32番目の騎士   作:ミアキス

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 皆様、総数259件もの投票、誠にありがとうございました!
結果としては大差がつき、今回から『ダブルヒロイン』の方向で物語を進めていく事となりました。まぁなんやかんやこの選択肢が一番平和で、納得して頂けるのではと思います。そして今回で10話を迎えます。10話時点でお気に入り登録者様278人、UA数は、2万超、皆様のおかげあってここまでこれました。今後とも『32番目の騎士』をよろしくお願い申し上げます。
さて、今回はアリス回です!

10話「《金木犀》と彼女」





10話「《金木犀》と彼女」

------------アリスside------------

 

 

 

 

金木犀の木が揺れる。

 

まるで私自身を慰めるかのように。

 

私を包み込むように。

 

失った過去をそっと撫でる。

 

あぁ、私の大好きだった光景だ。今は無い、消された__記憶

 

 

幼き私が過ごしたあの場所は、仲間は、なんだっただろう。

今はもう思い出せない、

 

 

だけどこの光景は覚えている、太陽が傾く昼下がりの穏やかな村。

仲睦まじく村を駆け回る4人の姿は、__

 

 

 

 ほら、アリスも行こうぜ!

 

 

此方に手を伸ばす黒髪、茶眼の少年。年相応の幼さが窺えるその無邪気な横顔は笑っていた。

 

 

なら、その手を掴んでもいいよね、ほら、いつものように____

 

 

 

 

アナタハダレナノ? 

 

 

 

突如、視界が暗転する。この空間を満たす黒。その中に佇む《自分》と対面する。

 

 

 

「私、ッ_私、は、」

 

 

思わず言葉が詰まる、いや出てこない。自分が何者なのか証明ができないからだ。

 

 

アナタ、イツマデワタシノナカニイルノ?

 

 

違う、違う、違う、違う、私は____

 

 

ふと、自分の手元を見る。目に入ったのは自らの手を、足を、身体を、包み込む黄金の甲冑。…何故か左腰に暖かみを感じる。

恐る恐る左腰に視線を移す。その暖かみの正体は一振りの黄金色の剣であった。

 

…そうか、私が私である理由はそこにあった。

唇をギュッと結び、腰にある《金木犀の剣》を、抜き放つ。

 

 

「私は、整合騎士アリス・シンセシス・サーティ、他の何者でもない!」

 

 

 

_ _ _ _ _______

 

 

最近よく夢を見る。何故か朝目覚めた時には内容の全てを忘れてしまっているが、必ず右目に鈍い痛みだけが残っている。

 

 

この現象が起こったのは今回が初めてではない、定期的に去年の暮れ辺りから、もっと正確にいうと彼、セイヤがセントラル・カセドラルに整合騎士として召喚されてからだ。

 

この事を考える今この瞬間も、右目の痛みは止まない。

そして、思考を止めると痛みは徐々に治る。

 

この事を他の誰かに相談するという選択肢は無い、気にするだけ任務に支障が出る。私は、整合騎士として、その任務を全うするだけ、他の思考は必要がない。そう決めているのだから。

 

一方通行の廊下を歩いていると、ふと後方から足音が聞こえたので足を止め振り返ると、同時に足音も止んだ。

 

「師よ、今日も稽古をつけて頂きたく_「ごめんなさいエルドリエ、今日の正午から任地に発ちます。その身支度をしなければならないのです」

 

 

「そうですか、、では、またの機会に」

 

 

「えぇ」

 

話を遮った事に対する軽い罪悪感を覚えながらそっと相槌を打ちその場を後にする。

 

彼の名は、エルドリエ・シンセシス・サーティワン。セイヤとほぼ同時期に召喚された整合騎士で、鞭型の神器《霜鱗鞭》を使いこなす。

私の事を師と呼び、暇があれば稽古をつけている。

彼はセイヤと馬が合わないらしく、度々立ち合いをしているようだが、未だ全敗らしい。

 

 

____

 

 

時計は、11時を指している。身支度も終え、少し寛ぐ暇が出来たので雲上庭園へ向かう事にしよう。

 

 

 

 

 

------------セイヤside------------

 

 

 

「えっへへ〜、セイヤはあたしの所有物なのだ〜」

 

 

なんで俺の所有権が先輩にあるんだよ、と寝言を呟くイーディス先輩に対して心の中でツッコミを入れておく。

あとこの人案外重い。ベッドから降りることが永遠にできないのでいい加減俺の腹の上から退いて欲しい。

先輩が毎度の様に酔って部屋に押しかけてくるのはもう慣れたが、流石に昼間際の11時まで寝るのは勘弁してほしい。

 

……あと、なんで毎回鎧脱いだ下着姿でベッドに潜り込んでくるんですか、痴女の類ですか?(本人は勿論そんな自覚は全く無く素である)

それともまさか俺の事が、、好き⁇(間違ってはいないが、彼女目線セイヤは弟である)

 

今日は定例会議が無かったとはいえ、もうこれ以上は夜眠れなくなる可能性があるので、先輩を無理矢理退かす事にした。

 

 

先輩は仰向けになっている為、背中に手を突っ込み、俺の腹の上からゆっくりと退かす。(話しかけても起きない為)

 

 

 

「あふん」

 

 

…先輩は独特な鳴き声を発した。まだ起きないとはもはや尊敬である。

この後二日酔いでダウンする光景が目に浮かぶ。

 

 

そんな先輩を横目に俺はさっさと着替えを済ませて部屋を出る。

目的地は雲上庭園。あの場所、実は結構好んでいるのだ。

切り替えに丁度良い。

 

 

50階、《霊光の大回廊》昇降盤へと続くその一角を曲がろうとした時、会いたくない人ランキング3位の人物とばったり出会ってしまう。

 

 

脳内では、「あ、」とか声に出そうとしたが俺の口は思わず反射的に

「げ、」と口にしてしまう。

 

 

薄青髪の青年騎士、またの名を整合騎士エルドリエ・シンセシス・サーティワン。

 

なにかと突っかかってきては立ち会いを挑まれる。アリスの弟子らしく、アリスが暇さえあれば稽古をつけているそうだが、その前にしつけをしっかりしてほしいものだ。

 

最初に口を開いたのはエルドリエだった。

 

 

 

「これはこれは、セイヤ殿、どこへ行かれるのですか? 」

 

 

 

「いや、ちょっと雲上庭園に」

 

 

「もし、時間があるのなら、是非立ち会いを所望したいのですが_」

 

 

 

「え、いや自分雲上庭園行きたいし、実はそんなに暇じゃないので、他の人を探すか、また別の時間に出直してきてください、ごめんなさい。」

 

 

とりあえずペコっと軽くエルドリエに頭を下げ、逃げる様にその場をそそくさと後にした。

思いっきり睨まれた気がするが、今日ぐらい立ち会いは勘弁してほしいものだ。エルドリエは神聖術の扱いにも長けていて、かなり手強いので連日連戦だとこっちの身がもたない。

 

 

 

〜〜雲上庭園〜〜

 

雲上庭園の丘の真ん中に金木犀の木が立っている。その木陰にはどうやら先客が座っているようだ。

 

 

 

 

「ありゃ、先客がいたか」

 

 

「あぁ、お前でしたか」

 

 

アリス・シンセシス・サーティ、彼女だ。

金木犀の剣が木の状態にあるということは、陽の光を金木犀の剣に浴びせている最中なのだろう。

 

「横、いいか? 」

 

 

「えぇ、構いません」

 

 

彼女の隣にそっと腰を下ろす。やっぱいいんだよなぁ。ここ。

ほんとカセドラル自体のセンスはいいんだがなぁ

 

 

「なぁ、なんでアリスって俺の事だけ(お前)って呼ぶんだ? 」

 

 

「特に理由はありません、お前はお前です」

 

 

アリスはくすっと笑う。

まぁ別に呼び方なんてさほど気にしないけど、俺がここに来てからずっと(お前)だなぁ。先輩も、イーディス殿、エルドリエはエルドリエなのに。いや、別に気にしてないけど。

 

 

 

「私は今日から任地に発ちます。しばらくは戻れません」

 

「あぁ、そうだったな」

 

「ですから私が居ない間、イーディス殿やエルドリエをお願いします」

 

「わかってるよ」

 

ほんっと、なんやかんや先輩のこともアリスは好きなんだよなぁ

風呂に一緒に入るのは嫌がるくせに。

エルドリエの事も気にかけてはいるのだろう。なんやかんや仲間思いだ。その気持ちを俺にも向けて欲しいけど。

だが、最近のアリスは疲れているように見える。ただでさえ整合騎士は激務だ。幾らアリスとはいえ消耗しない筈がない。

 

 

 

「アリス、最近疲れてるだろ、なんかあったか? 」

 

 

「私は疲れてなどいません、大丈夫です」

 

 

「目の下、少しクマできてんぞ? 」

 

 

アリスははっとしたような表情になり自らの目元を指でなぞっている。自覚がないとは、流石に無理しすぎじゃないのか?そんな状態で任地に行くとかぶっ倒れるぞ、、。

 

 

「アリス、少し寝ろ。時間はあるんだろ? 」

 

 

「わ、私は」

 

 

「肩かすぞ? 」

 

 

横顔からだと良く見えはしないが、アリスの頬は若干紅潮しているようだ。表情が曇っているようにも見えるが。

 

と、アリスはいきなり首を横に数回振る。

 

 

「…では、少しだけお前に甘えるとします」

 

 

右肩に少し柔らかい重みが伝わる。そして数分もしないうちにアリスは俺の肩に身体を預けながら寝てしまった。

やっぱり、相当疲れが溜まってたんだな。

 

 

 

________

 

 

 

その後、小一時間程寝たアリスを飛竜発着場まで送っていき、自室に戻る事にした。修羅場が待っているとも知らずに。

 

 

「お兄ちゃん? これはどういう事⁇ 」

 

 

「兄さま? 説明してください」

 

 

 

俺の部屋の前に立っていたのは見習い騎士であるフィゼル・シンセシス・トゥエニエイトと、リネル・シンセシス・トゥエニナインだ。

 

俺の事を兄のように慕ってくれているが、時々どっちがどっちか分からなくなる。短髪が、フィゼルで、お下げ髪がリネルだ。

 

「どういうことってどういうこと? 」

 

「とぼけないでください! 兄さまがたらしなのは知っていましたが、部屋に連れ込んでまで何してたんですか!」

 

「お兄ちゃん⁇ 返答次第ではこの短刀を胸に突き立てる事になるよ? でも、大丈夫大丈夫、あくまで仮死にするだけだから」

 

 

え?何この子達、怖い! 身の毛がよだつ様な恐怖を感じ、言葉が出てこない。ていうか誤解だし!

 

 

「何騒いでるの、、? うぷ、気持ち悪い」

 

 

 

ようやく部屋からのそのそと出てきた明らかに二日酔いのイーディス先輩に誤解を解いてもらうのにかなり時間がかかった。

 

 

〜to be continued〜

 

 

 




ここまでお読み頂きありがとうございました!
ストーリー内容の変更はしていませんが、1話目から描写の付け足しをしておきました!是非ご覧ください!では、また!


次回「世界は動き出す」

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