武装神姫-ようこそ、神姫工房へ!-   作:鞍月しめじ

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第九話『トラウマ』

 二年ほど前、和己はF1チャンピオンとして神姫バトルの世界に君臨していた。

 彼を倒して名を上げようとする挑戦者を、相棒であるストラーフMk.2ラヴィーナ型のラフィカと共に倒し続けた。まさに『疾風(ラフィカ)』と呼ぶに相応しい戦いを見せた。見せ続けた。

 葉月の神姫、アルテミスが見せる神速抜刀レールアクションをすら上回るスピードはあらゆるマスターを唸らせる。

 

 ひたすらバトル、バトル、またバトル。そんな日々が続いたある日だった。彼らの目の前に、蒼い騎士が現れたのは。

 大振りな西洋剣を携え、鎧を模した装甲を纏った騎士型神姫は、スピードこそ無かった。だがラフィカが何回剣を打ち込もうとそれを弾き、いつしか形成を一方的に騎士の有利へ変えていた。

 月日が経った今でも、和己には騎士の一撃を受けたラフィカの悲痛な悲鳴を忘れられていない。

 たったの一撃だった。剣の一振りを受けただけで、ストラーフMk.2型の武装、装甲を打ち砕き、本体を機能停止させる。

 くずおれたラフィカはもう声もあげなかった。和己に抱え上げられても身動ぎ一つしかなかった。彼らは負けたのだ。それも、最悪な形で。

 多数のギャラリーがいた。相手は神姫の中でも古いサイフォス型と言われていた。その神姫に、F1チャンピオンがあまりにあっさり敗れたのだと。その噂が広まるには、あまりに早すぎた。

 

 □

 

「それからは、バトルをしてない。復帰したのはあのメイド杯からだ」

 

 意外にも話が単純明快だったことに、葉月は少なからず驚いていた。

 深い理由があるのかと思っていた。しかし、そうではなかった。だがまだ場に出していないカードは葉月に残っていた。

 彼が表舞台から去った理由が単純ではないと証明する、唯一の根拠だ。

 

「では、ラフィカの記憶喪失は? まさか負けたショックでメモリーを飛ばした訳ではないでしょう?」

「まさかお前、葉月に話したのか?」

 

 ラフィカへ向けられる恨めしげな視線。

 

「すまない。ただ、あたしも記憶が無いのは気味が悪いし、神姫としてマスターとの生活を忘れているのは不甲斐ない。そこに理由があるのなら、知りたいと思うのは当然だろう?」

 

 ラフィカの言い分も神姫として筋が通っている。それが人間だとしても、記憶が無いと知れば探求するのは当然と理解できた。

 結果、和己は折れざるを得なかった。

 

「葉月は言ったよな。『違法改造のサイフォス』って」

 

 頷く葉月。

 確かに前日、工房で和己に対しその手がかりを提示している。

 彼女自身は単に()()()()()()()()()()サイフォスしか知らない。今はまだ、言葉以上に意味を持たないものだ。

 

「違法改造だったんだ、そのサイフォス。何をされたか分からないが、本来ならラフィカはリセットしないと、もう目を醒まさないハズだった」

「なっ……」

 

 驚愕に染まるラフィカの表情。

 和己がこの期に及んで冗談を言うとは、彼女には思えなかった。それに、神姫としての洞察力が、マスターは真実を語っていると結論付けていた。

 

「では、どうして彼女はリセットせずに目を……」

 

 葉月が困惑を交えた声で訊ねた。

 

「一人だけ居たんだ。CSCをリセットせずに、コイツを助けてやれる人間が」

 

 和己の視線がラフィカへ向けられる。困惑しているのは葉月だけではない。当事者である神姫本人まで、感情が大きく揺らがされていた。

 

「なんにせよ、俺はラフィカを失うのが怖くなった。だから彼女をバトルには出さなかった。ミレイユだってそうだ。メイド杯が初戦で、軽いイメージトレーニングしかしたことがない」

 

 一種のトラウマだろう。話を聞いて、葉月はそう推察する。

 今日という日までラフィカをバトルに出さなかったのは、彼女を傷付けるのが恐ろしいという思いからだった。

 和己から受け取ったジュースに口をつけ、喉を潤す。好敵手が表舞台から姿を消したのは、それ相応に重大な理由があった。

 では、何故それが神姫用のコスチュームショップに行き着くのだろう。疑問は尽きないが、和己は既に席を立っていた。

 彼はぴしゃりと言い放つ。

 

「古谷さんに店預けっぱなしだから、もう行くぞ。理由は話した通りだ、約束は守ったぞ」

 

 葉月にこれ以上彼を縛る理由は存在しない。確かに約束は守られた。なぜバトルの表舞台から姿を消したのか、なぜラフィカをバトルに出さないのか。違法改造のサイフォスとはなんだったのか。

 彼は全て葉月に語った。これ以上へ踏み入るためには、彼女には手札が無さすぎる。

 

「すまない、ハヅキ。あたしも混乱している。だが、理由が一つ分かった」

 

 ラフィカも、納得しきった雰囲気ではない。しかしそれ以上に、彼女は神姫だった。

 主が頑として語らないとするものを語らせるような設定ではない。

 

「マスター……カズミは、あたしに嫌気が差したりしたからバトルさせなかったんじゃない。失うのが怖くなったから。だったら、上手く説得してみる。ルーシィもいるし、いい発破になるかもしれないからな」

 

 喫煙所の灰皿を足場にラフィカが飛び上がる直前、彼女は葉月にそう言い残した。

 返事をする前に、黒髪の神姫は男の肩に乗ってゲームセンターを去っていく。

 

「マスター。どうするんです?」

「どうもできない……かな。でもいつか、彼とラフィカの再戦は果たして見せます」

 

 シルバーのスポーツカーが快音と共に自動ドアの向こうを走り去っていく。和己の車だ。

 受け取った缶ジュースへ視線を下ろし、そして彼女は誓う。いつかF1チャンプとして、F大会の場に篠山和己を引きずり出すのだと。

 

「……私、もしかして子供扱いされてるのかな」

 

 缶ジュースの銘柄は果汁系のベストセラー。確かに葉月はまだ成人していない。対して和己は、初めて大会のステージで出会った時から既に年上だった。

 余計なことを喋らないのは、下に見られているからなのでは。ふと、そんなことを考えてしまう。

 

「幾らなんでも、それはないのでは? 神姫バトルに年功序列なんて有りませんし」

「それはそうだけど……」

 

 バトルの世界の話ではないのだ。葉月は缶の中身をあおり、一息吐く。

 何かに詰まった時は神姫バトルだ。空き缶をゴミ箱に捨てると、葉月は神姫バトル受付へ向かって歩みを進めた。

 

 □

 

「もう、遅いですよ! 店長!」

 

 工房に戻ると、三奈が声を張り上げる。さぞ立腹しているのだろう。普段は優しげな目付きも、今は厳しく和己を射抜いている。

 

「ごめん。結構人来たの?」

「そうですよ、もう。ルゥちゃんいなかったら大変だったんですよ? てっきり少し空けるだけだと思ってたのに」

 

 腰に手を当て、むくれる三奈。先ほど会っていた葉月の方がまだ大人に見えてしまう。

 しかしそれはそれ。三奈に負担を強いたのは事実なのだ、反論もない。

 

「ごめん。ボーナスって訳じゃないけど、今夜飯でもいきます? 奢るけど」

 

 和己の言葉に、三奈が目を丸くする。全く想定していない誘いだった。というより、男性が食事に誘うにしては軽すぎる。

 店内に人はいないが、もう少し時と場所があるだろう。三奈は呆れたように溜め息を吐く。とはいえ、断る理由もない。

 恋愛といった感情ではないにしろ、和己の事は信頼している。彼は送り狼というタイプではない。人間より神姫に感情が行くタイプだ。でなければ、神姫用コスチュームショップをそこそこ繁盛させてなどいない。

 とにかく、安心は出来る誘いだったしやぶさかでない。思い付く限り、高い店を指定してやろう。

 

「じゃあ、回らないお寿司を」

「調子に乗るな」

 

 はっきりと拒絶されてしまった。

 冗談ですよ、と三奈。

 

「店長にお任せしますよ。誠意です、誠意」

「……はぁ。葉月だったら出てこない言葉だな」

「ちょっと? 流石に未成年は……」

「何言ってるんだよ! 神姫もいるのに」

 

 憮然とした表情の三奈に、慌てる和己。

 

「性的趣向は人それぞれだけれど、警察のお世話にならないようにね? 和己」

 

 陳列棚を清掃していたミレイユが和己へ語る。

 工房には否定する和己の声と、からかって笑う三奈たちの声が響き渡っていた。




第九話、お疲れ様です。
少し短いでしょうか。すいません、これでも一週間くらい掛かりました……。

バトルマスターズのキャラで明確に年齢が分かっているものは別として、結構議論呼びそうなとこに触れました。
主人公は高校生くらいじゃないかなぁ?と思う(甚平の雰囲気から察するに、幼くはない)ので、葉月も同じくらい?と推測して、和己とのバトルからギリギリ成人していない感じです。
立ち絵は若者な感じでしたね。最初は二十歳そこそこくらいで補完していたのですが、最近引っ張り出したMk.2で千歳が八郎に『未成年だから』と言われていましたし、もう全くわからない。
なので、葉月はギリギリ未成年です。何となくです。
三奈はガッツリ成人してます。

最近工房要素が減ってきて焦り気味ですが、どうか次回も宜しくお願い致します。
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