いつものようにハロハピでの活動を終え、あたしは帰路に着いていた。相変わらず今日もこころ達に振り回されてそれをまとめるのにあたしが頭を抱え続けた1日だった。もう状況を説明することすら面倒に思えてくる。
そう思っているとメールの着信音が聞こえた。
『申し訳ないんだけど今日帰りに魚買ってきてもらってもいいかな?鮭が必要なんだけど』
母からだった。もう商店街のところまで来てるし、スーパーに戻る気力もない。となるとここから1番近い魚を売ってる場所といったら…
「あそこか…」
そう、あの魚屋だ。
もしかしたらあの人物がいるかもしれない。いや、彼のことが嫌いだとか彼と会いたくないだとかそういう訳じゃない。
ただここ最近彼といるとどうにも自分の思考が持っていかれそうになる。
(まあ細かいことを気にしても仕方ないか。別にあたしがしっかりしてればいいだけの話だし。)
そう思い、足を進めて行った。
しばらく歩きその魚屋が見えた。
(やっぱいるのかなぁ…。)
心の中でそう呟いてはいるが、頼まれている以上買わないとならないのでそのまま魚屋の方に歩いていった。
「いらっしゃい!」
しかし、今日そこにいたのはここの店長だけだった。
一応奥の方も見てみたのだがやはり彼はいなくて、その代わりに女の人がいた。
「なにかお探しかい?」
「は…はい。鮭を買いに…」
「おっし!母さん、氷をくれ!」
「か…母さん?」
「おう、俺の妻だ!」
「あ、そっちだったか…。」
そんなことはさて置き、鮭の用意ができるまでもう少し見ていたがやはり沙島くんの姿は見られなかった。
「そういえば今日はあの白い熊の着ぐるみ、いないんですね。」
「ああ、今日は担当の奴がシフト終わってもう帰っちゃったからなぁ。」
なるほど。じゃあ彼もいないわけだ。
そう思い、用意された魚を受け取りお金を渡すとあたしはその場から離れていった。
◆ ◆ ◆ ◆
帰路に着きながらあたしは空を眺めていた。
小さい頃は雲の形が何かに似ているだとかで友達と盛り上がった人もいるのではないだろうか。最近だとよくこころやはぐみが雲を見ながらの連想ゲームとかやったりしてたなぁと思い返していた。
「すみませーん。この子のお母さんいませんかー?」
そんな中でよく知った声が耳に届いた。
「あのー!迷子ですよー!」
「……あれって…」
その声の主は…沙島くんだった。しかも見たことない小さな男の子と一緒にいた。迷子と言ってるところを見ると沙島くんはその子の親御さんを一緒に探してあげてるのだろう。
「ひろし!」
と、その子のお母さんらしい人物が彼らの元に駆けつけた。
再会できた親子は彼に頭を下げながら、別の場所へと向かっていた。それを見届けた沙島くんもその場から立ち去っていた。
それを見ていたあたしは…まあ彼に声をかける訳でもなくそのまま帰ろうとしていた。
しかし、そんな中こちらに近付いて来る影が1つ…。
「奥沢さん?」
やはり先程見かけた沙島くんだった。ホントなんでさっきの今で見つけられるのだろうかと疑問に感じてしまう。
「あ…沙島くん。奇遇…だね?」
何となく偶然出会った感を出しつつ挨拶をしてみたもののどことなく不自然さを隠しきれてないと自分でも思う。
「もしかして今帰りでしたか?」
「うん。ちょっと魚買うの頼まれたから買ってきてたんだ。」
「そっかー。一応僕も今日さっきまでやってたんですけど…。じゃあもしかしたら入れ違いになったんですかね〜。」
「だろうね…。」
あたし達は歩きながら軽く談笑をしていた。
「そう言えばさ…沙島くんっていつもあの…おじさん?のところにいるの?」
「そうですね。妹と一緒にお世話になってますね。」
「そうなんだ。そう言えばご両親ってどうしてるの?」
「…………それは…」
突然沙島くんの声の調子が変わったように思えた。もしかして…あたし何か不味いこと言っちゃったのかな…?
「あ、そろそろですね。」
彼は話を切り替えるように口を開いた。沙島くんに言われて前方を見るとサイクルショップ…沙島くんの家が見えてきた。
「じゃあ僕は先に行きますね。これからおじさんの手伝いがあるので。」
「えっ?」
思わず驚きの声をあげてしまった。先程の魚屋の店長の言葉が正しければ彼は今日、バイトを終えている筈。しかし、それに加えて今日は家での手伝いをするのは彼の体的に大丈夫なのだろうかと感じていた。
それに今の彼は何となく、どこか辛そうにも見えた。これはあくまで私から見た感覚で言っているだけなのだが、やはりどこか無理をしてるように感じた。
「…ねえ沙島くん、ホントに大丈夫?」
「はい。なんのこれしき…です。」
「……あのさ、これは私が口出すことじゃないかもしれないんだけど…沙島くん、さっきまで魚屋でアルバイトしてたんだよね?」
「はい。」
「そのまま休む間もなくって大丈夫なの?ほら、それこそ身体とか無理させてない?」
「奥沢さんは優しいんですね。…でも僕は大丈夫です。こうしてた方が楽ですし」
「………でも…」
「おじさんはいつも大変そうですから少しでも役に立ちたいんです。それに……辛い人がいたらその人の為になにかしてあげたい、助けてあげたいんです。僕はそう思っちゃうのが当然なんです。」
「ーーーーー?!!」
そのまま沙島くんは「それじゃあ」と言って駆け足で去っていった。
一方のあたしは彼の言葉を聞いて、思わずその場に立ち尽くしていた。
辛い人がいたらいたらその人を助けてあげたい。そう思うのは彼としては当然…
この言葉にあたしは聞き覚えがあった。
そう、
◆ ◆ ◆ ◆
その次の日、あたしは昨日のことを考えていた。
あの言葉を聞いて以来、どうしてもその事ばかりが脳内を過ぎってしまう。
何を考えているのだろう。別に遼の言葉と沙島くんの言葉が重なったのはただの偶然でしかないというのに。その事にはあたしが考えているほどのたいそれた理由なんてものは存在しないことは自分でも理解しているつもりだ。
しかし何故だろうか。考えれば考えるほど2人を重ねてしまう。
もしかしてあたしはまだ……
「みーくーん!」
「みさきー!」
はぐみとこころの呼ぶ声が聞こえ、あたしは思わず我に返った。
「大丈夫?ずっと難しい顔してたよ?」
「あーいや何でもないよ。ちょっと考え事してただけだから。」
「悩み事ならあたし達が相談にのるわ!なんでも言ってちょうだい!」
「いや、悩みなんてものでもないから大丈夫だよ。それよりあたしになにか用事があったんじゃないの?」
「そうだったわ!次のライブについてはぐみと話したのだけどはぐみが凄くいいアイデアを思いついたの!」
「うん!コロッケライブだよ!」
「は?コロッケライブ?」
まーたこの2人は計算外なことを思いつき始めたのか…。
「ライブ中に飴をお客さんに投げるステージとかあるでしょ?」
「あーうん。あれね。」
「その飴をコロッケにするんだ!」
「いや絶対油でベトベトになるでしょ!?後コロッケを投げるな!?」
「そうかしら?はぐみのコロッケは美味しいからみんな笑顔になれると思うわよ?」
「いやそういうことじゃなくてね?飴とコロッケじゃまた話が違うと思うんだけど?」
2人と話していると自然と先程のことを忘れることが出来た。相変わらず言っていることや考えていることは無茶苦茶だが今回ばかりは2人に感謝しようと心の中で密かに思った。
◆ ◆ ◆ ◆
「先生、頼まれていた資料が完成したので確認をお願いします。」
「おお、ありがとう。じゃあ不備などがあればまた訂正をしておくよ。お疲れ様。」
「はい。それでは失礼します。」
健は元気にそう答え職員室を後にした。扉を閉め、教室に向かっていたのだが彼はどこか様子がおかしかった。
(今日はこれから…ハンバーガーショップでアルバイトをして…それからおじさんの手伝いもしなかきゃ…。おじさんは無理しなくていいって言ってたけど…おじさんばかりに負担をかけさせる訳にもいかないし…。)
健の足取りは重く、動きもどこかきごちなかった。
その足で何とか教室に戻り、1度席についた。そして時計を見ると既に4時30分を回っていて、健は焦り始めた。
(もうこんな時間!?…早く行かないと…松原さんにまた迷惑かけちゃう…。いそがな…いと…)
鞄を持ち、彼は席を立ってアルバイト先に向かおうとした…
しかし、彼の景色は前には進んでいなかった。
(あれ…)
最後に彼が見たのは茶色く染まった…教室のフローリングだった。
やっと6話です。
さて、この先どうなるのでしょうか…。
良ければコメントや評価よろしくお願いいたしますm(_ _)m