5/02
ハァ……。
ハァ……。
ハァ……。
溜め息も吐きたくなるぜ全く。遂に四月が過ぎてしまった。大学推薦はどうなるのだ一体。
新しい同居人、ユウキは完全に子供だ。今まで自由な生活ができない反動が噴き出している事は何となくだが理解できる。だけど少しは抑えて欲しい。日曜日のパパが仕事の疲れが残ったまま子供と遊んでくたびれるイメージが浮かんだがまさにそれだ。まだ二十歳じゃないのにパパさんですか俺は。
最近の生活は完全に主夫だが。家にはキリトが飯を食いに来る、アスナは料理を教わりに来るとユウキとガールズトークをする、アルゴはアルゴでつまみ食いに来る。エクレールさんはギルドに誘われ、仕事が忙しいらしいから暫く来ていない。
戦線から離れてるな、俺。キリトもだが、攻略組最前線から退いて自分がやりたい事をしている。「月夜の黒猫団」のメンバーと一緒にギルド生活を満喫しているそうだ。楽しそうで何よりだ。
アスナはアスナで最前線とまではいかなくても前線で頑張っているそうだ。騎士系ヒロインとちらほら噂が広がっている。本人は恥ずかしそうにしていたが俺なんかクソチート野郎だぞ。チートが使えるなら無敵チートが使いたいわボケ。キリトは黒の剣士、エクレールさんは騎士と呼ばれてるそうで羨ましい。閃光の名をアスナとエクレールさんが争っているとも。取り敢えずアスナに30000コル賭けといた。
閃光、ライトニングとかかっこええな。何か格好良い称号が欲しい。
キリト → 先駆者
アスナ → 頼れるお兄ちゃん
エクレールさん → 戦神
アルゴ → ロリコン
アルゴ、ぶっ飛ばす。
5/05
そろそろ百層のアインクラッドが四分の一を攻略する時が近付いている。四分の一、すなわちクォーターポイント。何故だか嫌な予感しかしない。
今までのオワタ式を生き抜いた経験が活きているのか、死の恐怖に敏感になっている。故に誰よりも危険を感知できると自負しているし、事情を知るキリトは俺の勘に頼って行動を決める事もある。何だかんだであの子といいパートナーだ。俺からすれば弟のように感じているだけだがあちらはどうなのだろうか。
同居人、ユウキ。危険を承知してデスゲーム化したこの世界に飛び込んだ幼い少女。幾分か時が流れたからか、落ち着きを持つようになった。自分から進んで家事をやりたいと言い出し、半ば追い出すように俺を攻略組としての仕事をさせるように言ってくれた。だけどその家、俺が買った。いわばマイホーム。ユウキは居候。
今日から攻略組復帰、となるのか? 休んでいたレベリング、情報収集。休んでいた分の情報はアルゴから等価交換である程度貰い、レベリングスポットを探す等をした。レベルが低いけど安全に大量に経験値を得たいと言う者もいるのでアルゴ達、情報屋もてんやわんやで動いているそうだ。
熟知した階層とは別の階層、まだ渡り歩いていない場所を一日で達成する事は不可能なので明日から出来る限りで死なない程度にやろうと思う。階層でいえば残りは七層、頑張ろうか。
5/09
「月夜の黒猫団」と初めて会った。昔のB級西部劇の泥棒団体みたいなイメージがあったが中身を開けてみれば後輩諸君、学生グループの面々だった。陽気な団体でよくあるクラスの仲良しグループみたいな印象でコミュ症のキリトでも馴染める子達だった。
キリトは彼等に自分のレベルが本当の半分以下と宣告しているからか馴染めてるかもしれないが、まあ演技に乗ってやろうと偶然知り合って如何にも俺はキリトの先輩のように振舞った。自分のレベルは真実を告げ、少し話をした。キリトが呆れてた。選択肢を間違えたのだろうか。
この前やっと50にレベルが達した。スキル枠も増え、少し達成感を感じた。「月夜の黒猫団」のリーダーであるケイタという少年はレベルに驚いて少し警戒していたが他のメンバーは単にはしゃいでスゲーだのと言っていたが少し不安を感じた。
中学生のような年代でのSAOの死亡率は慢心による戦死。中二病という言葉も存在していること、その言葉が表すようにこの世界で自分が勇者であると錯覚して力量の差を見誤って死ぬ事が多いらしい。あくまでも噂、実際はどうなのかはわからないが現実味があるのであながち嘘ではないだろう。キリトもそれを危惧してか、ギルドに入って鍛えようとしているそうだ。
うーむ。キリトの実力なら大丈夫だが少し不安が残るのは「月夜の黒猫団」に何か気になる事があるからだろうか。案外、死を感知する勘も使えそうで使えないな。
今日の晩御飯はカレーだった。美味しかった。
5/12
何ともハーレムパーティーだろうか。女性を侍らせてのクエスト、非リア充に睨まれて呪われそうだが楽しかった。眼福……いや、なんでもない。ミニはけしからんな。うむ、けしからん。
昨日は最近睡眠をSAOで取り始めたからか、寝落ちをしてしまった。日記の編集中に。自動保存されたのを確認すれば心当たりのない一文、どうやら同居人がイタズラをしたようだ。というか他人のメニューウィンドウを触れたな。プライバシー保護云々で触れない仕様になっているのだろうか。
それはそうと、珍しいメンバーで難関クエストをこなした。とはいえ、覚醒(笑)した俺の敵ではあらず。ノーダメージでクリアできた。ノーダメージでなければ死んでいるけど。
アスナ、エクレールさん、俺。本当はユウキも行く予定だったがレベルが低いため、お留守番。少し不満そうな顔をしているのが印象的であった。アスナも反対し、守りきれないとエクレールさんまでも。本当はこのメンバーであれば楽だが、庇ってしまいそうなので大却下。殆どは自分の保身の為に留守番させたと言える。
クエスト達成条件はボス、第一層のボスコボルトが数体と現段階では最難関の部類に入る難易度。達成した者は数えるほど。その中には十人単位のパーティーもいた事を考えると三人で五体のコボルトを討伐できたのは快挙だろう。内三体は俺一人で倒した。レベルも違うから対して苦戦もしなかった。
同じエネミーだからか、ドロップアイテムもボスと同じ物だった。キリトのコートオブミッドナイトも手に入り、ミッドナイトシリーズなる物もコンプリートした。中二過ぎるので使わないが。ボーナスステータスも魅力的だが今の敏捷度大幅上昇の方が魅力的だから肥やしになっている。これが欲しい、というのがあれば他人に売ろうと思う。
隠しステータスなのかどうかは不明だがモンスター討伐数が特定値に達すれば成長度も変化するのだろうかと。とあるゲームだとスキル装備の数が変化したり称号が増えたり武器の入手条件を満たしたりと。そんな設定がこのゲームにもあるのだろうか。モンスター図鑑は自作だが。
それはそうと、エクレールさんに続いてアスナもギルドに誘われているらしい。名を確かヒースクリフ。オッサン風の男性らしいがどんな人物なのだろうか。
5/15
クォーターポイント到達。その先は地獄だった。
誰もがそう表現するクォーターポイント、第二十五層は雑魚から強すぎた。何ともないはずなのにボス前で死にかけて帰ってくる者もいるらしい。中にはボス級の雑魚までいるらしく偵察戦の重要さがここに来て現れ始めた。
攻略組トップ、ソロプレイヤーとギルド。何人かが理想的なパーティーを組み、万全を期して雑魚戦に挑んだ。三つのパーティーでマッピングもしながら進んでいるとあるパーティーが早くもボス部屋を見つけたらしい。ギルド、MTD。大規模SAO内のギルドが数に物を言わせて突破したらしい。
俺はといえば、パーティーは組まずにソロでアルゴの依頼をこなした。知らない者と組むよりも一人の方が勘が冴え、戦いやすかった。MTDのリーダー、シンカーが危険だから駄目だと心配していたがボス戦で最大の貢献をしている事を知っている人間がソロでやらせる条件で後方支援、最前線で調べる者達の少し後ろで活動しろと決めた。浅い場所でレベリングと共にエネミーレポート集めをした。
本日の成果は明日の午後に会議をしてボス攻略もどうするかを話し合うそうだ。トッププレイヤーの一人である俺も代表者会議に参加強制らしい。取り敢えず無駄にダラダラと話し合う事にならない事を祈ろう。
帰宅すればユウキが珍しく食事を作っていた。味はお世辞にも美味しいものではなかったが腹と何かを満たしてくれた。
5/16
第一回クォーターポイント攻略会議。最難関の階層を如何にして攻略するべきかを話し合った。会議に参加する者はギルドトップのリーダーとサブリーダー、ソロプレイヤー最強と名高い数名。俺、キリト、アスナが前に話していたヒースクリフ。全員が分別ある者だからかスムーズに会議は進んだ。
ヒースクリフ。あの男を見ていると自分の中のドス黒い感情が噴き出しそうになる。知らないはずなのに俺はヒースクリフという男を知っているのだろうか?
ボス偵察としてメンバーが選ばれた。情報集め、敵の強さを肌で感じる。それらを目的としてトッププレイヤーの数名が立候補、無駄に防御力が高いタンクと呼ばれる役目を担う数名で臨んだ。無論、俺も。勘が鋭いので動きを推理できるとキリトに言われたので半ば無理矢理。
キリトの野郎、俺がオワタ式なのを忘れているんじゃないだろうか。死んでいたら今も日記を書けない状況だったが、今は生きている。偵察で二名が死んでしまったが情報はある程度集められた。
休憩も挟む意味合いも含め、本格的な攻略は明後日(5/18)だ。鋭気を養う為にユウキ先生のスキル補助除外スキルを教えてもらうとしよう。
5/18
この惨劇はSAOの歴史に残るものだろう。クォーターポイント攻略は無事に完結できたが犠牲はこれまでの倍は必ず行くかと思われる数を記録した。MTDのメンバーは半数を失い、実力のあるプレイヤーも何名かが逝ってしまった。何よりの問題が心を折られてしまったプレイヤーが攻略最前線に復帰できなくなってしまったこと。
俺も経験した真の死の恐怖。命が失われるかの瀬戸際を味わい、立ち直れなくなってしまったのだ。俺もあの子がいなければ今も引きこもりになっていただろうし、彼等を責める事はしない。だが、空気の読めないアホは何処にでもいるようだ。
トラウマを負い、現場に戻れなくなったプレイヤーに礼儀知らずのアホが攻略に使っていた装備やアイテムを渡せと要求していたのだ。マナー違反というレベルではない行為に誰もがそのプレイヤーを非難した。まだクォーターポイント突破から二時間も過ぎていないのに誰もが湧いた。
騒がしい表を傍目に生き残れた俺達はユウキの待つ家に帰り、互いを労った。キリトも死の恐怖を克服したのは間違いだった、俺の置かれた立場をやっと理解できたような気がすると話していた。オワタ式に匹敵する恐怖だったのが誰でもわかる。何せ、黒の剣士とまで呼ばれてトッププレイヤーの部類に入るキリトですらそれなのだ。
死闘とも言えるクォーターポイント攻略はボスの強さに比例して経験値も凄まじいものだった。前の層の倍はあるかのようなHP、桁外れの攻撃力に鉄壁と言える防御力。まるでラスボスを相手にしているような気分だった。
参加した者の殆どは回復系のアイテムを使い果たした者もいるらしい。譲渡システムをフルに活用したのも今回だけのような。回復アイテムの使用が無意味の俺はさぞ、他のプレイヤーにとっては救世主だったろうと自惚れる。死ぬかと思えばポーションを投げて危機一髪なんて場面が幾つあっただろうか。少なくとも十人には投げ渡したような覚えがある。
もう疲れた。今日はもう寝よう。
5/22
新ダンジョン開通名物。新しく開かれた階層の装備は一新され、地獄のクォーターポイントの労いなのかやけに高性能な武器やら防具やらで溢れかえっていた。要求値もギリギリ足りるという事態に誰もが飛びついて購入し、地獄のクォーターポイントでレベリングをする者が見られる。
とはいうものの、トッププレイヤー諸君は元々強い武器、ユニークウェポンと呼ばれる魔剣に分類される剣を持っている事が多かったり武器を最上限まで鍛えて買い換え不要のプレイヤーがいるのでどちらかといえば防具やアクセサリーが売れてるらしい。俺は敏捷度アップが無かったので未購入だが。
ソードスキル、例を言えばスキル上昇。+25といった恩恵のあるユニークウェポンも第二十六層から見られるようになった。要求値が現階層レベルじゃない超高性能なものもドロップするみたいだ。俺も手に入れ、メニューウィンドウから眺めてデザインを確認したりしている。魔剣とか聖剣はデスゲーム抜きにしてもワクワクするのは男の子の性からか?
あるのか。あるのだろうか。これも茅場晶彦のフェイクで期待する俺達を嘲笑っているのだろうか……考えるとムカついてきた。茅場晶彦マジ死ね。
5/25
最近、クォーターポイントを攻略してから鍛治職人の活動が活発になっている。第二十六層から一新されたアイテム等で鍛冶スキルの新たな鍛冶する事で作れるアイテム、武器や防具の幅が一気に広がった。
第一層や低層地帯で燻っていた、もしくは引き篭っていた鍛治職人の多数が第二十六層に出てきた。活動が早いのか、クォーターポイント攻略で活躍したプレイヤーと契約を交わして人よりも良いアイテムを提供してもらう代わりに質の良い武器防具を作って提供する。そんな事がちらほら見られる。現に俺も契約したいと言う者がいたが全て断っている。オワタ式を知られればどんな事になるかわからなかったから。
脅迫とかされたら殺人も普通に犯しそうだ。キリトも躊躇いなく殺そうとした事を考えれば有り得ない事でもないし。この狂った世界だと実際にありそうだが。
ああ、もうやめやめ。こんな事を考えていると気が狂いそうになる。ユウキを力一杯抱き締めて誤魔化す事にしよう。ユウキは林檎みたいに顔を真っ赤にしてたがセクハラだとは思っていないようなので髪の毛をボサボサにしてみた。流石にやり過ぎたので金的攻撃をされそうになった。思わずカウンターが反射的に出てしまい、ユウキを泣かせてしまった。
…………ごめんなさい。