武装神姫-ようこそ、神姫工房へ!-   作:鞍月しめじ

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第十九話『集う強者達』

 工房シノヤマは店主の復帰とあって噂が噂を呼び、大盛況だ。

 いよいよ店の外にまで客が溢れてしまうほど。今まではなんとか店の中に収まったが、今度はそうも行かなくなってしまった。

 

「こちらが商品になります。ありがとうございました! お待ちのお客様、こちらへどうぞ!」

 

 主に接客を担当するオールベルン型のミレイユもあちらこちらにと休む暇も無い。

 客を一組送り出せば、また次がやってくる。ラフィカは在庫衣装のモデルとして、陳列棚の上でポーズを取るだけ。しかし、それがまた大変だ。何しろ、服装の趣向に沿わない下手な動きは出来ない。バトル寄りの性格であるストラーフMk.2、その更に好戦的な味付けがされた彼女にはなおさら苦痛だ。

 ルーシィも在庫倉庫から次々に商品を引っ張り出すために、足を休める暇がない。

 

「……」

 

 慌ただしい店内。その片隅で、黒いアーンヴァルはまるで人目を避けるように佇んでいた。

 黒いアーンヴァル――モニカの変色は、結局戻ることはなかった。いったい何をされれば素体のカラーリングが変わってしまうのかすら不明のまま、彼女は人目に触れないように過ごしていた。

 

「黒いアーンヴァルだ……」

 

 勿論、それを人間たちは彼女を見つけてひそひそと囁く。

 きっと気味が悪いと言われるに違いない。モニカは身を縮こまらせて、ただ反応を待っていた。

 

「黒いアーンヴァルなんて、一体どこで見つけたんですか!?」

「おわ、本当だ……。そういえば、フロントラインが発表してた『テンペスタ』ってヤツかな?」

 

 モニカの想像とは違った反応。珍しそうに彼女を見つめるマスターたちを見上げ、それからカウンター向こうの三奈と和巳を見遣る。

 彼らからは、心配ないと言いたげな視線が返された。

 それでもモニカは戸惑う。好奇の視線を、素直に受け止められない。

 

「あたしも、最初はそんな目で見られてたよ」

「ラフィカさん……?」

 

 モニカが気付くと、傍らにはラフィカが立っていた。モニカと同じく、ベースモデルの反転カラーとされたストラーフMk.2ラヴィーナ。その彼女が、同じく反転カラーとなってしまったモニカへ語る。

 

「でも、それでもあたしたちは神姫だ。人間の肌の色に違いがあって、それでも同じ人間であるように」

「……よくわかりません。けど、もう少し悩んでみます」

 

 モニカは頷き、そしてラフィカを真っ直ぐに見つめた。

 その表情からは、少なくとも戸惑いは消えている。時間が解決する事もあるだろう。今は千影のプログラムが、不具合を起こさないことを祈るばかりだ。

 

 それから店は閉店間近になるにつれ、客の数は減っていった。和巳たちの話題も、いよいよP.O.M.への突撃を考えるものになっていく。

 いつまでも御堂を野放しにはしておけない。和巳とラフィカを狙うために、無関係のマスターや神姫が被害に遭うのを黙って見過ごすわけにはいかない。

 サイフォスの件もある。彼女と戦うならば、御堂を倒した後だろう。和巳たちからしても、避けては通れない相手だ。

 

「取り敢えず、千日さんはまず確定かな」

 

 和巳がスマートフォンを確認すると、千日からのメッセージが一件。攻撃を開始するならば、自分も噛ませろといった内容だ。千日はP.O.M.突入メンバーに入ることになる。

 残るメンバーは和巳のみか。彼には神姫が三体いるが、千影の話に誇張が無いのならもう少しメンバーが欲しい。装備も用意したいところだ。

 三奈を連れていく判断は、正直しかねていた。実力は間違いなくあるが、あれだけの事件に遭ったあとに連れていくべきではない。

 当人は付いて行く気のようだが、和巳は彼女に断る事が出来ずにいた。

 

「おっと、店仕舞いだったかな」

 

 ドアベルと共に入ってきたのは、くたびれたコートを羽織った男と少女。それから、もう一人青年が後に続いていた。

 

「三船さん?」

 

 その青年の顔には、和巳も見覚えがあった。

 メイド杯でミレイユと戦った、三船結斗。彼が店にやってきたのだ。

 

「水くさいぞ。もう一度バトルするって話だろ? その前に障害があるなら排除する。手伝わせてくれ」

「でも……」

「正直、知り合いのストラーフも巻き込まれてるんだ。その仇討ちをしたかったんだけど、この店の入口で神宮司さんから話を聞いた。俺も行く。イヴもやる気だ」

 

 三船の肩の上で、ツガル型の神姫であるイヴは得意気に拳を突き出している。メイド杯ではないため、通常の素体モードだ。

 

「警察として、俺も放っておく訳には行かなくてね。それから、装備や整備面で協力を取り付けておいた。羽鳥小夜だ」

 

 三船の前に入ってきた神宮司が、傍らの少女を指し示す。小夜と呼ばれた少女は、少々不機嫌そうにではあるが、自己紹介と共に小さく頭を下げる。

 

「装備か……。と、言っても何をしたらいいかな」

 

 和巳が頭を悩ませる。別に大会に出ようと言うわけではないのだから、あるだけ用意出来れば良い。しかし、大量の武装を持たせることは出来ない。神姫にも限度はある。

 

「私が出来るとしたら、主に最終的な整備と調整くらいかな。それから、プロトタイプ武装の話」

 

 小夜の話に、和巳の興味が強く引かれた。プロトタイプというくらいだ、情報の一つくらいは気になるというもの。

 店から声が聴こえなくなった。どうやら、店に来た人間や神姫の思いも同じようだった。

 ラフィカは手早くドアの札をクローズドにひっくり返し、ブラインドを下ろした。これで秘匿性は保たれる。

 

「警部から聞いたんだけど、篠山さんは車が好きなのよね? だったら、エネルギー回生システムってわかる?」

 

 思わぬアプローチに、和巳は目を丸くした。まさか車を使って話を切り出してくるとは、彼には思わなかったのだ。

 

「熱や運動エネルギーを、パワーに変えるシステムだ。車に限った話じゃないハズだけど、それが?」

「そのエネルギーを貯めて、一気に放出する武器があるって噂。防いだり、ダメージを与えたりした時に発生する熱、振動を蓄えて何かを駆動するんだと思う」

「つまり、一発逆転も夢じゃないのか」

 

 威力のほどは定かではないが、小夜の言う通りの武装ならばどんな形態であれ強力なカウンター武器になりうる。

 問題は、その武器の在りかだった。

 

「武器の在りかは、P.O.M.本社。だから、最悪は戦闘中に捜すことになるわ」

「P.O.M.製の武器か?」

「うん。だから、無理はしちゃダメ。プロトタイプだから、何が起きるかは分からないし」

 

 悩ましい話だった。和巳も顎に手を当て唸る。

 恐らく御堂は攻め入ってくることなど、とっくに予期しているだろう。戦闘は避けられない。御堂を捕らえるために、マスターたちは神姫と別行動になる。

 いくら仲間を集めても多勢に無勢な上、更なる劣勢を強いられる状況で噂程度の武器にすがる余裕があるかどうか。それが問題だった。

 

「小夜さんの話は魅力的だが、あまり頼らない方がいいかもな。寄り道すればするだけ、余分にダメージを受けるリスクも上がるだろ?」

 

 三船が語る。ダメージを受けずに侵入出来るとは、もはや誰も思っていない。立案者の和巳もそうだった。

 ならば、神姫たちにさせられるのはサイフォスへの道のりを如何にローリスクで立ち回るかだ。そうなると、プロトタイプ武装捜索はあまりにもリスクが高い。

 

「そうだな……。よし、あればラッキーくらいに考えよう。じゃあ、メンバーはこのくらい――」

『誰か忘れてはいませんか?』

 

 メンバーを決めようとした刹那だった。ドアの外から、和巳にとって聞き覚えのある声がした。

 クローズドを掲げるドアも無視して、一人の少女が乱入した。その姿に、三船が目を丸くする。

 

「F1チャンプの……竹姫葉月!?」

「初めまして、三船さん。メイド杯での戦いは見ていました、戦力的には充分です」

 

 葉月は軽く神宮司たちにも会釈をすると、カウンターの向こうにいる和巳に向かって身を乗り出した。

 

「私も行きます。いざとなれば、絶対に役に立てると約束します」

 

 普段なら葉月の頼みも、嘆息と共に受け流す。だが、今回は渡りに船だった。

 

「頼む。葉月の力も借りれるなら、皆も心強い筈だからな」

 

 和巳がメンバーを見渡すと、同意と取れる反応が返ってきている。

 問題は、三奈だった。

 

「三奈さん。貴方は神姫バトル初心者だ、次の戦いはあまりに難しい。今回は――」

「行きます」

 

 ついてこないように促すよりも早く、三奈はそれを否定する。付いていくと、頑としていた。

 

「もう一人になんてなりたくない。貴方をもう一度、シノヤマに連れて帰るために私も戦います」

 

 鋭く、戦意を感じさせる鋭い目付き。真っ直ぐに和巳を射抜く視線は、決意を示すには充分だった。

 モニカも、カウンターの上で頷いた。チートにより上昇していた戦闘能力は失われたが、彼女はアーンヴァル型神姫。そもそもの性能は折り紙付きだ。

 

「オッケー。なら、明日は店を閉める。個人理由による臨時休業は次が最後だ。モニカの戦闘経験を積むためにゲームセンターに行って、その後はウチで千日さんたちも交えて作戦会議だ。足並みを揃えていこう」

 

 和巳の言葉に、全員が頷いた。御堂捕縛、およびストラーフ狩り主犯であろうサイフォスの撃破。その作戦が、間も無く始まろうとしている。

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