武装神姫-ようこそ、神姫工房へ!-   作:鞍月しめじ

11 / 23
第十話『小さな来客』

 ある日の工房。出入りはおだやかで、人気の少ない路地らしい静かな時間が流れる。

 休憩時間同然の落ち着きだったが、不意に響いたドアベルがだらけた空気を打ち破る。

 

「いらっ――あれ」

 

 いつものように挨拶しようとして、和己は異変に気付いた。人間の人影はそこに無く、ドアの枠に小さな人影があるだけだった。

 人影は神姫だった。神姫のパワーならば多少のドアは開けられるし、人影がいやに小さいのも理解できる。

 

「……」

 

 入店し、陳列棚を見上げる神姫。素体にはオールベルン型のミレイユに似た意匠があったが、色は黒。切り揃えられた薄紫のセミロングヘアがよく映える。

 

「ジールベルン型のお客様は珍しいですね」

 

 ミレイユの反応がやはり早かった。床に降り立った彼女は、来店した神姫を見て語る。

 ジールベルン型といえば、オールベルン型の姉妹機だ。対称的な黒を基調にしたボディで納得がいく。表情には乏しいようで、じっとりとした視線を向けるだけ。

 ジールベルン型はかなり気難しいAI設定であるらしく、来店した“彼女”を見れば一目瞭然でもあった。

 

「マスターは一緒じゃないのか……?」

 

 カウンター越し、和己が問うと黒い神姫は彼を見上げる。

 

「一緒じゃない。あたし一人」

 

 神姫用に組まれた足場を見つけると、神姫は跳躍で飛び移り、カウンターへ上る。

 

「あなたが店主?」

 

 着地と共に、神姫は赤い瞳を和己へ向けて訊ねる。

 

「そうだけど……」

「和己さん、人気ですねぇ」

 

 ようやく話を差し込む部分を見つけたのか、三奈も溜め息交じりに会話へ加わった。

 首をかしげる神姫。

 

「人気……? 否定」

 

 次いで出てきたのは言葉通りの否定だった。

 会話が噛み合わない。ジールベルン型を相手にするのに、ここまで苦労するとは。神姫の相手に手慣れた筈の和己も頭を抱えた。

 

「なら、君は服を見に来たのか?」

 

 また神姫は首をかしげた。とはいえ、服を見に来たとしても買い手にはなり得ないだろう。金銭を要求すべきマスターの姿がない。

 無論、電子マネーの類いを持っていれば話も変わるが、どうやらそうではないらしい。

 

「あたしは服装の変更に利点を見出だせない。……でも憧れは、確かに否定できない」

 

 斜を向き、頬を赤らめる。

 伝言がある、と神姫はそれから続けた。恥じらいからの切り替えは早かった。

 

「アーティル型の神姫は?」

「今、奥で在庫を見てるけど」

「……そう。彼女について知りたければ、ヴァルハラに行け。マスターからの伝言」

 

 直接ルーシィに話があるのではないのか。和己が返そうとしたが、それも待たずにジールベルン型の神姫はカウンターから飛び降りた。

 綺麗な前転と共に着地した神姫は、後ろにいた和己へ振り返って静かに告げる。

 

「次は、服を見に来る」

 

 手を触れてなどいないのに、まるで彼女がそうしたかのように、開いていたドアは閉まっていく。

 小さく鳴ったドアベルと、もはや置いてけぼりな人間たちが店に残される。滞在していた時間は五分もないだろう。

 

「ヴァルハラって……前、違法賭博で摘発されたバーですよね」

 

 神姫が残した手がかり、ヴァルハラ。その名前は少なからず衆目に触れていた。当然、三奈の目にも。

 違法改造神姫やマスターによる違法賭博で警察に一斉摘発を受けたバー。それが、そのヴァルハラだった。

 

「……まだあるのか、あの店」

 

 摘発にはおとり捜査が使われたと噂が絶えない。公式に許可を得ない神姫バトルをあえて行わせ、人を集めて一網打尽だとか。

 噂、噂、噂。どんな話も事実を確認しなければ噂の域を出はしない。そして和己にとっては不幸にも、ヴァルハラとは知らない存在ではないのだ。

 違法賭博に関与したことは無論無いが、工房を開けるようになる前はよく出入りしていた。それを三奈には話をしたことはなく、彼の中では消し去りたい過去の一つ。

 しかし、過去とは消えてくれないらしい。ルーシィの情報も出ない上、まるで狙い澄ませたように招待まで貰っては、無関係ではいられない。

 

「まあ、今日見に行ってみるか」

 

 目的はルーシィの手懸かりだ。マスターがいるなら、少しでも早く元の生活に戻してやりたいと思うのが神姫マスターだ。

 少しの危険で彼女について前に進むのなら、その招待は呑むしかないとも言える。

 カラスの鳴き始めた外をカウンターから眺め、和己は一度大きく伸びをした。




十話にして、いよいよ2000文字切りました。
ただ一旦の繋ぎにはちょうどよかったので、もうこのまま投稿しますです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。