使用する。サクリファイスは低ランクのせいで俺自身しか代償を支払えない。だから、支払う代償は俺が生存できる最低限の物以外だ。どうせこのまま死ぬのなら、男らしく女の為に使うというのも悪くない。

 

「代償は恐怖、痛覚、味覚、一つ肺、片目、片腕、脂肪!」

 

 指定した部分が赤く光り、次の瞬間には激痛が襲い掛かってくる。片方の視界が完全に消滅して真っ黒になり、腕もなくなった。代わりに強大な魔力を生み出す事に成功した。

 

「沙条、それは……」

「無傷で勝てるわけないからな。それよりも、中村は降霊術師だよな?」

「そうだよ。それがどうしたの?」

「なら手伝え。王子様二人でお姫様を助けてやるぞ」

「乗った! 何をすればいい?」

「痛いが我慢しろ。それと俺に続いて詠唱しろ!」

「わかった!」

 

 中村と身体をくっつけ、互いに無くなった腕を合わせて傷口を接触させる。本当は粘膜接触でもいいから、キスとかでもいいが、ここは血と肉で代用する。詠唱をしないといけないからだ。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 中村が痛みに我慢しながら同じ呪文を唱える。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する──―Anfang(セット)

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する──―Anfang(セット)

 

 次第に詠唱がシンクロして同時になる。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善となる者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 この熊に勝てるサーヴァントなら誰でもいい。いや、勝てる存在なら例えモリアーティー教授ですら許容する。だから──

 

「「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──―!」」

 

 ──谷口を、鈴を助けられる奴を寄越せ! 

 ──鈴を、親友を助けられる奴を寄越せ! 

 

 

 召喚魔法が起動し、ガチャが始まる。熊はこちらに気付いて振り変える。その手に握られた谷口はボロボロだ。何時死んでもおかしくない。

 しかし、神様は絶望しかくれない。サクリファイスを発動してもゴミアイテムしか召喚されない。嫌がらせのようにC黒剣*5、Cまるごしシンジ君*5、C桜の特製弁当*4、SRスキル・魂喰い*1、Rスキル・優雅たれ*1、N小石*15、C謎の仮面*7、Cただの布*6、R騎士剣*1、R若返りの霊薬*2……そして、ラスト。虹にはならずに絶望した。最後はSR血塗れの拷問日記だった。

 

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 世界は灰色に代わり、迫ってきていた熊の爪はすぐ近くにある。不思議に思って隣を見ると、中村も絶望した表情で止まっている。

 

「あれ? 自分の身体を捧げれば願いを叶えるとか、そんなふわふわした幻想を本気で信じていたの?」

 

 声が聞こえて振り返る。そこには金色の綺麗な髪の毛はショートにし、綺麗な翡翠の瞳は俺を見ている。服装は薄い黄緑のワンピースに白いフリルがあしらわれた可愛らしい恰好をした純粋無垢で無邪気な少女が座っている。それも無数の死体でできた山の上にだ。

 残酷な所業を平然とやってのけている魔術師然とした少女であり、『Fate/Prototype』の黒幕にして、前日譚『蒼銀のフラグメンツ』の主人公。

 産まれながらにして根源に接続していて、恋を知って少女となってしまった全能。決して全能の少女ではなく、あらゆる全てが可能で、あらゆる全ての事象を知り、あらゆる全てを認識する機能を持つ、文字通りの全知全能。

 魔術結界などを無視した空間転移、単独でサーヴァントすら倒せる戦闘能力、並行世界への干渉など、あらゆる事が可能だが、自分に関わる未来を見ることは意図的に避けている。

 また根源には接続してるものの魔術回路の本数自体は少なく出力には制限があるのが救いと言われている、

本当にガチでヤバイ奴だ

 

「沙条、愛歌……」

「そうよ、沙条真名」

「召喚、できたのか?」

「違うわ。私が貴方如きに召喚できるとでも?」

「無理だな」

 

 ぺろりと、血がついた指を舐め取る沙条愛歌。その姿は神秘的だ。

 

「同じ名前のよしみとして私と契約しない? そうしたら助けてあげる」

「契約か? 助けてくれるのか?」

「いいえ。私は力を上げるだけ。助かるかどうかはあなた次第」

「何が望みなんだ? 俺に支払える事は……いや、あるな。アーサー・ペンドラゴン。それもプロトタイプか」

「ええ。貴方が代価として支払うのはアーサーを召喚して私に引き渡す事。もしくは……」

「もしくは?」

「貴方が私の王子様になるか、よ」

「俺が王子様に?」

「理想はもちろん、アーサーよ。だから、そうなるように育てるのもいいと思うの」

「ちなみにユーリ達はどうなる?」

「私だけの王子様に他の女はいらないの。だから、殺すわ。いえ、もったいないから生贄にしましょうか?」

 

 やばい。沙条愛歌に勝てる奴はユーリの全力くらいか? それでも勝てる可能性がある程度だ。

 

「アーサーを渡す方向で前向きに検討したいが、召喚できるかは運だ。ガチャの結果だって見渡せるのか?」

「無理よ。本当の私ならともかく、今の私は皮と力を似せた紛い物。だから、同じく紛い物の王子様で我慢してもいいと思っているの」

「そういうことか」

「でも、安心して。私だって運が絡んでいる事はわかっているの。だから、私を楽しませてくれるだけでもいいわ。たまに身体を貸してくれるだけでもいいし。ただ、アーサーが出たら絶対にもらうわ。あなたが私だけの物として過ごすのなら別にいいのだけれど」

 

 者じゃなくて、物だろうな。感覚的に。

 

「身体を貸すというのはいいが、他の者に迷惑をかけないのならいい。もちろん、自衛行動を除く場合だが……」

「それでいいわ」

「よし、アーサーを渡すので力を貸してくれ。できるだけ楽しめるように協力する」

 

 すまないアーサー。だが、沙条愛歌がこうなった原因はお前にもある。責任を果たしてくれ。俺は嫌だ。普通に受け入れてくれるのならいいが、アーサーのような感じにされるのは俺が俺でなくなる。かといって、力を借りないとここで死ぬ。俺だけならまだしも、谷口や中村も死ぬからな。

 

「いいでしょう。じゃあ、私の力を貸してあげる」

「ふふ、これで俺も戦える」

「無理よ」

「え? 力をくれるんだよな? 沙条愛歌といえば全知全能……」

「そうね。でも無理よ。貴方は召喚以外の適正は一切ないの。例えば銃を撃っても相手は掠り傷を負う程度。これは剣でも同じよ。致命的に他の才能はないわ。ただ、召喚する器としては素晴らしいほど特化しているわ。もっとも、魔力がろくにないからただの器でしかないけれど」

「なん、だと……」

「最弱だから、そこら辺のモンスターに簡単に殺されるわ。もっとも、召喚士としては何も間違っていないのだけれど。藤丸立香みたいに。まあ、彼女の場合は魔術礼装とかで戦えるけれど、あなたは無理よ。だって、才能がマイナスだもの。契約する器だけは広いただの入れ物よ」

「くそぉ!」

「それで、どうするの? すぐに行動しないと二人が死ぬわよ? それともアンデットにして操る? それはそれで面白いでしょうけれど」

「すぐに助けてくれ」

「契約成立。こういう場合は……そうね。私と契約して魔法少女に……いえ、召喚機になってみない?」

「答えはYesだ。ちくしょうめっ!」

 

 答えた瞬間、胸を貫かれて彼女が俺の中へと入ってくる。そして、肉体が作り変えられる気持ち悪い感覚が襲ってくる。

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間。視界の色が元に戻り、時間が動き出す。同時に身体から馬鹿みたいな魔力が溢れてくる。ご都合主義のようでご都合主義ではない。ただの空売りをしただけだ。沙条愛歌という化け物に取り立てられていく人生が始まる。

 

「ああ、それでも……いい」

 

 ガチャを回せて二人が生き残るのなら、安い買い物だろう。そして、ただのノーマルで小石だった無価値な物が巻き戻るかのように渦が現れ、その中から光が溢れ出してきて一瞬で虹色が混ざった光の塊へと変化していく。そして、それが弾けた瞬間、声が聞こえてきた――

 

「わっはっは! わーはっはっは! 来たよ来たよついに来たとも! クラス、セイバー! アストルフォ! ホントホント、ホントに最優のセイバーだってば! 何だったら出るとこ出てもいいから! コホン。ともかくよろしくね、親愛なるマスター! 引かれたのにずっと待ちぼうけだったんだから、活躍するよ! それに男気を見せてもらったからね! ボクこそがキミの剣だ(たぶん)。とりあえず、アストルフォ・セイバーここに推参!」

 

――虹色の光の塊から出てきたのはピンク色の髪の毛にうさ耳をつけた美少女。しかもメイド服を着た状態。沙条愛歌ブーストがかかっているのだろう。まあ、第二はともかく初期は痴女……いや、男だから別の物になるか。そう、アストルフォは美少女でも男である。つまり、男の娘という奴だ。

 

「この子、勝てるの?」

「たぶん!」

「アストルフォ、谷口を助けてくれ!」

「任せて! といっても、ボクの剣技が通じると良いんだけど……大丈夫かな、大丈夫だろ!」

 

 突撃したアストルフォは熊の放つ緑色の環を剣で斬り落とし、接近したところで斬ろうとする。しかし、熊は谷口を盾にしてくる。

 

「うわわ! 卑怯だぞ! マスター、これ一人じゃ結構大変かも!」

 

 アストルフォが慌てて下がり、熊の追撃を回避する。どうにかしないといけないが、召喚するための触媒と魔力は……いや、魔力はある。問題は触媒だ。使えそうなのはあるな。幸い、アストルフォの召喚キャパシティーは100.つまり、オーバーしているが、愛歌から貰った魔力で代用しているので気にしないでいい。質だけはいいしな、愛歌様の。

 

「血塗れの拷問日記と魂喰いだ!」

「物騒な奴みたい?」

「これでいい!」

 

 まだ愛歌ブーストが効いている間に召喚する。彼女が召喚されたら助ける事はできる! 決してエリザベートとかはいらない。今は居られても困る。可愛いけどエリはいるのだ。

 

「来い。聖槍十三騎士団・黒円卓第八位。魔女の鉄槌(マレウス・マレフィカルム)ルサルカ・シュヴェーゲリン……いや、アンナ・マリーア・シュヴェーゲリン!」

 

 魔法陣が起動して赤髪の学生服を着た少女が新たに召喚される。見た目は十代前半の美少女だが、ドイツ古代遺産継承局アーネンエルベの初期メンバーであり、騎士団に入る前から魔道に傾倒していた生粋の魔女。ナチス時代からは最低でも生きている。

 

「やれやれ、まさかこの私を指定して召喚するなんてね。どう考えてもヴィルヘルムやシュピーネ。ムカつくけどメルクリウスとか、ハイドリヒ卿とか呼びだした方がいいわよ?」

「無理だ。絶対に無理」

「そう? まあ、いいけどね。それで、オーダーはこいつらの拷問でいいのかな?」

「いや、あの熊だけを頼む。それと他は全員味方だから危害を加えないでくれ」

 

 アストルフォが十全に実力を発揮できたらなんの問題もないんだが、俺の実力が愛歌ブーストありで低すぎるのでかなりステータスダウンを受けているはずだ。

 

「兎さん。時間を稼いでくれるかしら?」

「任せて! シャルルマーニュ十二勇士の名に賭けて時間稼ぎくらいしてあげる!」

 

 俺達の前に立ち、緑色の環を剣を振るって斬り落としていく。その間にルサルカが指を鳴らして服装を第二次世界大戦でドイツに使われていた親衛隊の制服へと魔術で変える。

 

In der Nacht, wo alles schläft(ものみな眠るさ夜中に)Wie schön, den Meeresboden zu verlassen.(水底を離るることぞうれしけれ)

 

次の瞬間。ルサルカの周りに無数の赤色の文字列が複数の環となって実体化し、彼女の周りを周回する。同時にもルサルカも楽しそうに踊り出す。

 

Ich hebe den Kopf über das Wasser,(水のおもてを頭もて)Welch Freude, das Spiel der Wasserwellen(波立て遊ぶぞたのしけれ)

 

目の前に巨大な赤色の魔法陣が現れ、無数の光を発していく。熊の方もルサルカが発する魔力と作り出した魔法陣を見て気付いたのか、すぐに攻撃をして詠唱を妨害しようとしてくる。

 

「させないって! 君の相手はボクだからね!」

 

緑色の環を斬り伏せ、接近したアストルフォ。その前に熊は鈴を置いて盾にする。谷口が悲鳴を上げて目の前に迫る切っ先を見詰め、泣き叫ぶ。

 

「いやぁぁぁっ!!」

 

谷口に命中する直前、アストルフォが剣を引きながらその剣を解けさせて振るう。すると刃の部分が分裂し、ワイヤーで繋がれた等間隔に鞭のように変化して谷口を避けて熊の身体を軽く斬り裂くが倒せてはいない。

 

「硬いね!」

 

アストルフォの持つ剣は蛇腹剣(じゃばらけん)だ。その元となったのはウルカヌスが自身の妻ウェヌスがマルスと浮気をした際にその現場をおさえた網だ。それを紆余曲折ありアストルフォが手に入れた。その網がアストルフォがセイバークラスに変化したさいに蛇腹剣(じゃばらけん)へと変化した物だ。鈴さえいなければアストルフォでも倒せる。

 

「|Durch die nun zerbrochene Stille, Rufen wir unsere Namen《澄める大気をふるわせて、互に高く呼びかわし》Pechschwarzes Haar wirbelt im Wind(緑なす濡れ髪うちふるい)Welch Freude, sie trocknen zu sehen.(乾かし遊ぶぞたのしけれ!)

 

アストルフォを見ている間にルサルカが詠唱を完成させた。ルサルカが使用しているのは永劫破壊(エイヴィヒカイト)という魔術だ。*1

 

Briah―(創造)Csejte Ungarn Nachatzehrer(拷問城の食人影)

 

 ルサルカの使役する影の怪物、食人影(ナハツェーラー)に停止能力を持たせたのが拷問城の食人影(チェイテ・ハンガリア・ナハツェーラー)。追いつけないなら先に行く者の足を引っ張りたいというルサルカの渇望を具現化したもので、影を踏んだ者の動きを完全に封じる。つまり踏んだら終わりだ。*2

 食人影(ナハツェーラー)は己の影に他者の魂を込める事で影を怪物と化し、それを操作する魔術だ。ルサルカは永劫破壊(エイヴィヒカイト)の魔術によって殺した者の魂を自らに吸収して力を蓄え、その魂を食人影(ナハツェーラー)に変えているということだ。

 

「これ、ボクが当たったらどうなるの!」

 

魔法陣から無数の闇が、影人が現れて熊へと襲い掛かっていく。多勢に無勢で谷口を盾にしようとも拷問城の食人影(チェイテ・ハンガリア・ナハツェーラー)は容赦なく谷口にも触れる。その瞬間、谷口は停止した。後はもうルサルカ次第になる。

 

「そりゃ、止まるわよ」

「うん、ライダー殺しだね!」

「そのライダーがよくわからないけれど……はい、動きが止まったわよ。後は……」

「任せて! 僥倖の拘引網(ヴルカーノ・カリゴランテ)! は、撃てないんだった! なら、ふつうにえい!」

 

 熊に飛び乗り、口から剣を突き刺して喉や胃からズタズタにして始末するアストルフォ。もう大丈夫そうなので俺は中村を置いて飛び出す。谷口を助け出そうとするが、掴んでいる手が硬すぎる。

 

「じゃあ、ボクが外すね」

「私は非力だからパス」

「嘘だよね?」

「嘘だろうな」

 

 ルサルカはステータス的にはアストルフォと同じか、それ以上だろう。なにせ喰らって蓄えている人数が千じゃ効かないはずだ。本人も大量虐殺による魂食いで反英雄とされてもおかしくない。軍隊が戦場に親衛隊の服を着た奴がいたら逃げろと言うぐらいだ。

 

「私は非力なの! いいわね!」

「はい! じゃあ、ボクがあけるね~」

「鈴、大丈夫かな?」

 

アストルフォが元気に返事をして死後硬直が始まる前に開いていく。そのタイミングで中村も片足で器用に移動してきた。

 

「ルサルカ、頼む」

 

片腕で抱いた谷口をルサルカに見せる。谷口はルサルカの力によって停止しているから、死にはしない。それよりも中村の方がやばいかもしれない。谷口が停止したので結界が解除されるからだ。

 

「はいはい。代金は高いわよ。出血多量による意識混濁かな」

「マスターを含めて全員が大概の大怪我だよ?」

「そうね。結界で止血してなかったらもう死んでいるわ。これだけの事をされても結界を維持した根性……拷問してみたいかも♪」

 

冗談のように楽しい口調で言っているが、かなりの部分で本気だろう。だから、力を込めて言い聞かせる。

 

「やめてくれ。拷問する相手はいっぱい用意してやる」

「いいわ。私はいっぱい殺して拷問し、足を引っ張れればそれでいいから。私にとってこの世界はボーナスステージみたいなものなんだしね」

 

 そう言って回収した熊の魂を消費し、魔術による回復を行ってくれるルサルカ。谷口達の傷は癒えて死ぬ事はなくなったように思えるが、足や腕の再生はできない。

 

「この二人はまあ、足と腕だから止血すればなんとか生きていけるけれど、問題はマスターね。身体のあちこちが抜けているわ。痛覚を消しているの?」

「痛覚と恐怖、味覚も代償に捧げた」

「そうなると、再生は無理ね。他の何かで代用するしかないけれど、このオルクス大迷宮だったかしら? まともな人が一人も居ない状態に加え、私達を使役するマスターがこれじゃあ、高確率で死ぬでしょうね」

「だよね~。それは困る! ボクはもっと冒険したいしね! よし、決めた!」

「ん?」

「マスター、ボクと一つになろうか! マスターならわかるよね! ジークフリートがジーク君にしたみたいにするんだ! ボクがマスターの身体になってあげる!」

「確かにそれがいいわね。私も手伝ってあげるわ」

 

ルサルカも乗り気のようで、いやらしい笑みを浮かべている。絶対に碌な事にならない。

 

「え!?」

「問答無用!」

 

 アストルフォが俺に抱き着いてきて、そのまま身体の中に入ってきた。そして、ルサルカの魔術によって身体の中が急激に作り変えられていく。愛歌にもされた感触がまたしてきた。こいつらは人の身体を玩具としか思っていないのかもしれない。いや、愛歌とルサルカはその通りだろう。アストルフォの場合は本当に俺のためだろうが、理性が飛んでいるので色々と思考がやばい。

 

『こんばんは! ボクはシャルルマーニュ十二勇士のアストルフォ! マスターの身体を守るために少しお邪魔するよ!』

『ええ、構わないわ。今、死なれたら興醒めだもの。どうせなら手伝ってあげるわ』

『わ~い!』

 

 こんな会話が聞こえる中、俺は意識を失った。嫌な予感しかしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
永劫破壊(エイヴィヒカイト)という名称の由来は世界に渦巻く既知感、すなわち永劫回帰の法を破壊する為に編み出された事からだ。その効果は聖遺物を人間の手で取り扱うための魔術であり、その使用と発動には人間の魂が必要となる。この術を施された者は、魂の回収のために慢性的な殺人衝動に駆られるようになる代わりに、所持している聖遺物を破壊されない限りは不老不死となる。また、人を殺せば殺すほどに魂が聖遺物に回収され、感覚を含む身体能力や防御能力が向上していく。感覚能力も単純な五感の強化だけでなく、霊視による魂の識別や、テリトリーを拡大することで範囲内の人物の気配、呼吸、心音、精神状態の察知などができる。防御能力に関しては特に強化され、回収した魂の数に比例した霊的装甲を纏うことで肉体の耐久度が格段に向上するので、対人武器は最大効率で使用しても一撃一殺が限度であるため、何千人もの魂を纏った肉体に傷一つ負わせられない。普通の人間が想像し得る破壊という意味においては、一発で何千人も殺せる武器でなければ話にならない。聖遺物とは人々から膨大な想念を浴び意志と力を得た器物を指す。その想念は種別を問わず、信仰心や怨念等、どのような形でも力を得れば聖遺物と呼べる物になる。 ルサルカの場合はエリザベート・バートリーが綴った拷問日記となる。そして現在、ルサルカが使っているのは心の底から願う渇望をルールとする異界を作り出す能力だ。心の底から願うといっても、それは常識などを度外視した狂信の領域であることを要し、この領域に達したものは一見理知的でも、根本的に常識とかけ離れた価値観、常識を持つ者が多い。

*2
創造とは永劫破壊の第三位階。名称はBriah(ブリアー)であり、作中の登場人物の殆どが使うのがこれである。聖遺物を用いた戦闘における必殺技を使用可能になる位階である。この位階に達した術者は、心の底から願う渇望をルールとする異界を作り出す能力を得る。心の底から願うといっても、それは常識などを度外視した「狂信」領域であることを要し、この領域に達したものは一見理知的でも、根本的に常識とかけ離れた価値観、常識を持つ者が多い。




奈落、改めて思ったけれど……錬成で罠嵌めないと地獄だな。これ、原作通りの難易度なんですよね。
本当、ハジメ君は運がいい。死ぬ前に錬成壁に穴を開けて逃げ切れて、神結晶みつけて魔物を食べられるようになった。
じゃあ、壁に穴はあけられないし、障壁や結界は簡単に破壊される。スケルトンは役に立たないし、死体はしっかりと食べられているからない。普通の恵里と鈴が落ちたら終わりですね。沙条君が落ちても死ぬだけ。ユーリが居て、代償を支払って限定解除してワンちゃん。
愛歌ブーストがないとアストルフォだけなので、時間切れで鈴が死んでなんとか瀕死で生き残れる可能性が発生する程度。その次の敵はわからない。
やっぱり錬成師はチートだってはっきりわかんだね。



みんな大好きアストルフォきゅん! 一話で召喚成功している最中に呼ばれ、ユーリに割り込まれてずっと待ちぼうけしていました。
アストルフォ「マスターと合体したからもう召喚解除なんてできないもんね!」
TS要素は沙条愛歌に変化するために一応いれております。基本的にありません。沙条愛歌さんは沙条君が死んだら身体を使って蘇ります。それまでは暇つぶしもかねて観察し、アーサーがでるまで大人しくまっています。たまにに現れて遊んだりもしますが、基本的に引き篭もっています。
結論。アーサーさえ与えておけばいい。なお、アーサーの被害については黙認されます。
愛歌ヒロインルート。最低でも愛歌を倒しましょう。瞬間出力の問題でユーリなら勝てるかもしれない。ウイルスプログラムもユーリはすでに対策できていますしね。そもそもウイルスを打ち込む行動したらそのまえに潰されますね。
金髪幼女大戦はユーリが万全じゃないと話にもならない模様。ちなみにアストルフォ剣は38回ででました。それなのに今日、ガチャシミュレーターでやったら二万超えたぜ。☆4はばらきー一枚。
神造兵器とかの概念礼装も弾いたりした。あれ3だけでもやばいしね。


アストルフォは基本的にインストール状態。ルサルカとアストルフォが護衛。鈴達の手足はそのうち治す。
予定では鈴はメルトリリスか、パッションリップか、その両方をインストール予定。これにより両手両足を補完。パッションリップは結界の圧殺イメージ。
恵里は……ルサルカ側ですね。エイヴィヒカイトを覚えるかも。

セイバー・アストルフォ:FGO
真名 アストルフォ
クラス セイバー
性別 男(FGOでは「???」)
身長 164cm
体重 56kg
出典 シャルルマーニュ伝説
地域 フランス
属性 混沌・善
ILLUST 近衛乙嗣
レア度 星5 HR SSR
CV 大久保瑠美
召喚キャパシティー:100。それ以下になると実体化できず、身体の中で待機することになる。

ルサルカ・シュヴェーゲリン:『Dies irae』のキャラクター
CV:いのくちゆか(CS版)/木村あやか(PC版)
身長:146cm 体重:34kg 血液型:B型 階級:准尉
B:75cm W:50cm H:72cm
序列:第八位
ルーン:束縛
魔名:魔女の鉄槌
大アルカナ:死神
生年月日:1751年11月18日
占星術:天蠍宮
位階:創造
発現:覇道型
聖遺物:血の伯爵夫人
武装形態:事象展開型
レア度:SR (殺して吸収した魂の数によって変動する)
召喚キャパシティー:80
単独顕現持ち。魂を消費する事で召喚キャパシティーをオーバーしても存在を実体化できる。

熊さん撃破でレベルが上がったのでルサルカの維持は出来る模様。アストルフォは維持できません。



清水君ヒロインアンケート 人になるます

  • 波の鳥 フ
  • 謳の鳥 コ
  • 空の鼠 ク
  • 深海のナニカ レ

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