武装神姫-ようこそ、神姫工房へ!-   作:鞍月しめじ

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第十一話『ヴァルハラ』

 バー、ヴァルハラ。今は警察による現場封鎖も終わり、武装神姫オフィシャルが公式に許可を出した合法ハイレートバトルの場と化している。

 神姫バトルの方式は通常のライドオン式だが、バトルに負けた神姫は勝った神姫から武装パーツを奪われることになるという違いがある。そういった性質から、気性の荒いマスターやリスクジャンキーなマスターが多く、いくら統治されたとはいえど異様な空気を放っていることに変わりはなかった。

 

「まさか、また来ることになるとはな」

 

 和巳には、ヴァルハラの外観は見慣れたものだった。せいぜい昔より綺麗になって、入りやすくなったくらいだろう。

 時間は夜。しかし、店内からはざわめく声がする。工房を閉めたあとに車を走らせヴァルハラへとやって来た和巳の肩にミレイユの姿があった。彼女にとっても、ハッキリと記録されたロケーションらしい。

 

「ここに出入りしていた時の和巳は、かなり荒れていたわね」

「言うなよ。忘れたい過去だ」

 

 ヴァルハラの扉を開く。戦士の楽園へ足を踏み入れると、バニーガールが和巳達を出迎えた。

 ここはゲームセンターとは違う。入店には料金が発生する。支払わなければ入ることも出来ないので、特に抵抗無く和巳は提示された料金を支払って本格的に足を踏み入れる。

 

 夜もいい時間だというのに、筐体は休日のゲームセンターめいた熱気に包まれていた。今は賭博も行われていないようだが、やはり純粋な盛り上がりとは少々違っている。ゲームセンターよりも攻撃的で、一部のマスターは負ければ自身の神姫を罵倒した。見るに堪えない現場だ。

 

「どうするの?」

 

 カウンターの椅子に座った和巳へ、ミレイユは問う。

 彼が注文したコーラは手早く用意され、差し出される。

 

「少し目立ってみようか」

「また? ここはゲームセンターほど気楽ではないと思うけれど、大丈夫なの?」

 

 ミレイユが思い浮かべるのは、メイド杯での和巳だった。バトルでのプレッシャーから体調を崩し、医務室送りになってまださほど日にちは経っていない。

 また倒れるようなことになっては本末転倒だ、ミレイユの心配はもっともだった。

 

「もう大丈夫だよ。まあ、やってみよう」

 

 バーへ小銭を置いて支払いを済ませると、和巳はまっすぐ中心に置かれた筐体へ向かう。

 既にバトル相手は用意されているらしい。互いに向き合い、神姫たちはエレベーターで筐体内部へ入っていく。

 ライドオン。ミレイユと一体となる和巳。呼び出した彼女の剣を振り回してみるが、若干重いか。ラフィカのそれとは形状も何もかも違う。やはり、戦い方は変えなければならないらしい。

 

「私はあなたを信頼しています、マスター」

 

 データの塊から形作られる街並みの中で、ミレイユは胸元に手を当てて語る。

 その言葉は和巳の元へ。

 

「例え、本来のマスターでなくとも私はあなたに救われた。だからこの身体、如何様にでもあなたの思うままに」

 

 完成した都会の街並み。ビルの影から、神姫が飛び掛かってくる。ミレイユはそれを剣の一閃で弾き返し、衝撃を利用して互いの距離を取る。

 輝く街灯が視界を妨げる。雨のあとの湿った道路が光を反射し、暗闇を彩る。しかし、それがいけない。幻惑され、敵を思うように視認できないでいると、敵の神姫がナイフを投げつけてきた。姿も見えず、ミレイユはただステップでかわして、集中力を切らさず敵影を探す。

 

「忍者戦法ね。いいでしょう、ならばそれを不可能にするまで」

 

 敵の戦闘手段がわかったとなれば、対抗手段も講じやすい。今回は付き合うだけ無駄と判断するに至った。

 オールベルン型の武装である剣、ラリマ=クリミナルが鮮やかな蒼い剣閃と共に振り上げられる。

 風を切り、ミレイユのダッシュと共に剣がビルを斬る。まるでパンでも切るかのように容易く建物を切り裂いては、敵の姿を探す。

 壁を蹴り、高所を取って。

 

「……見つけた」

 

 敵神姫を見つけたミレイユそして和巳。

 崩れるビルの破片を蹴り飛ばし、全体重を乗せて刃を地面へ叩き付ける。

 対応の遅れた神姫はバックステップで叩き伏せられることは防いだが、ボディを著しく損傷した。

 剣を小さく空中へ放って持ち直すミレイユ。再びその蒼い瞳が神姫を射抜く。

 もはや敵に隠れるスペースは無い。となれば、互いに向かい合うしかなかった。

 敵は大振りな剣を引き摺り、体重を乗せ振りかぶろうとする。対するミレイユは両ひざを折って地面を滑り、華麗な回転と共に敵神姫と交差した。敵の刃は頭頂をかすめた一方、ミレイユの剣撃は的確に胴を捉える。

 濡れた地面で雨水が跳ねる。剣を振り抜いたままのミレイユの後ろで、神姫が崩れ落ちた。ブザーと共に、勝敗が決定する。

 武装を奪うことは敗者のルールだ。例え必要無くとも、ルールはルールに違いない。

 

「悪いな、ヴァルハラってのはこういうところだ」

 

 筐体から返却されたミレイユを肩に乗せ、和巳はそう言い捨てた。

 盛大な勝利。だが、情報を集めることの方が大事だ。ためしに先程のバトル相手へ、ルーシィについて訊ねてみた和巳。

 相手は暫し視線を泳がせると、まるで記憶がなだれこむかのごとき勢いで語り始める。

 

「ルーシィだったな? だったら、マスターは確か……裏のレースを仕切ってたヤツの神姫だ。見に行ったことが一度だけあったな」

「裏のレース……? 車のか?」

 

 そうだ、と対戦相手。

 迷うことなく頷いて見せた。

 嘆息と共に、悩ましげに目頭を揉んだ和巳。近頃アンダーグラウンドな雰囲気がちらついていたとはいえ、まさか本当にそうだとは思わなかった。もしルーシィのマスターがその通りなら、会おうとして会えるものではないかもしれない。

 この手の人間は他人を信用しない。見たことの無い人間に会うなど、まず無いだろう。ルーシィの名前を出しても微妙だ。

 

「アンタ、ソイツを探してるのか? 神姫ネットでも見たが」

「まあな。どこにいけば会える?」

「待ってろ。……オイ」

 

 対戦相手が神姫に指示を出す。相手のものであろう鞄の中から、小さなチップを取り出すと神姫はミレイユへそれを手渡した。

 

「……これは?」

「会えるかは保証しないが、少なくとも切符ってヤツだ。レースを見に行けば、また情報も見つかるだろ」

 

 ミレイユが抱えるチップは携帯端末に使えそうなデータカードだ。何かしらの情報が入っているのかもしれない。

 スマートフォンに挿入したが、アプリケーションでは対応しない圧縮形式で、その場で確認することも出来なかった。

 罠かもしれない。妙に都合がよかった。しかし、突き返してはまた振り出しに戻るだけ。

 

「ありがとう」

 

 和巳は一言礼を言うと、再びカウンターへ戻った。神姫ライドオンはそれなりに身体負荷がある。勿論命にかかわることなどこそ無いが、体力が無ければ走るだけでマスターが息を上げる事もあるのだ。

 ライドオンに慣れてしまえば、神姫と半々で制御をやり取りする事で、和巳や葉月のように戦えるが、それでも神姫単体の戦闘能力より大幅に落ちているほど。

 故に、バトル後の水分補給と糖分補給は必須だ。ストロベリーサンデーに水を追加して、和巳は休息する。

 

「ラフィカ以外にライドオンした気分は?」

 

 神姫からすれば巨大な建物のようなストロベリーサンデーの器。それを見上げてから、和巳へ目をくれつつミレイユは語りかける。

 

「悪くない。もうちょい何とかなればな」

 

 述べながらスプーンを取り、ようやく一口といったところで、隣の席に中年の男性が腰かけた。

 

「やあ、篠山さん。先日は交通指導が失礼を働いたとか」

 

 男性は気安く話し掛けてくる。しかし、和巳には覚えのある顔だ。店にもたまに顔を出していた。

 

「まさかあなたまで私を疑ってるんですか、神宮司さん」

 

 男性の名は神宮司八郎。立派な刑事ではあるが、自身をノンキャリアの迷い犬だと自嘲する男。

 ミレイユの前へ歩み出たアーンヴァル型も、彼の神姫で名前はアトラという。

 和巳が神宮司を睨むと、彼は大袈裟に手を振って否定した。

 

「とんでもない。アトラの服でも、こんなオジサン相手によく世話してもらってるんだし。それを抜きにしたって、刑事課単体としては関係ない話です」

 

 ただまあ、と神宮司は続ける。

 

「近頃、違法改造の神姫とそのマスターが突然バトルを挑んでくる……なんて事があるらしくて」

「殺人ですか?」

「いやいや、そんな大層な事じゃない。俺たちが独自に動いてるだけだが、証言じゃストラーフを見たかと訊かれたとか」

 

 神宮司の発言で、和巳とミレイユの視線が結ばれた。

 

「騎士型ですか」

「そうだ、と言いたいんだが少々複雑でね。様々な神姫が確認されてる」

「他のストラーフ型オーナーは?」

 

 ストラーフ型はベストセラー機である。違法改造神姫たちがストラーフを探す、といっても限度がある。

 とはいえ、ストラーフ型を持つオーナーの皆が皆バトルを望むわけではない。神姫自体の性格設定も温厚にされたストラーフ型も、それなりの数が存在している。もしそんなマスターへ違法改造神姫が向かえば、為す術もないだろう。

 アイスクリームを掬い、口へ放る和巳。いずれは和巳の元へも来るのだろうか。考えている間に、カウンターを汚すまいとミレイユが溶けかけたアイスクリームを掬いとっている。

 

「君も元々、ストラーフ型でF1チャンプに君臨した身だ。接触は必ずあるだろうな」

「覚悟はしてます。いずれ倒さなきゃならない相手でもある」

 

 忘れもしない、月を背にした騎士の姿を。ラフィカを再起不能にしかけた、違法改造神姫の存在を。

 神宮司が立ち去り、和巳もまた席を立った。ミレイユが肩へ乗ったのを確認し、ヴァルハラを後にする。

 ルーシィのマスターはアンダーグラウンドな世界に身を置いているかもしれない。大きな前進ではあったが、和巳にとっては複雑な心境だった。




遅くなりました。
緋弾書いてたら時期が……。

最近神姫関連がまた動き出しましたね。
アミューズメントゲーム、武装神姫BCにモバイルアプリ武装神姫R制作中の発表。
これでブチ上がったマスターを叩き落とす、浅井氏の神姫関連からの離脱。
しかし個人的にはゲームのコナミ神姫、プラモのコトブキヤ神姫でいい気がしました。

また次回もよろしくお願いいたします。
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