原作開始前のストーリー設定はあと十話くらい考えてるのに要点だけ書いて内容は書かずに妄想だけで満足しちゃってる。
心臓と脳複数あるとか無惨ズッル!!縁一さんつっよ!色々と抱え込んでるんすね……
「絶対に帰ってきてよね。帰ってこなかったら許さないんだから!」
「大丈夫。ちゃんと帰ってくるから。師匠と待っててくれ」
「しっかりと、冷静になるように徹して自分の力を出し切って生き残れ。お前ならば乗り越えられる」
「はい。師匠に教わったことを思い出して、驕らず慢心せず気を引き締めて挑みます」
とうとう最終選別の時がやってきた。師匠から贈られた日輪刀を腰に差し、サバイバルに必要な道具を纏めて韮崎山を出発する。次に二人と会うことが出来るのは二週間近く先になる。今までにこれだけの期間離れたことがないから、美代に最終選別に行くこととその期間を伝えると俺の傍に引っ付いてなかなか離れようとしなかった。
出発の日になっても美代は朝からずっと俺に抱きついて離れてくれない。発とうとしてから家の前で一時間ほどぐずっていたかと思えば急に顔を上げて俺の顔を見つめると、美代は俺の腹に顔をうずめて思いっきり抱き締めるとようやく離れてくれた。
「待ってるからね!」
「おう、無事に帰って来れるように祈っといてくれな。────では、いってきます」
涙目になって一杯いっぱいになりながらも激励してくれる美代に笑い返して頭を撫でてやる。そうしてようやく藤襲山に向かって歩き出した。
「……嵐山さん、大丈夫だよね?お兄ちゃん、ちゃんと帰ってくるよね?」
「帰ってくる。俺が三年間も鍛えたんだ。ケロッと、何事もなかったかのように元気な様で戻ってくるだろうから心配するな」
◆
えっちらおっちら歩き続けて三日後、藤襲山についたのは俺が後の方だったみたいで、山の入り口にはすでに三十人ほどの男女と案内の人が集まっていた。意外と年齢の幅があって子供と言えるような年齢の子たちもいれば二十は越えていそうな人もいる。
あちゃー、のんびり歩き過ぎたっぽいな。もっと急いで来たほうがよかったか。というか改めて見ても壮観な風景だな……何というか、すごく幻想的だ。今まで通って来たところにはこんな立派な藤の花は生えてなかったし、こんなすごい光景は見たことがないから余計にそう思うのかもしれない。
最終選別の案内人は、あまね様……だろうか。お館様ではないだろうし子供たちはまだ生まれて数年経ったところだろうから消去法でそう思った。
周りの受験者を眺めてみると、みんな顔が強張っていたり憎しみに満ちた表情をしている者がほとんどだった。ピリピリして空気が重い。そりゃそうだよな、ここにいる人は鬼に生活を壊されたり大切な人を殺されて復讐のために参加しているのが大半のはずだ。お気楽な顔をしているほうがおかしい。
そうやって観察していると面をつけている女の子に目が留まった。花柄の丈の短い着物に身を包み、青い花が描かれた狐面を頭につけている女の子だった。じっと見つめているのも変だからすぐに視線を切ったけど……あの子ってやっぱり真菰、だよな……?そうなると今回は錆兎たちが受けるより前なのか後なのかどっちだ?前だったら錆兎も真菰も助けられる可能性が高まるんだけど……
いろいろ考えているうちにどうやら受験者が全員揃ったようで集合をかけられ、最終選別の説明がされて七日間の命がけのサバイバルが始まった。他の参加者は開始の合図と同時に早々と山の中に駆けて行ったが君らそんなに死に急ぎたいんか?いくら復讐がしたくても自分が生き残らなきゃ出来ないのになぜ死にに行くようなことをするのか、これが分からない。分かりたくもないけど。早速誰かが鬼と遭遇したようで、鬼だろう咆哮が山に響き渡った。
俺はしばらく山を歩き進んでいたが、どこからともなく鬼が俺の目の前に飛び出してきた。鬼は近くにいた俺に気が付くと、観察しているのか頭から足の先まで嘗め回すようにじとっとした視線を向けてくる。こんな状況だというのに俺の頭の中では『あ! やせいの おにが とびだしてきた!』とかポケモン風味に文章が流れている。おいこら俺、いくら雑魚っぽい鬼とはいえ暢気すぎやしないか。緊張が一周回ってそこに落ち着いたのか。せめて危機感は働いてくれ。
そうしている内に敵は見定め終わったのか、涎を垂らして気持ち悪い笑いを漏らしながらこちらに飛び掛かり腕を振り下ろそうとしてきたので日輪刀で受け流し、隙だらけなその頸に向かって背後から型を繰り出す。
「お前の肉を食わせろォォォォォォ!!」
「うるっせぇんだよ!せめて黙って死ね!風の呼吸・陸ノ型、黒風烟嵐ンン!!」
弧を描くように下方から切り上げて、その軌跡に風を発生させながら振るってその頸を斬り落とす。落とされた頸は地面に転がり、胴体と共に塵になって消えていった。
一息つき、自分の掌を見つめる。緊張で微かに震えてはいるがそれでも、初めて鬼を斬ることが出来た。
正直実際に鬼と対峙するまで不安だった。あの時のようにただ逃げることしかできなかったらどうしようとか、今までやってきたことが通用しなかったらどうしようとか。けど全部杞憂だったらしい。俺は鬼と戦える。戦えている。それどころか血鬼術も使えないような雑魚の鬼なら圧倒できる。今の戦闘でそれを確信した。
……にしても、鬼とはいえブシュッ、って肉が斬れるようなこの感触はこれからも慣れないだろうな……俺が生物を殺している実感を持たされる嫌な感触だ。鬼に対しては同情も哀れみもしないけど、斬るたびにこの感触を味わいながら鬼殺の任務をしていくのは少し憂鬱になるな……、と思いながら空を見上げる。今日は生憎の空模様で雲が空を覆っていた。
◆
一日目の夜はあの後数匹の鬼を斬っただけで怪我をすることもなく朝を迎えた。日中は鬼が出てこないから、昼間に眠れるだけ寝ておく。一年中藤の花が咲いているのもあってこの土地がおかしくなっているのか、この季節にはない果物や木の実が何故かある。けど食える種類なのでありがたくそれらを収穫して腹に収めていく。幸いこの近くには沢があったし、食える植物も大量にあるからしばらくはここを食料確保の拠点にする。他にも刀の手入れもしなくてはいけない。手入れを怠れば刀はあっという間に使い物にならなくなって折れてしまう。だから時間をかけて丁寧に手入れをして、終わった後は夜に備えてもう少し仮眠をとることにした。
二日目の夜は悲鳴や剣戟の音が聞こえたので念のために様子を見に行ってみれば子供が傷だらけになって鬼と交戦していたのが見えたので後ろから『捌ノ型、初烈風斬り』で斬り捨てる。子供の方は腰が抜けているようで立てなさそうだったから茂みの中に連れて行ってそのまま放っておくことにした。気絶はしてないんだからあとは自分で何とかすればいい。流石に付きっきりで面倒は見切れない。
じっとしていても鬼に遭遇するなら普通に歩いていても同じだと思い、適当に山の中を歩き回ることにした。すると今度は死体を貪っている鬼に遭遇した。様子を見る限り先程まで抗っていたが、抵抗むなしく殺されたらしい。俺に気付いたその鬼が、赤く染まった口を晒しながら走り寄ってきた。斬った時のあの感触に躊躇せず、一刀のもとに斬り捨てる。
三日目の夜────昨日と同じように悲鳴が聞こえたところに向かって鬼を斬ってすぐにその場から離脱するということをしていたが、本日三度目の助けを求める声の元へ向かうと今までとは事情が違っていた。鬼の姿はなく、怪我をした女の子が顔を青くして林の向こうから転がり出てきた。
「大丈夫か?」
「!た、たすけて……っ!お、女の子が……!」
その子は俺の姿を見ると縋り付いてきてガタガタと震え慌てふためいていたが、宥めて落ち着かせると堰を切ったように先程起きたことについて話してくれた。巨大な手の鬼に追われていると面をつけた女の子が自分の代わりに手の鬼を引き付けてどこかにいった。自分は女の子を囮にして何とかここまで逃げてきたという。
「わかった。俺が様子を見てくるから君は自分が鬼に殺されないことに集中しろ。泥水を啜ってでも生き残れ。いいな」
そう言うと俺は女の子が来た方向に向かって全力で駆け出した。手の鬼と面の女の子ってもしかしなくても真菰ですよね!殺される瞬間なんか見たくないぞクソッたれ……!
「──向こうか……!」
微かに聞こえた戦闘の音を耳が拾い上げた。
即座に進行方向を変え、音がした方に向かって速度を落とすことなく走り続ける。
先に進むにつれて異質な気持ち悪い気配が強くなってきているからこの先に手の鬼がいるのは間違いないだろう。
ギリっと歯を食いしばり、間に合ってくれと胸の内で祈り諦めかける自分を叱咤する。
────いた
林を抜けた先、木々が生い茂る中にぽっかりと空いた空間。辿り着いた時にはすでに女の子が四肢を掴まれて今にも引き千切られそうなところだった。女の子は気絶しているのかして抵抗する素振りが見えない。
その光景を見た瞬間に俺は思いっきり踏み込んで全力で飛び上がった。
「風の呼吸・弐ノ型、爪々・科戸風ェ!!」
走ってきた勢いのまま、四肢を掴んでいる手に向かって抉り裂くような斬り下ろしを放って女の子を解放する。そのまま女の子を空中でキャッチして鬼と距離をとり向かい合う。
対峙してみて、この鬼は俺でも時間をかければ勝てる程度の強さということが分かった。だけど今までのように一刀で頸を斬ることは難しいし、何より今は人を抱えているから戦闘は無理。ということで逃げの一手です。
「あばよとっつぁ~ん!そのうちまた来るぜー!」
「アァアアァ!餓鬼ィ!鱗滝の狐を返せェェェェェ!そいつは俺のものだァァァ!ふざけ、ふざけるなァァァ!!」
「ふざけてんのはテメェの方だろうが!なんだその手の数と動き方!ウニョウニョしやがって気持ち悪いんだよ!アニメだと3D使いたくなるような作画の無駄遣いな無駄な動き方してんじゃねぇ!ただただ気持ちわりぃだけだわそれ!てかそんなに動かして何がしたいの威嚇がしたいのォ!?」
手鬼がギャアギャア喚いている内にこっちも言いたいことを叫んでさっさと逃げる。あいつも追いかけてこようとしているが、でかい図体に木が引っかかってなかなかこちらに近づくことが出来ていない。その間に木が多く生えているところに逃げ込んでさらに追いにくいようにして全力で距離を離した。そうして一度立ち止まり、周りの安全と追いかけてきていないことを確認してようやく一息つくことが出来た。
「ふぅ……間に合ってよかった……」
とりあえず俺が拠点にしている沢の近くまで向かい、傷が地面につかないように羽織を地面に敷いてそこに体を下ろす。今はこの近くには鬼はいないみたいだが油断は禁物。朝まではこの子を守るためにも警戒しておかないとな……というか改めて顔を見て確信したけどやっぱりこの子真菰だわ。うわ、うわー……本物だ……ちっちゃい、てか可愛い。こんなに間近で真菰と鱗滝さんの手製の狐面を見られるなんて思わなかった。ありがてぇありがてぇ。
一先ず助けることが出来てよかったぁ。これで目の前で殺されてたら死ぬまで引きずってたこと間違いなしだぞ。
そんなこんなで警戒しているとあっという間に夜が明けた。鬼が出る心配はないから食料を取りに少しこの場を離れていたら、その間に目が覚めたのか真菰が起き上がっていた。
「おはようございます。体は大丈夫ですか?女の子だから下手に触るのはよくないと思って治療できなかったんですけど……」
「えと、おはようございます。怪我は……そうだね、少し痛むくらいで動くのには問題ないかな?それで、君があの時助けてくれたんだよね?」
「そうですね。逃げてきた女の子から話を聞いて駆けつけました」
「そっか。あの子逃げられたんだね……よかった。あ、普通に話してくれていいよ?敬語だとなんだかムズムズしちゃう。私は真菰っていうんだ。水の呼吸を使うの。よろしくね」
「わかった、そうするよ。俺は暁良生だ。風の呼吸を使ってる。よろしく」
差し出された手を握り返し握手を交わす。こうして話してみると普通の女の子なんだなって改めて実感する。年も多分俺よりも下だろう。刀さえ持っていなければ普通の町娘のように見える。
「それで、あの鬼はどうしたの?」
「流石にあの状況じゃ斬ることは難しかったし、真菰の安全も確保したかったから追いかけられないようにすぐに逃げたよ。斬れなくて申し訳ない」
「ううん!助けてくれてありがとうね。あのままだと死んじゃって鱗滝さん──私の師匠を悲しませちゃうところだったし、それに……あの鬼は私が何としても倒さないといけないから」
「……どういうことか、聞いてもいいか?」
聞くと真菰はあの鬼との会話を教えてくれた。
あいつが自分の大好きな人を恨み、その人の願いを踏みにじっていたこと。
自分に縁の深い人や兄弟子たちが殺されて、あいつに大切な人たちを愚弄されたこと。
その人が祈りを込めて作ってくれたこの面を目印にして自分たち一門を食らい続けて自分で十三人目だと言っていたこと。
それを聞いて自分ががむしゃらにあいつに突っ込んで行って殺されかけたこと。
諦めかけていた時に俺が来たこと……全てを。
「────という訳だから、私が何としてもあの鬼の頸を斬らないといけないんだ」
「でも、動けるかもしれないけどまだ怪我してるし、それに殺されそうになったんだぞ?」
「あの時は血が上っちゃって頭が真っ白になってさ、私も自分がこんなに心と体がバラバラになって制御できなくなるなんて知らなかった。でももう大丈夫。頭は冷えたし次はがむしゃらに突っ込んでいかないから」
覚悟ガンギマリかよ……いやなんとなくそうするんだろうなって思ってたけどさ。鬼滅のキャラ強い奴ほどすぐに覚悟決めすぎなんだよ……少しは葛藤したりしろよ……というかそうか。十三人目ってことは錆兎はもう死んでるのか……
それでも、目の前の助けることが出来た命を、死にに行こうとしてる奴を放って見殺しになんて出来るわけがないんだよなぁ……!
「……分かった。だけど俺も手伝うぞ。邪魔な障害は露払いとして俺が薙ぎ払うから頸を斬るのは真菰に任せる」
「……いいの?言っちゃなんだけどこれって私たちの一門の復讐だよ?それに巻き込むなんて……」
「助けた命をあんな奴に潰されたくないからさ。それにもう巻き込まれてるようなもんだからどうせなら思いっきり関わらせろ。それに俺はある程度強い。真菰への攻撃は全部防ぐから安心して攻撃してくれ」
「……そっか。うん、じゃあ私の背中は良生に預けるからしっかり守ってね!」
「俺の背中も真菰に預ける。さて、それじゃあどうやってあの鬼の頸を斬るかだけど……」
俺も手鬼との戦いに参加が決まり、幸い夜まではまだ時間があるから手鬼をどうやって倒すか作戦を立てることにする。何も考えずに猪突猛進で突っ込むよりかはマシだろ。
「私じゃあの頸を守るようにして巻かれてる太い腕ごと斬ることは出来ない。私は速さで翻弄して斬ることが得意だから、力が足りないんだ」
「だったら真菰でも威力が十二分以上に出るような型ってあるか?いくら時間かかってもいいから」
「それなら拾ノ型の生生流転が一番威力が出るかも。回転すればするほど威力が上がるっていう技だから」
「なるほど……じゃあ俺は鬼の周りに生えている手や肉を限界まで削ぎ落して真菰に攻撃が行かないようにする、真菰は十分に回転出来たらその生生流転で鬼の頸を斬る、でいいか?」
「うん!大筋はそんな感じで大丈夫じゃないかな。……頑張ろうね良生」
「絶対に死なせないから、あんまり気負いすぎずに俺たちに出来ることをやろう。まずは飯だ。色々採ってきたから早く食おうぜ。もう腹減ってしょうがねぇ」
「ふふっそうだね!わ、ホントにいっぱいあるんだねぇ。美味しそう!」
◆
そうしてとうとう四日目の夜がやってきた。休息は十分に取ったから準備は万全だ。鬼を斬る作戦を立てたはいいものの、夜になってからしばらく山を駆け回って探しているが肝心の鬼が見つからない。とはいえあの鬼も狐面に執着して真菰を探し回っている筈だ。そうして探している内にイラつきがピークに達して他の受験者も手当たり次第に襲うようになれば、こちらとしても見つけやすくて非常に助かる。襲われた奴が殺されないように見つけ次第斬る。
「いた!東の方向!また別の受験者を襲ってる!」
ビンゴ。思った通り癇癪を起こして暴れている。この状態なら昨日よりも冷静さを失ってるから戦いやすいはずだ。……にしても昨日以上に周りの手がうにょうにょ動きまくってるせいで気持ち悪さが倍増してる……アレだ、タコとかクトゥルフ系みたいな動き方してやがる……
「まずはあの子の救出を!それから型の準備をしてくれ!俺はそれまで斬り刻んで注意をこっちに引き付けておく!」
「了解!」
そう言って真菰は救出に、俺は手鬼に斬り込むために二手に分かれた。
手鬼は真っ直ぐに向かってくる俺に気付いたようで巨大な手を勢いよく振り下ろしてくるが、それを横に飛んで避けてそのまま地面に叩きつけられた腕を『参ノ型、晴嵐風樹』で輪切りにする。続けてすれ違いざまに『捌ノ型、初烈風斬り』で胴体を数か所斬りつける。
巨大すぎる胴体の所為で動きが鈍く、ゆっくりと俺の方向に向きながらこちらに乱雑に無数の手を伸ばしてくる。それを『肆ノ型、昇上砂塵嵐』で防ぎながら手を削り取っていく。
そうしていると遠くから水の龍を刀に纏わせて回転しながらこちらに走ってきている真菰の姿が見えた。無事に避難させて型の準備段階に入っているらしい。俺は真菰が間合いに入る限界まで手と肉を削ることに専念する。
勢いよく飛びあがって『伍ノ型、木枯らし颪』を頭に振り下ろし、真菰の方に視線を向かせないようにする。頭を強く打ち付けてたたらを踏んでいる間に首付近目掛けて『参ノ型、晴嵐風樹』と『弐ノ型、爪々・科戸風』を続けて放ち、出来る限り肉を削り頸を斬りやすくする。そうして重力に引かれて地面に着地するのと同時に真菰が飛び上がって頸に向かって刀を振り抜こうとするが、その周りに何本もの手が真菰を握り潰そうと迫っているのが見える。
それを防ぐためにすぐさま飛び上がり『陸ノ型、黒風烟嵐』で片側の手を、『伍ノ型、木枯らし颪』で反対側の手を全て斬って『肆ノ型、昇上砂塵嵐』で残った手のない腕を弾き飛ばす。それと同時に真菰の刀が振り抜かれ、手鬼の頸がずるりと滑るように胴からズレて、ボトリと地面に落下して転がっていった。
ボロボロとあっという間に崩れて塵と化して消えていくのを最後まで見届けてからその場に座り込む。実戦でここまで間も置かずに型を連続で出し続けたのは初めてのことだったから疲労感と倦怠感で体が少し重い。
「ありがとう良生。これで私も、皆も鱗滝さんの所に帰れるよ。良生のおかげだね」
「……俺こそ、手伝わせてくれたおかげで真菰を、他の参加者も守ることが出来た。真菰の力になれて良かったよ」
「ううん。良生なら、一人でもあの鬼の頸を斬れたでしょ?でも、そうしないで私に仇を討たせてくれたから、これで私たちも前に進める。本当にありがとうね」
……強いなぁ。仇の鬼を見送って、それでも微笑むことができる真菰は強い。一本の芯が確立してるからなのかな。何があっても折れなさそうなくらいに強く見える。
そうしてその場で談笑しているといつの間にか月が沈んで、東の空が明るくなってきていた。無事に四日目も乗り越えることが出来てホッとする。
「お、もう朝か……これからどうする?一旦分かれるか?」
「そうだね。今日はずっと頼りきりだったし胸を張って突破したって鱗滝さんに報告できるようにここからは一人で頑張るよ」
「そっか。それじゃあまた」
「「三日後に」」
そう言って笑いあい手を振って反対側に進んでいく。真菰については心配はいらないだろう。仇の鬼はもう斬ったし、他の鬼にやられるような実力ではないだろうし。俺もここで気を緩めずに終了まで気合を入れて挑まないと。
◆
それ以降、真菰に会うこともなく遭遇する鬼を斬り続け、たまにピンチになっている参加者を助けている内に気付いたが、だんだんと鬼にも参加者にも出会う回数が少なくなっていた。恐らくどちらも日が経つごとに死んでいったんだろう。もしかしたら真菰も他の参加者を助けているのかもしれない。そうして残りの三日が過ぎ、八日目の朝を迎えた。
「あ、良生!よかったぁ無事だったんだね!」
「真菰こそ。怪我は小さいみたいで何よりだ」
八日目の早朝、山の入り口に向かうとそこでばったりと真菰と会い、特に大きな怪我はしていないようで互いの無事を喜び合った。山の入り口では最終選別の始まりと同じく、あまね様が迎えてくださった。
そうして三十人ほど山に入っていった参加者が入口まで戻ってこれたのは、俺と真菰を合わせても八人だけだった。その中には俺が助けた人や手鬼との戦闘時に避難させていた人もいて俺たちの姿を見るなりお礼を言いに駆け寄ってきてくれた。そんな俺たちの様子を見て側に来た「尾崎」と名乗った彼女は、手鬼との戦闘時何かあれば自分も参戦できるように近くでスタンバっていてくれたらしい。結果的には大丈夫だったとはいえ、選別中に他人を気遣える彼女もまた真菰と同じく強い人だ。
真菰は年の近い同性の同期が嬉しいようで、彼女と交流を深めていた。
「皆様、よくお戻りになられました。ご無事で何よりでございます」
あまね様が変わらぬ表情で告げて、和気藹々と話していた俺たちはその声を聴いてぴたりと静かになった。
やっぱり今年の合格者はこれだけか……山中で何回か死体を見たとはいえ、自分よりも年下の子が死ぬっていうのは辛いな……この世界は命が綿のように軽く吹き飛びやすすぎる。
「まずは隊服を支給するため体の寸法を測り、その後階級を刻みます」
男女に分かれて寸法を測られ、手の甲にこちょこちょと細工をされて階級についての説明がなされる。全く理解の及ばない技術だけど、藤の花といい呼吸法といい前世の常識はあまり当て嵌めない方がいいんだろうな……深く考えたらダメな部分だろう。深く考えても分からんだろうけど。
「そして今から皆様に一匹ずつ、鎹鴉をつけさせていただきます。この鎹鴉は連絡と任務の通達が主になります」
待機していたらしい鴉たちが羽音を立てて降りてきた。一人に一匹、賢い鴉たちはすでに自分が誰につくのか知っているらしく、それぞれの腕や肩、頭に降りていた。俺の所に降りてきた鴉は、俺の頭を何度かつつき回すと地面に降り立って体を反らした。
胸張ってるつもりなのか……?と思いながらこれからよろしくな、と声をかければ、『俺ガツクンダカラ最速デ伝達シテヤルヨ!』と馬鹿みたいにデカい声で叫ばれた。
「それでは皆様、こちらから刀を造る玉鋼をお選びください」
ざわざわと周囲が戸惑っている。まぁいっぱいある鋼の中から一つだけ選べって言われて悩むのは分かる。……にしても並べられた大小さまざまな鋼、これが鬼を殺すための刀になるのか。
「良生、行こう!早く選ばなきゃいいのが取られちゃうかも!」
「残り物は福があるっていうし、俺は最後に取るから気にせずに行ってきな」
「んー……わかった。良生がいいなら行ってくるね」
正直俺にはどれがいい鋼かなんて全然わからない。だから残ったものの中から一目見て惹かれるものを選べばいいかなと思い、他の子たちに先に選ばせてあげることにした。とりあえず、切れ味抜群でブンブン振り回せるような刀になってくれればいいや。
隊服と刀が届けば、各自そこから鎹烏を通して任務が伝達されるのでそれまでは休養期間として待つように、と説明を受け、全ての説明事項が終わったことで皆バラバラと解散していった。
俺たちが助けた人たちは皆去り際に声をかけてくれて、お互いに激励しあい、また近いうちに任務で一緒になろうと言葉を交わした。尾崎さんとも話し、真菰にまた会うことがあればその時は一緒に甘味処に行こうと約束をしていた。流石にさっさと帰れるような雰囲気ではなかったから、全員の姿が見えなくなるまで最後まで残って見送った。そして、あまね様に手鬼の存在を報告して、一緒に見送ってくれた真菰と並んで帰路に就いた。
ふとこうやって真菰と並んで歩いて帰れていることを考えると、あの戦いはかなり奇跡だったんじゃないかと思ってしまう。無事に生き残れたからよかったものの、今考えるとかなり綱渡りなところも多かった。少しでも選択肢や技を間違えてたらどちらかが死んでてもおかしくはなかっただろう。
「そういえばさ、選別中からずっと気になってたんだけど」
「何?」
「……何でずっと真顔なの?」
「あー……やっぱり表情変わってなかった?自分的には結構笑ってたつもりだったんだけどな……」
あれから三年の間、鍛錬だけでなく表情を取り戻そうとマッサージをしたり師匠や美代に話し相手になってもらって感情を表現しようとしたんだけどいくらやっても表情は変わらずに声だけが感情豊かになってしまった。顔は能面なのに声だけやたらと感情の乱高下激しいとかただの怖い奴じゃん。
「いつ笑ってたの!?私と話してる時も皆と話してる時もずっと無表情だったよ!?」
「昔色々あったときに表情筋が仕事を放棄してな。それ以来ずっと真顔が標準装備になったんだ。今はそのことについて心の整理はついてるから大丈夫なんだけど、どう頑張っても結局表情を取り戻せなかった……」
「そうなんだ……いつかちゃんと笑えるといいね。あ、良生。私こっちの道なんだ」
「そっか。俺はこっちだから……じゃあ、ここでお別れだな」
歩いていると別れ道が現れ、俺と真菰は互いに別の道を指差した。たった二日程度しか一緒に居なかったというのに随分と濃い時間だったなぁと思いを馳せている俺に、「ねぇねぇ」と真菰が呼び掛けてきた。
「手紙書いてもいい?」
「筆不精な俺でよかったら。お互い、これから頑張ろうな」
「うん!」
手紙か……今までに書いたことないし形式なんて知らないけど、書くならちゃんと中身があって楽しめる文章を書きたいな。こういう人との縁は結んでおいた方が将来何かあったときに役に立つこともあると思う。それに友達としても友好を深めたい。
「良生、強くなろうね」
「そうだな。真菰はどんな風に強くなりたいんだ?」
「私?私はねぇ、兄弟子みたいに皆の前に立って引っ張って行けるようになれるくらい強くなりたいな。良生は?」
「俺は……鬼に理不尽に殺される人を見ることがないように、俺の前では誰一人死なせずに全てを守りきれるくらいに強くなりたい」
「お互い目標は高いね」
「だな」
「でも、それでこそ努力のしがいがあるってものだよ!お互い頑張ろうね!」
キラキラと真っ直ぐな眼を向けてくる真菰に頷いて、また会うことを約束してお互いの帰るべき場所に向かって進み始める。途中、真菰の方を振り返ると同じタイミングで振り返ったのか、こちらを見て大きく手を振っていたので手を振り返す。
こうして幸運にも鬼に遭遇することもなく、のんびりと師匠と美代の待つ韮崎山に帰っていったのであった。
暁 良生
十五歳。どう足掻いても無表情のまま。美代相手だと普通に笑えるようになった。
今回真菰を救済して、原作キャラを救うことが出来ると自信がついた。
初対面の人には基本敬語。
真菰
十三歳。救済された人。選別への緊張や不安から落ち着いた感じになっているが、普段はもっと元気いっぱい。足の速さは同期一。
尾崎さん
良生と同い年。水の呼吸を使う。落ち着いた雰囲気から年上に見られがち。