自己犠牲野郎の行く末は   作:ヒキこもりたい

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今週の本誌
貴方の過去ってそうだったの!?てっきり寺に行く途中に鬼に襲われて鬼殺隊に助けられてその縁で入ったのかと思ってましたわ!
にしてもやっぱり貴方の過去も重いですね!ビックリしたわ。


第四話:修行・後編

 

 

 あれから半年が経った。山の往復は体力がついてきて前よりも早く往復できるようになって昼までに余裕をもって間に合うようになってきた。

 そうすると次は回数を増やされただけでなく真剣を持った状態でこれまでの鍛錬を繰り返すようになった。刀というものは思った以上に重く、嵩張り、行動の邪魔になってひたすら木や茂みに当たりまくる。重心も刀を持っているほうにズレて姿勢が斜めになってしまう。持つものが一つ増えるだけでこんなにも行動が阻害されるなんて思わなかった。

 真剣を持った状態での山の往復に慣れてくると、真剣での素振りも追加され木刀よりも重さが増して振るのが一等キツくなった。ようやく木刀に慣れてちゃんと振れるようになってきたのに最初の頃に戻ったみたいだった。

 組み手にも真剣を使うようになり、初めの頃みたいに刃が自分に当たったら怪我をして修行どころじゃなくなってしまうから受け身を取るのも一際気をつけるようになった。

 こちらが真剣での受け身に慣れてきたと分かった師匠は今までよりも数段速い速度で投げ飛ばしてくるようになって地面に転がる回数が増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日が経って基礎体力向上の為の修行が一段落し、なんとか及第点をもらえたところで今日からようやく全集中の呼吸と師匠が使う風の呼吸の型について教えてもらえることになった。

 

「全集中の呼吸とは、空気中の酸素を肺を大きくして血液に多く取り込み、血を湧き立たせ体でそれを震わせる。そうすれは人のまま鬼のように強くなれる」

 

 ……?ちょっと何言ってるか分からないっす。この世界の人にはそれで普通に伝わるんだろうか。血を湧き立てて震わせる?やり方が全然想像できない……

 

「体の隅々の細胞にまで酸素が行き渡るよう長く深い呼吸をしろ。そうすれば血の流れと脈拍が速くなり、体は熱を持ち始め力が湧き上がってくる」

 

 ふむ……?深呼吸のような感じで呼吸をすればいいんだろうか?

 

「山の往復は少ない酸素でもしっかりと呼吸をしようと体がその状態に慣れようとして肺を大きく丈夫にさせるための修行だった。今までの修行で呼吸をするための下地は出来ているはずだ」

 

 なるほど、今までの修行にはそういう意味もあったのか……

 

「上半身は力を抜き、腹に力を入れて重心を下にして構える。……よし、やってみろ」

 

 いつもより多く空気を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。腹に力を込めながら普通より多くの酸素を肺から取り込み全身の血液に流れていくのをイメージしてゆっくりと呼吸をする。

 

「違う!もっとしっかりと腹に力を入れて肺を大きくするんだ。それではただの深呼吸だ」

 

 気ィ抜いてるときに急に腹バンバン叩くのやめてくれません!?馬鹿みたいな力で叩かれるとマジでしばらく動けなくなるんですけど!てかやっぱりやり方違うんですね!?

 

「こればかりは頭で考えているだけよりも体験して得る方が早い。習うより慣れろ、だ。修行中以外は呼吸法の習得に専念しろ。これを使えるようになればその分早く強くなれる」

「お、押忍……」

「では次は型だが……呼吸を身に着けてからの方がいいんだが動きだけでも覚えなさい」

 

 そうして風の呼吸の壱ノ型から捌ノ型までの動きを教えてもらうのだが、最初全力で技を出されて側で見ていた俺は衝撃波で吹っ飛ばされた。いや、あのね?俺まだ雑魚だから。そこまでの速さで動けないし見えないんです。だから加減してくださいお願いします。

 とりあえず俺でも見える速さまで落として実践してもらい、その後俺も見様見真似で型の動きをやってどこがおかしいかを修正していってもらう。

 壱、伍、陸、捌の型はまだゆっくりと確認しながらなら俺でもできる。衝撃波とか出したり風をおこすのはまだ出来ないけど。でも弍、参、肆は手数が多すぎて少し早さを上げると刀を振り切ることが出来ず、腕がついてきてくれない。漆に至っては訳分からん。どう書けばいいのこれ。

 とりあえずは呼吸だ。全集中の呼吸を習得しないと先に進めない。型の動きも毎日やって体に覚え込ませよう。目標は咄嗟の攻撃にも反射で型を出して反撃が出来るようになるくらい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから半年経ったものの未だに全集中の呼吸を習得することが出来ずにいた。一度一瞬だけ出来たことはあったのだが、師匠に言われなければ自覚できなかったくらいに小さいものだった。その時の感覚を何とか思い出しながら習得しようとしているものの、流石にあの一瞬だけではコツを掴むことは出来ないので修行は難航していた。

 風の呼吸の型は一応どの型も使えるようにはなった。だから後は全集中の呼吸を習得すれば型も本来の威力で使うことが出来るんだが……

 

「ふむ、やはりまだ習得までは時間がかかりそうか」

「そう、ですね……師匠の呼吸法を観察したり色々と試してみてはいるんですけど中々……」

「お前はまだ知識として呼吸を覚えただけにすぎない。体の方はまだ認識が出来ていない。なら、前にも言った通り習うより慣れろだ。実際にその身に受けた方が理解できるだろう」

 

 そう言って師匠は木刀を投げ渡してきた。それはちゃんとキャッチはするがなぜ今木刀?……あ、まさか。

 

「いや、あの師匠?まさかとは思いますけど……」

「そうだ。お前自身が呼吸による技を食らって全集中の呼吸を掴み取れ。今までの傾向からしてお前は頭で考え続けるよりも体で覚える方が性に合っているだろう。という訳で行くぞ。構えろ」

「ちょっと待ってください確かにそうかもしれませんがいきなりそんなことになるとは思ってないのでもう少しだけ心の準備と言うか猶予的なの欲しいんですけどそこんとこどうですかダメですかそりゃそうですよね覚えるにはそれしかないのならそうするしかありませんもんねそれならせめて手心を加えてほしいなーってほら俺まだ実力は雑魚も雑魚なんでそこんとこよろしくお願いしまアッ────!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからもう半年かかってようやく完全に全集中の呼吸を習得することが出来た。

 結局習得できたのもひたすら体に技を叩きこまれて感覚で身に着けたものだから、言葉で誰かに教えてみろと言われても恐らくできない。他当たってください。

 呼吸を習得したことによって組み手でも型を使って攻めることが出来るようになったし、剣筋の鋭さも増した。だけど習得したばかりで精度が低いから、その隙を突かれて型を途中で止められて反撃を食らうこともあった。なんか前よりも師匠の動きが早くなってるような気がする。呼吸を習得して少しは身体能力も上がったはずなのに全然動作が見えない。いつもブレて見える。

 ……俺の実力に合わせて手加減していたんだろうか。そうだとしたら師匠の実力を引き出せるくらいには少しずつ強くなれているんだと思うことにしよう。それでもこのくらいの強さでは満足なんてしていられない。努力はいくらしても足りないものだ。最終選別までにせめて師匠と三十分以上戦い続けていられるくらいまで強くなりたい。頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 全集中の呼吸を習得した翌週、朝食後に唐突に師匠から説明を受けた。

 

「ようやく呼吸を習得したので次の段階に入る。習得した全集中の呼吸を四六時中出来るようにするんだ」

「四六時中……寝てる時もですか?」

「そうだ。起きている時も寝ている時も出来て初めて成立する。それを全集中の呼吸・常中という。やり続けることにより基礎体力・身体能力が飛躍的に向上する」

 

 原作だと蝶屋敷で炭治郎たちが習得したやつをもうするの?早くない?呼吸を習得してまだ一週間ですよ?見てるだけでもキツそうだったやつを今から?まぁ他に選択肢なんてないけどさ。強くなるためなら何でもやるけどさ。

 他の漫画で例えるとあれだよね。ドラゴンボールで悟空と悟飯が超サイヤ人に慣れるためにずっとなってたのと同じようなことだよね。あれも懐かしいなぁもう何年前だよ。

 

「一先ず今は常中の訓練だ。やってみろ」

「はい!」

 

 気持ちを修行に切り替えて気合を入れる。

 シィァァァァ、という風の呼吸独特の呼吸音が口から漏れ出る。今までは型を出す時にしか使わなかった全集中の呼吸を長く深く、途切れさせずにやり続ける。

 

 一時間もしない内に変化が現れた。

 

「……ヤバ、気持ち悪い……死ぬ」

 

 全身から汗が吹き出て流れ落ちるのを感じながら思わず地面に座り込む。

 想像以上だった。たった一時間も出来ていないのに組み手を半日ぶっ通しでやった時のような疲労感がある。流石に習得して一週間程度ですぐに出来るとは思っていなかったけど、こんなに息が続かないとは。

 疲労感もそうだけど、肺は破裂しそうなほどに痛いし、耳は心臓が鼓膜で脈動してるんじゃないかってくらい体内の音を拾ってて気持ち悪いし手足が泥のように重い。

 

「始めたばかりは常中に体が慣れておらず様々な場所が悲鳴を上げるだろう。それに音を上げずに耐えて体を強くするのだ。そうすれば今までよりも体を自分の思うように動かせ、強くなれる」

「な、なるほど……」

「昼までは無理をせず少しずつ常中に体を慣らすように休憩を挟みながら呼吸を続けるんだ。昼からは常中を意識しながら素振りを行う」

 

 そう言って師匠は家の中に戻っていった。多分昼飯の準備をしに行ったんだろう。

 俺はまだもう少し休憩して体の疲労感などが多少回復しているのを確認してから、再度常中に取り組む。

 

 三十分ほどが経過した。

 

「シィァァァァ……シィァァァァ……おえっ……シィァァァァ……まだ、まだいける……」

 

 常中の状態に少し慣れたのか、さっきよりはフラフラにはなってはいないけどそれでもかなりキツいものがある。この短時間で体力が劇的に増えたなんてことはないのでせっかく回復した体力も肩で息をしてしまうくらいにすぐ消耗してしまったが、自分が今どれだけ続けられるかを確認するためにも、まだ気絶していないからいけると執念でやり続けていた。

 

 さらに三十分が経った。

 

 流石にもう立っていられずに地面に思いきっりぶっ倒れた。限界を超えていたのか体をいくら動かそうとしても意志に反してビクともしない。ヤバいやりすぎた。さっきよりもめちゃくちゃ気持ち悪い。ゲロりそう。クラクラする。

 茹るように熱い頭がぐらぐらと揺れて、視界が歪む。気を抜けば一瞬で持っていかれそうなくらい意識が朦朧として視界も狭くなってきてるが、気絶だけは何が何でもしないというただの意地だけで意識は飛ばさなかった。気絶は後にも先にも前世を思い出した時だけにしたい。

 この後流石にやり過ぎだと師匠と妹に怒られてしまった。強さを追い求めて努力をするのはいいが加減を覚えろと。出来ることが増えて嬉しいのはわかるが自分の許容限界を超えてまで修行をするなと。仰る通りです。

 妹には無理をして体を壊してほしくないから無茶なことはしないでと涙目になりながら言われたのがかなり堪えたので、美代に泣かれないようになるべく無茶は抑えるよう努力します、ハイ。妹には勝てない。

 でも無茶をしたおかげでどのくらいのペースで呼吸をすればいいか、自分の限界がどれくらいかは分かったのでやってよかったとは思う。この調子で自分の進み方で頑張っていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 常中の修行を始めてから三ヶ月。徐々に習得に向かってはいるが、四六時中呼吸をし続けるのはまだ出来ていない。常に意識していないと途切れてしまうし、稽古の時は維持が出来ずに呼吸が乱れてしまう。けれど続けてきて徐々に体が変わってきたのを実感している。全集中の呼吸を習得した時よりも体力が向上し、肺活量や力も増しているし、何よりも耐久力が段違いに上がってきた。

 師匠が常中を今までにずっとやっていたというのなら、俺の動きなんか止まっているのも同然だっただろう。いくら突撃しても躱されてボコボコにされるのも分かる。

 だが、常中の持続時間が長くなるにつれて師匠の動きが目で追えるようになってきた。

 まだまだボコボコにされはするが、それでも躱すことが出来るようになってきた。俺のどこを狙ってどのくらいの速さで振ってくるのかが分かるようになってきた。それを何とか躱せても追撃に体が反応しきれずに食らってしまうが、それでも少しは見えるようになってきた。今は防ぐか躱すかが大半だけどたまに反撃も出来るようになっている。

 確実に、成長できている。全集中の呼吸・常中を意識し始めてから段違いに強くなれている。

 

 

 

 

 

 

「良生、常中の習得は諦めろ」

「え?」

 

 開口一番、朝っぱらから師匠がとんでもないことを言い出しやがった。え?どういうこと?俺に強くなるのと諦めろと?

 

「常中は寝ている時もし続けることが必要だということは言ったな」

「はい。四六時中、途切れさせることなく全集中の呼吸を続けることが必要だと……」

「この三ヶ月の間、何度か寝ている間にも常中を行い続けろと言って何回も叩き起こしていた時があった」

「そうですね。唐突に終わったので習得しているものだと思っていましたが」

 

 そう。この三ヶ月間、週に三回くらいのペースで睡眠中でも常中が出来るよう夜に師匠が四時間ほど見てくれていた時期があった。あの時はいきなりこの修行は終了とすると言われたからてっきり俺はもう習得したものだと思ってたんだけど……

 

「逆だ、良生。お前はどれだけ叩き起こして常中を意識しろと言っても意識が落ちるまではしっかりと常中を維持出来ているのに眠った途端に普通の呼吸になっている」

 

 ……はい?

 

「始めたばかりの頃は俺も睡眠中の常中はかなり難しいからこれから慣れさせればいいだろうと考えていた。だがな、いくらやっても睡眠中は普通の呼吸に戻ってしまう。だから思った、もう睡眠中の常中は諦めた方がいいだろうと」

「ちょっと!師匠が先に諦めてどうすんですか!俺まだ諦めてませんよ!?」

「では聞くが、俺が見ているとき以外も眠る前は常中の呼吸は常にしていたな?」

「はい、もちろんです」

「その時も寝入ってすぐに常中は解けていたぞ」

「……マジですか」

「本当だ。だからこう考えた。眠っている間が無理なら起きている間に常中を極めさせればその補填は出来るのではないかとな」

「それって、まさか」

「これから最終選別まではさらに修行は厳しくなるから死に物狂いで足掻けよ」

 

 ……恨むぞ、俺の体よ。俺の才能の無さよ。思えば全集中の呼吸を覚えるのにも合計一年以上の時間かかってんだよな。基礎体力をつける為とは言え。……マジかぁ。

 

「よろしく、お願いします……」

「とまあこれから厳しくしていく訳だが、呼吸についてまだ教えていないことがあったことを思い出した」

「え、そうなんですか?てっきり常中を習得したらもう呼吸に関係する修行はないものだと思ってたんですけど」

「今から教えるものは戦闘に直接関係するものではないが役に立つ。補助的な呼吸の使い方だ。これを覚えているかどうかで劇的に生存率が変わる」

 

 そう言って師匠は真剣を取り出して鞘から抜き出した。

 

「例えばだ、こうやって切り傷が出来たとする」

 

 師匠は何の躊躇いもなく、自分の腕をその手に持った刀で斬りつけた。勢いよく腕から血が噴き出している。ここに美代がいなくてよかった!滅茶苦茶スプラッタな光景だぞこれ!

 

「ちょ!何やってるんですか自殺!?早く手当てしないと!」

「必要なことだ黙って見ていろ。この傷口に意識を集中させて切れている血管を認識する。そしてその血管に呼吸を使って筋肉で圧をかける。そうすれば傷口はその圧で無理やり止血される。そして次はこの傷を早く回復させるために回復の呼吸を使う。この呼吸は普段よりも大量に酸素を吸い込んで自分の体の回復力・再生力を高める。そうすれば怪我を早く治すことが出来る」

 

 そうやって実践をしながら説明をして、実際にその通りに血が流れるのが止まっているのが確認できる。

 いや、師匠は無駄なことはしないってわかってますしどんなことが出来るか原作とかを少し思い出したんで口頭で説明してもらえれば理解できましたから自分の体でいきなり試さないでいただきたい。心臓に悪い。

 

「本当に、血が止まってますね……」

「嘘は言わん。これを使えば骨折も早く治せるからかなり便利な技術だ。実際に階級の高い隊士はこれを使えて当たり前の奴が多い。必然的にこれが使えているから生き残れることにも繋がる」

「なるほど……」

「さて、必要なことも教えたし昼からの修行は言った通りこれまでよりも厳しくする」

「うげっ、はい……」

 

 はぇー憂鬱だ。これ以上にどんぐらい地獄になるんだ。一時期キツくて本当に飯が食えなくなった時があったからせめて飯が食える程度には加減してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「げっほ!ごほ!」

「呼吸が乱れている!常に呼吸のことを念頭に置いて行動しろ!呼吸を途切れさせると死ぬのは自分だと思え!」

「敵は真正面から来る訳では無い。足を止めれば殺されるぞ!」

「弱い、鈍い、遅い!息を取れぬままに攻撃をしても鬼の頸は取れん!しっかりと呼吸をとり相手の思うように攻撃をさせるな!相手の手を読み敵が嫌う行動をし続けろ!」

「はい!」

 

 今は木刀での稽古をしてるんだが……師匠が俺のことを殺す気で来てるんじゃないかってくらい攻撃が激しい。色んな方向から木刀が振られてくるからひたすら常中を維持した状態でギリギリ防いで受け流して避けまくっている。手数の多さもそうだが一撃一撃がいやに重い。下手に真正面から受け止めると手が痺れて次の攻撃を食らってしまう。

 師匠に聞いてみれば本当に殺すつもりで殺気も放ちながら打ち込んでいたと言われてマジでドン引いた。理由を聞けば

 

『こうやって殺気に慣れておかないと最終選別か隊士になってからの任務で鬼などの殺気に怯んであっけなく殺されるだけだ。だからお前が死なないために扱いている。納得したなら修行を再開するぞ。もう十分休んだろう』

 

 だそうで。理由は納得した。今までとは雰囲気が違う師匠に完全に飲まれて上手く体を動かすことが出来なかったから殺される危険性についてはよく理解できた。そりゃこんな風に動けなかったらただの案山子のように碌に何も出来ずに殺られるだろう。鬼に殺されるわけにはいかないから強くなるための手段は大歓迎だ。だけどさ、休憩時間五分程度ってそりゃないぜ師匠……

 

「今日はここまでにしておこう。修行で出来た傷にも教えた呼吸は使えるからその練習もしておくように」

「は、い……」

 

 バテバテになっていながらも何とか返事が出来た俺を褒めたい。前まで声を上げることも出来なかったことに比べたらかなり体力と耐久力がついたと思う。今だって木刀で打ちのめされてもそれに耐えて食らいつきに行けるようになってきている。流石に連続で食らい続けたらダウンするけど。

 こうやって組み手をしていると、時間はかかってるけど少しずつ強くなれていることが実感できてとても嬉しい。実感できるからもっと修行を頑張ってもっと強くなりたいと思える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから半年が経った。常中は気を抜かなければ半日は続けられるようになってきた。稽古の時は体力がなくなってきたら維持が難しくなってくるけどそれでも前よりは維持できるようになっている。山の往復も遂に登りのゴールが山頂になった。基礎的な修行も回数や時間が増えたけどずっと続けている。

 師匠との修行も真剣を使うようになり、場所も家の近くだけでなく森の中でもやるようになった。鬼狩りは平坦な場所だけじゃないからすごく修行になる。山だと落ち葉とかがあってなかなか踏ん張りがきかずに競り負けてしまうことが多い。真剣の場合、力に力で対抗しようとすると刀が折れたり刃毀れする可能性があるから主に相手の攻撃をどう受け流すかの修行になっている。地形も利用して攻撃されるので普段以上に頭を使って相手や周囲を把握して先を考えなければならないからかなり疲れる。相手の体に当たりそうになれば寸止め、掠る程度では修行は中止しないから大体終わるころには血塗れになりながら家に帰ることが多い。

 型などを使う場合は木刀で打ち合うようにしている。全力で打たれることはないけどそれでも痛いものは痛いから必死に防御の型をブンブン振りまくって防いでたら、参と肆の型だけ刀を振る速さや回数、キレが増してきていて段々と自分が防御・耐久型の剣士になってきているのではないかと思ってしまう。防御だけ上手くなっても鬼の頸が斬れなきゃ意味ないんだよなぁ……

 流石に攻撃もしていかないと意味がないと思い、攻撃の型も必死に練習しまくったお陰で防御の型までとはいかなくとも相当に練度を上げることが出来た。最近の稽古でも基本姿勢が防御寄りになっていたので『攻撃する意識を持つことはいいことだ。その調子で精進するように』と師匠にも褒められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────戻ったか、良生。話がある」

 

 町での買い物を終えて妹と一緒に家に戻ると、真剣な顔の師匠に出迎えられた。いつも以上に真剣な様子から姿勢を正し、聞く体勢に入る。

 

「良生。お前が最終選別に行く為の最後の課題だ。最終選別に行くに足る実力があるか否か、俺と戦い示してもらう」

 

 その言葉は未だ常中を習得出来ていない俺にとって、正に青天の霹靂だった。だが、いつかはぶつかる壁だ。それが今来ただけのこと。波立つ心を抑えて平常心で尋ねる。

 

「……分かりました。いつやるんです?」

「今からだ。美代は危ないだろうから家の中に入ってなさい」

「は、はい!お兄ちゃん、頑張ってね!」

「おう。師匠にちゃんと認めてもらえるように頑張るよ」

 

 お互いの刀を腰に差し、広場に移動して向かい合い、いつ相手が動いてもいいように気を張り詰める。

 始まりの合図などなく、師匠が居合の構えでこちらに高速で詰め寄ってくる。

 シィァァァァァ、と風の呼吸独特の呼吸音が二重になって辺りに響く。

 俺はカウンターとして刀を抜き、下段で構える。

 

「死ね」

「殺す」

 

"風の呼吸・壱ノ型、塵旋風・居合抜き"

"風の呼吸・陸ノ型、黒風烟嵐・打ち上げ"

 

 鞘から引き抜かれて俺の体に当たる直前の刀を狙い、下方から弧を描くように斬り上げて上に弾き飛ばす。弾かれた刀は数度回転した後近くの地面に突き刺さった。

 残心のように一度振った刀を見れば、刃こぼれは一つもなかった。

 

「……ふむ。まぁ合格だ。殺気、威力、精度どれも問題ない。技術はまずまずだがこれは今後の鍛錬次第でさらに練度は上がるだろう」

 

 自分の技を破られても師匠は笑顔で合格を告げてくれた。師匠に認めてもらえて嬉しく思うが、俺を今まで鍛えてくれたことへの感謝をしなければならないと思い、今までのことを振り返りながら深々と頭を垂れた。

 

「……師匠。要領の悪かった俺を見捨てずに、ここまで鍛えてくれてありがとうございます。師匠に教われたから、強くなることが出来た」

「……お前の要領は悪かったかもしれんが、それを補って余りあるほどの我慢強さと根性と意志の強さでここまで強くなった。それは誰にでも出来ることではない。立派なお前の才能だ。自信を持て。……とはいえ最終選別まではまだあと半年ある。それまで今以上に強くなれるようより一層修行に励め」

「はい!」

 

 

 

 




暁 良生

風の呼吸、型、常中五割を習得。体で覚えるタイプ。頭が悪いという訳でもないが良くもない。最終選別直前には嵐山と二十分ほど戦い続けたが、脳震盪をおこされ立てなくなり終了。


暁 美代

良生の修行中は嵐山の畑を手伝ったり、近くの村に行って子供たちと遊んだりしてすくすくと成長した。傷の手当をしていたので治療の腕はかなり上がった。いい子。


嵐山 剛毅

良生が呼吸と常中の習得に難儀していた時は、こちらもどうやって教えればいいか頭を抱えていた。面倒見のいい顔面凶器。昔は甲で八年ほど戦っていたが歳を理由に鬼殺隊を引退。弟子は良生の他に五人ほどいた。


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