Bloodborne/宵歩きの狩人   作:疾風怒号

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本当に本当に、なんて長い回り道……(更新が遅くなって本当に申し訳ない)





今回、とあるNPCにオリジナルで名前を付けています、苦手な方は今すぐブラウザバック推奨です。








7:一身歩乱

 

 

 

 

 

 

 

 

その人影は音も無く眼前に降り立った。漆黒の羽毛を束ね連ねた外套がゆるりと落ち、表情は帽子と仮面に遮られ、影の中から嘴のような突起だけが覗く。

手には奇妙に歪んだ短刀と、俺のものと同じ短銃。どちらも使い込まれているのか鈍く光沢を放っている。

 

 

 

「……なんだい、あんた狩人かい。あんまり血汚れが酷いもんだから獣かと思ったよ」

 

 

 

仮面の奥からくぐもった声が発せられた、少し嗄れた初老の声。

 

 

 

「まだ慣れないものでな、すまない。 俺はジャック、貴方は?」

「慣れない?……あぁ、あんた外から来たのかい、今宵は酷い物さ、因果な事に巻き込まれたねぇ。 あたしはアイリーン、……ババアだが、まだ狩人さ」

 

 

 

人影はアイリーンと名乗った、驚いた事に女性らしい。何処となく乾いた雰囲気のせいか余り性別を感じさせない、中性的な人だと思う。

 

彼女は武器を収めると、懐をごそごそと漁りだした。そうして何物か取り出し俺に差し出す。

 

 

 

「これは、後輩に餞別だよ」

「……ありがとう。…………これは、何だ?」

 

 

 

掌に置かれたのは妙なマークの描かれた紙と、それに似たマークが刻まれた首飾りの様な金属細工。当たり前だがどちらも見た事の無い品だ。

 

 

 

「こっちは、そうさね。もうどうしようも無くなった時にこれを見て、脳裏にこのルーンを浮かべるのさ。あんたはまだ夢を見るんだろう? あれに戻る事が出来る。あたしらはこれを【狩人の確かな徴】と呼んでいるがね」

「こっちは?」

「これは狩人証さ、狩人である証明。

夢の中で白い群れを見るだろう、そいつ等に見せれば何かを譲ってくれる時がある。……あんた、幾ら獣に鎧は意味が薄いからって、そんな布切れじゃ命が幾つあっても足りやしないよ、一度戻って装束を受け取る事だ」

 

 

 

少しぶっきらぼうな物言いだが、至極丁寧に解説してもらう事が出来た。何となく微笑ましくて頬が緩む。

 

 

 

「なんだいにやにやして。ほら、早く行った行った! 狩人は獣を狩るしか無いんだよ」

「あぁ、感謝する。アイリーン」

「……しっかりするんだよ。もう誰も人じゃあない、人を喰らう獣共だからね」

 

 

 

そのまま立ち去ろうとして、彼女が渋るように呟いた言葉に思わず振り返った。

 

 

 

「俺は獣じゃない」

「分かってるよ、ものの例えさね。……あぁそれと」

「まだあるのか?」

「街で柵扉を見たら開けて回りな、いざと言う時役に立つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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所変わって例の館前、アイリーンはここを『夢』と呼んでいたか。

 

人形さんは石畳を箒で掃いている、こう見ると如何にも人間らしいのだが、時々覗く球体関節が否応無しに違和感を突き付けてくる。

 

 

 

「……と、見惚れている場合じゃないな」

 

 

 

白いのは何処だと見渡せば、石の水盆にで群れた彼らが、いつぞやのように手招いていた。近寄れば水盆の中から輸血液や、火の点いていない火炎瓶、水銀の弾丸を差し出した。が、受け取ろうとすると引き下がる。……あぁ、成る程。

 

 

 

「輸血液が一つ欲しい、何を出せば良い?」

 

 

 

尋ねれば、今度こそ輸血液が差し出され、彼らは催促するように二、三度それを揺すった。手に取ると、身体の中で暖かさ(遺志)が僅かに消える感覚がした。つまりこれは、人形さんの言う【血の遺志】を通貨にして品を譲ってくれると言うことか。……『何の為に』と言う疑問は無駄だ、しつこいようだが考えるだけ無駄なのだ、諦めろ、俺。

 

それに、今はそんな理屈より大事な事があるだろう。

 

 

 

「これを見せれば、装束とやらを貰えると聞いたんだが」

 

 

 

金属細工を取り出して彼らに見せる。すると彼らは何となく嬉しそうに唸って蠢き、次々に服を投げ渡してきた、いや待て、投げるな、取れん。

ショートマントや尖ったシルエットの帽子、軽い金属の籠手や脚甲を抱え上げ、最後に顔にブーツが投げ付けられる。流石に苛立って水盆を睨んだが、彼らは何が楽しいのか小躍りするばかりだった。

 

 

 

「…………後は、ここを留めて……、こうか……!」

 

 

 

ばちん、とマントの金具を閉める。出て行けと言ったのに館に沸いていた彼ら___人形さんは頼めば出払ってくれたのだが___が手を拍って唸った。祝って……くれているのか?

 

身体を動かし、軽く跳んでみる。驚く事に新しい装束はオーダーメイドで誂えたように着心地が良い、これも彼らが選んでくれたのだとすれば、顔にブーツを投げた事も許せる程だ。厚手で丈夫そうだがそこまで重くもない上に、顔を覆う布が有るのが良い、下水道の匂いもマシに感じられるだろう。

 

あの服はとてもではなくとも頼り無かったが、これなら彼女の言う通り柵扉を探してみてもいいと思える。それ程までにこの装束は、『対獣』を意識させるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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熱くぬるついた石畳に、いくつもの死体が投げ出される。ギラついた刀を籠手で受け止め、ノコギリを叩き込んでまた命を奪う。そうして死体になった獣を盾に銃弾を受け止め、逆に撃ち返して高台から叩き落とす。

 

装束の使い勝手は想像以上だった。毀れた刃や犬の爪程度は通さず、帽子のお陰で返り血が眼を覆う事も無い。

 

近づいて来た犬を蹴り付け、瓦礫を引き倒して押し潰すとそれを台に跳躍、気圧されていた獣の腕を鉈で寸断し脳天に銃弾を撃つ。

何より、これを着てから意識が身体(遺志)に追いつき始めている。いや、遺志が身体に合わせてくれているのか? 兎に角、突飛な衝動や行動に驚かせれる事が無くなった。

 

はたまた、俺がこのふざけた状況に順応し始めているだけか。

 

あれ程俺を殴り殺した肥満体の獣も、一対一ならほぼ問題は無かった。振り回される拳と石像を離れて避け、振り切ったその瞬間に頭を潰せばそれで終わる。突進して来たならば___

 

ばん、と吐き出された銃弾が奴の胸を捉え、動きを止め、既に走り始めていた脚がバランスを失って膝を突く。その隙を逃さず傷の付いた腹に腕を突き込み、肉と臓腑を掻き回し、引き摺り出した。

 

___こうすれば、いい。

 

腸を垂れ、血を吐き散らし、だがそれでも息のある獣に短銃で止めを刺しつつ辺りを見渡せば……、あぁ、あった。鉄柵の扉だ。

 

短い梯子を越え、レバーを引く。それだけで鉄柵は簡単に開いた。その先にはあの大きな門、斧持ちの大男から逃げ込んだあの場所に戻ってきたようだ。

 

 

「これで一つ目……、そう言えばギルバートの家にも有ったな、道を教えて貰うか……?」

「あなた、だぁれ?」

 

 

突然聞こえた声に思わず身構える。まだ幼い少女の声、鳴禽のようなそれが、すぐ近くの窓から聞こえてくるのだ。

 

 

「知らない声、でも、何だか懐かしい臭いもするの。 もしかして、獣狩りの人かな?」

「……あぁ、そうだ」

「良かった、やっぱり貴方、狩人なのね! だったらお願い、お母さんを探して欲しいの」

「どうして、一緒にいるんじゃないのか?」

「ううん……、獣狩りの夜だから、お父さんを探すんだって……それからずっと帰ってこない…………」

 

 

金網に覆われた窓の奥で、少女の声が湿る。

 

 

「私ずっと……でも、寂しくって……」

「……そうか」

 

 

こうあっては断る事など出来そうになかった。

やめておけ、徒労だ、こんな状況で女一人、生きていられる筈が無いという思考を押さえつけ、窓に映る影に目線を合わせる。

 

 

「分かった。俺が探してくる」

「……本当?」

「本当だとも。俺は狩人だ、人の役に立つのが狩人だろう」

「……ありがとう、獣狩りの人! ええと、お母さん、真っ赤な宝石のブローチをしてるんだ。すっごい大きくて綺麗なんだから、きっとすぐに分かると思う。 それで、それでね、お母さんを見つけたら、このオルゴールを渡して欲しいの」

 

 

ガラッ、と窓が開き、銀色の髪の少女が小さな箱を差し出す。血塗れの俺に少し驚いたようだったが、青い眼に溢れんばかりの輝きを湛えてそれを俺の手に握らせた。

 

 

「これは?」

「お父さんの好きな、思い出の曲なんだって。 もし、私たちのことを忘れちゃっても、この曲を聴けば思い出す筈だって」

「いいのか?大事な物だろうに」

「大丈夫、本当はお母さんが持って探しにいく筈だったから!……それなのに忘れていくなんて、おっちょこちょいなお母さんだよね」

 

 

呆れたように頬を膨らませる姿に、思わず笑ってしまう。オルゴールを懐にしまい、マスクをずり下げて口を開いた。

 

 

「よし分かった、君の父さんと母さんは、俺が探してくるよ、任せてくれ」

「うん、本当にありがとう、獣狩りの人!」

 

 

黄色い声を背にその場から離れようとして、ふと思い至って振り返る。

 

 

「……俺はジャック、ジャック・フィッシャー。君は?」

「私? 私はディアナ! お父さんとお母さんをお願いね、ジャック!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 











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