何度読んでも猗窩座殿の過去辛すぎますわ……
設定こぼれ話意外と長くてビックリしたけど読んでこれホント苦しすぎるでしょ……そういうとこだぞワニェ……
表紙取ってみたら小さい頃の猗窩座殿と恋雪ちゃんで凄く可愛かった。
家を出発してから約四日ほど経った。
あれから俺たちはひたすら東に進み、道中の村や町などで韮崎山への道を尋ねたり、安い宿の場所を聞いたりして進んでいた。途中村に立ち寄れずに夜を迎えてしまった時は御堂に入って夜を過ごしたり、子供の二人旅ということで変な奴に目をつけられたりしたこともあったが、何とか振り切りやり過ごして進んでこれた。
そうやって進んでいる間の暇な時間はこの世界のことを考えていた。鬼、鬼殺隊などの単語や片岡さんの服装から考えるに、俺は『鬼滅の刃』の世界に転生していたんだろう。平和な前世ではあれやこれやと妄想していたが、いざ自分が当事者になるとそんなことを言える状況じゃなくなった。
まずは当面の生存の為に修行。そして生活のための資金稼ぎに鬼殺隊入隊。そうしないとこの世界だとどこにいても鬼に殺されたり餓死すると思う。今の行動指針は俺たちが生きていけるようになることだけど、修行して強くなれたら自分の好きなキャラ達を助ける事を目標にしよう。目標があやふやすぎるかもしれないけどそのくらいの意気込みでやらないと俺は逃げ出したくなると思う。……まぁ妹を守るためにも逃げることは出来ないけど。
原作にあった流れを捻じ曲げると何が起こるかわからない。もしかしたら世界の修正力でとんでもないしっぺ返しが来るかもしれない。……けどそれはその時に考えよう。今うだうだ悩んでても仕方ない。そもそも原作キャラたちが今何歳なのかもわからないから介入のしようがない。全員を助けられるほどこの世界は優しくない。俺が手を伸ばして助けられる命には限りがあることを自覚して、自分に出来る範囲で世界に抗ってやろう。
とりあえず今は余裕が無いから無理だけど紙が欲しい。永遠に覚えていられればよかったんだけど人の記憶はどうしても摩耗していく。だから今のうちに覚えている原作の流れは紙に書き起こしておきたい。嵐山さんの所に着いたら貰えないか聞いてみよう。
◆
「お兄ちゃん……前より笑わなくなったね」
ふと、通りすがりの人に尋ね終わった後に妹が言ってきた。なるべく早め早めに移動していたお陰か、韮崎山にはあと二日ほど歩けば着くらしい。というか、え?俺そんなに笑ってないか?
「え、そうか?俺としては今も笑顔でお礼を言ってたつもりだったんだけど……」
「うん。さっきの人にお礼を言う時も全然笑えてなかったよ。なんていうかー、無理やり笑おうとして顔がプルプルしてた。それに目も……」
「目?」
「目がね、えっとー……そうだ!たまにご飯の時に食べてたお魚に似てる!」
「……そっかー」
要は死んだ魚のような目ってことだよな……ええ、今の俺ってそんなに顔死んでるの?今まで尋ねた人たちが何で引き笑いしてんだって思ってたけどもしかしてそれが原因……?
マジか……精神以上に体がショックを受けてその影響で表情筋と目が死んだのかな……今日宿に泊まれたら鏡で確認しよう……
「でもね、山でたまに見かける石に似ててすっごく綺麗だと思う!」
「石?」
「うん。なんかね、黒くてツルツルしてて尖ってる石だったよ」
石、石か……俺石には詳しくないから分からんけど美代が言うくらいなら綺麗な石だったんだろうな。
「そっか、ありがとうな美代。さて、休憩はこのくらいにしてもうちょっと歩こうか」
「はーい!」
◆
家を出て六日、ようやく韮崎山の麓に到着した。よく見れば建物の側に深緑の羽織を着た誰かが立っている。
「俺は嵐山剛毅という。お前が、片岡が寄越した手紙に書いてあった鬼殺隊入隊を希望する子供で間違いないか?」
歳の頃は四十後半だろうか。それを想像できたのは顔にある少しの皺からだけで、そのくらいの歳にしては覇気や雰囲気が同年代の人たちと比べて全く違う。鷹のように鋭い目、顔についた傷が数々の修羅場を潜り抜けてきた歴戦の猛者を思わせる。
「はい、片岡さんにここに向かえと言われてきました。俺は暁良生といいます。そしてこっちが妹の」
「暁美代です!」
「確認するが本当に、鬼殺隊に入隊するんだな?後悔しないか?」
「後悔なんてしません。ここに来るまでに覚悟は固めました」
顔は強面だけど、俺のことを心配してくれてるのがすごく伝わってくる。やっぱ人って顔だけじゃないんだな!
「……分かった。明日から修行を始める。逃げるも続けるも好きにするといい。逃げても何も言わん。ただし、その時は荷物を纏めて妹共々放り出すことを覚悟しておけ」
「はい!」
「今日は疲れを落とし、明日に備えて早めに寝ておけ」
そう言って家の中に入っていく。家の中を案内されたがこの家は生活をするためだけの場所らしい。余分なものが一切なくこじんまりとした部屋だった。……これからお世話になるんだ。気張っていこう。
そうしてこの日は夕飯を食べ、井戸の水で身を清めてそのまま就寝した。
◆
朝日が昇って間もない時間に俺はいつも目が覚める。この時間から農作業や家事をすることが多かったからすっかり習慣付いていた。
厨に向かうと、既に嵐山さんが起きていて朝飯の用意をしていた。
「おはよう。起きるのが随分と早いな」
「おはようございます。今まで農作業とかをしていたので、それで早く起きるのが習慣になってるんです」
「そうか。では朝餉を食べる前に少し修行をするとしよう。外に来なさい」
「えっ、あ、はい!わかりました」
い、いきなり?こういうのって説明とかから入るんじゃ……とりあえずついて行こう。
言われた通りに外に向かうと、まずは柔軟をやらされる。今までに体を伸ばして柔らかくしようとしたことがなかったからかなり痛い。特に足が。
「いだだだだだだだだだだ!」
「硬いな」
「上半身はともかく下半身はやってこなかったんですよ!痛い痛いそれ以上広げると足裂けますって!」
「人体は俺たちが思っているより頑丈だ。裂けはせん」
「あ゛ぁ゛ーーーーーー!」
「……思っていたよりも深刻だな。毎日やって体を柔らかくしないといらん怪我が増えるぞ」
それは嫌だけどもうちょいゆっくり伸ばしていくとかさぁ!こんな急にガッてやられたら痛いだけだと思うんですけど!
体を強制的にほぐされたことで生じた痛みを堪えながら先を歩く嵐山さんの後に続いていく。
「体をほぐし終わったところでこれからこの山を全力で走って登ってもらう」
「え、この山をですか……?」
指差された山を見上げる。木々が生い茂っていて富士山とまではいかずともかなり標高が高いだろうことが分かる。
「そうだ。この山を……ふむ。今回は修行を始めたばかりだから五往復してもらう。山の中腹に目印になるよう縄を括ってある場所がある。そこまで行けば引き返してこの麓まで戻ってこい。昼までに終わらなければ今日の昼餉はなしだ」
……まぁやらなきゃ始まらないし今この瞬間にも時間が過ぎていってるんだ。無駄には出来ない。それに嵐山さんはやると言ったらやるという凄みがある。だからきっと昼飯を抜くというのもマジだろう。
「言っておくが、あまりサボりすぎると昼までには終わらない程度の距離だ。適度に休息を取りつつ全力で昼までに終わらせろ」
「行ってきまぁぁぁぁぁす!!」
ここでごねたりゆっくりしてる時間なんてなかった!早く行かないと余計に昼までに間に合わなくなる!
そうして勢いよく山に向かって駆け出したのはいいものの、登っていくにつれて吹き下ろしの風がだんだんと強くなってきた。最初はその時だけかと思ってしばらく歩いていたが、時間が経っても一向に風は弱くならないので仕方なくそのまま走り続けることにした。しかし向かい風として吹かれるとかなり抵抗力があって走りづらいし、遅くなるな……
山を登るほど向かい風が強くなって呼吸がしづらい上に、標高が高くなるにつれて空気が薄くなってきて息がしにくいから走って乱れた息をなかなか整えられない。走りから歩きに移行してゆっくりと深呼吸をして息を整える。
そうしてしばらく走って歩いてを繰り返していると、ようやく木に括りつけられた縄のある場所まで辿り着いた。
「やっ、と着いた……早く、戻らないと。まだ一往復目の半分でこれか……昼までに終わるのかこれ……?」
いや、絶対に昼までに終わらせる。飯を抜かれるのは嫌だ!朝飯もまだ食べてなかったのに!今も腹減ってしょうがないんですけど!
気を引き締め、息が整ってきたのを確認してすぐさま全力で走り始める。帰りは登りと違って下り坂に加えて追い風として体が押されるから思った以上にスピードが出て怖い。気をつけないと速く走りすぎて避けられずに木にぶつかることもあり得る。初めて走る山で地形もわからないし走り慣れてないから所々で躓いたり転んだりもしてしまうが、何とか走り続けている。あまりスピードを恐れて下手にちんたら走るよりもこうやって思い切り全力で走り抜けて時間に余裕を持たせた方がいいかもしれない。
とはいえずっと走り続けることは出来ないので時々歩いて体力を回復させながら山を下ることにした。全力で走りすぎて麓で体力が尽きて二往復目に行けなくなったらダメだからな。ペース配分も考えておかないと。
そうして登りよりも少ない時間で麓まで帰ってこれたが、まだあと四往復残っていることを考えるとそんなに悠長にはしていられない。最低限の休息を取ると、すぐにまた山に向かって駆け出した。
足がガクガクして崩れ落ちそうになりながらも、何とか坂道を走り抜けて森を抜けたところで足がもつれて地面に顔からダイブしてしまったがなんとか麓に着くことが出来たらしい。さっきまでいた家がなんだか懐かしく感じる。尽きかけの体力を振り絞りフラフラになりながらなんとか体を動かして戸を開ける。
「終わったか」
「ゲホッゲホッ……はぁーー……はぁーー……戻り、ました……ま、まだ昼じゃ、ない、ですよね……?」
「あぁ、休憩後昼餉を食いなさい。昼からの修行は疲労が抜けてから行おう」
なんとか昼食までには麓に戻れたけど、転んだりぶつけたりして体のあちこちが打撲や擦り傷だらけですごく痛む。それにどこかで切ったのか腕や頬から血が流れている。ちゃんと上手いこと受け身が取れたらよかったんだけどな、今の俺にそんな技術はなかった。
まず手当てしてから昼食を食べよう……でも疲れきって食欲無いんだけど……しばらく動けん……
昼食後、十分に休憩を取った後俺は木刀を持たされて家の前に立っていた。包帯を巻いて手当も済ませている。体力もなんとか戻ってきたけど体の怠さは全然消えない。
「では昼は木刀の素振りを行う。手始めに何度か振ってみろ」
「はい!」
木刀を上から下に真っ直ぐに振り下ろす。木刀なんて振ったことがないからとりあえず真っ直ぐに下ろすことを意識して振り続ける。
何回か振り続けたところで嵐山さんに止められた。
「ふむ……お前、前に何か振っていたことはあるか?」
「え……斧や木の棒は振ってましたけど」
「ならそれの所為だな。木刀を振るにはいらない癖が出ている。まずはそれの矯正だ。出来るようになるまで素振りは終わらんぞ」
「う…はい」
くそ、まさかやってきてた事が逆に足を引っ張ることになるとは……!でも仕方ない。間違った方法で刀を振るったりしないように今から直しておかないと。
「まただ!剣は斧よりも間合いが広い!小さく振るな!距離感をしっかりと把握しろ!」
「はい!」
「地面を叩きつけるように振り下ろすな!斬るのに必要なのは引く力だ!力の入れる向きと刃の向きを意識しろ!」
「はいぃ!」
そうして素振りが終わったのは月が山の向こうから昇ってきた時だった。
腕に、手に力が入りにくい……箸を持つのも億劫だ……けど用意された飯は無駄には出来ねぇ、無理してでも食わねば……!
「お兄ちゃん大丈夫……?」
「うん、なんとか……強くなるために必要なことだからな。俺がまだまだ弱いってことの証でもあるし、もっと頑張らないと。美代も俺が逃げ出さないように見張っててくれな」
「うん!私が安心できるくらい強くなってねお兄ちゃん!」
「……あぁ、もちろんだ」
妹を守るため、強くなるため、未来を変えるためならどんな修行も頑張ってこなしてみせるさ。今はまだ体がついてきてくれないけど必ず乗り越えてみせる。
「そうだ。良生、お前にこれを渡しておく」
「これは……日記、ですか?」
「ああ。これに日々の修行や所感などを書いておけ。見返せば自分のことを客観的に見つめ直すいい道具になるだろう」
「なるほど……わかりました。ありがとうございます」
そうして寝る前、言われた通りに今日やった修行の内容、感じたことなどを書き起こしていく。
まず柔軟。自分があんなにも硬いとは思わなかった。嵐山さんにも多分呆れられたと思う。俺も自分が情けないです……寝る前には必ず柔軟をするようにしよう。
次は山の往復だけど、あれは自分の体力・持久力の無さ、肺の弱さを痛感させられた。それらを鍛えないと今日みたいになんとか昼ギリギリに麓に辿り着くことになってしまう。飯くらい疲れてない身体でゆっくりと食べたい。でも結局は地道な努力をし続けるしか鍛えられないからな……しばらくは体がガタガタになる毎日だろうなぁ。近い目標としては往復中は歩く時間を極力減らすようにする、往復にかかる時間をなるべく短く出来るようになる、とかかな。
最後に素振りだけど、あれ結局何回振ったんだろう。二千回は越えてる気がする。合間に休憩をさせてもらえてよかった。休憩がないと動けなくなって素振りどころじゃなくなってたと思う。一日であんなにも振ったから掌が痛いしまだ腕が怠い。今日言われたこととしてはしっかりとした姿勢で振ること、力の入れる向き、斬る時の腕の動かし方。あと刀についての説明もされたな。それらについても書いておかないと。
さて、思ってた以上に早く紙を手に入れられたけど、どうするかな……紙に書いても誰かに見られる可能性もあるから書かない方がいいのかもしれないけど、やっぱりずっと覚えておく自信が無い。んー……
かなり長い時間悩んだが、最後のページに原作の大きな出来事を暗号として書き起こしておくことに決めた。もし、誰かに見られても一目見ただけじゃわからないように略したり英語を使ったりして読めなくしておく。原作の大きな出来事を書いたら次に原作より前に起きたこと、合間に起きたことなども覚えている限り書いていく。前世を思い出してからもう七年以上経ってるから細かいところはもう自信がなくなってるけどそれでも書かないよりはマシだろう。
書き終わってからようやく俺も床に就く。これからは毎日修行があるんだ。早く寝て疲れを取るに限る。書いてる途中からもう眠気が限界だったので、布団に入ってすぐに意識が沈んでいった。
◆
次の日。
今日は朝からまた地獄の柔軟をやられると、嵐山さんに斬りかかって投げられて受け身を取って素早く起き上がる受け身稽古とどんな体勢からでも攻撃する事が出来るようになる攻め手稽古をした。
嵐山さんに向かって勢いよく木刀を振りかぶりながら特攻するが、振り切る前に腕を取られて遠くに投げ飛ばされる。そしてすぐに攻撃しに行かないと思いっきり背中をはたかれるのだ。嵐山さんの張り手は下手なグーパンよりも痛いし音も凄い。パシンじゃなくてパァァァァァンなのだ。やられたら暫く動けない。
受け身が出来ないと自分が怪我をしてしまうし、鬼に殺される危険も高まる。たまに木刀の刃の部分が自分に向いてる時があるしなんなら当たってる時もある。あれがもし真剣だったらと考えるだけでゾッとする。鬼に殺される前に自分で止めを刺してることになる。そうならないよう必死に受け身の練習をしているのだ。
遠くに投げ飛ばされたときは受け身に集中、近くに転ばされる時は受け身を取りながら嵐山さんに攻撃をしなければならない。その時は鬼の弱点である頸を狙うのではなく、どこでもいいから刀を振らなければいけない。自分の体勢が崩れた状態でも鬼は待ってくれない。だからその時に鬼に迎撃が出来るようになるための稽古だ。
「よし、昼餉にしよう。井戸で汗と泥を落として来なさい」
「は、い。オエッ、わかり、ました。ヒュー……ヒュー……」
太陽が頭上近くに昇った頃、ようやく修行が終わった。体力がなくなってきて普段のコンディションから大きく崩れてもちゃんと自分の体を動かせるようになるために、体力の限界まで嵐山さんに特攻して動けなくなったらようやく休憩。それの繰り返しだった。それだけでもかなりキツい。俺はバテているのに嵐山さんは息一つ切らしていないことからもどれだけ実力が離れているのかが理解できる。
初めてやったから最初の方は上手く受け身を取ることが出来なくて肩から落ちたりしていた。必要のない動作や力みで無駄に体力を消費しているのかもしれない。これも最適化していかないとな。
その後、詰め込めるだけ腹へ飯を詰め込んで休憩。
あれだけ動いて体力を消費した後すぐに飯を食うのは凄く気持ち悪かったし、何回か吐きかけたけどそうすると栄養が取れないし昼からの修行に必要な体力が持たないから無理やり腹に収めた。
昼からの修行は昨日と同じく山の往復だった。ただ昨日とは違うところから山に入らされたから、地形が全然違ってて慣れることが出来なかった。回数は同じだったけど結局昨日と同じように全身傷だらけで息も絶え絶えに家に戻った。
三十分ほど休憩してからの次の修行は素振りだった。最初は千回素振りをしろと言っていたのに終わった途端に「まだ振れるだろう。あと五百追加!」と言って結局腕が上がらなくなるまで回数を追加された。
そうして夕飯も体がガタガタになりながらも無理やり動かして腹に収め、井戸の水で汗と泥を拭き取り柔軟をしてから日記を書く。今日は昨日の修行でできた怪我や筋肉痛のせいで思うように動けなかった。明日からはそれも込みで体を動かさないとダメだな……
書き物を片付けて布団に入り、泥のように眠った。