武装神姫-ようこそ、神姫工房へ!-   作:鞍月しめじ

16 / 23
第十五話『予感-Connection-』

 三奈が和巳に啖呵を切って、一週間が空いた。

 工房は引き続き開けられていたし、ミレイユとルーシィもちゃんと仕事をしている。

 和巳とラフィカだけが、ただ行方知れずになったのだ。

 

「ありがとうございましたー!」

 

 来客も去り、三奈は声を張って背中を見送る。

 店長不在を誤魔化し続けてきたが、そろそろ難しい頃合いになってきた。何しろミレイユがスペアキーを持ってこなければ、自宅に帰れなくなるほどに和巳との連絡が取れないのだ。

 工房シノヤマの価値は、元F1チャンプである篠山和巳がいるからこそでもあった。神姫マスター憧れの存在に、気軽に会える場所。それが、この店なのだ。

 

 

「全く」

 

 深いため息と共に、三奈は誰もいない休憩室を眺める。

 客足は止んだだろう。少し休憩しようとテーブルの前に腰を下ろし、テレビをつける。

 いつもは惰性でニュース番組かバラエティー番組を観て時間を潰していた。今回はニュース番組にしようとリモコンで選局する。

 

『先日より激化する、自動車によるストリートレース。以前は活発でなく、違法行為も落ち着いた印象がありましたが、何があったんでしょう?』

 

 ニュースキャスターがコメンテーターへ問い掛ける。三奈にとっては知らない世界の話でしかない。

 こういった輩はいずれ警察に捕まって、人生をフイにするのだ。彼女も深く考えはしなかった。

 

『約一年半から二年前に、走り屋たちを湧かせた、ポルシェという車がありまして。それが再び走り出した……そういう噂がですね――』

 

 コメンテーターの言葉を聞いたミレイユが、まるでOSフリーズを起こしたかのように硬直する。

 テレビへ真っ直ぐに目を向け、離れない。三奈にはそんなミレイユの異状が気になった。

 

「ミィ、なにか知ってるの?」

「凄く驚いています……」

 

 ルーシィも整頓を終えて休憩室へやってきた。

 三奈の問いに、ミレイユは答えない。彼女に答えることは出来ない。

 

「ごめんなさい。でも、少し行くところが出来ました。話はその後で」

 

 ルーシィ、モニカ、そして三奈の制止を振り切りミレイユは工房を飛び出した。

 物事の流れからして、違法レースに何か関係があるのか。一時店を閉め、ミレイユを追おうと三奈は考えたが、生憎の来客。

 それも、やってきたのは工房を自身の問屋にしようと提案する、P.O.Mの御堂だった。

 

 □

 

 ミレイユは走る。小さな体躯を活かし、建物の隙間を抜け、人の波を潜る。

 目的地は一つだった。ミレイユと和巳だけが知る、一棟の倉庫。その倉庫の中身こそが和巳の過去であり、そしてラフィカ復活の鍵なのだ。

 

(……でも、本当にそうかしら)

 

 走りながらミレイユは思考する。ラフィカ復活について知りたがっているのは葉月だけ。

 ストラーフ狩りは倉庫の中身でどうにか出来るものではなく。では、何故彼は姿を消したのか?

 バッテリーの損耗率が想定を超えている。だが知ったものか。ミレイユだけが知っているのだ、和巳の行く先を。

 

「着いたッ!」

 

 地面に足を滑らせながら、ミレイユは倉庫のシャッター前で停止する。ボディに張り付く泥汚れが、道のりの粗さを見せつけるようだ。

 膝に手をつき、加熱する機関部を冷ます。人間で言えば、呼吸を整えるルーティーンである。

 神姫にとっては巨大な城塞のごときシャッターは閉じられ、中をうかがい知る事はできない。

 

「何か無いかしら……」

 

 今は彼が()()()()()()()()()が重要だ。ミレイユは周囲を見渡し、倉庫へ入る術を探す。

 意外にもそれはシャッターそのものに見つかった。神姫でも通れるか否か、というような隙間を残してシャッターは完全に閉められてはいなかった。

 

(行ってみましょう)

 

 最悪、頭が入れば中を見ることが出来る。

 中身さえ確認出来れば良いのだ。入っていく必要はない。

 ミレイユは腹這いでシャッターの下へ頭を入れる。暗闇が広がっていたが、幾つか異変があった。シャッターが開いていることの他にである。

 

(オイルの匂い。微かに排気の匂いも染み付いているわね。和巳、やっぱり動かしたんだわ)

 

 シャッターから頭を引き抜き、汚れた髪を手で払う。疑念が確信に変わった。和巳を探しに行かなければと、ミレイユが立ち上がった時だった。

 

「やっぱり、彼がポルシェの持ち主だったのか」

 

 ミレイユの前へアーンヴァル型の神姫、アトラが立ちはだかる。驚いて見上げた先に居たのは、神宮司だった。

 

「神宮司さん……何のつもりでしょう?」

 

 アトラまで従えて、神宮司が現れた。散歩の筈がない。ミレイユが警戒と共に問う。

 

「和巳を貴方が追うつもりですか?」

 

 神宮司はその問いに笑いで答える。

 

「はっはっは! そんなつもりはないさ、俺には関係……無くはないがね。君に話を訊きたいんだ、答えてくれないか? “レースシグナルGPS”のオールベルン、ミレイユ」

 

 唐突に神宮司から突き付けられた単語に、ミレイユはまるで人形そのもののように硬直した。

 思考を回す。神宮司も警察の人間だ、過去を話せば自分のマスターを失うかもしれない。それに、話せる権限も一部しかない。

 だが、和巳を捜す手掛かりも助けもまた、神宮司しかいない。三奈を頼れない今、動けるのは彼しかいないのだ。

 声を漏らしつつ、ミレイユは警戒を解いた。

 

「私が話せるのは、和巳がポルシェに乗る理由と一部の事情だけです。それから、こちらからも条件が」

「なんだ?」

「今日の夜十時、埠頭へ私を連れていくこと。それがこちらの条件です」

「よし。いいだろう、交渉成立だ。車へ乗ってくれ、少し寒いからな」

 

 神宮司とアトラに連れられ、ミレイユは彼らに従った。

 事態を前に進めるため、ミレイユは閉ざしていた記憶を語る用意をする。

 

 □

 

「結論から言って、私は篠山和巳と正式な購入手続き及びマスター登録を行った神姫ではありません」

 

 神宮司の車の車内、ダッシュボードの上に正座しミレイユは語る。

 

「私は二年ほど前、ラフィカを救う手段を持つハッカーを捜すためレースに現れた彼に、別な人間から譲渡された神姫です」

「つまり、君は別な人間の神姫だと」

 

 神宮司の言葉に、ミレイユは静かに否定する。

 

「いいえ、厳密に言えば違います。あのときの私は起動直後で、マスター登録が途中でした。その最中に、彼へ手渡されたの」

「ふむ。君のことは何となく分かったが、レースに神姫が必要な理由は? 本題に行く前に、そこを訊きたい」

 

 神宮司の問い掛けに、ミレイユは彼と視線を結びつつ答える。

 

「神姫を利用したレース管理システムにより、遥か昔では暴走しがちなレース展開を高度に制御できるようにしたの」

「神姫によるルート案内機能の拡張……のようなものでしょうか?」

 

 アトラの言葉に、ミレイユはおおむね同意する。

 

「ええ。それ以外にも様々な役割を果たしたわ」

「うーむ。カーナビの拡張だというのは分かった。君と彼の関係も。今は本来の関係と変わらないことも、ヴァルハラで知っているからな」

 

 ただ、と神宮司は続ける。

 

「ただ、ラフィカは復活したんだろうに。何故また走る?」

「ルーシィについては?」

 

 ミレイユの返した問いに、神宮司は多少は、と答える。

 彼も神姫マスターだ。少なからず、アカウントは持っている。公的機関の人間でアナログ人間な神宮司は滅多に触らないが、捨てられたアーティル型の情報はアトラを伝に聞いていた。

 

「ラフィカとルーシィのメモリーブランクはよく似ています。それから、ヴァルハラで得た情報も」

「なにかあったのか?」

 

 まだ確定ではないと前置いて、ミレイユは語った。

 

「ヴァルハラで得た情報から、ルーシィもアンダーグラウンドレースに関係のある人間をマスターに持っていると彼は考えたのかと」

「それがどういう訳か捨てられて、彼のところにいる?」

「恐らく」

 

 ミレイユが頷く。それ以上の話は、彼女には出来なかった。ここからは人間が解き明かす番だ。

 ただ最後に一つ、神宮司からミレイユへ問いを投げた。

 

「ストラーフ狩り、違法改造神姫、違法レースの神姫……関係は?」

 

 ミレイユは暫し顎に手を当て、思考するような仕草を見せる。十秒ほど思考したか。神姫にしては長い空白の後、彼女は答えた。

 

「違法レースの切っ掛けが違法改造神姫で、ルーシィや私――違法レースの神姫はそのルートに居たモノ。ただ、ストラーフ狩りについては私にも分からないわね……」

「そうか。なら、ここからは人間の出番だな。違法レースは毎度同じ場所で起きてる、警察が駆け付ける頃には消えてるがね。埠頭へ夜十時にいけば、当たれるのか?」

「ええ。集まり始めるのがその時間帯、走り始めは日を跨ぐ頃になるわ」

 

 よし。神宮司は頷いて車を発進させた。まずは時間を潰さなければ。

 待ち伏せをしてはレース自体が無くなってしまう可能性もある。

 車を走らせながら、神宮司はミレイユへまた一つ問い掛ける。

 

「どうしてルーシィにあたるのに、彼は走らなきゃならないんだ? 相手が分かってるなら、直接行けばいいだろう」

「あの場にいる人間は皆、相手が相手を信用していないわ。彼は自分で走って信用を集め、ルーシィの情報を流布しつつマスターに会うつもりでしょう」

「難儀だね。まあ、それが人間か。出会ってすぐ信用出来ないのは、地下レースも公務員だって変わりゃしない」

 

 片手でステアリングを操りつつ、アンニュイに神宮司は語った。

 その姿に、ミレイユはラフィカを目覚めさせようと夜な夜な走る和巳を重ねる。

 彼は違う。和巳はラフィカのために、睡眠時間さえ削った。彼はアンニュイではない、体力の限界までラフィカのために身を削ったのだ。

 

(……ルーシィの為とはいえ、また同じことにならなければいいけれど)

 

 ミレイユは車中で揺られながら、どこにいるか分からない和巳へと想う。




だいぶ拗れていますが、二章からはちゃんと軌道修正します。
大丈夫、大丈夫!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。