武装神姫-ようこそ、神姫工房へ!-   作:鞍月しめじ

6 / 23
第五話『捨て猫』

 一回戦が全て完了し、時計は正午を指そうとしている。

 フィールドの点検、出場神姫の充電とメンテナンスを含めた昼食休憩が実施され、和己は近くのコンビニエンスストアで買ったおにぎりを食べつつ、暇をもて余していた。

 ミレイユは充電中。無駄なバッテリーを消費しないよう、人間で言うところの仮眠状態だ。話し相手はラフィカしか居ないが、彼女もまた部屋を空けようとしていた。

 

「じゃあカズミ、行ってくる」

「ああ。10分前には戻れ、入れなくなるからな」

 

 ラフィカが散歩に出たいと言ったのが5分前。暫し問答した後、折れたのは和己だった。

 ドアを開放しラフィカを外に出すと、和己は真っ先にスマートフォンの追跡アプリをオンにする。

 

「まだ、それを使っているのね」

 

 ミレイユが充電器(クレイドル)から声をかけてきた。仮眠からは覚めたようだった。

 

「まあな。ある意味、アイツを信用できてない」

「……仕方ないわ」

 

 スマートフォンはそのままに、残ったおにぎりのフィルムをゴミ箱へ捨てる和己。

 大会まで、まだかなりの時間が残されている。

 

 □

 

「ふぅ。全く、大した人ごみだな」

 

 神姫サイズで広大な神姫センターロビーを抜け出すのは簡単ではない。様々なカウンターを歩き、物販ブースに隠れ、人の足をかわす。

 自動ドアが開いた隙を見計らって外に出ると、ラフィカは広い道路を見渡した。

 

「空気がおいしい。……ま、気持ち程度だが」

 

 風に髪を靡かせ、ラフィカはセンターを一周回ろうと建物の間を抜けるルートに入る。神姫でなければ入れそうもない、本当の隙間。

 しかしセンターの喧騒からまるで隔絶されたかのようにそこは薄暗く、ゴミも流れ着いている。だがまだ通行が可能な程度の汚れだった。

 

「職業神姫辺りが掃除でもしていたか? ……いや、それにしては妙に綺麗だ」

 

 広大な建物の路地だ、神姫にとっては長い長い一本道になる。

 そこをただただ目的も無く練り歩く。ふと、彼女の目の前に妙な山が見えた。

 ちぎれた段ボール片が乗っている。その下には、ビニール袋が何かを包むように存在していた。

 

「ん? あれは、まさか……」

 

 興味本意に近寄って、ラフィカは段ボール片とビニール袋をどける。

 その中にいたモノに、彼女は驚愕し目を丸くする。

 

 

「カズミ!」

 

 クローズドパークにラフィカの声が響き渡る。

 心底焦った様子のラフィカは珍しく、息せき切らせて和己を呼んだ。

 

「どうした? 珍しく焦って――」

「神姫が……。神姫が捨てられているっ!」

 

 ラフィカの宣告に、和己が息を呑んだ。

 それからすぐにスタッフへ連絡を取り、許可を取った上でラフィカ、和己それからセンタースタッフで神姫が捨てられているという建物の隙間を覗く。

 ラフィカが入り込み、奥から引き摺ってきたのは間違いなく神姫。

 

「アーティル型か……ずいぶんボロボロだぞ」

 

 動かない神姫を優しく拾い上げた和己が呟く。

 武装は無く、素体はすっかり傷だらけで汚れもひどい。相当長い間放置されたのか。それにしてはいくつか謎もあった。

 

「ずいぶん奥にいたな?」

「ああ……まあ、あたしには分からないが」

 

 人間に捨てられたにしては、ずいぶんと奥に放置されていたアーティル型。人が捨てたとして、わざわざ神姫センターの真横の隙間などと妙なエリアを選ぶものだろうか。

 しかし、悩んでも仕方ない。素体の状態から見ても再起動するかはかなりの賭けだったが、和己はスタッフに神姫を手渡した。

 

「見てやってください。運が良ければ、マスターを覚えてるかも」

「やってみます。業者を呼んだり少々時間が掛かりますので、篠山様は大会の方へ引き続き参加してください」

 

 神姫を手渡し、和己とラフィカは再びクローズドパークへと戻る。

 

「出ていったと思ったら捨て神姫を見つけるなんて、なかなか無い経験してるな。ラフィカ」

 

 充電中のミレイユに代わって肩に乗るラフィカへ、和己は語りかけた。

 少々ふてくされ気味にラフィカは顔を背ける。誰のせいでこんな風に気持ちがざわめくのか。彼女のマスターはそれを知りもしない。

 少なくとも、ラフィカはそう思っている。

 

「篠山様! すみません、少しよろしいでしょうか!?」

 

 クローズドパークの部屋へ辿り着く直前だった。

 先ほどアーティル型を預けたスタッフが彼らを呼び止める。

 

「どうしました?」

「いえ、少しこちらで検査をしてみたらあのアーティル型が目を覚まして……拾った方――篠山様に、お会いしたいと」

 

 スタッフの言葉を聞いて、和己とラフィカは揃って首をかしげる。

 無事に目が覚めているだけでも奇跡だというのに、それが彼らへ会いたいと言伝てを頼むとは思わなかった。

 幸い、二回戦開始までまだ猶予はかなり残されていて、試しに話をしてみても良いと思ったのは好奇心だったのか。

 それを考えるよりも前に、彼はスタッフと共にバックヤードへ向かっていた。

 

 

 神姫センターのバックヤードなど、なかなか入れるものではない。大会の運営から大規模整備を担うような場所らしく、かなり大袈裟な神姫整備用ツールが並んでいる。

 他にも、物販に出す予定であろう在庫分やまだロビーに出ていないグッズも散見できた。

 

「……目を覚ましたか」

 

 まだアーティル型の表情は虚ろだった。しかし和己の声を聞くと反応し、ぱっちりと瞳を開く。

 

「あなたが……私を見つけてくださった方ですか?」

「正確には、コイツだよ」

 

 和己が指差すより早く、ラフィカは作業台に飛び下りるとアーティル型の神姫へ歩み寄る。

 

「あたしが見つけた。メモリーはどうなんだ?」

「えっと……それが、まだ」

「ラフィカ。まだ充電中だ、無闇に思考させるな」

 

 目を伏せる神姫。詰め寄るラフィカを制し、和己はアーティル型へゆっくり話しかけた。

 

「無理はするなよ。何があったかは、後で考えればいいさ」

「いえ、その……私のマスターは、私を捨てたんだと思います」

 

 神姫の出した答えはあまりにも早計と言えた。まだ充電中で、メモリーがしっかりと稼動を開始しているかすら不明なのだ。

 それで自身が『捨てられた』と結論付けるには早すぎる。

 

「まだ分からないだろ。あんまりそういうことは言うもんじゃ――」

「でも私――!」

 

 神姫はクレイドルから立ち上がらんばかりの勢いで叫ぶ。

 ラフィカに押し戻されながらも、アーティル型の神姫は叫び続けた。

 

「私……最後にマスターに置いていかれた記憶しかないんです。ずっと待ってて……でも、こうなったってことはきっと私、捨てられたんだって」

 

 メモリー空白(ブランク)。ラフィカにも存在している、人間でいう記憶喪失。神姫の場合はデータ破損だが、何らかの形で復元する可能性はまだある。

 しかし、少なくとも拾われた彼女にも破損はあるようだった。スタッフが困り果てたようにうめく。

 

「困りましたね……マスターが不明では、どこにお返しすれば良いか」

 

 もっともだ、と和己はその心中で頷く。

 アーティル型の神姫が目を覚まして、マスターを覚えていれば連絡して、それで終わりでよかった。

 しかし彼女はマスターを覚えていないばかりか、メモリー不良を抱えたまま目を覚ましてしまった。

 いっそ神姫のコアである“CSC”にまでダメージがあれば、再起動処理でメーカーに送り返せたが、彼女の不幸は『中途半端に記憶が残っている』こと。

 

「リセット……いや、もしかしたらマスターが捜してるかも」

 

 腕を組み、和己は悩む。マスターが居ないと断定出来るなら、リセットしてもまだよかった。勿論神姫にも死の恐怖がある。リセットに快く応じはしないだろうし、和己の寝覚めも悪い。

 今回曖昧なのはマスターの有無。愛情あるマスターなら、何年掛かってでも捜すだろう。故に、安易にメーカー送りの決断も出来ない。

 かといって、神姫センターにそのまま置くということも難しい。ここには毎日メンテナンスの神姫がやってくる。一体分塞がれば、回転率も落ちてしまう。

 

「大会に見に来ている可能性はゼロじゃないし……。すいません」

「はい?」

「このアーティルを、会場で放送して大会参加者や観戦者に伝えてください。もしかしたらマスターがいるかも。それでも現れなければ、俺が引き取ります。家から神姫ネットでマスターを探します」

 

 それしか手段はない。もはや神姫が一体増えたところで変わりはない。

 何より、アーティル型の神姫が見せる諦めの表情を、放っておく事が出来ない。

 まずは今日のメイド杯、それでダメなら気長にやるしか方法は無かった。そうでなければ、無理矢理リセットしてメーカー送りか廃棄処分。

 そんな処遇を見過ごせるほど、和己は人でなしではない。

 

「でも……他のマスターの神姫なんて、きっとイヤですよ?」

「こっちだって、タダで養うとは言ってない。もし君の気が済まないなら、うちの店で働いてもらう。給料はうちの部屋を使う宿代に換える。マスターが見つかれば、晴れてさよなら。どうだ?」

「カズミ――!」

 

 悪い癖が出た。ラフィカがアーティルから手を離し、抗議のため立ち上がる。

 なんでもかんでも割り切らないのが彼の悪い癖。工房シノヤマだって、ルーツを辿れば布一枚が勿体無いというところからスタートしている。

 

「ラフィカの負担も減るぞ」

「うっ……」

 

 思わず抗議を呑み込んでしまったラフィカ。現状から少しでも変わるなら、確かに彼女にとってマイナスではない。

 店員神姫が増えれば、モデル状態の彼女も少しは楽になるだろう。しかしそれには、新しい神姫を招き入れねばならない。

 

「いいんですか……?」

「言ったろ、マスターが見つかるまでだ。見つからなかったら――ま、正社員登録かな」

「正社員も何も無いだろう。……カズミ、彼女の名前を訊くのは後にしよう。この会場にマスターがいれば、それも必要なくなる」

 

 和己はラフィカに反論すること無く頷いた。

 

「では、一応警察にも遺失物として連絡はしますが……神姫が目覚めていますし、同意も取れたなら、一時預かりで篠山様の所に行くということで」

「お願いします」

 

 大会の準備を含めれば、そろそろ時間がない。

 和己はアーティルへ軽く手を振り、踵を返した。それをラフィカが追おうとして、クレイドルへ駆け戻る。

 

「あたしは厳しいぞ。マスターが見つかった方が幸せかもな」

「大丈夫です。私がそちらへお邪魔することになったら、根性で乗りきって見せます」

 

 拳を見せるアーティルを見て、ラフィカは表情を緩める。

 だいぶ元気ではないか。あとはこの後次第だ。ラフィカはアーティルの拳を右手で軽く握ると、再びマスターである和己の後を追った。




第五話、お疲れ様です。

なかなかアーティルって創作じゃ見かけないよね。と、個人的には思います。
……フロントラインバイアス掛けすぎかな。
建築破壊用レッキングボールを拳で止めたり、神姫の強度に幾つもの疑問を残す最強神姫です。
スポ魂ってヤツですね。

第五話裏話は、ずばりそこ。
最初はそれこそジールベルンだったんですが、これ以上フロントラインを増やしてもなぁ……と。
そこへ舞い込んだのが中原さん演じるアーティルでした。大好きです。
レナも好きだし、わたしちゃんも好きだし、アザナミさんも好きです。イカれた迫真演技もお姉さんも、ちょっとすっとぼけたようなほんわか女の子も良さがありますね。

じゃあ、結局ジールベルンは?
出番を移しました。どこで出るかは今後の展開をお楽しみに。

第六話、また暫くお待ちください。
次回もよろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。