武装神姫-ようこそ、神姫工房へ!-   作:鞍月しめじ

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ようこそ、神姫工房!編
第一話『ようこそ、神姫工房へ』


 始まりは、あまりに小さな電子音からだった。

 服や小物の散乱した、ワンルームのリビング。遮光カーテンの隙間からは朝日が漏れている。時計は朝六時を指していたが、布団で眠る青年は目を覚まさない。

 

「全く……」

 

 床に敷かれたせんべい布団の傍らに、全高にして15センチほどのフィギュアらしき少女が腕組みしつつ立っていた。表情もできている。ため息交じりの、心底呆れた表情だ。

 少女は動き、青年の頬へ歩み寄る。そのしぐさは到底ただの人形の類いとは思えないほど人間らしく、自然だった。

 彼女は『神姫』と呼ばれる、いわばロボットだ。その神姫の中でも『ストラーフMk.2』タイプと呼ばれるものだが、呆れ顔で青年の頬を突く神姫は通常のストラーフMk.2型とは違っていた。

 黒を基調とする本来のデザインとは反対に、白が目立っている。本来は髪色も青がデフォルトだが、その神姫は黒だった。

 

「起きろ、カズミ。工房はどうした」

 

 いよいよアラームの電子音もテンションを上げ、喧しく鳴り響き出す。

 白いストラーフは拳を振り上げて、だが下ろす。神姫に人間は攻撃できない。殴ることも、無論出来はしない。

 つつくくらいなら問題はないが、それではいつ起きるやら。

 

「起きてるんじゃない? 彼、いつもそうなんでしょう?」

 

 神姫に着せるものとおぼしき布地が散乱した脚の低いテーブルに、金髪の神姫が座っていた。

 蒼い瞳は真っ直ぐ、眼下の青年とストラーフを見つめている。

 彼女は『オールベルン』タイプ。販売元はストラーフと同じで、本当に微かながら外観や性質に似通った雰囲気はある。

 

「その通り、起きてるよ」

 

 ストラーフの傍らに横たわる山がもそりと動いた。マスターの起床だ。

 寝起きでぼさぼさ髪の青年、篠山和己は眠そうにあくびをしながらストラーフへ答えていた。

 それからオールベルンへ訊ねる。

 

「ミレイユ、仕度は?」

「出来ているわ。どこかの神姫はずっとマスターに付きっきりだったから、手伝ってくれなかったのだけど?」

 

 ミレイユと呼ばれたオールベルンはじっとりと伏せた目でストラーフを見下ろす。

 傍らには綺麗に畳まれた布が整然と並べられている。どうやら彼女一人でやったようだ。

 

「うるさいな……。そもそも、あたしはこんな事をやりたかったわけじゃないんだ」

 

 身に纏う白いロングコートを、さも邪魔そうに揺らしながらストラーフはごちる。

 

「そういうなよ、ラフィカ。お前はいい看板娘なんだから」

「バトルをさせろと言ってるんだ! 着せ替え人形なんかじゃなく、武装神姫らしく! 着せ替えならミレイユにさせろっ!」

 

 ラフィカというらしいストラーフは地団駄を踏みつつ反抗する。

 

「ミレイユは看板店員なんだよ。忙しいときに役に立つ。それに、よく服も着てくれるだろ」

「だから、せめてもっと戦闘向けな服装を作れと……」

「ラフィカ、もう止めなさい。時間に遅れるわ──和己、纏めておいた生地で足りる?」

 

 ミレイユから感じるのは大人の余裕。唸るラフィカをしり目に、彼女は畳んだ布を指し示す。

 

「ああ、欲しかったのはこれだけ。あとは工房にあるから。支度したら出るぞ、ちょっと遅刻ぎみだ」

 

 男の寝起き姿は、清潔感があるとは言えない。無精髭に寝癖もあったし、顔を洗って歯を磨く。当たり前の事をする時間もあった。

 しかし時間というものは無情なもので、とっくにいつも自宅を出ている時間を過ぎていた。

 

 結局、家を出る頃には自家用車まで駆け足だった。

 近頃、自動運転車の危険度が問われたことで、再び勢いを取り戻した旧時代的な自動車だ。

 丸みのあるシルエットが特徴的なスポーツカーに乗り込んでエンジンを掛けると、和己の端末がメッセージの受信を告げる。

 

『遅刻ですよ』

 

 彼の『工房』も、神姫の店員だけではない。人間も一人ではあるが、雇っている。

 その相方が痺れを切らせて連絡してきたようだった。

 ステアリングを握り、車を出した和己はラフィカへ指示を飛ばす。

 

「今向かってる、と返信しといてくれ」

「……仕方ない」

 

 やれやれだ、とでも言いたげにラフィカは肩をすくめる。人間であれば片手で済むであろうメッセージ入力に、全身を使って挑む様は何かのアトラクションのよう。

 甲高い唸りを持ったエンジン音の中、助手席から引き出したカップホルダーに腰掛けるミレイユは何処か心地良さそうに目を瞑る。

 決して静かではないだろうに、彼女は全く乱されることなく、じっと走行音に身を預けていた。

 

「げっ……」

 

 不意に和己が声を漏らす。車が減速していった。

 前方に引っ張られるような重力を感じ、ミレイユが目を開けた。ドリンクホルダーから立ち上がり、飛び上がってエアコンのルーバーに手をかけ、ダッシュボードへ前転と共に飛び乗った。

 神姫の体格では、人間が見るどんな日常風景もまるでアスレチックだった。

 

「検問かしら」

 

 ミレイユが見た光景は、車を止める警察官たち。和己の車も巻き込まれてしまった。

 誘導に従い、仕方なく列に車を並べる。ただでさえ遅刻だというのについていない。

 

「全く……どこのバカだよ」

「何か分かるのか? カズミ」

 

 窓から路面を見下ろす和己は何かを察したらしい。ラフィカが問いを投げると、彼は答えた。

 

「タイヤの痕だよ。普通に運転したら付かないような距離が引かれてる。誰かここでレースか何かしたんだろ」

「事故じゃなくてかしら?」

 

 ミレイユの反応はもっともだった。何も違法レースばかりではないだろう。

 

「それも否定は出来ないな。なんにせよ、早く通してくれないと遅刻決定だ」

 

 和己が苛立ち気味にステアリングを指でノックする。

 レースであろうが、事故による封鎖であろうが既に巻き込まれている。警官がこちらに来るのがやけに遅く感じられた。

 

「失礼します。昨晩、こちらで違法レースがありましてね。ご協力願います」

 

 窓を開けると、すぐに警官は語りかけてきた。勿論逃げるわけにはいかないし、理由もない。

 和己は頷きつつ承諾する。

 

「いいですよ。何が知りたいんです?」

「中を見せてもらっても?」

「どうぞ」

 

 和己が承諾すると、警官は助手席へ回り内部に不審物がないかを見て回る。

 途中、助手席に載せていた袋について問い詰められるも、単なる布生地であると分かるとあっさりと引き下がった。

 

「失礼しました、ご協力感謝します。それから昨晩走った車なんですがね、20年落ち以上のポルシェだったらしいんですな」

 

 警官が語る。その顔には嫌らしい笑みが張り付いている。まるで和己に何かを言いたげだった。

 車内にいる神姫たちが警官の顔色をうかがっている。

 

「銀のポルシェ911。数年前、違法レースで走り回ったヤツらしいんですよ。署内でも、取り締まりに躍起だったヤツだ」

「走った911の特徴は」

「20年落ちのモデルで、リアウィング無し。目撃されたポルシェはそれだけですよ」

「昔走ってたらしいのはGT2RSと聞いてますよ。アレはデカイ羽根が付いてる──羽根無しの時点で、あなた方が捜してる車じゃないでしょう」

 

 警官がドアに手を掛け車内へ身を乗り出した。既に前は空いていたが、これでは発進出来そうに無い。

 

「随分お詳しい。何か事情をお知りですか?」

「冗談を。自分は単なるZ乗りですよ、金の無いドール趣味の」

 

 三十秒ほどか。警官と和己のにらみ合いが続いて、ようやくドアから手が離れた。

 

「どうぞ、行ってください」

 

 警官が許可を出すと同時に窓を閉め、車を発進させる。検問を通り抜け、左手のシフトレバーを操作してギアを変える。

 少し経って、ミレイユが話し掛けてきた。

 

「和己。貸し倉庫、まずいんじゃないかしら。いくらあなたが足を洗ったのだとしても」

 

 神姫は事情を知っていた。だから警官の問いかけには、最大限警戒していた。

 神姫はマスターを守る。例えそれが法に背く事になっても。ミレイユとラフィカに出来るのは、それが現実にならないよう和己に言い聞かせるくらいだ。

 

「何の話だ? 気にしなくていい。人より自動車に詳しくて、今時珍しいスポーツカーなんて転がしてりゃ、みんな同じに見えるのさ。一般人には」

 

 言い聞かせるように語った和己。ミレイユはただ黙って従うしかなかった。

 車は路地に入り、小さな駐車場に停められる。

 

「さて、ダッシュで店開けるぞ!」

 

 エンジン停止。助手席の袋を取り上げ、神姫たちを肩に乗せると和己は車に鍵を掛けて、店へ向かう。

 シャッターの閉まった店先では、従業員である女性が腕を組みつつ待っていた。未だにシャッターの鍵も渡していないのは失敗だった、と和己も後悔する。

 

「ごめん! 古谷さん。今開けるから!」

 

 頭を下げながら、和己は謝罪する。しかし手は既にシャッターの鍵へ掛けていた。

 

「本当に待ちましたからね。おはよ、ミィにラフィ」

 

 女性は少々ふてくされ気味に口を開いた。

 程よい風に綺麗な黒髪を揺らしながら、人間の従業員である古谷三奈は、和己の神姫たちへ挨拶する。

 彼がシャッターを開ける間、神姫たちは三奈の肩へ避難して挨拶を返していた。

 

「全く、災難だなミナ」

「本当だわ。このお店じゃなかったら辞めてるかも──なんてね」

 

 ラフィカの語り掛けに、くすくすと笑いながら返した三奈。

 

「冗談はやめてくれよ……。意外とお客来るんだから、手は欲しいんだ──よっと」

 

 シャッターを開放し、支柱を立てる。

 和己は割りと本気で三奈の一言を気にしているのか、振り返った彼の表情は不安げだった。

 

「冗談ですってば! 私も神姫たちの着せ替え大好きなんですから。今日、実は連れてきちゃったんですよ」

「あら。その割りには見当たらないけど?」

 

 ミレイユが辺りを見渡すが、彼女たちの他に神姫の姿は見当たらない。

 三奈が自身の上着のポケットを優しく叩くと、ミレイユに良く似た金髪がひょっこりと頭を出した。

 

「おはようございます、皆さん。初めまして、モニカといいます」

「あらあら……」

 

 ポケットから出てきたのは『アーンヴァルMk.2』タイプの神姫。奇しくも、ラフィカとミレイユの原型を作った会社とリリース元は同じだった。

 ミレイユも理解していたのか、奇遇だと言いたげだ。

 

「フロントライン製が三体か。全く、人気だなアーンヴァルは」

「だって私、神姫って持ったことなくて……オススメを訊いたら、この子をオススメされたのよ。扱いやすいって」

 

 肩を竦めるラフィカへ、三奈は必死の弁明を試みていた。

 

「だけど、今はすっかり相棒なのよ。たまに服持ってきてたでしょ? 全部モニカがモデルを事前にやってくれてたの」

 

 扉の開いた店に入りつつ、三奈はモニカの頭を撫でながら語る。

 

「まあせっかくだし……そうだな、今日はラフィカ側に付けてみるか?」

 

 鍵を掛けていたショーケースを開けて、和己は三奈へ訊ねた。

 さほど広くはない店内に、人間の服飾店と変わらない展示方法の服が並んでいる。

 和己の提案に、ラフィカは少々憤慨しているようだった。

 

「そもそもあたしをモデルから外す、という案はないのかお前には!」

「無いな」

 

 和己が即答すると、ラフィカはがっくりとうなだれてしまった。

 こんな事をするつもりではないのに、と何度思考しても結局逆らうことはできない。

 

「まあまあ、私がお手伝いしますから。楽しくお仕事しましょう?」

「お前は気楽そうだな……」

 

 神姫(ひと)の気も知らずに。ラフィカは満面の笑顔で手を差し伸べるモニカを苦い顔で見つめる。

 

「さぁ! もうオープンよ! みんな気持ちを入れ替えていきましょう!」

 

 ミレイユがカウンターの上で声を張り上げる。

 レジはミレイユがいつも通り開けている、準備はオーケーだった。

 

「ちょっと早いんですけど、大丈夫ですか?」

 

 店を開けてすぐの来客。肩に神姫を載せて、本日最初の人間がやってきた。

 

「勿論ですよ。大歓迎だ」

 

 和己が応え、店員たちは声を揃える。

 

『ようこそ、神姫工房・シノヤマへ!』




「君いったい何作書くの」と思ってらっしゃる常連さんも、初めましての一見さんもこんにちは。しめじです。

 今回は武装神姫です。
 唐突だね? というのはもっともで、昔からちょいちょい武装神姫にはチャレンジしていたのですが諦めていたり、普通にエタッていたりしました。
 なんでいきなり? というのは、最近個人的に『武装神姫 LOSTDAYS/STRAY DOGS』を購入しまして。さらにバトマス動画を見たりで再燃しまして。
 武装神姫自体は昔から熱は変わりません。火はついていたけど、大小ありつつという感じ。

 主人公である和己の神姫はストラーフMk.2ラヴィーナとオールベルンです。
 ラヴィーナはうちにいるのとほぼ同じです。てか、同じです。勿論主人公を私に重ねてる訳ではないので、そこは悪しからず。
 オールベルンに関しては実はまだ持ってません。年明けにお迎えできたらなぁと、考えております。性格はバトマス動画を見ながら解釈してます。
 VSあんこの「ハァァァァ!?」がめっちゃかわいい。

 と、まあ色々考えながらガリエア、ゼクスそして神姫。やっていけたらなぁと考えてます。
 なんかちょいちょいこういう小話を挟めたら楽しいのかな。
 じゃあ次回はシノヤマの店員さん、古谷三奈について語ります。

 第二話もよろしくお願いいたします。
 更新自体はそこそこ自由にやってますので、気長にお待ちいただければ幸いです。
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