武装神姫-ようこそ、神姫工房へ!-   作:鞍月しめじ

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第四話『煌めく剣閃』

 ステージ上で歓声を浴びながら、和己はミレイユをフィールドへ下ろす。

 神姫にとって広大な空間。ミレイユから見て、遥か前方に相手神姫が着地した。

 

「そう来たか」

 

 相手の装備、服装を見た和己が呟く。

 相手神姫はツガル型。サンタクロース型と大別される神姫だが、見事にメイドへクラスチェンジされている。

 背中にはツガル型が持つ特徴的な『ホーンスナイパーライフル』が上面で二挺繋げられており、十字架めいたシルエットに変貌。衣装も布というよりは部分的にメカらしくアレンジが加えられている。

 

『メカメイドとは考えましたねぇ』

『武装を合わせるためだそうですよ。これはオールベルンには厳しい……』

 

 審査員たちも口々にツガル型を称賛していた。ルールブックには『伝統的なエプロンドレスベースの衣装でなければいけない』といった記述は無く、いわゆる『オタク文化』としてのフィクションメイドも許されていた。

 ツガル型のマスターが狙ったのは『メカメイド』だろう。本来ならかなり浮く大型ライフルも、そうテーマ付けられれば馴染んでいた。

 

「まさかそんな解釈が……」

 

 ミレイユが少々辟易している。武装による火力差は圧倒的だった。彼女の気持ちも和己はよく理解できているつもりだ。

 

「それを見抜けなかったのは俺の責任だ。ミレイユ、むやみに突っ込むのは無しにしよう。隙を見てライフルを振るえない距離を掴む」

 

 カウントダウンが始まっていた。観客が10から数字を叫んでいる。

 和己は冷静だった。ミレイユへ指示を出し、場を見つめる。残り5秒。

 

「パネルを移動、その後は向こうが使うライフルに物品破壊を狙わせる。武装、仕込みはすべて使うんだ。出し惜しみ無しでいく」

 

 バトルスタート。ブザーが会場中に響き、歓声はより大きく場を包み込んだ。

 最初に動いたのはツガル。パネル移動は先のバトルにて三奈が披露していたし、何より同じことを考えるのが一人ではないと思うのは当然。

 ミレイユがパネルを動かしてしまう前に、その勝負を決めてしまおうと思うのも納得だった。緑色のツインテールを揺らし、稲妻のように駆けて袖から仕込みナイフを取り出すと、ミレイユへ斬りかかった。

 

「……くっ!」

 

 パネルを動かす前に、ミレイユは回避を余儀なくされる。歯噛みしつつ上体を仰け反り、ナイフの軌跡から逃れる。刃が鼻先を掠めた。

 勢いで靡いたスカートを払い、腿に固定したホルスターからミレイユはピストルを取り出すとその体勢から銃口を神姫へと向ける。

 

「おっと!」

 

 スカート自体も短い分、動きやすいのだろう。ツガルの動きはとても機敏だった。

 あっという間に距離を取られ、発砲も間に合わない。

 

「あなたのマスターのこと、こっちのマスターから聞いてるよ」

 

 ツガルが不意に語り掛けてきた。ミレイユは抜いたピストルを構えたまま、その話へ耳を傾ける。

 

「F1チャンプになったマスターが二人も出てる。でも、あなたは私の思ったほど早くはないね」

「どういう意味かしら?」

 

 引き金に掛けた指に力を込めながら、ミレイユは相手を問いを投げる。

 ツガルは不敵に笑うと言い放つ。

 

「私の楽勝ってこと!」

 

 スナイパーライフルを引き抜いたツガル。上面で連結されていたそれを分離し、二挺に替えて構えた。

 

「くっ……まずい!」

 

 決着を察知したミレイユは近くの主人パネル底面に足を引っ掛け、パネルを倒す。その際も、単なるパネルであるかは関係なく頭部になる部分を庇いつつ、ゆっくりと床へ寝かせた。

 刹那、精密な射撃がミレイユの隠れたテーブルを撃ち抜いた。

 

「……!」

 

 目を丸くするミレイユ。宙を舞うテーブルの向こうから、ツガルの不敵な笑みが見えた。

 

「次は外さないよ」

 

 □

 

 クローズドパークでその戦闘を眺めていたラフィカはかぶり振って呆れを見せている。

 

「終わったな」

 

 モニターに背を向け、自身を見つめる監視カメラを見つめ返した。

 もうすぐ戦闘は終わる。恐らく和己とミレイユの負けで。ラフィカに残された戦闘経験が、少なくとも彼女にそう計算させる。

 

「全てが遅い。あたしが出れば、一回戦落ちなど惨めな結果……マスターには出させなかった」

 

 ツガルと対峙してから、ミレイユには小さな諦めと慎重さが見えていた。それから驚愕。

 自分を下だと理解してしまえば、慎重にならざるを得ない。

 

(あたしがあの場にいれば、まず近寄った。脅威はスナイパーライフルだ。あれをどうにかしないと、こっちも攻められないからな)

 

 ラフィカはしばし硬直。それからすぐに頭を振って、余計な考えを吹き飛ばす。

 

「ああもう! だからあたしが出れば良かったんだ!」

 

 愚痴を言っても仕方がない。不甲斐ないマスターがもうすぐ戻ってくるだろう。ラフィカはそう考えて、慰めの言葉を用意しようと頭を回転させる。

 こういう時の言葉回しは、恐らく姉妹型であるアーンヴァル型の方が上手いのだろう。ラフィカの脳裏を、モニカとアルテミス――2体のアーンヴァル型がよぎる。

 

『おっと! ここで設置武器だ! 一回戦で出るなど、誰が予想したか!?』

 

 会場の実況が叫ぶ。はっとして点きっぱなしのモニターへ振り返ると、ラフィカの推理に反して戦闘はまだ終わっていなかった。

 

「ルールは知っている筈だろう……!? ミレイユッ!」

 

 ラフィカの叫びは、当然ミレイユには届かない。

 それどころか限界を振りきった会場の歓声に掻き消され、神姫の声など巡回スタッフさえ気にも留めなかった。

 

 □

 

 打ち抜かれる直前にミレイユは近くの壁面に設置されていた、観賞用と設定のされる武器ラックのガラスを拳で割っていた。

 ライフルの照準が戸惑いからか、またそれていた。ミレイユの足元に着弾し、撃破も主人パネル破壊ともならない。

 

「私が馬鹿だった。そうね、慎重になりすぎていたのかしら」

「なんなのよ……アンタ!? 正気なの!? 2000ポイントも一回戦で使うなんて!」

 

 あまりの悪手。戦闘に勝利することをマスターから宣言されているとすれば、その間の行動は神姫任せ。

 実際、和己も『出し惜しみはしない』とミレイユに語った。

 マスターを破滅させかねない行動に、ライバルの立場にありながらツガルは叫んでいた。

 

「ありがとう、ツガル型の神姫。私はやっと再自覚できたの」

 

 ミレイユが掲げるのは両刃の西洋剣。神姫にはちょうど良いサイズだが、それでも大振りだ。

 オールベルン型の特徴的な青い瞳が、真っ直ぐにツガルを射抜く。

 

「私は気高きオールベルン。F1チャンプの、相棒ッ!」

 

 ご主人様、とミレイユが続ける。

 

「ご主人様……少々お待ちを。汚れは掃除致します」

 

 ミレイユの決め台詞めいた言葉の流れに、メイド杯が湧く。

 

『ヤンデレ!? ヤンデレメイドか!?』

『マスターはやべーヤツだ! あんな台詞をリアルで言わせるか!? マジ最高!』

 

 観客の声がまばらに聴こえてくる。

 ミレイユが駆けた。ライフルを構えるツガルより早く、彼女はその剣を振り抜ける距離へ飛び込む。

 

「私が近距離にも対応してきたのは知ってるハズ……!」

 

 キックで距離を取り、ツガルは再びその距離を置いた。観客の声を彼女は否定する。

 

(違う。あの気迫は仕込みじゃない。私が追い込んだ瞬間から、あのオールベルンは何かが変わったっ!)

 

 ツガルの前方で剣が風を切った。

 素早い身のこなしで剣を構えるミレイユ。青い瞳に射抜かれ、ツガルは再びライフルを持ち上げた。

 

「最速で……」

 

 ミレイユの姿が視認できない。いや、神姫のセンサーによるロックオンから外れた。

 ツガルの思考も警告を流している。早く敵を探せと。

 

「最短で――!」

「この機動……この性能――F2で経験した……」

 

 ツガルの視界に、ミレイユが飛び込もうとしていた。全てがミレイユの前には遅かった。

 

レールアクション(RA)だ……!」

「一直線にッ!」

 

 剣閃が走る。ミレイユは既に剣を振り終え、自分の手先のように振り回してから地面へ突き立てる。

 

「……ありがとうございました、ツガル型の神姫」

 

 スカートの端をつまみ、頭を下げるミレイユ。またもポイントはミレイユに寄った。

 ツガルは既にダウンしていた。無論、破壊される訳もなくブザーと共に立ち上がる。

 

「……アンタ、やるじゃない。私のホーンスナイパーライフル、曲がっちゃった」

「いえ、あなたが私を追い込めなければ――二回戦で負けていたわ。こちらのマスターには言い訳出来なくなったけれど」

 

 フィールド上からミレイユは和己を振り返る。彼の表情は晴れやかで、微塵も彼女を責める気は感じさせなかった。

 

「折角だから、名前を教えさせて。私はイヴ――ツガル型にしては、ありがちでしょ?」

「良い名前だわ。私はミレイユ――あなたへの礼は、優勝で返すわ」

「頼んだわよ? Bブロックのチャンプとかならともかく、他の連中に負けたら容赦しないからね」

 

 握手を交わす神姫たち。マスター同士も、ステージ上で手を交わしていた。

 

「三船結斗だ。またアンタと戦わせてくれ」

「その内な。服に用があれば、店に来てくれよ。元々宣伝だからな」

 

 神姫たちを回収した三船と和己。肩に相棒を載せ、二人はステージを下りる。

 

『いやぁ、これはメイド杯で無ければ最高の激アツ試合かもしれないですよ』

『しかし、両者少々優雅さには欠けたかな……。オールベルン側もとってつけたみたいだったし』

『いや、僕はオールベルンを推すよ。ああいうメイドは大好きだからね!』

 

 審査員のコメントと共に、採点される。

 メイドとしての振る舞いは僅かにイヴが上だったらしい。審査員特別ポイントを含め、ようやくミレイユが並ぶくらいだ。

 和己のポイントはマイナス2000され、残り4000。少々厳しい戦いを迫られるが、一回戦は突破出来た。

 

「和己」

 

 クローズドパークへの通路でミレイユはふと和己を呼んだ。

 

「どうした?」

「……ごめんなさい。ポイントを無闇に使ったこと、本当に――」

「いや、あのままだと三船の神姫にやられてた。仮に突破出来ても、今よりキツかったかもしれない。実力誇示にもなっただろ、二回戦の敵は少なからず警戒するさ」

 

 謝罪を述べようとするミレイユの頭を、和己は軽く指で撫でてやる。

 彼は笑っていた。むしろどこか、バトルを楽しむような雰囲気にすらなっていた。

 

「久し振りに熱くなってきた。やれることをやろう、ミレイユ」

「ええ。ラフィカにもいい加減認められたいし、全力を尽くす姿勢に変わりはないわ」

 

 Gブロックの戦闘は始まっていた。歓声を背に、一人と一体は自身に割り当てられた部屋へ入っていった。




バトルパート、お疲れ様でした。
私の小説だと描写苦手マンなせいで比較的短い戦闘描写に、まるまる一話を使ったのは久し振りかもしれません。

オールベルンのボイスユニットネタには気付きましたか?(
ホンマに声優ってスゴいと思います。

第四話、ミニ裏話はそれこそボイスユニットネタです。
気付いた方がいれば、恐らく仲間だッ!(過去にはそっちの二次も書いていた)

そして第五話をお楽しみに。
次回もよろしくお願いいたします!
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