暇つぶしにどうぞ。
頭空っぽにして読んでください。
第一話:日常
「おにいちゃーん!」
「おっと、美代。どうした?」
「どうしたじゃないよ!もうあと少しで夜になっちゃうよ?」
家の近くの山で日課の鍛錬をしていた最中に背後から声を掛けられ、振り向くと小さくて可愛い俺の自慢の妹が飛び込んできた。それを踏ん張って受け止め抱きかかえる。妹が満面の笑みでこちらに抱きつきながら話す姿は大変可愛らしい。
どうやらそろそろ夜になる時間になってきたから俺を呼び戻しに来たらしい。
「あ、本当だ。つい熱中して時間忘れちゃうな……ありがとうな美代。迎えに来てくれたんだろ?」
「えへへ、そうだよ!あ、お母さんが火にくべる為の木を何本か持ってきてほしいって!」
「わかった。んー……三十本くらい拾っとけば大丈夫かな」
「あとねあとね?今日もおにいちゃんと一緒に寝たい!」
「えぇ?最近はずっと一緒に寝てるじゃないか。母さんじゃなくていいのか?」
「今日はおにいちゃんがいい!」
「わかった。一緒に寝ようか」
「やったー!」
こういったことでも全力で喜ぶ妹の姿につい口元が緩む。
母さんや父さんが仕事や家事で手が離せないときはいつも俺が妹の遊び相手になったり一緒に寝たりしたからか、かなり懐いてくれている。
前世でも妹はいたが、そのときは喧嘩ばっかりで碌に会話もしていなかった。だから今生は前にできなかった分甘やかしたり構ってやりたくなる。それでなくても俺が構うと嬉しそうに頬を緩めて嬉しそうに笑うのだ。その姿を見るとこちらまで嬉しくなってくる。
……そう、前世ということからも分かると思うが俺は一度死んでいる。死んだ前後の記憶は無いけどそう判断した。俺は前は普通の平凡な大学生だった。そんな俺がある日いつの間にか人生さよならまた会いましょうして、気付いたらこの世界のどこかの農村に生まれ落ち、この世界に転生したのである。ただこの世界がどういった世界かは全然分からない。ただ並行世界に移動しただけの可能性もあるし、過去に転生した可能性もある。
初めは前世の記憶は無く、物心ついた頃には農作業の手伝いをしたり村の子たちと遊んだりして楽しく暮らしていた。決して裕福ではなかったが穏やかで平和な生活に不満は無く、あと少しで生まれてくる下の子を楽しみに待ちながら家族と幸せに暮らしていたのだ。
────だが。
五歳の頃、畑仕事を手伝おうとして父さんの真似で畑を耕そうと鍬を振りかぶると、流石に重たくて鍬に体を後ろに持っていかれてしまい、そのまま頭を柵に思い切りぶつけてしまったのだ。
『いたぃ……!痛い痛いぃ……!なに、これ……!』
『良生!?良生しっかりして!!あなた!』
『あぁ!良生を町に連れて行って医者に見せてくる!』
持っていた鍬を落として俺自身もその場に蹲った。俺の異常な痛がりように両親は慌てながらも隣町まで俺になるべく負担がかからないよう注意しながら横抱き、所謂お姫様抱っこにしながら連れて行ってくれた。俺はその道中、痛みや頭の中に流れ続ける映像にひたすら混乱しており、父さんの呼び掛けにも答えられず眠るように気絶してしまったのである。
そうして起きた時には前世の記憶を全て思い出して『僕』が『俺』に上書きされていた。記憶がごちゃごちゃして混乱すると思ったが、そんなことはなく漠然と俺は記憶の全てを理解して受け止めていた。気絶している間に脳が記憶を整理したんだろう。
医者に診察されている間もどこか上の空で、二、三日の間は心ここに在らずといった感じでずっとボーっとしていたが、流石に四日も経つとここが現実だということに気付かされる。
そうして気付いた時に前世のことを思い返して家族や友達にもう二度と会えないことや、漫画を読んだりゲームをもう永遠に出来ないということを考えていると涙が勝手に出てきて泣き出してしまい、何とか抑えようとしても全然涙は止まってくれず、家族に心配をかけまいと声を抑えて泣いていたが母さんに気付かれて「大丈夫、大丈夫だからね」と俺を安心させるために抱きしめて優しく背中を叩いてくれた。そして俺は泣き疲れて眠るまでひたすらに泣き叫び続けた。
……いやぁ、思い出すだけでもあれは恥ずかしい……あんなに泣いたのは前世も合わせてもかなり久しぶりだった。
上の空になっていた時の診察の結果だが、特に痛みもなく後遺症も見受けられないので様子を見て何かあったらまた来るようにとのことだった。医者はかなり不思議がっていたけどあの痛みは頭打っただけのものじゃないと思うんでどれだけ検査しても詳しいことはわからなかったと思います、ハイ。
それからというもの前世を思い出したあの日から俺は相当変わったと思う。この世界がどんな世界かはわからないけど平成よりも前ということははっきりしていたから、まずは何があってもいいように身体作りから始めた。近所の子たちと朝から晩まで遊びまくったり、その子たちと遊べないときは体力の続く限り走ったりして体力・持久力を鍛えて、家には木刀とか竹刀はなかったから森の中で拾ったいい感じの棒や家にある斧を使って素振りをしたり筋トレを毎日するようになった。子供のころのトレーニングは成長に悪いって聞いたことがあるけど実際どうなんだろう。やりすぎない程度だったらいいのかな。
雨の日や夜は流石に走りに行けないから父さんと将棋を指したり、母さんに家事を教えてもらったりしていた。最初はどれもこれも上手くはいかなかったけど、繰り返す内にどれも母さんにお墨付きをもらえるくらいには上手くなった。
そしてあれから半年後、俺の妹が生まれた。美しい子に育つようにという願いを込めて美代と名付けられたその子は、母さんによく似ていてとても可愛らしい。
美代はとても元気でよく夜泣きをする子だった。それをあやすのに母さんが起きて寝かしつけるというのが夜中に何回もあり、そのため母さんが寝不足になってしまうので夜泣きがひどい時は俺が、まだマシな日は俺と母さんで家事をするようになった。一年もすれば夜泣きもだんだんと収まっていき、ハイハイが出来るようになってからは色々なところに好奇心の矢印が向くのか、起きている時は誰かが見張っていなければどこで怪我をするかわからないくらいに動き回っていた。ただ家族に抱っこされると安心するのか気持ちがいいのかしがみつきながら寝て大人しくなる。どんなことがあっても可愛いと思ってしまうくらいには、美代は家族の中心になっていた。
あれから二年、女の子たちと花かんむりを作ったり、男の子たちに混じって走り回ったりと元気の有り余る可愛らしくも優しい女の子に成長した。
◆
美代を抱き上げていた状態から肩車にする。そうするといつもより高く見える視界に嬉しそうに声を上げる。
「うわぁー!おにいちゃんやっぱり高いねぇ!」
「父さんに頼めばもっと高いところから見ることが出来るぞ」
「ううん、おにいちゃんがいいの!」
それ父さんが聞いたら血涙流しそうだな……まぁいつかは頼まれるだろう。
そうこうしている内に村に帰ってきた。俺たちが帰ってきたことに気付いた近所の人が声をかけてくれる。
「おう良生!今日も鍛錬か?よく頑張るなぁ!」
「そりゃ頑張らないと家族を守れないし健康になれないからね。第一健康には筋肉が一番!って言ったの岡さんじゃんか!」
「はっはっは!そういやそうだったな!気をつけろよ!」
「はーい!」
岡さんは俺が記憶が戻る前にどうすれば父さんたちの力になれるか尋ねた人だ。今考えれば子供が何でそんなこと聞いてんだって思うが、岡さんはそんな質問にも真摯に向き合って答えて頭を撫でてくれたのだ。その時から俺はより一層岡さんに懐くようになった。村の皆からも慕われているから岡さんの周りには絶えず人が集まっている。今だって子供たちが岡さんにくっついてぶら下がって遊んでいた。
「おかえりなさい、良生。美代も呼んできてくれてありがとうね」
「ただいま母さん。ここに木置いとくね」
家に着くと洗濯物を取り込んでいたのか、母さんが庭で籠を持っていた。
「えぇ。いつもありがとうね良生」
「これくらいのことならいくらでもできるから何でも言ってくれよ」
「ふふ、じゃあ火を起こしてくれない?私じゃあすぐに息が切れてしまうから」
「任せて。父さんは?」
「そうねぇ、そろそろ帰ってくるんじゃないかしら。今日も荷車にたくさんお野菜を積んでいったからきっとほくほく顔で帰ってくると思うわ」
「おかあさん、私は?」
「んー、じゃあ納屋にあるお野菜を取ってきてくれる?」
「はーい!」
こうして家族みんなで平和に楽しく過ごすことが何よりも幸せだった。今生の人生でも波乱万丈なことなんか起きなくていい。平和に暮らして妹が好きな人を見つけてそこに嫁いで幸せになって楽しく平和に寿命で死ぬ。大切な人たちと暮らしてその幸せを守ることが出来ればそれで十分だ。今日も明日も、きっと死ぬまで幸せな生活を願い今を楽しんで生きていくのだろう。
二週間前の本誌は甘露寺さんが頭空っぽな感じで可愛かったですね。
先週は絶望でしたね。
今週はおおっとここでそうきたかーどうなるこれは!?って感じでした。
語彙力ェ……いろいろと語りたいけどネタバレしたくない出来ないこのもどかしさたるや……
本誌が地獄の中を突き進んでいるんで皆のイラストや漫画や二次小説で中和して何とか生存しております。