狂鬼の剣業   作:詠符音黎

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ウラ

「皮膚再生療法を……しない?」

 

 医者は私の言葉に驚きの言葉を出していた。

 それはそうだろう。私は拒絶したのだ。この焼けただれた顔を元に戻す治療を。

 

「……一応聞いてもいいですか、風鳴さん。なぜ皮膚再生療法の拒否を? 確かに、頭部の破片は死の危険をともなう危険な医療です。ですが、今の技術ならば無理ではない。しかも、この最先端の技術が揃った病院なら。とは言え、恐怖も伴うもの。ゆえに頭部の破片については手術を拒否するのも分かります。ですが皮膚は現状からでも完全な治療が可能です。リスクもない。それほどに医学は進歩している。なにも恐怖することはないのですよ?」

「……答えたく、ありません。少なくとも今は、この義手だけで十分です」

 

 私は以前貰った青色の義手を掲げながら、医者に冷たく言う。

 今私がつけている義手は、筋電位測定とコンピュータ制御と伴った最新鋭のサイバネティック・オーガニズム……つまりサイボーグ技術による義手だ。

 辛い訓練をせずとも生前の手のように巧みに動かせるこの義手は、S.O.N.G.の資金提供も得てかなりの性能を有している。

 なにせ、元の手よりも精密な作業が可能であり、パワーも出すことができる。技術の進化は人の肉体の可能性を超えることができるという証明のようだ。

 その義手を最初につけてもらったあと、医者は私に頭と顔の手術も提案してきた。

 私はその答えを少し引き伸ばし、今回の回答を伝えたのだ。

 

「……わかりました」

 

 医者は私の答えを聞くと、少し意味ありげな間を置いてから残念そうな声を出した。

 

「インフォームド・コンセントからも、患者が拒否している治療を受けさせることはできません。ですが、気が変わったならいつでも言ってください。我々の準備はいつでもできていますから」

 

 医者はそう言うと部屋から出ていく。その後、一人になった私は、以前司令達に頼んでもらった鏡を手に取り自分の顔を見る。

 なんと醜い顔なのか。子供の頃司令と一緒に見たヒーロー映画に出てきた悪役の顔を思い出す。だが、今の私はこの顔を捨てる気はない。なぜなら、この顔でいることが私の贖罪の一つなのであり、憎しみを忘れないシンボルなのだから。

 司令達が訪れたあの日以来、私の世界は変わった。

 最初に変わったのは視界だった。壁や床に血の染みが見え始め、そしてその次は赤錆などで世界が満たされていった。

 ところどころ元のようにも見えるが、もう既に世界の半分はおぞましい世界に変貌している。

 変わったのは景観だけではない。人の顔も、いびつに映るようになっていった。悪魔のような顔をしているもの、顔がまずないもの、ドクロになっているもの……人によって見え方は様々だが、まともに顔を認識できなくなってきている。

 もちろん、ちゃんと認識できる顔もある。司令や立花達の顔はちゃんと分かる。最初には来なかったが見舞いに来てくれる回数が一番多い緒川さんなどは、とてもはっきりしている。

 だがあの医者の顔はもう分からない。声と今の私の目に映る顔――近世に流行ったペストに対し医者がつけていたくちばしが出ているようなマスクをした顔で判断している。まあ顔に関しては、医者はみんな同じマスクをしているように見えるから、実際は声だけの判断なのだが。

 耳もおかしくなっている。病院を歩いていると、時折耳障りな雑音が聞こえてくるのだ。

 条件はよく分からない。ただ、他人の病室の前やテレビなどが置いてある談話室を通り過ぎるときによく聞こえる気がする。

 その雑音は私の心をかき乱し、否応なくイラつかせてくる。正体は未だ分からないが、それを聞くたびにただただ怒りすら湧いてくる。

 そしてついに、私は見えてはいけないものまで見えるようになった。

 苦しみ、助けを求め、ときには恨み言を私にぶつけてくる者達――死者の亡霊が。

 亡霊達はこの病院のいたるところに溢れている。そして、みなそれぞれ苦悶の声を上げたり、生者に呪いの言葉を吐きかけたりしている。

 そんな背筋も凍るような光景を、私はいつしか見えるようになってしまった。

 だが、私はそれとともに知ったのだ。この世がいかに憎悪と苦痛に満ちた、汚れた世界であることかを。

 死者達は毎日のように私にささやいてくれた。人の醜さを、悪徳さを、悲しさを。

 そこで私は気づいた。私の目は、そういった人の本質を見抜けるようになったのだと。世界の汚れを知る眼になったのだと。

 だからこそ、私は医者の提案をはねたのだ。あの医者は信用ならない。そう私の目と、死者達が教えてくれる。

 

「許さない……許さない……許さない……」

 

 私は鏡を見ながら呟く。

 この言葉は私が心に宿した感情……人に初めて向ける感情を忘れないための言葉だ。

 世界をここまで醜くした者達を、私の体と同じように、人の命を気軽に奪うような者達を、許してはいけない。憎まなければいけない。

 そう頭の中で声が響くのだ。誰とも知らぬ不思議な声が私の頭に響くのだ。

 声は日に日に強くなっていく。だが、不快感はない。むしろ心地よさすら感じる。

 鏡に映る天羽々斬が怪しく光る。こんな輝き方、今まで見たことがない。

 だが、やはりその輝きもどこか心を落ち着かせてくれて――

 

「……翼さん、いいですか……?」

 

 そんなときだった。コンコンと扉をノックする音と、恐る恐るといったような声が聞こえてきたのは。

 聞き間違えることもない。それは、立花の声だ。

 私はとっさに鏡を置き、ベッドに腰掛ける。そして「ああ」と一言入るのを促した。

 

「すいません……お邪魔でしたか……?」

「そんなことはないぞ、立花……邪魔だったら、入るのを許可などしない」

 

 私はできるだけ平素を装って応える。

 

「そうですか……よかった」

 

 立花はホッとした様子でベッドの近くの椅子にかける。

 その両手には大きな袋が握られていた。

 

「あのっ、そろそろ翼さん退院できるって聞いて。それで、服があったほうがいいと思って、失礼ですけど、翼さんの家から勝手に持ってこられるだけ服をもってきちゃいました!」

 

 立花は笑顔を作りながら私に言う。

 私に気を使っているのは分かる笑顔だったが、そこに言及する気はない。

 

「ありがとう、立花。助かるよ」

 

 なので私は素直に立花にお礼を言う。すると立花は先程の作り笑いとは違う少し嬉しそうな顔で笑った。

 

「よかった……あ、そうだ翼さん! 聞いてください! この前、学校でこんなことがありましてね――」

 

 立花はそうしてとりとめのない話を始めた。

 日常のことを話して、私の気を楽にしようとしてくれているのだろう。

 その立花の気持ちが嬉しく、私は静かに相槌をうちながら立花の話を聞いていた。

 

「それであとは……んんっ!」

 

 立花はそうして三十分くらい話してくれただろうか。さすがにずっと話していると、立花も喉が乾いたのか少し声の調子を悪そうにする。

 

「無理をするな立花。そこの冷蔵庫に飲み物が入っていたはずだ。好きなものを飲むといい」

「あっ、すいません……へへ」

 

 立花は少し恥ずかしそうにしながらも、部屋に据え置いてある小さな冷蔵庫から缶のお茶を取り出し、ゴクゴクと飲む。

 

「……ふぅ」

 

 一気に飲みきったのか、立花は缶から口を離すと、ちゃんと分別用のゴミ箱に捨てる。

 

「ありがとうございます翼さん。お見舞いに来たのにお茶を貰っちゃって」

「いいんだ。どうせあまり口をつけていなかったものだ」

「そうですか……」

 

 そこで立花はなぜか急に口を閉じた。目を泳がせ、指を無造作に遊ばせている。

 しばらくそんな感じだった立花だが、少し呼吸を置き、何かを決意したかのように私を見た。

 

「……あの、翼さん。やっぱりこれは、伝えなきゃいけないことだと思うので伝えようと思うんです」

「……なんだ」

 

 そこの立花の言葉で、何か私絡みの事で立花が伝えに来たというのを知った。

 服も雑談も、そのための理由付けなのだろう。

 だが、立花の様子からあまり楽しい話ではないのはなんとなく察せた。

 

「……この前の、テロのことなんですが」

「……ああ」

 

 当然そのことだろう。私はそう思いながらも口にせず、立花の話を促す。

 

「組織に対して以前よりアメリカが継続して調査をしていて、ついに一つの大きなアジトを潰すことができたそうです。ただ、それに報復しようと沸き立った一派が、憎しみをつのらせていた私達S.O.N.G.の海外基地を襲撃して、偶然出向していたあおいさんが怪我を……」

「なっ……それで、具合は……!?」

「幸い命い関わるほどではないんですが、少しの間入院しないといけなくなったようです。今回は直接S.O.N.G.が襲われた関係上、S.O.N.G.も調査に加わるべきだなんて声と、それでもS.O.N.G.の介入をよしと思わない国とで対立が起きて、議論されている状況らしいです……」

「……そう……か……」

 

 私のせいで、また罪のない人が傷ついてしまった。

 やはり世の中は過ちで満ちている。間違いだらけの世界を、許していていいのか? 私は何もせず、ここで黙っているべきなのか? 私は……。

 

「ごめんなさい翼さん。こんな暗い話しちゃって。でも、ちゃんと伝えることを翼さんは望むかなって。隠されたほうが、余計傷つくかなって思って……」

「……ありがとう、立花。その気持ちは、とても嬉しい。よく、言ってくれた」

「はい……」

 

 立花は元気なく小さく頷く。

 そうして、立花は帰っていった。その後ろ姿は、どこか寂しげだった。

 だが、私にそれを気にかけてやる余裕はなかった。

 私の頭の中でぐるぐると思考が回り始めていたのだ。

 世界にはびこる罪について、罰もなくのうのうと生きている輩について。

 なぜ悪しき者達は罰されず、優しき人々が苦しむのか。こうも世界とは不条理だったのか。

 私はそんなことも知らず、歌で平和を導けると信じていた。なんと愚かしかったのだろうか。

 かつてお祖父様が言っていた言葉を、今になって思い出す。

 歌で世界は、救えない――

 

『……ケテ……』

「……え?」

 

 そのとき、私の耳に声が聞こえた。それは、いつものように聞こえてくる死者の声だ。

 だが、その声は初めて聞く声であり、だが聞いたことのあるという矛盾した声だった。

 

『タスケテ……』

 

 その声の主達が現れる。その姿を、私は知っていた。

 

「君達、は……」

 

 彼女らは、子供だった。そう……私を狙ったテロによって利用された、哀れな子供達。

 その子達が、私に訴えかけて来たのだ。

 

『タスケテ……タスケテ……』

『ワルイヤツヲヤッツケテ……』

『ワタシタチノカタキヲトッテ……』

「ああ……ああ……!」

 

 彼らの助けを求める声を、悪を裁けという声を聞いたとき、私は、目覚めてから初めて笑顔を浮かべることができた。

 

「はは……ははは……! そうか……そうか……!」

 

 そうだ……そうだ! 私は! 求められている!

 そして私にはその力がある! 天羽々斬という力が!

 この身は剣……そう、悪を斬る正義の刃なのだ!

 ああ……やっと気づいた……私の中で毎日鳴り響いていたあの声……悪を許すなという声は……天上からの、勅命だったのだ! 私に授けられた使命だったのだ!

 それを気づけた瞬間、私の頭はクリアになる。これまでにない清々しい気持ちになる。

 

「役目を……防人としての役目を、果たさねば……」

 

 私は立ち上がり、先程立花が持ってきた服から適当なものを掴んで着る。

 結果、ジーンズに紺色のパーカーという姿になった。色気のない服装だが、そんなことはどうでもいい。

 むしろ目立たなくて好都合だ。

 服を着替えた私は天羽々斬を首からぶら下げて病院の窓――三階の窓から赤錆びた鉄が支配する外へと駆け出した。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「何ぃ!? 翼が、病院から消えた!?」

 

 師匠の大声が食堂に鳴り響いた。

 私――立花響は今S.O.N.G.の食堂にいた。病院から帰ったあと、なんとなく未来の元に戻る気になれず、未来には一言断りを入れて、S.O.N.G.に寄って夕食をごちそうになったのだ。

 そしてちょうどいた師匠と一緒に夕食を食べ終えて二人で話していたときに、師匠に電話がかかってきたのだ。

 

「そうか……分かった、こちらでも探してみる。頼んだ」

「しっ、師匠!? 今のどういうことですか!? 翼さんがいなくなったって……!?」

「ああ、どうやらそのようだ。夜、夕食を運びに行った看護婦が確認したらしい。ロックがかかっていたにも関わらず窓は無理やり開けられており、どうやらそこから外に出たらしい。あいつ、どうしてそんなことを……!」

「もしかして、誰かにさらわれたとか……!? 今の翼さんは弱っていますから、もしかしたら……!」

「有り得る話だ……とにかく、今は回せるだけの人員を使って捜査に当たらせている。響君は、万が一のために出動できるよう俺と一緒に司令室で待機してくれるか」

「はい! 翼さんのためなら……!」

 

 私は反射的に応える。

 そしてぎゅっと手を握りしめながら、私は翼さんの無事を心から祈った。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 病院から抜け出した後、私は一度自宅に戻り財布を回収してからふらふらと暗くなった外を回っている。

 今は街を回る巡回バスの後部座席に乗って、窓の外の人々を眺めている。

 フードを深々と被った私の顔がバスのくたびれた電気の明かりによってうっすらと窓に映る。もともとはファンにばれないように外に出るときのために使っていたパーカーだったが、今はこうして私の焼けただれた顔を隠すのに役立ってくれている。

 こうしてフード一つで醜い顔を隠すことができるのだから、人の心の内の醜さを隠すことなどは、もっと容易いことなのだろうと改めて実感する。

 今の私の目にははっきりと見える。人々の醜悪な本性が。

 素早く動くバスの窓から道行く人々を眺めているだけでも邪悪な相貌だらけだ。

 街もとても汚濁に満ちている。私は今まで、妄想を信じるあまりにこんな目に見える事実にすら気づけていなかった。過去の自分の未熟さに呆れすら来る。

 だが今の私は違う。私は生まれ変わったのだ。今の私こそ、真に護国のための剣なのだ。

 

「へへへ……おねえさーん」

「ちょっとやめてください……」

「いいじゃないか、なぁ?」

 

 そんなことを思っていたとき、私はバスの先頭付近の席で一人の女性が二人組のサラリーマンらしき男に絡まれているのに気づいた。

 ああ、ここにもいる……浅ましい人の本性を隠そうともしない者が。

 

「…………」

 

 私はすっと立ち上がり、その二人のところへと近づく。

 

「へへへ、いいからさぁ……」

「……おい」

「え? ――っ!?」

 

 そして、声をかけた瞬間、片方の男の手首を捻り上げた。

 

「いだだだだだだっ!?」

「お、おいっ! お前何やって――」

「うるさい」

「がっ……!?」

 

 抗議しようとして来たもうひとりの男の顔に、私は空いた拳の背面を叩きつける。

 するとその男は思い切りバスの床に倒れ込んだ。顔を見てみると、鼻がぺしゃんこに潰れて血だらけだ。

 

「…………っっぁ!!」

 

 それと同時に、グシャリという音と共に、私が手を握っていた男が声にならない叫びを上げた。

 どうやら骨を粉々に握りつぶしてしまったらしい。

 

「…………」

 

 私は突き放すように手を離す。すると男は、私が握っていた手首を抱え込んで床に丸まる。

 

「ふむ……どうやら義手の力調整がまだうまくできないらしいな。そこそこリハビリはしたと思ったのだが……」

 

 義手をグーパーしながら具合を確かめてみる。

 感覚に違和感はない。病院にいたときはここまでパワーは出なかったと思ったが、やはり実際に外に出ると違うものだな。

 ……と、自分のことだけではいけない。今は彼女を気にかけねば。

 

「……大丈夫か?」

「ひっ……!?」

 

 私が声をかけると、女性は怯えた声を上げて震えていた。

 どうしたのだろうというのか。

 

「……ああ」

 

 そこで私は気づく。どうやら角度的に私の焼けた顔が見えてしまっていたらしい。それなら怯えても仕方ない。この顔は初対面には受けが悪いだろうから。

 ちょうどそんなとき、バスが止まってプシューと扉が開く音がする。いいタイミングだ。私はそのまま彼女に背を向け、運賃を払ってバスを降りた。

 そうして宛もなく私は街を歩く。通り過ぎる人達の顔のなんとおぞましいこと。

 できるなら今すぐみんな排除してしまいたいぐらいだ。

 とは言え相手は一応人間だ。もどかしいが、我慢しなくては。こいつらがもしノイズだったら、遠慮なく切り伏せることができるというのに。

 私をイラつかせるのはそれだけではない。時折病院で聞いた雑音が街でも耳に刺さるのだ。とりわけ人通りの多いところで聞こえる気がする。

 なんなのだこの雑音は。聞いているだけで頭がおかしくなりそうだ。

 不快な感情はどんどんと溜まっていく。このままでは頭が爆発してしまいそうだ。

 

「へへっ、それそれぇ!」

「いいぜーっ! そこそこーっ!」

 

 私がそんな気持ち悪さを抱えていると、また耳障りな声が聞こえてきた。

 目を向けると、そこは公園だった。夜の人がいない公園。そこで、電灯の下ではしゃいでいる派手に髪を染めた五人ほどの男達がいた。おおよそ高校生ぐらいだろうか。少なくとも私よりは年下だと思う。

 彼らの手にはモデルガンが握られている。そして、彼らの足元にはぐったりとした猫が横たわっていた。かすかに息はしているが、だいぶ危うい状態だ。

 それを見て私は理解した。彼らは命を弄んでいる。弱い命を圧倒的な暴力で押しつぶしている。

 

「ああ……醜い……なんと醜いのだ……」

 

 粘っこい怒りが体に満ちる。その怒りに突き動かされ、私は彼らのもとに行く。

 

「ん……? おい、なんだお前?」

「私か? 私はな――」

 

 問いかけてきた少年に、私は歩み寄る。

 そして、次の瞬間彼の顔に思い切り拳を叩きつけた。

 

『っ!?』

「――正義の剣だ」

 

 私が殴り飛ばした少年は大きく宙を舞い、奥のベンチにぶつかる。一応まだ生きているだろう。

 

「なっ、こいつ……!? や、やっちまえ!」

 

 リーダー格と思われる少年の指示で、四人が一斉に飛びかかってくる。

 しかし、その動きのなんと遅いことか。あくびが出そうになる。

 ゆえに、私は素人丸出しの動きで襲いかかってきた彼らを、一瞬でいなした。

 

「げっ……!?」

「ぐえっ!?」

 

 彼らは気持ち悪い声を出しながら地面に倒れていく。なんとあっけなく、哀れなのか。

 

「はぁ……」

 

 私は思わずため息をしてしまった。

 

「このアマ……ふざけやがって……!」

 

 すると、リーダー格らしき少年が立ち上がり、怒りに満ちた視線を私に向けたかと思うと、ふところからあるものを取り出した。それは、ナイフだった。

 

「死ねおらああああああっ!」

 

 少年は私にナイフを抱えて突撃してくる。

 

「……っ!」

 

 そのとき、私の眼は彼の正体を映し出した。

 視えたのだ――彼の人の皮の下にあった、本当の姿を。

 彼は人間じゃない。彼の正体は――ノイズだ。ノイズのおぞましき姿を、私は見抜いたのだ!

 私は肉薄してきたそいつの手をナイフごと握る。

 

「ククク……カカカカカカカカカ……!」

 

 ああ、嬉しい! 思わず笑い声が漏れる! 思わずナイフの刃を手で握りつぶすほどに私は高揚している!

 そうかそうか! ノイズか! ノイズが人間に紛れていたか!

 なるほどなら合点がいく! この世の薄汚れたやつらは、みんなノイズだったんだ!

 

「そうかぁ……ノイズだったかぁ……なら、手加減する必要などないなぁ……!」

「ひっ……!?」

 

 私の顔を見てそいつは怯えたような声を出す。

 まったく最近のノイズはこういう擬態もできるのか。

 

「つくづく狩りがいがあるなぁ……! フフフフフフッ!」

「こっ、こいつ……やっ、やばっ……!? だ、誰か助け――」

「――Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

 さあいこう天羽々斬……剣を護国のために振るうときだ。

 

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