ダンまちーダンスインザミステイクー 作:浩一
遠くに見える、天を貫く長大なる塔。
周囲には文明の利器は一つも見当たらず、中世風の服を着こなした人々が行き交っていた。その中にはケモミミだったりエルフ耳だったり、ドワーフだったりが混じっている。
職業によって服も変わるらしい。とりわけ多いのは、剣や杖を持った人々だろうか。
そんな街の片隅で、俺は死んだ目を浮かべて空を見上げていた。
拝啓、父さん、母さん。
俺は今、異世界にいます。
うん、どうしてこうなった。
俺の死は、ある意味確定的なモノだった。
難病にかかってしまって、それが原因でぽっくり、ってやつだ。自分の最後はあまり覚えていないが、家族の声がしていたのは覚えているので、きっと幸せな死に方をしたのだろう。
で、死んでしまったのは仕方がないので、俺は死後、ちゃんと天国らしき場所に行こうとしていた。
死後の世界は、なんというかこう、真っ暗な空間がどこまでも広がっていて、中心らしき場所にまばゆい光の塊が浮いているというような場所だった。で、俺と同じように死んだ魂たちがその光に向かって列をなして向かっていた。規模がデカいので、魂の列一つ一つが天の川のように見えて綺麗だったのを覚えている。
勿論、俺もその列に加わろうとしたのだが…。
『動くな、俺はホモだ』
『…!!?!?』
謎の存在に後ろを取られて、俺は身動きを封じられた。
『いや、間違えた。俺は悪魔だ。お前を転生させるために来た』
『え、なに?ど、どういう意味だ?』
『いいからお前はとっとと転生するんだよオラァン!』
『せ、説明も無しとかお前ふざあああ!?ああああぁぁぁ…ぁぁぁ…~…』
その後、俺は堕ちた。上下左右無いような空間で堕ちたなんて可笑しい表現だとは思うが、確かに堕ちたのだ。そしてすぐに意識が消え―――。
で、気が付いたら異世界にいたって訳☆
「どういうことだよコンチクショウ!!!!」
「うおっ!?」
頭を抱えて叫ぶ俺と、それに驚く商いのおっちゃん。
すまんおっちゃん。だが俺にも頭を整理する時間が必要なのだ。
ひとまず自分の身体について見て見る。
俺は…別人になっていた。14歳くらいの少年。黒髪碧眼、顔はそこそこ良いのが腹立つ。
いや、まあ、異世界の住人のほとんどが平均レベル高いんだけどな。獣人はみんな可愛いしエルフとか美人しかいないまである。なんだか凄い世界だぁ…。
服はRPGの町人のコスプレみたいな感じ。つまり特筆すべき点はない。懐には財布が入っていたが、通貨の価値が分からんので今は持ち腐れ状態だ。
はあ…どうしてこうなった。死んだ後、俺は素直にそれを受け入れて死後の世界に行こうとしていたっていうのに…あの悪魔は、一体どんな目的があって俺を生き返らせてこの世界に送ったんだ?
考えても無駄だってことは分かる。分かるが、納得はできない。誰か知ってる奴がいたら教えてくれ。
「はあ…」
「おいおい、軒先でんな暗い顔されちゃあ、商売の邪魔だぞ…」
「んぁ?」
顔を上げたら、おっちゃんがこちらに迷惑そうな目を向けていた。
「お、やっと反応したか。ったく、人の商品で自分の顔見たり、暗い顔してため息ついたり。何があったかは知らないが、人の店で暗い空気垂れ流すのは辞めてもらいたいもんだな」
どうやらずっと俺の事を気にしていたらしい。蓋を取ったダムのように俺を責めるおっちゃんに、しかし俺はそれをぼおっと眺めるしかできない。
「はは、なんかすまんなおっちゃん。悪かったよ…」
「お、おう。分かりゃあ良いんだが。お前…本当に大丈夫か?心底面倒だが、病院にでも送ってやろうか?」
「いや、それは遠慮しとくよ…」
「しかしなぁ、顔色が酷いぞ」
そうなのか?鏡を手に取って見て見る。…ああ、確かに酷い顔だ。
「って、だから人の商品で顔色確認すんじゃねえ!」
あ、鏡引っ手繰られた。っていうか、これ商品だったのか。すまんなおっちゃん。
「なあおっちゃん、俺これからどうしたらいい?」
「ああ?なんだよ人生相談か?だったら相手が違うぞ坊主。俺ぁ知らんよ」
「こんな何も知らない場所で…どうやって生きて行ったらいいんだ…」
「いやだから知らん。っていうか何も知らないってどういう…いや、知らん知らん。俺を面倒ごとに巻き込むな!」
そういいながら、おっちゃんは何かを俺に渡してきた。甘い匂いがする。
「それでも食ってとっととここから出てってくれ」
言われて、食いものだと分かって俺はそれをむしゃりと齧る。どうやら干した果物らしい。普通にうまい。
「…ふう」
なんだろう、糖分を取ってやっと頭が冴えてきた気がする。
とりあえずあの悪魔はぶん殴って理由を聞きだすとして…まずはここで生きていくための術を手に入れなければ。一度死んだとはいえ、だからと言って二度目の生をないがしろにするつもりはない。むしろ大事にしたい所だ。
差しあたっては食い扶持を稼がないとだ。
「なあ、おっちゃん。俺でも出来そうな仕事ってない?」
「ああ?あのな、俺には人を雇うような経済力はねえよ。他当たれ」
「いや、最初からおっちゃん所で働こうとは思ってねえよ。こう、この街で出来る仕事がいい」
「お前失礼だし厚かましいな!」
「はあ」とおっちゃんは口を開く。
「だったら、冒険者にでもなるしかないんじゃないか?見た所お前さん、何も出来なさそうだからな」
「まあ何もできないのは事実だけど…冒険者って?俺でも出来るのかそれ」
「なんだ、冒険者を知らんのか?」
おっちゃんは、面倒くさそうにしながらも教えてくれた。分からないところが出るたび突くと、その度に文句言いながら説明をつけ足してくれた。もしかしてこの人かなり良い人では?
それにしても、神様、ダンジョン、そして恩恵にステイタスねえ…。流石異世界というかなんというか。荒唐無稽な話だが、この世界ではそれが現実らしい。改めて、凄い世界だ。
「分かったか?分かったらとっとと行ってくれ。いつまでも無一文を相手に出来る程余裕はねえんだ」
「ん、色々とすまんな。これ、価値は分からんけど取っておいてくれ」
「んお?ああ?んな、お前これ…!?」
「そんじゃ、またな」
適当に財布の中から硬貨を取り出して渡しつつ、俺は雑踏の中に身を投じた。
―――――――――――――――
「ガキは帰れ!」
また追い出されてしまった。これで何個目だ?数えるのも馬鹿らしいので、10個目を超えたあたりで数えるのはやめた。
ぐぬぬ…何故だ。何故誰も入れてくれないんだ!俺は転生者だぞ!テンプレ通りに行けばチート能力に目覚める可能性が微レ存あるかもしれないじゃないか!
…なんちゃって。
いやまあ普通に怪しいしね。出身地不明、何故この街に来たのかも分からない、話しを通すために記憶喪失を演じてる。そんな人間、誰が入れますか…っていねーか、はは(泣)。
ってふざけてる場合じゃない。どこでもいいから、とっととどこかに入らないとまずい。そろそろ空が暗くなってきた。せめて夜になる前にファミリアに入りたかったのだが…。
「ふんふふんふふーん♪」
「…ん?」
ふと気が付くと、近くを一人の少女が鼻歌交じりに歩いている。端正に整った顔立ちにツインテール。そして子供ほどの体躯に、大人のような豊満な胸。
…あれ、もしかして神様では?
なんというか、神様は人とは違う気配がするのだ。完成された存在っていうか、ちょっと周囲と浮いてるっていうか、そんな感じ。
つまりソレがするっていう事は、あの子は神様。ということは頼めばファミリアに入れてくれるという事では?
行くか。
行っちゃう?
よし行こう。
「あの、すみませんそこの神様!」
「ぴっ!?え、なに?僕?」
「俺を、どうか、貴方のファミリアに入れてください!!!!」
その神様は、ぽかんとした顔を浮かべた。