P.O.M.本社への突入を近日に控えた和巳。
彼とその協力者たちは和巳の自宅へ集合し、作戦の細部を詰めていく。今度は藤堂姉弟も一緒だ。
「狭いな……」
ラフィカが嘆く。
何しろ変哲もないワンルームアパートに想定外の人数が詰め込まれているのだから、どれだけ片付けても意味はない。
今までそれなりに満足していた自宅は、神姫のサイズでさえ窮屈さを感じるほどの場所に変わり果ててしまっている。
「今日、予定通りゲームセンターで古谷さんとモニカの訓練を行いましたが、彼女も素養はあります。メイド杯での戦いもありますから、しっかりしたバックアップと彼女自身混乱しないこと……これを意識すれば、問題はありません」
まずはゲームセンターでの成果報告。まず、葉月は二人をそう評した。
本来戦闘技能とは、一朝一夕で身に付くものではない。だが、今回ばかりは付け焼き刃の戦闘技能でも必要になる局面だ。
そして何より、現F1チャンピオンがそう評価したのだ。和巳も話を聞いて、問題無さげに頷く。三奈は安堵したような嘆息を漏らした。
「配置はどうするんだ?」
神宮司がガラス製のテーブルをノックしつつ訊ねる。
配置は重要だ。誰が敵の気を引き、誰が先へ進むのか――それを間違えるだけで作戦全てが破綻しかねない。
幸いにして、今回のケースでは和巳の神姫だけは奥に進めるという共通認識がある。サイフォスを討つのは和巳――そして、ラフィカたちの為すべき事だ。
問題は本社の内部が分からない事だったが、千影がタブレットをテーブルに置いた。画面には本社内部の図面が描かれている。神姫用の通用口まで記されていたから、ほぼ完全版だろう。
「失礼だが千影さん、こんなものを何処で?」
神宮司がいぶかしんだ。関係者でもなければ出てこないような代物だ、無理もない。
まさか内通者が入り込んでいないか、と警戒するのも無理はない。千影は突然現れた存在ゆえ、尚更だった。
「P.O.M.の関係者数人、お酒の席に誘ったの。酔い潰れたうちの一人が、このデータを持ってた。大丈夫、飲酒運転はしてないわよ?」
「ま、姉貴はこういうヤツだ。信頼出来る筋かはともかく、何もないよりはマシじゃないか?」
千日に言われ、全員がマップに目を向ける。神姫たちも例外ではなかった。
「私たちは通用口で別れ、マスターたちは御堂を探す。手はこれしかないようだな」
千日の神姫、リーメスはタブレットを見下ろし腕を組む。
果たしてどれだけの兵力があるのか。もしかすると、一切敵は居ないかもしれない。楽観的に考えるなら、その可能性もゼロではない。
「図面に関しては信じてもいいんじゃないかな。手は無いし……。問題は、その作戦をいつやる気なの? ってことだけど」
小夜が問うと、和巳は少々頭を抱えた。
これだけの人数が動くには、少々怪しすぎる。
昼に入ったとすれば、大混乱は免れないだろう。P.O.M.にいるのは御堂だけではない、事情を知らないまま働く一般社員や神姫も居る筈。
夜ならば混乱を減らせるだろうが、御堂がいる保証がない。サイフォスもP.O.M.にいる保証はなく、夜とあって警備は増えるだろう。
「御堂とサイフォスが何処にいるか分かればな……」
ここまでやってきて、初歩の初歩で和巳は音を上げた。
「なら、御堂がP.O.M.を使ってストラーフ狩りや違法改造神姫に手を出した証拠を集めればいい。本人がいれば御の字で、居なくても証拠が手に入れば御堂は終わらせられるじゃない?」
千影の提案は彼女らしいともいえた。
スパイめいた活動なら彼女なのだろう。彼女の語る証拠がもっとも集まる場所もまた、今回の目的であるP.O.M.本社なのだ。
御堂への私的制裁など、和巳は考えていない。モニカと三奈に手を出した分、一発殴れればいい程度だ。
「これは個人的な考えなんだがな。例のサイフォス……恐らくラフィカを待ち構えている筈だ。御堂を使って探し求めたラフィカが自分からやってくるのに、隠れる理由は無いんじゃないか?」
神宮司の考えが、少なからず光を照らす。
ラフィカを探してストラーフを狩っていたのが例のサイフォスならば、確かに悲願の相手が自らのテリトリーにやってくるのを見過ごす筈がない。
ある程度の推論が交じるとはいえ、すがるには充分な意見だった。
『その通りだ。私はお前を待っている、ラフィカ』
「……!? タブレットが!」
千影がタブレットの画面に触れるが、操作を一切受け付けない。
通話画面が開いているが、相手は不明。しかし、ラフィカにはわかった。
「サイフォス……!」
「えっ!?」
三奈が驚愕の声を漏らす。和巳たちの挫折の象徴とも言える存在が、タブレットを隔てた向こう側にいる。
葉月も警戒しているのか、声を出さないようにしつつも画面から目を逸らさない。
『私が破壊したと思っていたお前が生きている。また戦える。これ以上の楽しみなどあるまい』
「違法改造の癖に、言うじゃないか」
通話の相手はラフィカが務める。
『いくらチェッカーに引っ掛からないとはいえ、それはお前も変わらない。……明日深夜、P.O.M.の本社で待つ。私も敵に充分な準備をさせてやるほど甘くはないからな。仲間と共に上ってこい。相応しい場所で待っている』
サイフォスとおぼしき声はそれだけを告げて、一方的に終話する。どれだけ呼び掛けようと、既に応答は無かった。
しかし、これで分かったこともある。
「やっぱり向こうには筒抜けらしいな。なら、乗ってやらない訳にはいかない。サイフォスが指定した明日深夜、P.O.M.本社へ突入する。小夜さん、神姫のメンテナンスを頼んでもいいかな」
最早引き伸ばす理由も、話し合う意味もない。サイフォス自ら指定してきたのなら、それに乗ってやるまでだ。
和巳が小夜へ頼むと、彼女は頷いてツールケースを取り出した。神姫用の強化パーツ、交換パーツが一式収まった立派なものだ。
狭くなったワンルームアパートにも馴染んできたところで、最終決戦に向けた小夜による最終調整が始まる。
「和巳さん、少し良いですか」
神姫が小夜の前に行列を作る中で、葉月が和巳に声を掛けた。
彼女は和巳を外へ連れ出すと、玄関のドアを閉めて、そこへ背中を預ける。
「あなたとラフィカを倒すのはサイフォスでも、ましてや御堂でもありません。私とアルテミスです。その為に、私は全力であなたをサポートするつもりです」
「あぁ。助かるよ、葉月。ヤツを倒した後、俺がF大会に復帰するかは正直なところ分からない。店もあるからな。けど、相応の舞台でいつか戦おう」
和巳と葉月は互いに見つめ合い、それから手を交わす。
この戦いが無事に終わった暁には、いつかアルテミスとの決着も着けよう。これもまた、避けては通れない道のようだった。
和巳からすれば小さな葉月の手。だが彼女とアルテミスの実力はそんな物も関係無しだ。サイフォスを倒し、そして二人を倒す。その為に、明日は全力を尽くして戦う。
二人は頷き、部屋へと戻っていく。作戦開始まで、時間はさほど残されていない。
いよいよ最終決戦です。
タイトル詐欺ともそろそろお別れが出来る筈……!
次回もお楽しみに!