やっとこさ1周目クリアしました、次は技血キャラでも組みます
全身に走る痛み、喉が焼けるように暑い。僅かに血の混じった咳を二、三度零しながら輸血液を腿に突き刺す。あの後、格子の掛かった窓から話し掛けてくれた病人、ギルバートから幾つかの事を教えて貰った。
この街、【古都ヤーナム】の住民は皆陰気で、
そしてギルバート自身に【青ざめた血】に関しての知識は無く、それは【聖堂街】にある【医療教会】の預かり知る所かもしれないという事。
この街に長居する事は、お世辞にも勧められない事。
その話を聴きながら、またパズルの填まる音を聞いた。ぱちりぱちりと鳴るそれは肯定の声のように感じる。
そうして彼の言伝を頼りに、聖堂街に向かう大橋に向かっているのだが。
「幾ら何でも多過ぎるぞ、クソ……ッ」
怯え混じりの悪態をつく、今現在も獣と化した者達と追い掛けっこだ。
どく、どくりと身体が熱を持ち、斬られ突かれ流れ出た血が治まっていく。額からの流血が眼を覆い、赤くなった視界の奥からまた数体の元住民が迫って来ていた。
突き出されたフォークを避け、掴んで思い切り手繰り寄せる。吊られてつんのめった獣の首目掛けて鉈を振るえば、鈍い刃が喰い込み、夥しい量の血が撒き散らされた。力を失った獣からフォークを引ったくって構え、頭に突き刺してとどめを刺す。
残りは三人、頼りになる銃弾は十数分前に切らしてしまった。無用心に大通りに出た俺も悪いが……!
「しつこいんだよ、お前らはァッ!」
鉈の鳶を先頭の一体が構えた盾に掛けて引くと同時に、顔面に左拳を突き込む。奴の唸り声と共にじりじりとした痛みが拳を苛むが気にしては居られない。後ろ二人から突出している内に、こいつを狩る。息の根を止める。
怯んでいる隙に首を掴んで引き回し壁に押し付け、裂けた木片が纏わり付いたままの鉈を両手に持って叩き込んだ。ぐしゃりと音が響き、頭を二分割された獣が頽れる。だが足音が近い。
「けものめ!」
「くたばれ!!!」
慌てて鉈を引き抜くが、後続に追い付かれてしまった。
振り回される手斧を避け、松明を避け、どんどんと後ろに後退させられる。息を整える暇も無い。獣は何処までも追い掛けてくる、放置された棺桶を引き倒し、樽を蹴っ飛ばすが気休めにもならない。
「く、っぁ!?」
そして遂に行き詰まった、背中に衝撃が走り、振り向けば鉄格子。そして眼前に二体の獣が迫り___
___その獣達を、横あいから突き出た何かが吹き飛ばした。
それは斧だ、獣が振るう手斧ではなく、分厚く長大な大斧。それを持っているのは鎧を着込んだ大男、フードの奥は窺い知れず、ただ品定めするように俺を見た。
何故『見た』と思ったのかはどうでも良い事だ、あの僅かに首を捻る動作が、あの凶器が俺に向かって振るわれた事を教えてくれたのだから。
行動は驚くほど迅速だった。奴が斧を構え直す前に脇をすり抜けて走り出し、大通りまで駆ける。
結果論だが、銃弾を切らしてでもライフルを構えていた獣を狩っておいて正解だった。焚き火を囲む獣をすり抜けられる。道脇の階段を登ってなお走り、副門を潜り、倒れ込むようにガラクタの山に突っ込んだ。
「…………!!!」
心臓が暴れ回り、浅い呼吸だけが続く。ほんの数十秒前まで死にかけていたという事実に泣き出してしまいそうだった。
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ライフルを持った獣の肩をノコギリが捉え引き摺り回す、身体ごと回転させ勢いを付けて思い切り蹴り飛ばせば、涎を吐き散らし駆け寄って来ていた犬を巻き込んで派手に階段を転がり落ちていった。奴らが起き上がるよりも早く近場の棺桶を引き倒し、同じように蹴り落としてやった、悲痛な絶叫と共に肉の潰れる音。もうそんなものに耳を傾ける事は無い、何処もかしこも殺意と狂気に溢れたこんな街では、弔いすら時間の無駄だ。
___あぁ、貴方……また来たのですね、やはり、大橋までも獣ばかりでしょうか…………。
ギルバートの言葉が脳裏を過ぎる、あれから幾度と無く死んだ。
ある時はフォークで滅多刺しにされ、ある時は犬と肥えた烏に集られ、ある時は煉瓦を持ったデブに殴り殺され、またある時は……、この階段を登った先、あの施設にもいた大きな獣、その二体に喰い殺された。
だが、それを取り抜けさえすれば大橋、聖堂街だ。だから俺がする事は、一つ。
短銃を腰に掛け、入れ替わりに街中で拝借した松明に獣から奪い取った火炎瓶で火を灯す。人型の獣は松明を持っているが、対照的にあの大型の獣は火に怯む、前に殺された時、転げ落ちた火炎瓶から大袈裟に飛び退いたのを見た、ほぼ間違い無いだろう。あの大斧男からも逃げ切ったのだ、今更数体の獣どうって事は無い。
「……行くぞ」
口内で呟き、走り出す。一体目の獣の背に乗り、思い切り跳躍して距離を稼ぐ。我ながら滅茶苦茶な芸当だが、助かる事には変わりない!
眼下に待ち構える二体目、翳された爪を松明で叩き払って着地、
「これでも喰ってろッ!!!」
なおも追い縋る獣の喉に向かい、燃え盛る松明を捻じ込んだ。声にならない声を上げ仰け反る奴を避けて先に向かう。
脇道から飛び出す鎌持つ獣、馬車の陰で屯ろする烏、空を眺めるデブをほぼ勢いで躱し、蹴り飛ばして進む、進み続ける。
幸い獣達がしつこく追ってくる様な事は無かった、ただ、脚が止まる。止まらざるを得なかった。
「門が、閉まっている、のか」
見るからに重厚な門は、引けども押せどもびくともしない。副門は開いていまいかと試すが、硬い閂の感覚だけが返ってきた。
巫山戯ている、意地が悪いという次元の話では無いだろう、こんな事が、こんな……。
……ギルバートか、ゲールマンの元に戻ろう、こんな街をあても無く歩き回る様な気力はとても持ち合わせていない。どうにか別の道を探さなければ、もしくは、聖堂街以外に向かうあてが在れば。
そんな思考を巡らせる内に、門の向こうの空から鐘の音が鳴り響いた。同時に、悲鳴のような叫びも。聞き覚えがある、あの梯子に手を掛けながら聞いたあの音だ。
身を竦める間も無く影が走り、轟音と共に橋が揺れる。舞い上がった粉塵に思わず眼を覆う。ぶぅんと何か、とても大きく太い物が振り回される音、曇った視界が切り裂かれ、轟音の主が露わになる。
それは、獣だった。
先程まで『大型』と呼んでいた獣が、子供に見える大きさの獣。針金のような毛に覆われ、痩せさばらえた躰、捻くれ枝分かれした角、鹿のように張り出した顔は猛禽じみた獰猛さで俺を睥睨する。何より目立つのはその左腕、毛を纏ったそれは右腕と比べてアンバランスに大きく、溢れんばかりの攻撃性を滾らせていた。
「……はは……っ、…………馬鹿げている」
驚愕と恐怖がが一周回ると、人は笑ってしまうらしい。この命を半ば諦めながら、しかし俺の身体は、武器を握り直した。
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