ツイン・フューチャー   作:キズカナ

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こころの疑問

 遂に文化祭が始まった。

 目の前に広がるカフェの風景を見ながらあたしはそう思った。

 本当にここまで長かった。思い返せばあの時も……

 

 

 

 ◎ ◎ ◎ ◎

 

 

 

 ある日のこと…

 

「文化祭の出し物って一体なにやるの?」

「あたしに良い案があるわ!」

「─参考程度に聞いておくけど何?」

「ヘリコプターで皆を運ぶのよ!」

「は?」

 

 あたしは耳を疑った。ヘリコプター?皆を運ぶ?今に今始まったことでは無いが大丈夫この子?と不意に思ってしまう位には。

 

「とりあえず一応聞いてみるけどなんでそれ?」

「だって皆、好きなところにビューン!と行けたら楽しいじゃない?」

「まあそうだね。」

「だから皆を好きなところに連れていって上げたら皆笑顔になるんじゃないかしら?」

「そーだね。でも却下。」

 

 と、いうことがあったり。

 

 

 また別の日…

 

「美咲!これはどうかしら?」

 

 次にこころがあたしに見せてきたのは…

 

「これ…ステーキハウスのチラシだけど…どうしてこれを?」

「最近知ったのだけどお肉が好きな人って結構多いみたいなの!」

「うん、まーそうかもね。」

「だからステーキハウスをやるのはどうかしら?」

「うん、無理。そもそもそのお肉どっから買ってくるの?というかお肉だけじゃなくてプレートとか考えたら用意の時点で相当な額になるけど?」

「奥沢様、それなら心配は無用です。道具と材料の方は我々で手配致しますので。」

 

 あたしは絶句した。そう言えばこの人たち(黒服たち)の存在を忘れていたのだ。この人たちはその気になればこころの望みを何でも叶えてしまうのだ。それを思いだしあたしは思わず頭を抱えた。

 

「とりあえずさ、やるとしても大体どのくらいで出すの?」

「えーと…300円位かしら?」

「こころ、お肉いくら?」

「我々が用意した材料の値段がこちらになります。」

「………はあ?」

 

 思わず目を疑った。黒服さんから提示された紙には一、十、百、千、万……と0が続いていた。確か0以外の数字が出てきたのは後ろから6、7番目くらいだったと思う。

 

「うーん…よくわからないけどどうかしら美咲!」

「却下。」

「どうしてなの?」

「リスクとリターンが釣り合って無さすぎでしょ?!!材料費だけで肉どころか高級車が買えるから!!

 お金が!予算が!!税金が!!!」

 

 と、こんな感じで何度かぶっ飛んだ意見を貰った。しかし申し訳ないがそれら全てはあたしの意見で却下にさせて貰った。

 

 

 

 ◎ ◎ ◎ ◎

 

 

 

「長かった…本当に長かった…。」

 

 思えば何度こういった無茶苦茶な意見に振り回されたことか…。というかあたしがいなかったら絶対なんか余計なことをしていたと思う。

 で、結局どうなったのかって?それは…

 

「そんでなんでこーなるのかな…」

 

 結局、あたしたちがやることになったのは……

 

「美咲~!いっぱい連れてきたわ!」

 

 そう言いながらこころが連れてきたのは……大量の猫のぬいぐるみ。そう、あたしたちがやることになったのは猫カフェ。なんだが、本物の猫を連れてくるのは衛生面上の問題で許可がおりなかったのだが、その代わり猫のぬいぐるみを揃えることになった。

 

「はいはい…。」

 

 こころから渡された猫のぬいぐるみは本当にそっくりでまるで本物の猫じゃないかと思うくらいだった。

 

「再現度凄っ…。」

「黒服さんたちが用意してくれたの!」

 

 流石は黒服の皆さん…。本当にこころの為ならエンヤコラというように着々と準備を進めちゃってるよ…。

 チラッと教室を見回すと皆、こころが持ってきた猫のぬいぐるみに夢中になっていた。女の子は可愛いものに対しては夢中になると聞くけどやっぱりそうなんだなぁ…。

 

「皆ー、そろそろ文化祭始まるよー!」

 

 リーダー的存在の子が号令をかけると皆そっちに顔を向けた。

 

「それじゃあ、文化祭頑張ろー!」

 

 こうして、あたしたちの文化祭は始まった。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「いらっしゃいませー。1―Cカフェへようこそー。」

 

 始まってからから少し時間がたった。

 お客さんの入りは順調で仕事もスムーズにいってる為、特に困ったことはない。それに本物そっくりの猫のぬいぐるみはお客さんにも大好評なみたいでどんどんと客数が伸びている。

 

「奥沢さーん、次のお客さんの対応お願いして良い?」

「あーうん、わかった。」

 

 言われるがままにあたしはお客さんへの接客に向かう。

 

「いらっしゃいま……沙島くん?」

「あれ…?奥沢さん?」

 

 ここでまさかの知り合いに遭遇。いや、2度あることは3度あるって言うけどさ、ここまで立て続けに起きるなんて思わないでしょ。

 

「来てたんだね。」

「はい。奥沢さんもこの学校だったんですね。」

「うん。」

 

 あたしたちのぎこちない会話が続いていたのだが…。

 

「おにーちゃ……えっ?」

「えっ?お兄ちゃん?」

 

 廊下端から現れた少し小さな女の子の言葉にあたしは肝を抜かれたような気分になった。

 

「……お兄ちゃん、この人誰?」

「えっ…と…なんて言えば良いのかな?」

「もしかして彼女!?」

「いやいや違う!後声大きいよ!この人は…えーっと…」

「まあ…あたしが落としたメモ帳を彼に届けて貰ったんだよ。」

 

 沙島くんが説明に困っていたのであたしは見ていられず説明を追加した。

 

「そうでしたか…。あ、私は沙島美琴って言います。兄がいつもお世話になってます。」

「あーいえ、こちらこそ…。」

 

 そんな感じで沙島くんをよそ目に妹の美琴ちゃんと挨拶をしていたが、あたしには仕事があるので2人を席に案内した。

 

「ん~!この猫ちゃん可愛い~!」

「あはは…。喜んで貰えたみたいで良かったよ…。」

「ごめんね奥沢さん…。美琴は大の猫好きだから…。」

「いやいや、まあこういうものだから。ところで沙島くんたちはなんでここに?」

「実は美琴がここの学校見たいって言っててさ…学校見学がてらに文化祭を見て回りたいって言うから来てみたらね…」

 

 それを聞いて「成る程ね」と考えていると…

 

「それにこの間の金髪の子が言ってた文化祭ライブってのが気になってたんだけど…どこの学校か聞いてなくて…妹に聞いたらもしかしたら『ポピパ』か『ハロハピ』の子じゃないかって…。」

「ああー。」

 

 成る程。それでここにってことかと納得していた。あたしの知り合いで金髪の子って言ったらポピパの市ヶ谷さん、パスパレの白鷺さん、そしてウチのこころだ。多分白鷺さんは女優だから早々町中で遭遇しないだろうと考えてガールズバンドの子と言ったらそうじゃないのかな?という考えじゃないだろうか。

 

「因みに行こうとしたら『ハロハピなら私も見たい』って言って…一緒に行動してたんです。」

「あ、そうなんだ。」

 

 ちらりと妹さんの方を見ると妹さんは猫のぬいぐるみにドはまりしていた最中だった。

 

「あとさ…ハロハピのライブってキグルミいるの?」

「あ、それは「ミッシェルだよ!」」

 

 ミッシェルについて説明使用としたら突然美琴ちゃんが身を乗り出してきた。

 

「ミッシェルは可愛いのにDJまで出来るかっこ可愛いスーパーベアーなの!キグルミであそこまで出来るんだよ!それで中の人はまだ高校生!一言で言うなら……エモいクマさん!」

「う…うん。」

 

 美琴ちゃんの熱意が凄くミッシェル本人であるあたしも思わずたじろいでしまった。

 

「ハロハピのライブならお昼開けからやるから気になるならそれまで文化祭、色々回ってみたら良いんじゃないかな?」

「はい!ハロハピのライブ凄く楽しみなんです!」

 

 凄く目がキラキラしてるよ…。

 なんかそこまで言われるとプレッシャーが凄いなあ…。

 

「奥沢さん、それより注文良いですか?」

「あ、ごめん。」

 

 そしてあたしは2人のオーダーを聞いて頼まれた品を取りに行く。はあ…、これは何時もより気合いを入れてやらないと駄目だなぁ…。

 

「にゃーんちゃん……。」

「友希那ー?ゆーきーなー?」

 

 ところでなんか向こうで知り合いが思いっきりキャラ崩壊してるんだけど気のせいだよね?気のせいだよね?うん、気のせいだ。そう考えさせてあたしは自分の仕事に集中することにした。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「さあ!今日も皆を笑顔にするわよー!」

 

 お昼休憩も終わり、あたしたちはカーテン裏でスタンバイしていた。因みにあたしは何時ものようにミッシェルの中に入って万全の状態にしている。

 

「ふふふ…。今日も迷い混んだ子猫ちゃんたちに道のステージを見せてあげようじゃないか。」

「はぐみも気合い入ってきたー!」

「ふええ…。お客さんがいっぱいいるよぉ…。」

 

 客席の様子を見て皆はそれぞれ気合いを入れたり緊張したりと様々な様子だった。

 

「ハロハピの皆さん、準備お願いします。」

 

 スタッフの生徒の一声であたしたちは立ち上がり各自楽器の準備をした。

 そして前のグループの演奏が終わり遂にあたしたちの番が来た。

 

「それじゃあ今日も世界を笑顔にするわよー!」

 

 

「「ハッピー!」」

「「ラッキー!」」

「スマイル~」

「「「「「イエーイ!!」」」」」

 

 さて、ここからはハロハピのステージ。あたしも精一杯やりますか。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 ライブが終わりあたしはひとまずミッシェルの中から出て制服に着替えた。そのままミッシェルは黒服さんたちが回収した為、あたしはドリンクを買いに自動販売機に向かっていた。

 

「はあ…今日も疲れた…。」

「美咲!ここにいたのね!」

「こころ?どうしたの?」

「ミッシェルがいなくなっちゃったの!美咲、知らないかしら?」

「ミッシェルは…今日はもう帰ったんじゃないかな?」

「そうなの?」

「うん。なんか凄く疲れが貯まってたみたいだし……。」

「あ、美咲さん!」

 

 こころと会話してると沙島くんの妹の美琴さんに声をかけられた。その隣には沙島くんもいた。

 

「あら?健じゃない!」

「あ……。どうも…。」

「………あ、あなたはもしかして…ハロハピのこころさんですか!?」

「ええ!そうよ!」

 

 それを聞くや否や美琴さんは目を物凄く輝かせていた。

 

「今日のライブ凄く楽しかったです!まさかあそこで空中ブランコを始めるなんて……しかも大成功でしたね!」

「ありがとう!あなたも良い笑顔だわ!」

「はい!ハロハピのライブにはいつも笑顔を頂いてます!」

 

 と、ハイテンションな会話が2人の間で起きていた。なんか…あのこころと同じテンションで話せるなんて…あの子凄い…。

 

「すみません、奥沢さん…。美琴、ハロハピのことになるとこんな感じなんですよ…。」

「いやいや、楽しんでくれたみたいで良かったよ。」

「あの……1つ聞きたいんですけど…もしかしてあのキグルミの中って…」

「……気づいちゃった?」

「ええ…。声がなんか似てるな~と…。」

 

 と、早速正体を見破られてしまった。沙島くん、オドオドしてるみたいで結構観察眼あるんだなぁ…。

 

「で、どうだったかな?」

「とても…楽しかったです。ハロハピって…すごいです。」

「あはは…。そりゃどうも…。」

「それに…奥沢さんもまさか体育館でバンジージャンプとは思いませんでした。」

「うん、あたしもびっくりしたよ。出来ればもうやりたくない…。」

 

 そんな会話をしていると沙島くんは「あ。」と何かを思い出したかのように呟いた。

 

「そういやそろそろスーパー行かないと…。」

「……?何かあるの?」

「おじさんに頼まれてたものを買いに行かなきゃいけないんです。ちょうど3時にタイムセールが始まるので…。」

「そっか。」

 

 そうして沙島くんは「失礼します。」と言い、美琴さんと一緒に帰っていった。その時に美琴さんは「もっとこころさんとお話したいのに~」って言ってたけど沙島くんに説得されて一緒に帰った。その際に「またライブ見に行きますね!」と言われちゃった。

 

「楽しんでくれたみたいで良かったね。」

「……うーん…」

「…こころ?」

 

 こころの方を見るとなにやら考え事をしているようだった。なんだろう…、こころが考え事ってなんか珍しい気が…。

 

「美琴()凄く良い笑顔だったのだけど…」

「『は』?」

「ねえ美咲、健は楽しんでくれたのよね?」

「そうじゃないの?本人もそう言ってたし…」

「じゃあ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで健は笑顔じゃなかったのかしら?」

 

「え?」

 

 その時のこころの発した一言。

 そのたった一言の言葉の真髄をその時のあたしは上手く理解出来なかった。

 

 

 




物語、動く─。

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