32番目の騎士   作:ミアキス

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「世界は動き出す」


過去回想、番外編(おまけ)
過去回想編「世界は動き出す」


〜西暦2022年、11月某日〜

 

 

窓の外では粉雪が静かに舞っているようだ。ゆっくりと落ちてゆく真白な雪は地面に吸われる事は無く薄らと降り積もっていく。このペースでいくと明日の朝には完全に積もっているかもしれない。

室温が下がっていくが部屋の暖房が上手く機能していないのか少し寒さを肌に感じる。

 

昼間だが電気のついた明るい自室にはカタカタというpcのタイピング音が響く。言うまでもなく音の発生源は自らの両手だ。

絶賛ネット通販でお買い物中である。

家は父子家庭であるが、決して貧しい訳ではなくむしろ裕福である。

家は台東区上野の高台に位置する高級住宅街の一角にある。

二階建ての6LDKだ。

なので今のところ欲しい物も不自由無く手に入る。

しかし自分にその気はない。手に入れる物は必要最低限で良い。

裕福とはいえ父親は軍人である。これ以上負担をかけたくはない。

ただでさえ高い学費を払わせている。

それに、まだ中学2年ではあるがもう既に剣道部強豪校である上野中央高等学校へのスポーツ推薦がほぼ決まっている。

 

ふぅ、と溜息をつきpcを閉じる。時計は午後1時を回っている。

腹も空いてきた頃だ。

 

 

「飯にするか」

 

 

外では雪が降っているのでなるべく外出は控えたいところだが、自らの空腹感とラーメン欲求には耐え切れず、近所の行きつけのラーメン屋に赴く事にした。

 

 

家のドアを開けると凍えるような冷気が頬を撫でた。

薄い青色のジャンパーを羽織り、ラーメン屋へと足を進める。

 

一歩一歩地を踏み締める度に身体の関節部分が痛む。

昨日幼馴染の城之内を始めとするクラスメンツ数十人でカラオケに、ボーリングにと足を運んだのだった。

特に三次会とか言って俺の部屋で勝手にパーティしだした小春[コハル]と紅葉[クレハ]、絶対に許さんぞ。片付けるの誰だと思ってるんだ。

まぁそんなこんなでこの有様である。

 

 

 

「先輩、先輩ですよね? 」

 

 

ふと背後からふんわりとした声がかけられる。

 

 

「あぁ、珪子ちゃん」

 

 

綾野珪子。上野の中学校に通う一年生。見た目は華奢で、栗毛色のツインテールが目立つ少女である。

出会ったのは9月の文化祭だった。迷子になっていた彼女を生徒会役員であった自分が当時フォークソング部によるコンサートが行われていた講堂へと案内したのだった。後日家が近かった事が発覚し、仲が深まる事になった。そして現在に至る。

 

 

「先輩はどちらに行かれるんですか? 」

 

 

「俺は昼飯だよ。ほらあそこの清流軒に」

 

 

「え! 先輩もですか? 私もなんです! 良かったらご一緒していいですか? 」

 

 

「あぁ、うんいいけど、、」

 

 

ラーメン屋。いわずもがな庶民的で、あらゆる人々に愛されている食べ物の一つであるラーメンを専門的に扱う飲食店である。

学生なども多く訪れるためそれほど敷居は高くない。

しかし、女性1人で、というと別である。

最近は店内が女性でも入りやすいような雰囲気の店舗も増えているが、老舗となると違う。なんとなく暑苦しく、独特の雰囲気がある。味も他より濃かったりもする。

行きつけの清流軒もラーメン激戦区である上野の中でも知る人ぞ知る名店である。

 

そんな名のある老舗に1人で赴こうとしていたとは。

この少女やりおる。

 

 

高級住宅地から少し離れた下町の路地裏の一角にその店はある。

どことなく歴史を感じさせる風貌の小店。屋根は今にも滑り落ちそうなくらいの白いトタンが乗っかっている感じだ。

店の引き戸の上にあるボロボロの、のれんには赤字で、『清流軒』と書かれており、隅に小さく本格豚骨ラーメンとある。

 

 

「らっしゃい」

 

 

ところどころガムテープで補強されてある引き戸を開けると、店主の重たい声が店に響いた。

外見とは裏腹に、割と綺麗なカウンター席が厨房を囲む様に広がっている。店中に豚骨の濃い匂いが広がっており、食欲をそそられる。

店は昼間だというのに空席が目立つ。

一番奥のカウンター席に腰掛けると、続くように珪子が隣席に腰掛けた。

 

 

「博多豚骨ラーメン、麺固めひとつ」

 

「あ、私も同じものでお願いします」

 

俺は迷うことなくいつもの博多豚骨ラーメンを頼む。

ここの博多豚骨ラーメンは絶品なのだ。

 

 

「あいよ、にんにくは? 」

 

 

店主が水の入ったコップを2つ差し出しながら聞いてくる。

 

 

「俺は入れてください」

 

 

「私は、遠慮しておきます、、、」

 

 

「、、あいよ」

 

 

流石に年頃の少女である珪子にはにんにく入りは厳しかったようだ。そりゃそうだよな、うん。まぁ中には躊躇なくにんにく入りを選択する少女もいると聞くが。

 

程なくして眼前のテーブルにラーメンが運ばれてくる。

運ばれてきたのは至って普通の豚骨ラーメンだ。

違う点といえば煮卵が豪華に2つトッピングされているくらいである。

 

備え付けのレンゲと、割った割り箸を手に取る。

まずは、レンゲでスープをすくい、一口。

 

これだ、この味。

 

癖の強い豚骨の風味が口いっぱいに広がる。

この店にしか出せない味である。

 

 

続いて、割り箸で麺と具を絡めて口へ運ぶ。

スープの癖が強いといってもそれほどしつこくはなく、ストレートの固麺と程よくあう。チャーシューや、他の具材も歯応えがしっかりしている。素晴らしい。

 

という感じに脳内で食レポをしていると珪子が何やら言いたそうな顔をしている。右手には雑誌、、が握られている。

恐らくラーメン屋にある備え付けの雑誌だ。お客が退屈しないように、新聞や、流行りの雑誌を置いている店は少なくない。

 

珪子が雑誌を開き、とあるページの文面を見せてきた。

 

そこには、でかでかと『特集!!ソードアートオンライン』とあった。

 

 

 

「先輩は、SAOって知ってます? 」

 

 

「あぁ、ゲームだっけ? 新作の、ぶいあーるえむえむおーとかなんちゃらかんちゃら」

 

 

ソード・アート・オンライン、通称SAO

業界トップのゲーム会社、アーガスが製作した新作のVR MMO RPG

ナーヴギアというシステムを使い、自ら仮想世界にフルダイブし、自らの身体、頭を使い戦うという信じられないくらいファンタジーなゲームだ。父親が仮想空間管理課職員も兼ねているため、一応知っている。

 

 

「そうです!!先輩は興味ないんですか? 」

 

 

無い。と言ったら嘘になる。今までゲームは、小学生の頃から携帯ゲームを友人とやってきた程度であるが、ゲームは嫌いではない。特にRPGは好きである。

 

 

「まぁ、やってみたくはあるかな、珪子ちゃんは? 」

 

 

「私は、、もう買っちゃいました。親に無理言って、」

 

 

まじか。そこまで興味があるとは。SAOってナーヴギアだけでも12万以上するんじゃ無かったか?

 

 

「それで、、先輩も一緒にどうですか? 私、こういうゲーム始めてで、先輩と2人なら大丈夫かなって」

 

 

この子友達と一緒にプレイする約束も無く買っちゃったの!?

いや、俺もやった事ないんだけど、、そーいえば少し前にβテストやってたんだっけ?なんでも大盛況で抽選だったとか。

正式サービス開始まで時間は無いし、買うなら今すぐ、って、そもそも売ってるのか。どこも在庫切れって聞くぞ。

それに、親の負担を考えるとかなり厳しいかもしれない。我儘はしないと心に誓っているから。

 

 

「そっか、分かった考えてみる。また後で連絡するよ」

 

 

すると珪子は「本当ですか!? 」と満面の笑みになり喜んでいる。

純粋な笑みに少しドキッとしてしまった。

 

程なくして完食した珪子と共に店を出る。もう11月だ。外は既に真っ暗だったので、珪子を家に送っていく事にした。

 

 

 

「先輩、ここまでで大丈夫ですよ、今日はありがとうございました。」

 

 

「そっか、こちらこそありがとう、気をつけてな」

 

 

珪子に軽く手を振り身を翻し、帰路に着く。

 

 

「先輩!! 」

 

 

ふと、呼び止められる。

 

 

「良いお返事、待ってますね」

 

 

「あぁ」

 

 

にこっと笑顔を返し今度こそ帰路に着く。雪はいつの間にか止んでいた。ただ、地面は薄く積もっているようだ。冬の夜は冷える。早く帰ろう、と思っていたがその前に近所のコンビニに寄ることにする。

目的は__

 

 

「ありがとうございましたー」

 

ポケットに手を突っ込みながらコンビニを後にする。

コンビニで購入したもの。それはソード・アート・オンラインの雑誌。

珪子にもあれだけ言われたのだ。無視する訳にはいかないだろう。

今日は父親が帰ってくる日だ。家でゆっくり話してみるか。

 

考え事をしていた俺は目の前の人影に気付けなかった。

 

__あっ

 

 

ドンッ

 

通りすがりの人の肩にぶつかってしまう。見ると、相手は手に持っていたビニール袋を落としてしまったようだ。

 

「あ、すみません! 」

 

「あぁ、いえこちらこそ、、、」

 

偶然目に入ったビニール袋の中身、それはSAOの雑誌だった。

もしかしてこの人も。

 

と、黒いフードに包まれた相手の顔が見えた。黒髪、黒目の少年だった。顔立ちがどことなく自分と似ている気がする。

 

 

「…何か? 」

 

「いや、なんでも」

 

少し見すぎてしまったか。気まずいので足を早めるとしよう。

 

家の玄関に着くと部屋の明かりがついているようだった。

父親が帰ってきている。そういうことだ。

鍵でドアをゆっくりと開けて、家に入りそのままリビングに進む。

いた。何やらソファに腰をかけて作業をしているようだ。

PCのタイピング音が聞こえる。

 

 

「やぁ、お帰り」

 

 

「ただいま、父さん久しぶりだな」

 

 

「あぁ、家事も任せきりですまないな」

 

 

「気にしないでくれよ」

 

 

父は俺と会話をしながらも作業を続けている。父は家に居れて1週間。また1週間経てば、一か月近く家を出る事になるだろう。

それにこの様子を見るにまだ仕事が終わっていないのだろう。

と、父はいきなり手を止めこちらを見る。

 

 

「今年のクリスマスプレゼントは何がいい? 」

 

 

父は毎年12月中は大晦日以外帰れないので、この1週間のうちにクリスマスプレゼントを貰っている。

クリスマスプレゼントといっても毎年お小遣いのようなものだ。それを俺が望んでいるのだが。特に欲しいものもないのだから。

だが、今年は違う。

 

 

「今年は、」

 

 

駄目だ、やはり言えない絶対に。決めただろ、これ以上負担はかけさせないって。これ以上無理は_

 

 

「遠慮する事はない、今日ぐらい甘えてくれ」

 

 

「でも_」

 

 

「気にするな、今月はボーナスだって入っている。研究費や、軍費も充分足りているんだ。心配するな、それにもとより家は貧しくないぞ?何を遠慮する必要があるんだ? 」

 

 

違う、心配しているのは金銭面ではない、俺は_

 

 

「何があろうと僕はお前の、誠也の父親だ。父親をもっと頼ってくれ」

 

 

父の厚く、そして優しい手が頭をそっと撫でる。

溢れ出しそうな涙を唇を噛み必死に押さえながら、言葉をつむんでいく。

 

 

右手のビニール袋を握り締めながら。

 

 

「俺は_SAOがやりたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜to be continued〜

 

 




ここまでお読み頂きありがとうございました!
今回は過去編でした!というかほとんどラーメン回になった気が、。


ちなみに私は剣道部ではありませんし、経験も授業でしかございません(隙自語)

それと作中にsaoシリーズゲームオリジナルキャラが名前だけ登場しましたが、皆様お気づきでしょうか??

次回「修剣学院」

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