武装神姫-ようこそ、神姫工房へ!-   作:鞍月しめじ

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第十二話『大きなお客様』

「和巳さん、何かあったの?」

 

 工房を開けてから、和巳は何処か心ここにあらずといった雰囲気で接客はもっぱら三奈がやっていた。

 何かを知っているであろうラフィカたちへ訊ねてみても、それはむしろ彼女たちも知りたい問題で。

 

「昨日お出掛けしてから、ずっと何かを考えてるんです。神姫ネットに立てた私のスレッドを眺めながら」

 

 ルーシィが悩ましげに首を捻る。

 彼女は彼女なりに、神姫として篠山和巳という人間を気にかけていた。勿論、語らない彼から得られる情報など無かったが。

 

「あたしもだ。アイツは何をしても上の空だ、返事さえしない」

 

 ラフィカはルーシィの態度に反して、立腹しているようだった。よほど構われなかったことが腹立たしいのか、腕を組んでは顔を自身のマスターから背け、膨れている。

 

 唯一黙秘したのはミレイユだった。彼女だけは昨日の和巳を知っている。自宅でもさんざんラフィカたちに問いただされたが、それも彼女は上手くかわしていた。

 

(……私はどうすべきなのかしら)

 

 悩むミレイユ。彼女は正式な意味で和巳の神姫ではない。とある事情で譲り渡され、それから一緒に暮らしているに過ぎなかった。

 故に、ルーシィの想いは良く分かった。マスターでない者が、自身について頭を悩ませるのは神姫として見逃しがたい。

 しかし、ルーシィへ真っ先に昨日得た情報を話してしまうのは和巳の方針に逆らってしまう。いくらマスターでないとはいえ、それは弁えていた。

 確定した訳でもない話をして、仮にぬか喜びさせてしまえばそれは残酷な話だろう。

 

「とにかく、仕事仕事! 和巳さん……店長!」

「ん、ん? あ、ごめん古谷さん。なに?」

 

 虚をつかれたように和巳。

 三奈は呆れ気味に嘆息しつつ、かぶりを振った。

 

「昨日何かあったんですか? そんなんじゃ、お客さんも帰っちゃいますよ」

「あー、ごめん。ちょっと考え事を……」

 

 和巳は苦笑を見せつつ言った。呆れも限界だ。三奈は腰に手を当て、嘆息する。

 ふとドアベルが鳴った。和巳を肘で小突き、三奈が声を上げる。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 三奈の挨拶へ軽く会釈する男性客。工房に来る客にしては、妙に堅苦しい格好が目についた。

 ここは街中の服屋でもなんでもない。端的に言えば『玩具の着せ替え用品店』でしかない。そんな場所に、今やってきた客はスーツでやってきて品揃えを眺めている。

 三奈と和巳はそれぞれ時計へ視線を向けたが、まだ会社員が来るような時間ではなかったし、何より持っている雰囲気はそんな物ではなかった。

 

「ふむ……なるほど。噂通りだ」

 

 男は一人、何かを納得したように頷く。

 

「あの、なにか?」

 

 上の空だった和巳も、男の行動には疑念を抱いた。

 そうだった、と男。彼はスーツの内ポケットから名刺入れを取り出すと、和巳と三奈へ差し出した。

 

「突然で申し訳ない。私はP.O.M.……プリンセスオブマジックという、所謂神姫向けサードパーティアイテム会社の責任者をさせてもらっている御堂と言います」

「……はあ」

 

 突然の話に和巳が出せた声は、気の抜けたものだった。名刺に書かれている住所は都心だったし、小規模なものとは思えなかった。

 では、そんな会社の人間が何しに来たのか。まさか工房を潰そうなどとは考えまい。和巳は警戒しつつも、御堂へ訊ねた。

 

「見たところそれなりにでかい会社のようですが、うちへ何の用です?」

「そんなに警戒しないでほしい。そうだな、端的に言おう。この工房にある神姫用アイテムを、うちの店に卸す気はないかなと……ね」

 

 唐突な切り出しだった。神姫たちでさえ呆気に取られるほどに。

 

「ちょ、ちょっと店長……」

 

 困り果てて、三奈が和巳へ助けを求める。和巳の意見ははっきりとしていた。

 

「考えさせてください。こっちもそれなりに忙しい」

 

 御堂は頷きつつ、その答えは予想していたようだった。

 

「勿論今すぐ返事を……なんて言わないさ。気が向いたら、名刺の番号に電話を。秘書には篠山さんから連絡があれば、真っ直ぐに取り次ぐように言っておきますから」

 

 不思議と憎めない態度。御堂の外観は若い実業家といった雰囲気で、フレッシュな感じが和巳には少々眩しかった。

 御堂が立ち去ろうとして、ふとカウンターの神姫たちへ視線を向けた。

 

「この子たちは、篠山さんの神姫たちですか?」

「まあ、ええ」

 

 ミレイユとルーシィは違うが、それをわざわざ言う必要はない。和巳は特に悩むことなく肯定する。

 

「オールベルンに、アーティル、それにストラーフMk.2か……」

「なにか?」

 

 和巳が問うと、御堂は深い意味はないと弁解する。

 

「気になったんです。F1チャンプの神姫っていうのが。P.O.M.はバトルとは縁遠くて、元々自分のシュメッターリング型から始まってて、バトル向けの神姫っていうのは見たことがない」

「シュメッターリング……また珍しい型をお持ちで」

 

 和巳もあまり聞かない型の名前だった。蝶型シュメッターリングは、アイドルのような性格をした神姫であり、彼もバトルで当たったことはない。

 そう言った意味では、サイフォスなどと似たようなタイプだろう。新しいものに呑み込まれた、比較的旧式の神姫だ。

 

「今日は会社に置いてきたけどね。しかしここを見て改めて、シノヤマを諦める気は無くなりました。今度はフーディエと来ますよ、では」

 

 軽く頭を下げ、御堂は店を去る。

 工房の横にある駐車場に車を停めていたのだろう、シルバーの高級セダンが店の前で一度停車し、車内から御堂がもう一度頭を下げる。

 車が走り去ると、三奈が落ち着きを失った。

 

「ど、どうするんですか!? うち、あのP.O.M.の問屋になるんですか!?」

「今さら業務形態は変えられないさ。ただ、確実に在庫は捌けるけどな……」

 

 工房シノヤマが支持される理由のひとつに、直販であるというものがある。

 どんなマスターであれ、店の人間に気楽に相談出来るのは良いものだ。しかも店主は元F1チャンプ、世間話がてらにバトルの師事を仰ぎに来るマスターも居ないわけではない。

 問屋扱いされる理由もいまいちだった。リテーラーならまだしも、である。

 

「要するに、ここの商品をそのP.O.M.が繋げている小売業者のところで売りませんか、ということかしら」

 

 腕を組みつつ、ミレイユが簡単な推測を立てた。

 

「それって……P.O.M.と一緒に店に在庫を出すってことですか?」

 

 ルーシィは在庫表をチェックしつつ、ミレイユへ返した。

 ただ、ミレイユにも分からないことが多かった。

 

「問屋ということはその先があるんだろう。小売業者に在庫を売れれば、売り上げは上がるな」

 

 ラフィカが出した結論は合理的だった。確かに彼女の言う通り、直販で在庫を余らせるくらいならばP.O.Mについて、小売業者に余った在庫を売るようにすれば資金も潤う。

 ただ、それでは工房シノヤマである意味もない。

 

「少し調べてみるか。ノーを突きつけるのは、その後でも良いだろ」

 

 和巳にはP.O.Mという会社に聞き覚えがなかった。

 

「P.O.Mですよね? 確か、うちのモニカに着けてるアクセサリーとかを扱ってる会社がそこなんです。だから、正直ビックリしてるんですよ」

 

 反対に三奈は知っているらしく、首を捻りつつ御堂の登場には困惑を隠せないでいた。

 

「有名なの?」

「まあ、それなりには……かな?」

 

 的を得ない三奈の返し。試しに軽く神姫ネットで単語検索に掛けてみるが、それなりのスレッドがヒットした。

 良いとする評価に反して、悪いとする評価もある。情報操作があると断定するには、難しい評判だ。

 

「……直販の店舗があるな。今度見に行ってみるよ」

 

 スレッドにはP.O.M.直販の店がある住所が記されていて、それは車を走らせればそう遠くはない場所だった。

 都心まで出れば目立って見える事だろう。綺麗な外観のビルに、可愛らしい字体で会社名が記されている写真もある。

 

「……店長、おかげでちょっと戻ってきたかな?」

「かもな。これから客も来るだろうし、あたしも新しい服を準備するか」

 

 ラフィカに耳打ちした三奈。少なくとも、カウンターの椅子に座る和巳は上の空でなくなっていた。

 ラフィカもバックへ引っ込むと、試作品の衣装に着替える為に準備を始める。

 

「久しぶりに店らしくなってきたわね」

 

 ミレイユもどこか満足げに呟く。カウンターのゴミをルーシィと掃除しながら、彼女は広い店内を見渡した。

 人影が店に近寄ってくる。神姫を肩に乗せる姿から、マスターであることは想像に難しくなかった。

 

「和巳、お客様よ」

 

 ミレイユは小声で注意を促すと、和巳は慌てて意識を店内へ向ける。

 ドアベルと共に入ってきたマスターへ、綺麗に揃った挨拶がされた。




いかんな、知識不足が出てきました。
卸だ小売だって調べながらにらめっこしていたら、今度は文章がおろそかになるという悪循環……!

取り敢えず武装神姫Rはよ!(はやい)

今回は名前だけシュメッターリングが出てきました。
後にちゃんと出ますよ。
次回はゆっくり書いていきますので、気長にお待ちくださいませ。
では、次回もよろしくお願いいたします!
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