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では、9話目、「迷わないで」 どうぞ
〜央都セントリア付近上空〜
頬に当たる風は冷たい。アンダーワールドに四季があるのかどうかは知らないが、最近はやや寒さが増している気がする。
顔を少しばかり上げると目線の遥か先に円形の城壁で囲まれた巨大都市が分厚い雲の間から薄らと垣間見えた。
1ヶ月半ぶりの央都セントリア。そして4分割された都市の中央に位置する難攻不落の白き塔、セントラル・カセドラルである。
塔の50階に位置する飛竜発着場に到着するや否や自身の身体を預けていた飛竜から飛び降りた。
「お疲れ様、焔裂、」
そう一言かけ、自らの飛竜である《焔裂》の背中を二度、三度優しく撫でる。それに応えるように《焔裂》は真紅色の身体を揺らした。
《エンレツ》は整合騎士が扱う飛竜の中で最も若い飛竜であり、その個体を最高司祭アドミニストレータから譲り受けたのだった。
整合騎士が基本一人一体所有する《飛竜》は時に移動手段となり、攻撃手段ともなる。
焔裂を厩舎に預け、階段を使い上の階を目指す。本当なら疲れきっているのでこのまま自室のベッドにダイブしたいが、任務報告と大浴場で身体を洗い、疲れを癒したいのでそうもいかない。
俺に与えられた初の任務は南帝国領の果ての山脈への出張だった。
目的はダークテリトリー側の監視であった。そこで一か月弱を過ごしたのだが、交代で入ってきた整合騎士がまた変わり者だった。
1人目、エントキア・シンセシス・エイティーンは、薄青髪で真っ青な鎧に身を包むなんとも好青年を彷彿とさせる整合騎士。実際、彼とはすぐに打ち解けこの世界で初めての男友達が出来たような感覚で嬉しかった。
問題なのは2人目だ。ネルギウス・シンセシス・シックスティーン、彼は見た目がどうしても野菜にしか見えない。そう、vegetableだ。
緑色の長髪はともかく、鎧まで緑一色なのだから仕方がない。
彼が扱う神器《萌嵐槍》は巨大なネギから作られたらしい。どういうお笑いだろうか。悪い人ではないのだが、視線が気になるというか、何というか。※彼の事は「ネギ先輩」と呼ぶ事にした。
と、そんな事を考えていると後ろから見知った声が掛けられた。
「あ、セイヤ〜!!」
言わずもがな、イーディス先輩である。彼女も任務帰りだろうか、確か東側の地域を統括しているのは彼女だった筈だ。恐らく今回の任地もそこだった筈。出発前に少し話した記憶がある。と言っても一か月弱前の事なので曖昧だが。
「やっほ、セイヤも今帰ったとこ? 」
「あぁ、はい南から」
「私も今東の任地から帰ったとこだよ、上への報告は? もう終わったの? 」
「まだです、今から行こうかなって」
「そっか、じゃあ一緒にいこ? 」
「はい、ぜひ」
横を歩くと同時に彼女の顔をチラッと見る。やはり美人だ。横からでも顔の輪郭はすらっとしていて、整っていると分かる。おまけに美しい銀髪ポニーテール。
しかも鎧越しだがスタイルが良いのも分かってしまう。しっかり出るべき所も出ている。まぁこれで中まで良いなら完璧美少女なのになぁと思ってしまう。中といっても性格が悪いわけではない、彼女のざっくばらんな性格はむしろ好きだ。しかし悪いのは彼女の癖というか、技術というか、だ。まず酒、アルコールに弱い事、彼女は酔っ払っては毎回の様に俺の部屋に押しかけてくる。そこまではいいのだが、俺も無理矢理飲まされたあげく、ベッドに潜り込んでくる。全く俺の理性の事も考えて欲しい。
そして、何より究極の『メシマズ』なのだ。
彼女自身、任務や修練に明け暮れ、時間がなく自炊した事も無いのは分かるが、、、出来たものはとても料理と言えるものではなく、得体の知れない(ナニカ)であった。勿論それを実食したアリスは泡を吹き、意識を手放した。それから共に練習をして幾らか腕の方は上達したものの、まだ料理とは言えない、、料理になりかけの(ナニカ)にレベルアップしただけだ。彼女曰く「味はいいから! 味はいいからね? 」だそうだ。
「む、なにか今バカにされた気がする」
「き、気のせいであります! 」
じっーとジト目で先輩が俺の顔を覗き込んでくる。近い! 近い!
にしても、女の勘というものは凄いものだ。
そんなこんなしている内に50階、昇降盤の前まで到着した。
なんとも近未来感のある円盤型のエレベーター。
昇降係が神聖術で動かしているらしい。
この昇降盤で80階の雲上庭園まで上がり、そこから96階の元老院まで向かう。
「昇降係さん、インチキ道化師のところまで」
「?」
「こーら、困らせないの! ごめんなさいね、雲上庭園までね」
「かしこまりました、システムコール。ジェネレート。エアリアルエレメント。バーストエレメント。」
俺と先輩が昇降盤に乗ると昇降係はぺこっとこちらにお辞儀をし、詠唱を開始した。
昇降係、彼女は自身の事をただ、昇降盤を動かす者としか考えていないらしい。反乱を起こした際には、彼女も自由の身にしたいものだ。
昇降盤がガコン、という音と共にゆっくりと動きを止めるともうそこは、80階、雲上庭園だった。
眼前に広がる雲上庭園。木々は生い茂り空間を緑一色で満たしている。
その丘の頂をアーチ状の天井を突き抜けた月の光が照らしているようだ。先程までは夕暮れに染められていた空が今は漆黒の闇夜と化している。いつもなら丘の頂の中央に位置する筈の金木犀の樹は今は存在しない。
その金木犀こそがアリスの神器なのだから。
その神器の名は《金木犀の剣》。
《金木犀の剣》の武装完全支配術は刀身を黄金色の幾千もの花びらに変え、広範囲に攻撃するというもの。その花びら一枚、一枚が地を穿つ程の威力を有している。
たまにアリスは《金木犀の剣》に陽の光を当てる為にこの場所を訪れている。
、、最も三か月程前にこの雲上庭園を俺が破壊しかけたのだが。
昇降係にありがとう、と軽く会釈をし、先輩と共に丘の麓にある小川を跨ぐ木橋を渡り丘を中継し、更に上の階へと続く階段を登る。
〜セントラル・カセドラル96階元老院〜
長々と続く赤いカーペットが敷かれた廊下。その一角の曲がり角から奴は現れた。
「32号ゥ!! 遅いですヨゥ!? 何時だと思ってるんですかァ!?、10号! お前もです! 」
「あ、はいそれじゃー失礼しやした、任務より帰還しました、異常無しです、交代完了致しました、以上です、失礼しました。」
そう言って俺はイーディス先輩の右腕をがしっと掴み半ば引きずるような感じで元老院を後にした(逃げた)
〜セントラル・カセドラル90階大浴場〜
ランタンがぼんやりと光を灯し、温かい湯気が視界を満たすこの薄暗い空間に、天井からポトリと一粒の水滴が落ちる音が響く。
真っ黒な夜空に浮かぶ美しい三日月が微かに波立つ浴槽の水面に映る。
なんとも幻想的な風景だ。
「はぁ、後で怒られないかな、あれ」
「まぁ、大丈夫でしょ、、なんでいるんですか!? 先輩! 」
「ん、あれ? 駄目だった? 」
頬が熱くなるのを感じる。そりゃ駄目でしょう。現在の状況を整理すると、疲れを癒す為に大浴場で入浴を楽しんでいた訳だが物音がしたかと思うと突然、先輩が後ろから浴槽に入ってきたのだった。後から俺の部屋で飲み交わす予定ではあったのだが、まさか入ってくるとは。
当然、お互い背中は向けており、バスタオルも着用しているのだが。
「ねぇ、セイヤ、私に話したい事あるんじゃない? 」
少し意表を突かれ、思わず先輩の方に身体を捻りそうになる。
「あぁ! 駄目駄目、こっち向いちゃ駄目だよ? 恥ずかしいから、そのままで、、、」
後ろからバシャっと水飛沫が上がり何やら先輩がたじろいでいる。一応、そういった恥じらいはあるらしい。まぁ混浴している時点でアウトな気もするが。最初出会った当初彼女は「一緒にお風呂に入らない? 」と言っていたがまさかこんな形で実現するとは。あれは半分本気、半分冗談だったんだな。
「先輩、俺、、自分は南帝国領の果ての山脈でダークテリトリーの監視がてら武装完全支配術の修練をしたんですけど、」
「あぁ、この前私と戦った時のアレ、ね? 調子はどうだったの? 」
「成功、しませんでした。」
成功しなかった。果ての山脈なら大技でも気にする事無くぶっ放す事ができると思っていたのだが、成功したのは先輩との模擬戦が最初で最後で、後は何回やろうが炎を纏うどころか刀身が赤黒く染まる事さえ無かった。
自分の無力さを知った。経験が違うとはいえ、歳が近いであろうアリスでさえ完全支配術を完璧に扱う事が出来るというのに。
「そっか、でもいいんじゃない? 」
「え、、? 」
「だって、セイヤ完全支配術がなくても少し歳上で整合騎士歴も長い私と同じくらい、ううん、私より強いし、それに変な技も使うし」
「だから、さ」
パシャっと小さく水飛沫を上げ、先輩の手が俺の後頭部から前頭部を撫でる。
「迷わなくていいよ? 何一つ焦らなくても貴方なら大丈夫」
まただ、何故か彼女の撫でる手は安心感を与える。この前もそうだった。なんとなく落ち着くような、心地良いような、彼女に優しく包み込まれる感覚さえする。
「それじゃ、私は先に上がるからね」
パシャ
「「あ」」
浴槽から立ち上がった先輩と思わず視線が重なる。しかし欲望には逆らえなかったのか俺の目線はそこからさらに30㌢程下に落ちる。
そう、彼女の二つの膨らみ目掛けて。
その視線にいち早く気づいたのか先輩が先に口を開く。
「ふーん、、、、、えっち」
彼女は『男が言われてみたい言葉ランキング!』トップテンにランク入りしてそうな言葉を言い残し、大浴場を後にした。
呆気にとられた俺はのぼせない程度にもう一度と、浴槽に身体を戻す。
「先輩の方が、何枚も上手だよなぁ」
眼前に伸ばした右手が何も掴む事は無かった。
〜to be continued〜
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次回「《金木犀》と彼女」