武装神姫-ようこそ、神姫工房へ!-   作:鞍月しめじ

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本来の目的である単話になります。
極力気をつけてはいますが、お暇な時に『神姫バトル追憶編』を読んでいただけると、各キャラクターへの造詣が深まると思います。


『隠した本音』

 神姫工房『シノヤマ』では、様々な神姫用衣装を扱う。全てお手製、店主である篠山和巳の神姫によるイメージ付けもバッチリ。

 デザイン監修や発案には唯一の店員である古谷三奈が関わることで、カッコいい衣装も可愛い衣装も、綺麗な衣装も幅広く揃っている。

 それが、路地の一角という寂しい場所に店を構えながら客が切れない数少ない利点の一つ。

 

 店内にある時計は開店から二時間経過し、正午を過ぎている。

 

「古谷さん、先に昼飯行ってきなよ。店番やってるから」

「あ、はい。じゃあ、すみませんけどお先に」

 

 三奈の肩でアーンヴァルMk.2型のモニカが和巳とその神姫たちへ礼儀正しく頭を下げ、バックヤードの休憩室へ消えていく。

 

「何をしましょう……? お昼だとなかなかお客さんは来ませんね」

 

 和巳の神姫、アーティル型のルーシィは悩ましげに語る。

 彼女は正式なマスター登録を経ておらず、実質的なバイト神姫だ。マスター不在により、居候である。

 

「全く、ひと悶着明けたらコレだ。あたしにはやはり、戦場が似合う」

 

 陳列棚の上で腕を組みごちるのは、ストラーフMk.2ラヴィーナのラフィカ。様々な問題を乗り越え、その末に彼女は店を手伝っている。

 新作のドレスを身に纏いながら、ラフィカは揺れる裾を邪魔そうに手で払いつついる。

 

「ん……? 噂をすれば、お客様よ。皆、姿勢を正して」

 

 和巳の神姫、オールベルン型のミレイユが来客を察知して待ち構える。

 ミレイユの言葉を受け、和巳たちも崩していた姿勢を整えた。彼女の役割は専ら、そういった作法の先導だ。

 

「よし、居ねぇな……」

 

 背後を気にするように入ってきたのは金髪の女だった。地毛のようには見えなかった、恐らくは脱色か。

 何より、服装からして一般人らしさがなかった。ジャージにスリッパ、あまり服装に気を遣っているようではなさそうだ。

 そして、その目付きは吊り目で鋭い。

 

「おい、ここ神姫の服屋だよな?」

 

 女は問う。少々強圧的で、ルーシィが怯んでしまっている。

 

「そうですけど……何か御入り用ですか?」

 

 和巳が代表して訊ねると、客の女は少々居心地悪そうに周囲を見渡す。

 神姫の服屋、として工房を探してきたのなら間違いは無いだろうが、どうも彼女のやけに周囲を気にする動きが気にかかった。

 

「えっと……神姫用の服を捜してんだよ。あれだ、その……そこの神姫が着てるようなフリフリなヤツ」

 

 下を向いて、女は直視しないままにラフィカを指差した。

 

「あぁ……。もしかしてお客さん、いわゆる“姉御”だったりします?」

「テメェ、何処でそれを!?」

 

 和巳が問うと、“姉御”が吼えた。

 

「いや、よくある話じゃないですか? 本当は可愛いものが好きだけど、色々立場があって表に出せなくなっちゃった──みたいなの」

「うぐっ!」

 

 姉御は返す言葉に詰まってしまったようだった。

 

「でも、それでもシノヤマからすれば大事なお客さんです。神姫は一緒ですか?」

「今こっちに向かってる。アタシにゃ似合わねぇ神姫で、舎弟どもにゃ見せらんねぇからな……」

『そうなのだ。あたしは秘密のきゃんわいい神姫なのだ!』

 

 ふと、姉御と和巳の会話に脱力感のある声が割り込んだ。

 

「すあま! 追い付いたか!」

「もう、捜すの大変だったのだー!」

 

 陳列棚を使って姉御の肩に飛び乗る神姫。その姿を見たミレイユが戦慄く。

 

「ま、マオチャオ……ね。ルーシィ、ちょっと代わって貰えるかしら?」

「え? あ、はい!」

 

 冷や汗と共に引き下がるミレイユ。すあま、と呼ばれたマオチャオ型神姫は不思議そうにその姿を眺めている。

 

「どうしてバレたくないんだ。立場と言っていたけど、飾った地位は長く続かないぞ」

「分かってるよ……。でも、こえーんだ。とにかく! なんか見積もってくれ! 出来るんだろ?」

 

 ラフィカの言葉も、姉御には届いていないようだった。

 

「ラフィカが着ているタイプの衣装は在庫切らしてますね……。それから、可愛い系といっても幾つもあるし、一度方向性を決めてからもう一回来てくれませんか? この手の服装は在庫が捌けやすいから、取り置きを幾つか作っておきます」

 

 和巳が言うと、姉御はあからさまに落ち込んだようだった。

 

「わかった、また来る。用意しておいてくれよ!」

「はい。一週間後ほど経ってから、また来て頂ければと」

 

 姉御とすあまは、和巳の言葉に頷くと店を後にする。

 ドアベルの音がむなしく店内に響き渡った。

 

「た、助かったわ……」

 

 胸を撫で下ろすミレイユ。すあまを見てから、彼女の様子はどこか変だった。

 

「それにしても、すあまか……。和菓子食べたくなるな」

「もう! 和巳さん、ふざけちゃ駄目ですよ! あの方は助けを求めてるんですから!」

 

 カウンターの上に着地したルーシィは腰に手を当て、和巳を叱責する。

 悪かったよ、と和巳。問題はここからだ。

 

「どうするんですー? アレじゃあ、あの子、ずっとすあまちゃんを隠していく事になりますよ? それ、良くないと思うんです」

 

 昼食を終えたのか、休憩室から三奈が戻ってきて語る。

 一理ある。和巳も同意だった。

 神姫とは家族であり、相棒であり、時にそれを超えた存在になりうる。そんな神姫を、舎弟に示しがつかないという理由で秘匿するのは良いものではない。

 あのマスターも辛いだろうが、それに付き合うすあまも辛いだろう。

 

「んー……。とはいっても、うちは単なる神姫の服屋だしな」

 

 和巳が頭を捻るが、やはり余計なことはしないに限る。店としてやるべきことをやるだけで良いのではないか、とすら思えていた。

 

「身辺を探るという訳ではありませんが、もしかしたら神姫ネットに書き込みがあるかもしれませんよ?」

 

 モニカが提案するが、何しろ特別なことはされていない普通のマオチャオ型神姫だ。捜すのは難しいように思えた。

 それでも、ルーシィが神姫ネットのブログ記事から『マオチャオ』、『すあま』という限られたワードを検索し、そして彼女は見つけた。

 

「ありました! これじゃないですか?」

 

 ルーシィの掲げるホログラムスクリーンを、神姫たちは食い入るように眺める。

 

「何々……。『今日はうちのすあまちゃんと、有名なスイーツ店にやってきました! 甘くて幸せ~っ! すあまちゃんが食べられないのは残念……。でも楽しんでくれたからおっけー!』……か」

 

 ラフィカが読み上げたのは、そんなブログ記事の一文だ。

 添付された写真には幸せそうに笑うすあまの姿と、チョコレートケーキが映されている。

 

「絵文字がたくさん……。本当にさっきのマスターなのかしら……? 失礼だけれど、文体からは想像出来ないわね……」

 

 折れんばかりに首をかしげつつミレイユ。しかし、それはその場の総意でもあった。

 

「うーん、手がかりらしい手がかりはありませんね……」

 

 モニカも画面を眺めつつ、顎に手を当てて思案する。

 

「仕方ない。店を閉めたら、ゲーセン狙ってみるか」

「和巳さん、神姫バトルしたいだけじゃないですか?」

 

 三奈の鋭い指摘に、和巳は言葉を飲み込んだ。反論など出てきはしない。

 それでも、神姫の情報にありつくならゲームセンターは有力だ。無駄であるとすることも出来ない。

 

「あ……昼飯まだだ。ごめん古谷さん、店番交替!」

 

 追及を逃れるように、和巳はバックヤードに引っ込んだ。呆れたように三奈も腰に手を当て、ため息を吐く。

 その後はいつも通り、常連含めて様々な客がやってきた。あいにくと“姉御”とすあまについて、知っているマスターは居なかったが。

 やってくる客の相手をして、夜六時。工房は閉める時間だ。

 

「和巳さん、ちゃんとすあまちゃんの事を調べてきてくださいよ?」

 

 店のシャッターを閉めて別れようとしたとき、三奈がそう声を掛ける。

 

「わかってるわかってる。ちゃんとやってみるって」

 

 すっかり暗くなった路地。街灯だけが頼りの道を、和巳は駐車場へ向けて歩いた。

 車のセキュリティを解除し、乗り込む。ラフィカ、ミレイユ、ルーシィの三体は後付けのドリンクホルダーに腰掛けて、身体を支えた。

 車を走らせ、やってきたのはいつものゲームセンターだ。顔馴染みも多く、居心地が良い。

 

「さ、てと。どうするかな……」

 

 来てみたはいいが、ノープランだったのは否定できない。

 ただ、すあまの神姫ネットブログはそれなりの盛り上がりだった。このゲームセンターにも、ブログを読んでいる人間の一人くらいは居るだろう。

 何人か当たって、知っていると話すマスターに出会った。

 曰く『毎日がキラキラしてそうで、きっと綺麗なマスターなんだろう』とのこと。姉御が正体を隠したがる理由が分かった気がしないでもなかった。

 

「おい、そこのオマエッ」

 

 不意に、何者かが強い口調で和巳を呼んだ。

 振り返ると、不良と言えそうな少女が和巳へ睨みを利かせている。

 

「何か用か?」

 

 だが和巳も怯みはしない。ラフィカを除いた神姫たちは穏便に済ませるように和巳へ説得するが、これは目を逸らした方の負けだ。

 

「それ以上、すあまについて嗅ぎ回るんじゃないよ」

「何か理由があるのか?」

「理由? そりゃあるよ。けどね、おにーさん。話してやる理由は無いよ」

 

 和巳の中で、数少ないパズルのピースが填まろうとしている。だが、少女は話す気も無さそうだ。

 

「なら、神姫バトルして俺が勝ったら話をする。それでどうだ?」

「上等だ」

 

 和巳には少女がマスターであるとの見込みがあった。いや、確信か。

 隠してはいたようだが、白髪の神姫が見えている。

 

「ラフィカ。アーク型が相手だ。行けるか?」

「……ストラダーレか。珍しいバリエントだが、変わりはないな。あたしの出番か」

 

 不良少女対篠山和巳。工房はこの辺りのゲームセンターで神姫バトルをしているマスターなら、一度は耳にしたか来店した者ばかり。加えて和巳とラフィカは元F1チャンプ。注目が集まらない訳がなかった。

 

「どうするカズミ。最初から飛ばすか、様子を見るか」

 

 ライドオンは完了している。武装プリセットの決定まで残り五秒。

 

「……いつも通り行こう。こっちは刀一本だ」

 

 残り一秒を残し、プリセットを決定。マップのロード開始と共にラフィカの手に刀が握られる。

 正対するのは白を基調に黒とツートーンカラーのアーク型神姫。鮮烈な赤をモチーフカラーとするアーク型の中では、クールで異色と言えるかもしれない。

 

「さて、始めるぞ」

 

 刀の鯉口を切り、アーク型神姫の出方を窺うラフィカ。

 トライクモードで突撃してくる神姫を左サイドスウェイでひらりとかわし、神速とも言える抜刀で背中を斬りつける。

 しかし一撃があまりにも軽い。神姫にも大したダメージにはなっていないようだ。

 トライクモードを解除し、神姫はナイフを手にインファイトを挑んでくる。アーク型のナイフは小振りで、ラフィカの刀で相手をするには少々分が悪い。しかし、そこはラフィカ。鞘との二振りで攻撃を捌くと、腰を落としての強烈な横一閃を見舞う。

 弾き飛ばされた神姫は苦痛に悶え、瞬く間にノックアウトとなった。

 

「これで話す気になったか?」

 

 刀を鞘に仕舞いながら、ラフィカはアークの向こうにいるマスターへ向けて問いかける。

 

「クソッ! スフレ、ダイジョブかよ!?」

 

 マップのロードが終了し、神姫が筐体から帰ってくる。

 少女が叫んだ名称に、和巳もラフィカもクエスチョンマークを浮かべる。

 

「スフレ?」

 

 恐らく、アーク型神姫の名だろう。今日はやけに菓子との縁がある。

 しかしそれは後。すあまについて触れるな、というマスターを問いただすのが先だ。

 

「で、アンタはすあまとどういう関係なんだ?」

 

 マスターへ和巳が問うと、相手は少々迷い気味に俯いて、それから静かに答えた。

 

「すあまのマスタ──―ミハルさんは、アタシらのカシラなんだよ」

「……何となく、そんな気はしてたけど。まさかドンピシャか。てことは、ミハルってあのマスターが神姫を隠してるのも、アンタはとっくに知ってたわけか」

 

 和巳の言葉に、マスターは頷く。

 

「アタシだけじゃねぇ、あの人に付いてく皆が知ってる」

 

 ミハルというあのマスターの心配は、やはりというか杞憂だったのだ。

 

「全く……。君たちも君たちだ。分かってるなら、ちゃんと伝えてやれ」

「そうもいかねぇ。ミハルさんがこまっちまう」

「今も困ってる。なら、神姫たちも皆で笑えた方がいいだろ?」

 

 うぐ、とマスターが言葉を飲み込む。

 

「一週間後、うちの店にもう一度二人が来る予定だ。もし今の関係性を変えたいなら、工房シノヤマに来てくれ」

 

 マスターの少女に名刺を手渡し、和巳はラフィカたちと共にゲームセンターを立ち去る。

 本当に、今日は菓子の名前に縁がある。和巳の舌も甘味を求めていた。

 

「うーん……すあま食べたいな。明日和菓子屋見てみるか」

 

 車を運転しながら、和巳は甘味に思いを馳せる。

 

 □

 

 一週間後。ミハルとすあまが工房に現れた。ゲームセンターで和巳と対戦した、舎弟マスターたちに引き連れられ、困惑の色を見せながら。

 

「いらっしゃい。すれ違いは解けました?」

 

 和巳がミハルへ問うと、鋭い視線がミハルから向けられる。だが敵意ではない。ふて腐れて、悪態をつくような雰囲気だ。

 

「やっぱりアンタがウチのに入れ知恵しやがったのか。……でも、久々にスッキリした気ィしたよ。服はあんのか?」

「幾つか在庫を増やしました。ご希望に沿いそうなのも幾つかは。ミレイユ、ルーシィ、引っ張り出してくれ」

 

 和巳の一声で、神姫たちが動き始める。カウンターに並べられる衣服に、すあまも目を輝かせていた。

 

「すんごいのだ! マスター、マスター! あたし、たまにはかぁっこいいのも着てみたいのだ!」

「か、カッコいいヤツ? 選んでみなよ」

 

 並べられた神姫用衣服から、すあまは自分の思うままに手に取っていった。

 そうして選んだのは、デニム生地のパンツにオフショルダートップス。薄目の生地だが、肩紐が黒のタンクトップ風になっており、少々ワイルドに仕上がる。

 そして仕上げに、すあまはカモフラージュ柄のキャップを頭に被った。

 彼女が今求めたのは、かわいい系ではなくカッコいい系のワイルドな衣装だった。

 

「ほ、本当にいいのかよ、すあま? まさか、コイツらの前だからって……」

「違うのだ。たまにはきゃんわいいあたしじゃなくて、ワイルドで、でも何処かせくすぃーな格好もしてみたいと思ったのだ! なーんにも、洗濯……忖度無しなのだ!」

 

 腰に手を当てて、すあまはミハルを見上げた。得意気に。

 

「そっか。……店長さん、今すあまが選んだの貰うよ」

 

 全ての肩の荷が下りたように、ミハルは優しい目ですあまを見つめる。

 それは、商品を手渡すまで変わらなかった。

 

「あ、店長さん。ウチ、和菓子屋やってるんだ。くにえだ、って店だ。宜しく頼むよ」

「なら近々、お菓子の方のすあまを買いに行くよ。──くにえだって、俺が和菓子良く買いに行くとこじゃないか」

「だから、アタシはここにたどり着いたんだ。じゃあな、店長さん」

 

 嬉しそうに袋に詰められた服を抱えてミハルの肩で身体を揺らすすあまと舎弟たちを連れて、ミハルは店から去っていった。

 

「お買い上げありがとうございます──っと」

 

 ひとつ、大事件が終わった。そんな脱力感で、和巳はカウンターの前に置いたパイプ椅子に腰掛けた。

 

「くにえださん所の娘だったとはな。あそこの和菓子美味いんだ、今度は古谷さんの分も買ってくるかな」

 

 静かな時間が流れる工房シノヤマ。次の客が来るには、まだ時間が開きそうだった。




タイトル詐欺から約一年。
長かったなぁ……。やっと工房シノヤマも本格始動です。
是非『神姫バトル追憶編』共々、宜しくお願い致します!
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