武装神姫-ようこそ、神姫工房へ!-   作:鞍月しめじ

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第三話『メイド杯、開催!』

 メイド杯当日。店を閉めておくことにはなったものの、神姫センターの盛り上がりを見た和己はそれでも問題ないと判断するに至った。

 広いはずのセンターは週末であることも相まって人でごった返し、見回せども知り合いである葉月と三奈は見当たりそうになかった。これでは集客は見込めない。

 

「広いな」

 

 大会出場の権利の無いラフィカが無関心そうに述べる。バトルに参加できないとあっては、彼女も露骨に不機嫌さを見せる。

 

「そうね、人もすごいけれど……」

 

 ミレイユの視線は人混みより上。和己の頭の上から、大型モニターに映し出されたトーナメント表を見つめていた。

 

「8ブロックあるのね。この人混みだと、参加者は少ない方かしら」

「まあ見たいだけのヤツが多いだろうさ。神姫用服って、そんな安いもんでもないしな」

 

 トーナメント表には少なくとも16名の参加者がいる。しかし、センターに集まった人数はそれを遥かに上回っているように感じられる。

 一歩動くにも譲り合いだ。受け付けに行くにも一苦労。

 

「ところで和己?」

 

 頭の上でバランスを取っていたミレイユはそこから飛び降り、肩に着地。合図で和己に腕を伸ばさせると、手のひらまで駆けて自身を見せつけた。

 ひらりと舞う綺麗なエプロンドレス。ロングスカートからは素体の脚は見えない。清楚な雰囲気に白と黒の服。そこへ金色の長髪というアクセントが加わり、より強くゴシックな印象を与える。

 

「似合うかしら?」

「言うまでもないって。うちの服だからな、しっかり頼むぞ」

 

 否定すれば自らの商売と自慢の神姫さえ否定してしまうし、そんなことをする意味さえもなかった。

 もっとも、ラフィカは気に入らないようだったが。

 

 結局、葉月にも三奈にも会うことはなかった。会ったところで、メイド杯に出る以上はライバルになる。余計なボロを出すよりマシと考える程度には、まだ和己にも神姫バトルの心得が残っている。

 受け付けを終え、レギュレーションチェックにより違法改造や今回のルール適合チェックを終えると、神姫たちは『クローズドパーク』と呼ばれる控え室にマスターと共に送られる。

 レギュレーションチェック後に武装変更やプログラム変更を行えないよう、控え室は大会開始まで厳重にチェックされる。監視カメラ、スタッフの定期巡回は勿論、電子機器も使用は制限される。

 唯一使用が出来る電子機器といえば緊急充電用のクレイドルだが、これもスタッフに声をかけた上での利用であり、必要が無いと判断されれば使用は出来ない。

 公式大会でもほぼ同様のルールが適用される、まさに厳重厳正の決まりである。

 メイド杯は現在主流の『ライドオン』形式ではないため、参加者とその神姫による作戦会議が重要で、一度クローズドパークに入ればそれくらいしかやることはない。

 

「名前を見た限りだと、古谷さん方は別ブロックだな」

 

 配られるルールブックは入場前こそ電子媒体だが、クローズドパーク入場後は電子機器利用制限から紙媒体が利用される。

 今の時代にはあまり触れることの無くなったものだが、読み込んでおくことに越したことはない。メインホールの上がりきったボルテージはクローズドパークまで伝わってくる。

 和己の出番は後半のFブロック。前半Bブロックに葉月の出番があり、その直後のCブロックには三奈の出番だ。葉月の実力はともかく、三奈は完全に未知数だった。

 ただ、葉月も三奈も順調に上がれば準決勝で両者がぶつかることになる。

 

「今は他者より自身の心配じゃない?」

「いや、ルールは大体頭に入った。問題ない」

 

 ぱたん、とルールブックを閉じて、和己は唯一自由使用可能であるテレビモニターの電源を入れる。

 自由に使えるとはいっても、テレビが映し出すのはバトルの中継のみだ。偵察は重要であり、戦術に影響を与える。

 Aブロックではゼルノグラード型と飛鳥型がバトル中だ。

 

「飛鳥型に洋服は意外だな」

 

 ゼルノグラードはピストル主体で戦うが、飛鳥型は短刀によるインファイトを見せている。

 目の付け所が少しずれているのは、和己の職業病ともいえるものだ。

 お互いがお互い、主人に見立てたパネルを守りつつ攻撃を仕掛ける。しかし、そこに普段の闘争心を全開で出してはいけない。

 バトルには優雅さと格好良さが同時に求められていて、均整を取ることが難しい。

 審査員形式を取る数少ないレギュレーションカップでもあり、三人いる審査員がそれぞれの価値観で参加者にポイントを付ける。

 

「いいなぁ、ゼルノグラード型の戦い方」

「あなたは拳銃が好きなだけじゃないかしら?」

 

 ゼルノグラード型がスカートを靡かせれば、自作らしいホルスターが腿からちらりと覗く。少々フィクションチックではあるが、決まりを守るのではそもそもバトルをメイドが行う時点で間違っているので野暮になる。

 審査員もそこは気にしないようだ。

 

「フィールドは色々あるんだな。ま、あたしは出られないわけだが?」

 

 ラフィカがふてくされつつもモニターを眺めている。

 フィールドはホログラムではなく、神姫用対衝撃ガラスを利用したジオラマだ。つまり、存在するものは全て実在している。

 出場者は互いに6000の『主人ポイント』を持つが、これが大会中回復することはなく、全て持ち越しになる。

 

「飛び道具はやっぱり難しいか」

 

 ゼルノグラード型の射撃がジオラマの小物を破壊する度、ポイントは減点されていく。

 射撃やスローイングダガーは審査員からの評価は高い傾向にある上、遠距離から『主人』を狙えるものの対象を外した際は備品に攻撃が当たりやすい。

 備品を破壊した際の減点は些細だが、なにぶん物が多く、油断すると勝利しても後の戦闘が不利になりかねない。

 

「飛鳥型は慣れているわね……。まだ武器に手をつけないわ」

 

 互いに小さな武器のみ。これは大会参加者がほぼ共通で抱く認識だが、フィールドには武器もある。『主人』の持つ備品になる上、利用した場合はペナルティとして2000ポイントが固定で減点される。

 持ち点は6000ポイントだから、一戦ごとに武器を取り出すと準決勝で不戦敗となる計算だ。ただし、小型の武器とは比較にならない西洋剣や槍、ライフル等といった、勝負を逆転させるような大型武器のため、あえて減点されても狙う手段は有りだといえた。

 

 ルールは『レギュレーションカップ』と言えるだけのきつい縛りと、厳しい目がある。しかし、代償を払えば一気に逆転も狙える自由度は用意されていた。

 Aブロックは比較的接戦ながら、飛鳥型に軍配が上がる。しかし、審査員からのポイントはゼルノグラード型が上回った。

 先へ進むのは飛鳥型だが、『戦うメイド』としての評価はゼルノグラード型が勝った形だった。

 

「次は葉月か」

 

 Bブロック。竹姫葉月がアルテミスと共にステージへ上がる。神姫が纏うエプロンドレスは、工房シノヤマ製。

 最悪和己自身が負けたところで、葉月たちが勝ち上がれば宣伝という本来の目的は達成できる計算だ。もちろん、大会に出る以上は勝利を目指す。それは当然である。

 

「ミレイユ、充電はどうだ」

 

 バトルは始まっているが、和己はAブロックの戦闘以外に深く興味を示さなかった。

 問われるミレイユは目を瞑り、数秒待つ。その間に葉月たちのバトルは葉月優勢で八割方決着が着いている。

 やはり葉月は一回戦に時間をかけるほど甘くはない。ミレイユのバッテリーチェック完了と、Bブロック戦闘終了はほぼ同時だった。

 

「バッテリーは問題ないわ。Bブロックも終わったのね」

「そうらしい。しかしまあ、カズミは全く興味も示さなかったな」

 

 テーブルの上にちょこんと座ってモニターを眺めるラフィカが呟いた。

 あまりにも早い決着を目の当たりにして、それを見もしない自身のマスターに不安感すら抱く。

 

「Cブロックはミナだな。あたしは少々楽しみだ」

 

 ステージに上がる三奈とモニカ。初代をイメージしたショートカットのアーンヴァルMk.2型とあって、少々場の湧き方が変わった。

 

「自信は無いわけでは無いだろうが、なにせマスターだったのも聞いたばかりだ。本当に知るべきは古谷さんだけど……」

 

 戦闘が始まってしまうと、特殊ルールの戦闘というだけあってモニカが苦戦する。

 高威力のランチャーを扱うタイプで、その他もどちらかといえば射撃寄りなアーンヴァルで二振りのナイフを扱う。

 モニカ自身、少々戸惑い気味だった。三奈は冷静に場を見つめているが、咄嗟の指示に遅れが出ている。

 

「押されてるわね……」

「いや、古谷さん――気付いたな」

 

 ミレイユが何かを問いたげに和己を見上げた。彼のその視線の先、モニターの向こうでモニカは『主人』をテーブルの陰に突き飛ばす。

 本来はパネルがテーブルについているため無防備だが、倒してしまえば狙うのは容易ではない。

 そして、『主人』を動かすことを禁止する記述はルールブックのどこにもなかったのだ。マスターである三奈がルールを読み込んだ上で利かせた機転。

『主人』を気にする必要性を減らし、思考と戦闘を最適化する。モニカは三奈の一声で、相手神姫がマスター共々混乱する隙を突いて、手のナイフでパネルを真っ二つに砕いて見せた。

 

「やるな……。カズミ、モニカとのバトルを組んでほしい。是非彼女と――」

「ダメだ。ミレイユ、支度しとこう。休憩を挟んだら、Dブロックが始まる。出番はすぐだ」

「カズミ!」

 

 ラフィカにとって、カズミは話を聞かない存在だった。マスターとして当然尊敬している。他神姫(たにん)に問われれば、間違いなく『自分は幸せだ』と答える自信もあった。

 だが、なぜか彼はバトルを一向に許可しないのだ。いつからだったか思い出せないほどに、ラフィカはもうバトルのステージに立っていなかった。

 

 自身に問うても、和己に訊ねても答えはでない。

 バトルは次々に進み、いよいよ和己とミレイユの出番だった。ラフィカはそのままクローズドパークでモニターにかじりつく。

 ミレイユの実力はラフィカも認めるほど。だが、彼女から見ればまだ足りない。

 今回のレギュレーションカップでそれがどう出るか――ラフィカの中に、ミレイユの敗北を願う何かがいる。『そうすれば自身に出番がくる』と思っている彼女がいる。

 

(最悪だ。マスターとそのパートナーの晴れ舞台に、こんな思考をするなんて。あたしはいったいどうしたんだ)

 

 神姫センターに割れんばかりの喝采が響く。悩むラフィカの聴覚センサーにも、それがよく聴こえた。




戦うメイドって、カッコいいよね。
こんにちは。三話目になりました。

今回は独自解釈ありつつ、そこそこルールを考えたメイド杯です。
この話ではルールに触れた話になってるので、珍しく地の文量がいい感じに……。

三話目は裏話無しです。
オールベルンさんをお迎えできたので、やっと神姫工房の看板娘が揃いました! やったね!

第四話からいよいよバトルになります。
頑張って描写するぞ……! 次回も是非、よろしくお願いいたします!
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