3/02
第五層から第六層、第八層から数えて第十層まで開放されたらしい。ボス討伐、新階層開放の条件であるボス戦には参加していないがかなり苦戦を強いられて犠牲者も参加したボス戦よりも高い数を記録している事も知っている。情報だけで詳しい事は知らない。
キリトに秘密を知られて暫く姿を隠していた。あの子は誰にも話さない、それどころか助けるとも言ってくれた。だがこのSAOで他人を完全に信じられなくなっているのだろう。自分の意思とは関係なく心優しいキリトの心遣いを受け入れずに逃げてしまった。別れる前のキリトの心配そうにしている顔が頭を離れない。
日課のレベリングもせず、モンスターも狩らず。何もしない虚無の毎日を送った。第三層の池の上をボートで浮かんで何もせずにただただSAOの仮想世界の空を眺めていた。現実と大差ない本物のような憎いほど澄んでいる青空を戦いから離れて見ていると現実世界の事をどうしても思い出してしまう。父も妹も元気にしているだろうか、と心配になった。
思い出せば、そろそろ妹の誕生日だ。毎年父と妹を祝う事が恒例だったのに今年は無理そうだ。現実世界に帰れたら謝ろう。謝って祝えなかった分まで祝ってあげよう。心配させてごめんと謝ろう。
今までずっと休んでいたがそろそろ動こうか。少し戦線を離れると、新しい一面を見る事もできた。自分でも変だと思うが、新しい決意を胸に秘める事ができた気がする。
生き延びたいのであれば死にたくないと思うのではない。寧ろ死ぬ覚悟で生きようと思え。命はないものだと思えば死の恐怖で身体が動かなくなる事はなくなると信じよう。
さあ、もうお休みの時間は終わりだ。また頑張ろう。
3/07
久々にキリトと面と向かって会話をした。あの子は年上の俺をずっと心配してくれていたようだ。第一声が大丈夫か、だったから。情けなくも逃げ出した俺を気遣ってくれていた事に泣きそうになったがグッと堪えた。
いきなり逃げた俺を大丈夫だと気遣ってくれ、貴重な時間を割いてまで相談相手になってくれ、一日の殆どを使ってキリトと話した。
秘密、オワタ式のHPを見抜いたのは防御を一切しない戦い方に加え、無謀とも言える防御を捨てての攻略組真っ青の突撃思考に疑問を感じたらしい。もしや、と疑問をぶつければ疑問は正しかったのが前の経緯だ。
ここまで考えれば俺の凡ミスではないか。知らぬ存ぜぬで通せば隠し通す事ができたのに疑問をぶつけられた事で動揺してしまったのが大きな原因だったようだ。もう少し余裕を持てばあんな事にもならなかったのに、と反省する。
秘密を知ったキリトといえば、正式にフレンド以上の関係に発展する事になった。これまで以上にクエストへの同行回数を増やし、何故だかキリトの提案でルームシェアをするという徹底ぶり。トントン拍子で話が進んでいたので反論すら許されなかった。
だけど。秘密を知ってなおも変わらない関係を続けてくれる者が近くにいると余裕もできたように感じた。
3/10
今日はSAO開始から嬉しい事が起きた。見方を変えればいつも傍にあって気付かなかっただけな気もするが。
アスナ、アルゴ、エクレール。フレンドに登録されてる面々に返事も碌にしていなかった俺を心配してくれた。女性陣だからか、唯一の男子のキリトと違ってどんな反応をすればいいか迷った。キリトなら熱い抱擁をし、男の友情を築いたが女性相手だとセクハラになるかもしれんし倫理コードに引っ掛かればブタ箱行きだ。
三人共に握手だけだったが、言葉だけは尽きなかった。女性なら言葉のレパートリーが多いのは本当なのか。変な口調のアルゴですらも気味の悪いほど慰めの言葉を投げ掛けてくれた。なんだかなァ……。
レベリングも含め、戦闘も久々だが現実と違って身体能力はゲームのステータスに比例するから鈍る事はない。寧ろ心配するべきは戦闘の天性の勘とも言うべき直感。今までオワタ式デスゲームに生き残れたのも直感のおかげかもしれないので第一に取り戻すべきはそれだが、どうやって戻そうか?
3/11
死ぬ。死ぬる。三途リバーっぽいものも見えた。
復帰第一戦がボス戦とはどういう事か。正確には中ボスクラスのモンスターだが久々に死の恐怖を感じてしまった。キリトの適切なサポートがなければ本当に死んでいたかもしれない。
それはそうと前回の日記に記した仮説を復帰戦で確かめた。オワタ式デスゲームの唯一の生命線はシステム許容範囲外のプログラムかもしれない直感だ。戦線から離れる事で新しい発見もできたので悪い事ばかりではないと思う。
段々と自分の考えだがこのデスゲームを生き残るにはレベルよりもスキルが大事になってくるかもしれない。というよりも俺限定だ。レベル上げはHPの確保が重要になり、生き残る為には誰もがそれを確保しようとするだろう。だが、俺は元々HPが1というレベル上げは筋力値と敏捷度の上昇のみしか魅力がない。低階層であれば必要ないが高階層であるならばどちらも、特に敏捷度が大事になる。
敏捷度はプレイヤートップと自負している。誰よりも素早く動け、レベル安全マージンを超す敏捷度を持っていれば奇跡的な確率で回避を繰り返し続ける事が可能になる。それを活用するのはあくまでもプレイヤー自身。キリトも俺の事を現最強プレイヤーと表現しているがあながち嘘ではないのかもしれない。自惚れ過ぎだろうか。
秘密を知るキリトと少し相談してみようと思う。βテスターのあの子ならもしかするとステータスボーナスブーストについても何か知っているかもしれない。
3/12
アホー。俺のアホー。間抜けにも程があるぞ俺。
デスゲーム化のショックがここまでに。色々と予備知識を持っていたとしても活用できなければ意味がない。
そういえばそうだった。このソードアート・オンラインのレベルアップはボーナスポイント振り分け式だったようだ。レベルアップ時にボーナスポイントを得、それを筋力値と敏捷度に振り分ける事でステータス向上が可能になる。俺の場合だと自動振り分けに設定されていたようでまるで気付かなかった。となると、異常なステータスはこのボーナスポイントの数値が振り切れている事が原因なのかもしれない。
そして何故。何故HPにボーナスポイントを振り分けられないのか。茅場晶彦死ね。そこまで俺に死ねと申すか。
ボーナスブーストはHPの低さなのか、ラックなのか、それとレベルが上がるまでのダメージ率なのか。今度、キリトと調べて時々アルゴの知識も借りようと思う。もしこのブーストが誰でも可能になるのであれば、早期クリアも夢ではない。
そろそろ妹の誕生日。後はあの子から聞いていた誕生日も近い。この仮想世界から妹を祝い、あの子の墓参りに行こうと思う。仮想世界に墓という概念はないが、はじまりの街の初めて好きになった景色が見える場所に作ってある。
帰ったらあの子の祖父母に謝らねば。守れなくて、すみませんと。
3/17
ここ数日、時には一人で、時にはキリトと共に、アルゴと情報のやり取りをしつつもステータスブーストについて詳しく調べた。わざわざキリトとレベルを合わせ、同じモンスター、同じスキル、回数を合わせるようにしたので二人して疲れた。
ここでアルゴとキリトに繋がりがあった事が判明。まあ、攻略組トップレベルのキリトだからこそ何の不思議もないだろうが、キー坊と呼んでいるのには思わず噴き出してしまった。完全に子供、小僧扱いでお姉さんぶっているアルゴとキー坊と呼ばれるキリトの何とも言えない顔に二重に笑ってしまった。二人には非難されたが。
ついでなので纏めてエネミーレポートをアルゴに提出。キリトに秘密を知られてから碌に文通もしていなかったので四体分溜まっていた。一番多い時は七体ほどなので別に多すぎる事はないがアルゴには怒られた。しかもそのエネミーレポートは完成しているらしい。先を越されたようだ。
ステータスブースト検証は未だ不明。経験値を多く稼げるスポットでレベル上げをしたが元々のレベルが高すぎるキリトに追い付くのに時間を取られたので今回は一のみの検証しかできなかった。それでも目に見えてボーナスポイントは俺が多く、色々とキリトを上回るメリットを得ていた。それでもHPが心許ないので安心はできない。
更に報告としては、長い間お世話になっていた戦神の加護が砕けた。というよりも耐久度がゼロになって砕けてしまった。ダメージを一度も食らっていないのに砕けるとはこれいかに。回数制限かと疑ったがそんなものはステータスにはなかったはずだ。また初の伝説を作ってしまった。『初のアクセサリーノーダメージ砕き』、響きが悪い事この上ない。
追伸。知らぬ内にボス攻略が進んでいたらしい。第十三層まで開放されたそうだ。
3/22
戦神の加護が砕けた影響は思ったよりも大きかった。熟練度ブーストの恩恵が消えた事で更に戦闘を重ねなければスキルマスターは困難になった。今はどうしてもマスターしたいと思うようなスキルはないので別に困る事はないが。
この頃、キリトとのレベル検証は難航している。とはいうものの、レベル差といつまでも検証をするほど俺達の都合が合わない事もあって、今は放置している表現が正しい。アルゴは落ち込んでいたがスマン。
ソロプレイを再開し、今あるスキルでの連携の検証と如何にして連撃を続けられるかをレベル検証よりも検証している。例えば突進技の「レイジスパイク」から縦連擊の「バーチカル・アーク」を繋げるのは楽だ。問題はそこから流れる連携、ラグをギリギリまで削った連擊が可能かと問われればトッププレイヤーでなければ意外と難しい。
キリトも簡単な連携はできる。ソードスキル、ソードスキル、通常技、ソードスキルと細かい連携を繋いで反撃を許さない。ボスのように仰け反り耐性のある場合は話は変わってくるが大方、雑魚ならば連携で瞬殺する。更にコンビプレイならスイッチという技術で隙はほぼゼロになり、ボスに限らずほぼ一方的に叩きのめせる事もできる。こんなデスゲームでなければ楽しい画期的なゲームになっていただろうに。残念だ。茅場晶彦無能。
3/24
我が妹よ、誕生日おめでとう。兄ちゃん、仮想世界からしか祝えないけど必ず帰って二年分を祝ってやるからな。
3/26
第十五層攻略。大規模なボス討伐パーティーに参加した。今回の犠牲者はゼロ。というか進みすぎ。
今までいなかった俺が参加するだけでこうまで被害を防げるのか、とキリトに言われた。俺とキリトの連携でヘイト値を稼いで被害を最小限まで食い止めたおかげだろうが自分でもビックリだ。
キリトは気付いていないがボスを攻略した後で嫌な気配というものを感じた。首の後ろがチリチリするような感触が拭いきれずにいた。死の恐怖に近い虫の知らせなので嫌な予感しかしない。誰かが俺を狙っているのか? もしくはボス攻略の最大の貢献者であるキリトといった攻略組トップの連中を?
気を引き締める必要がありそうだ。
3/28
オ、オォウフ。日記を見返してみればなんとも中学生じみた日記だろうと思った。大学生目前なのにこれでは論文やらレポートは大丈夫だろうかと心配になりながら少し前を振り返ってみた。
11月からもう四ヶ月近く、このSAOの世界に囚われている俺達。なのに攻略できているのはまだ一割未満。不安に思い始める者も出てくるだろうが、案外大丈夫だった。
オワタ式なのに少し気になる供述があった。アルゴに殴られているはずなのに死んでいないとはどういう事なのだろうか。もしかすると街といったプログラム保護を受けている場所だと死なない設定なのだろうか、と疑ってみた。キリトに殴られてみたが死ななかった。何故か殴られた頬が痛かったけど。
何はともあれ、これで一つ、楽しみができた。誰かをからかって殴られてもオワタにはならないのだ。少しだけ心が軽くなった気がした。だが茅場晶彦、テメーは駄目だ。
ついでにだが、第十六層攻略。勢いに乗ってバンバン進んでいるが大丈夫かコレ?