7/01
七月である。学生ならば夏休み近しと歓喜するだろうが囚われたプレイヤーは人によっては毎日が休みで地獄だ。攻略組でもなければ命の危険は殆どないに等しいし、はじまりの街で篭っていれば安全に暮らせるだろう。
それも最近ではないらしい。徹底的な管理の下での生活を強いられる現状になっていると上層部でもかなり噂になっている。逃げるように上層部の街に来る者がいる。何か童貞君を誘惑して貢がせる姫プレイをする女性プレイヤーもいるそうだが果たして。女性プレイヤーなんて全体の何%なのだろうか。エクレールさんになら貢いでもいいかもしれない。綺麗だし格好良いし美人だし何かエロいし。
ステータスの伸びしろも相変わらず。マックスレベルが幾つかわからないが六十の大台に乗ったのにHPは未だに1のまま。本気で茅場晶彦を呪い殺したくなってきた。ソードアート・オンラインの運営もこの致命的なバグを何とかしようとしていないのか。というか俺の現状を把握していないのだろうか。イラつく。慣れている自分にも何もしていない運営に。
生き残る為に習慣となっているのかレベリングとアイテム集めは欠かせないようだ。ウダウダと考えるよりも体を動かす方が俺には合っているらしい。どちらかというとインテリタイプなんだがな、俺は。いつから肉体派の体育系男子になったんだ。妹にお兄ちゃんムキムキキモイとか言われたら死ねる自信があるぞ。
ま。ずっと寝ている現実は今頃ガリガリになっていそうだ。デブオタクニートと蔑まれる人も一気に痩せてモテモテ街道に乗りそうだ。あまり痩せすぎても体に悪いし、早いところクリアしないとな。
……リハビリとかそろそろ考える時間が過ぎたなぁ。半年は大丈夫なのか?
7/03
七十が待ち遠しい。痒い場所に手が届かないというのが現状をよく表す言葉だろう。レベルが上がれば経験値を更に必要になるのはわかりきっていたがまさかここまでイライラするものだとは思わなかった。普通のゲームなら作業をする時は特に命は必要なく、時間だけで大丈夫だったが生憎と命を更に守るために早くレベルを上げたいと思うようになっている。
ユウキの命、キリトの命、アスナの命、アルゴの命、エクレールさんの命、泣き虫サチの命。あの子との約束、皆の命を救う。約束はしたもののこれから起こるであろう地獄を考えると親しい者しか守れそうにないのが現状だ。物語の魔王を倒す勇者も英雄もそんな感じなのが現実なのだろうかと難しい事をいつも考える。デスゲームだからこそ余計な事を考えなければならないのが傷だ。普通のゲームならこんな事はしなくても済んだのに。茅場晶彦死ね。
こう、物語的な名言を挙げれば「俺の命に変えてもユウキやキリト達を現実世界に帰す」なんて臭い言葉を使うキャラではない。実際にふざけて言う事はあれど、本気で言える者はこの世界で何人いるだろうか。死が支配する世界に自分が可愛いと思う者がほとんどだろう。だから他人のために命を投げ出す者はいないと思う。いるとすればそいつは自殺願望者かアホだけだろう。
……俺は、本当は、そんな事を考えない人種なのだろうか。生き残る覚悟をしてあの子と約束をしてから本当の自分が昔の自分と一致していないような気がしてならない。
7/08
色々とアイテムを整理した。ストレージを圧迫していたのでホーム、自宅のアイテムボックスに必要のないアイテムを放り投げて整理した。回復アイテムは使いたくとも使えないしオワタ式のHPのせいで使えないアイテムが多い。一部を売るかあげたりした。主にキリトとかユウキとか。アスナはギルドの血盟騎士団が忙しいそうで、会う機会もない。エクレールさんは何か仕事があるらしいので殆ど会える機会がない。
久方にアルゴと面と向かって会った。メールのやり取りをする事はあってもつまみ食いも最近はしてこないので本当に久し振りだった。
髪の毛はゲームの中なので伸びる事はない。前と同じ姿のまま、少し装飾の変化が生じたローブを纏っていた。フードは外し、猫の髭のような顔のペイントに少女特有の可愛い笑顔。俺よりも低い身長の彼女は飯をねだった。何か食わせろ、と。
色々と借りも貸しもあるが食事を振舞う事は何故だか俺の固定の仕事になっているため、昼食の時間に合わせてユウキと居候のサチの分を作った。キリトは一日中レベリングをするというので弁当を作っているが中々好評のようだ。俺は主夫か。
サチは居候である代わりに広い自宅の掃除を押し付けた。仕事もせずにメソメソ泣いているとこちらの気分まで滅入るので気分を変えるために無理矢理仕事をさせているが、余計な事を考えられなくなるので本人は結構気に入ってたりする。仕事はドジっ子メイドのように壊す事があるのでどっこいどっこいだけど。
それはそうと、珍しくアルゴが来たのは新しい依頼をするためだ。今まで色々と受けていたが今回は少し特殊なものだ。内容は最近感じる死の驚異に関係しているので真面目に聞いた。
どうやらプレイヤーが他のプレイヤーに殺される事件が多発しているらしい。所謂、PKをしている者がいる。それも意図的に。アルゴと同業者の情報屋が脅迫されてヘイトを通常値に戻すクエストを何度も受けているプレイヤーがいる事も確認しているそうだ。
まとめる。プレイヤーキラーを犯すプレイヤーが存在し、複数人存在している。犠牲者はわかっている段階で六人。どれも現攻略組最前線のレベルで人を殺す事に躊躇いがないと仮定している。手際に後始末の仕方。どれもプロではないかという見方だ。
この状況を全て合わせて考えれば俺を狙っている者はその集団の一人の可能性が濃厚だ。嫌な殺意はそれなのだろうか。首の後ろがチリチリするのはそれが原因なのかもしれないがまだわからない。注意をしておこう。
7/11
大規模クエスト。三人が最大のパーティー経験の俺が初めて五人パーティーを組んだ。全員が親しい仲なので身内パーティーとも言えるが相性や息が合う点で言えば最高だ。
リーダーは必然的に年上の俺。戦闘経験も戦闘技術も卓越しているので、と押し切られたが本当はどうだか。前衛がキリトにユウキ。後衛、スイッチ役のキリト担当アスナ、ユウキ担当のサチ。リーダーの自分は第三者の立場からサポートした。
ユウキはレベルはまだ追い付いていないものの、技術は自分よりも上だと思っている。ソードスキルの使い方は誰よりも上手だとも考えている。SAO内での経過時間は俺が上だからその分、強いだけで条件が同じになれば間違いなく負けると思う。それほどユウキの才能を垣間見たのだ。今回の大規模クエストでも三番目の功労者だ。一番はキリト、二番目はサポート役のはずの俺。様子見に徹底すると結構見えるものも見えるし、ほぼ一撃で消しされるのが今回の新しい発見だ。
今回の目的の一つであるサチのトラウマ克服。少しだけ前を向いて歩こうと思えるようになったそうだ。キリトが自分の事のように喜び、アスナはよかったねと労う。あの三人、仲が良かったりするんだよねー。ユウキと二人、仲間はずれにされてたし。
ドロップやクエスト報酬はしょっぱかった。というか俺に合わないものだったので頑張った二人に渡しました。初パーティーのユウキ、トラウマ克服の第一歩のサチに。
だってリジェネスキルだぜ? 回復の意味を為さない俺の使い道があると思うか? キリトは自前で取ると言うし、アスナはヒースクリフから教わってクエストを行ったらしいし。普通のHPが羨ましい。もう慣れてしまった俺が言うのもだけど。
今日のクエストを通して思ったのは俺は引率の先生かと。父親に次いで遠足で見守る学校の先生のような立場だったのが解せない感じだった。将来の夢は教師じゃないのにな。
何はともあれ、初めて指示を着かず離れずの場所で行ったので少し貴重な体験をした。今までのボス攻略も囮役でヘイト値を稼いで好きに動いていたから改めて軍師ポジション的な役割も重要である事を実感させられた。誰かを動かす事は得意ではないが少し練習をしようかなと考えた。
7/18
血盟騎士団のお達しによりボス攻略を控えていた俺達が一斉に集められた。ボス攻略が一番経験値を稼げるのだが、ダメージ量で配分が決まるために強いプレイヤーは自ずと独り占めにも似た事をする事ができる。レベルが高ければ高いほど強い武器は使えるし、ステータスも低レベルと比べればかなり上だ。
第三十二層まで開放されている現段階でトッププレイヤーのボス攻略は解禁された。一部、ボスドロップが欲しいとごねる者もいたが俺達はそれほど魅力的な物は欲しいと思っていないし、他の者にそれを得る権利を与える事で少しでも強化をしてアインクラッド攻略のメンバーを増やそうとしている。有名な血盟騎士団のリーダー、ヒースクリフもそれを考えて多くのトッププレイヤーが参加しないように戒厳令を敷いた。ダメージが他のプレイヤーにも渡るようにした上で安全に倒せるようにダメージをトッププレイヤーが稼ぐというのがカラクリだ。
呼ばれたのを考えるとその当番制にした攻略の順番が回ってきたのが呼び出しの目的。そう考えているとすぐにヒースクリフから俺、キリトに三十三層及びに三十六層までのボスの手助けをするように言われた。
クォーターポイント攻略からの暫くは装備を新調できているのであまり苦戦はしていないらしい。中堅レベルのパーティー、もしくはギルドが先行しても問題はないそうだが保険に俺達が動いている。上位のトッププレイヤーが。
暫くはキリト共々、家を空ける事になるな。ユウキとかサチを留守番させていても大丈夫だろうか、と心配になるが相談をしてみよう。
7/21
今日は笑った日だった。
この一文でまとめられる。事件の渦中にいるのは居候のサチ。大爆笑して現実世界の自分の腹筋が壊れてしまうほど笑った。
事の始まりは居候の身を申し訳なく思ったサチが新しい家を買いたいと言い始めたのがそうだ。おんぶにだっこ、一番稼いでいるキリトや仕事をしている俺を見て自立しようと決意したそうだがまだ世話を見るつもりだ。「月夜の黒猫団」壊滅からまだ一ヶ月。もう乗り越えたと言われても嘘にしか思えないのでクリアするまで面倒を見ようかとも考えている矢先にこの発言だ。
今、住んでいる家みたいなのを買う。と言っているサチだが安く買えたという俺の発言を勘違いしてるようで実際の金額はクソやらぼったくりとしか言えない値段のわけで。0が五個ほど足りない金額を聞いて噴き出してしまった。
本当の値段を言えばその反応が笑えること笑えること。大爆笑してしまい、恥ずかしそうに飲み物を飲んで誤魔化すサチに夕食を共にする皆で癒されながらも笑ったのだ。居候と言えば元々ルームシェアをしていたキリトはもう少し精神が安定するまで部屋を貸して住まわせているがあの事件以来、楽しそうに笑うのを見て思わず嬉しくなってしまった。
うん。笑う門には福来るという言葉は本当のようだ。いつもとはいかなくても偶には笑う事を思い出そう。
7/23
当番制のボス攻略の手助けは担当分は今日で終わり。最速でのチェンジにヒースクリフに労わられ、驚かれた。キリトは興味がないのか、報告には参加せずに家でのんびりと寝ていた。
流れるように血盟騎士団に勧誘され、副リーダーもとい副団長であるアスナにも熱烈的に誘われたが断った。あまり多人数でのグループは危険と感じている俺は今のフレンドに登録されているメンバーだけでパーティーを組む事が一番良い。
前も書いたが息の合うメンバーと共にやる方が効率も良いしデスゲームにも関わらずに少しばかり良い武器を持っているプレイヤーに嫉妬して罵倒してくる可能性もできる限り潰すためだ。ボス攻略の時もマナー違反を平気で犯している事をするプレイヤーもいた。精神安定を図っている今、キリトに悪影響を及ぼしてレッドのように人殺しをするなんて事にならないようにしたいのだ。もう完全にパパだな、俺は。
それはそうと、ようやくレベルが七十に、魔大剣アベンジャーが装備可能になった。装備はできるが、本来の性能を発揮できないのが現状。両手直剣スキルの数値がまだまだ足りないので取り敢えず一区切りといったところか。大剣カテゴライズなのに少し見た目が気になる事がある。片手で持てない事はないが剣に鞘があるのは何故だろうか。剣の腹の部分に細い針のような剣がオマケである変な見た目なのだ。???で埋められた項目と関連していそうである。
ボス戦で熟練度は稼げたものの、前のようにはいかないようだ。そもそも前の戦神の加護がチート過ぎて感覚が狂っているだけな気もするが。キリトよりも早く完全習得したスキルがあるのでどれだけ凄まじいかは理解できる。目標は500、まだ半分だ。
もう少しだ。頑張ろう。
7/26
現実世界はそろそろ夏休みか。もし今、大学にいるのであれば八月から夏休みだが妹はもう始まっているだろう。大学合格祝いにお兄ちゃんに旅行をプレゼントするんだ、と父さんから内緒でバラされた事を思い出してまた申し訳ない気分になった。おかげさまで今日一日は溜め息で占められる一日で皆から心配された。こびりついたイメージで仕事疲れのパパを癒す子供みたいな三人だった。
ユウキが最近名が上がってきている。有名なプレイヤーの一人として周りに知られ始めて暗黙の了解としてトッププレイヤーの仲間入りしている。あの実力を考えればそれは当然だが目立つ事に慣れていないユウキはムズ痒い思いをしていた。恥ずかしい、恥ずかしいと意味もなく俺に抱き着いて顔を隠していた。だいしゅきホールドを実際に体験できて最高でした。いや、なんでもない。ワガママを言えばおっぱいが欲しかった。
対面座位か、とツッコミもあるが相手は子供。ロリコンでもない俺は欲情しないし、妹にも似た感情を抱いているので寧ろ家族愛である。もしおっぱいがあれば揺れていたかもしれない。いやいや、なんでもない。
デスゲームではあるが、正月イベントを考えれば夏休みイベントがあるかも……ハッ。
水着イベントキタコレ? おっぱい! おっぱい!
――いやいやいやいや。ハメを外しすぎるな。この世界に順応するな。帰れなくなる。SAOに慣れきってしまうと現実世界で復帰するのにも時間がかかってしまう。