武装神姫-ようこそ、神姫工房へ!-   作:鞍月しめじ

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第六話『想定外の決着』

 午後プログラムも始まり、二回戦は順調に進んでいった。

 葉月とアルテミスはさも当然のように無傷で突破したものの、三奈とモニカはパネルを守りきれずに敗退。

 和己、ミレイユコンビは一回戦ほどの危なげはなく勝利を収めた。イヴ戦で見せた戦闘から警戒されていて、ポイントを消費しているという油断をも同時に誘った形だ。

 アーティル型神姫については場内アナウンスが再三流れはしたが、マスターの名乗りは出ていない。欲しがるマスターは勿論居たものの、当然受け渡すわけにも行かず、『マスター捜し』は難航している。

 

 二回戦を終え、敗退してしまった三奈はクローズドパークからロビーへ出ることになった。

 三位決定戦はまだ残されていたものの、彼女は『そこまでの結果は求めていない』と辞退。トーナメント表から名前が消えた。

 

「あー! でもせめて、和己さんとは戦ってみたかったかなぁ」

 

 ロビーに戻った三奈は少々口惜しそうに語るが、既に後の祭りだ。前言の撤回を行うにはあまりに遅いし、場が大きすぎた。

 モニカからも『今更だ』と苦情が飛んだ。これには彼女も苦笑いを浮かべるしかない。

 

「ま、まあ過ぎたことは置いておいて……。準決勝終わったら和己さんとお話出来ないかなぁ、ちょっと暇かも……」

「クローズドパークに行くでしょうし、難しいですね。基本的にあの場は立ち入り禁止ですから」

 

 モニカが冷静に返す。三位決定戦を諦めたことは特に気にしていない様子だ。

 彼女は広い神姫センターロビーを、三奈の肩の上から周囲を見渡している。

 

「それにしても、この場で戦っていたなんて少し恥ずかしいです。モニターにも映されるし……」

 

 バトルブースには当然モニターがあり、神姫同士のバトルが最高の臨場感で観客へ提供される。

 現在は準決勝、アルテミスと相手神姫が戦うその映像を眺める二人は揃って恥ずかしそうに頬を染めた。数刻前には、そこで自分達が戦っていたのだ。

 不甲斐ない戦いをして笑い者になっていないか、どうも視線が気になる。

 

「あ……アルテミスさん、やっぱりすごいですね!」

 

 なんとか絞り出したような声で、モニカはモニターを指差しつつ三奈へ話しかける。

 準決勝ともなれば、いくらメイド杯といえどF大会やそうでなくとも公式大会の常連が目につく。簡単に勝たせる相手ではないだろうが、それでもまだ葉月たちが圧倒的なリードを見せている。

 

「F1大会のチャンピオン……なんだっけ? 確かに私じゃ、当たってても秒殺かな」

「少し悔しいですが、そうですね……。経験が足りないかも」

 

 戦闘終了のブザーが響いた。準決勝では二組のバトルが同時に行われているが、葉月たちのバトルが一足先に終了したようだ。

 和己たちは最初こそ圧倒していたが、次第に動きが悪くなっていく。

 

「和己さん……様子おかしくない?」

 

 モニターが切り替わり、ミレイユたちの戦闘と二人のマスターが映し出された。非ライドオン戦闘だが、和己は筐体に手をついて苦しそうに肩を上下させる。

 

「ミレイユさん、気にしてます。戦闘に集中出来てない……」

 

 最初こそダメージなど受けなかったミレイユだが、苦しそうにうめく和己を気にし出してからは今までの強さが嘘であったかのように攻撃を受ける。

 神姫ゆえに、マスターの反応には敏感なのだろう。反撃しながら和己を気遣い、名を呼ぶミレイユが三奈には痛ましくすら映った。

 

 決着のブザーが鳴り響く。ライバル神姫のナイフの切っ先がミレイユをとらえるその直前に、和己がリザインボタンを押していた。

 力無く筐体に寄りかかる姿を見て相手マスターも駆け寄ろうとしたが、彼は軽く手を挙げるとそれを制する。

 とにかく様子が尋常ではない。スタッフたちが駆け寄り、和己を医務室へと連れていく。会場は今までの熱気とは違う、混乱と戸惑いの声に包まれていた。

 

 □

 

「悪い、ミレイユ」

 

 医務室に備え付けのベッドに横たわり、和己は今にも泣き出しそうなミレイユへ語る。

 勝利出来る戦いの筈だった。一回戦ではミレイユが応えてくれた。なのに、よりによってその足を引っ張ったのがマスターである自分自身だとは。

 

「いいの。無理をしてまで優勝しろだなんて、私には考えられない」

 

 静かに首を横に振るミレイユ。

 和己の傍らで柔らかく彼女は微笑んで、その小さな手のひらで彼の額に触れた。

 

「少し熱がある……? 体調が悪かったの?」

 

 センサーで感じた微かな熱の変化に、神姫であるミレイユが勘づかない筈がなかった。

 調子よく振る舞っていたように彼女は思っていたが、それに気付かずマスターが戦っていたのなら問題だ。しかし、和己はそれを否定した。

 

「知恵熱かな。いや、そんなのいいよ。準決勝で突然来たんだ――なんか、急に身体が……」

「無理をしないで。もう大丈夫……ラフィカを呼んで――」

 

 ミレイユが医務室の出入り口へ向かおうとすると、唐突にその扉が開かれた。

 

「和己さん!」

「カズミッ!」

 

 三奈とモニカ、更にクローズドパークにいたラフィカまで彼女の肩に乗ってそこにいた。

 今にも転びそうな勢いで駆け寄った彼女たち。ラフィカはミレイユの横へ飛び込むと、心配そうに辺りをぐるぐると歩き始める。

 

「ど、どうしたんだ? あたしがプレッシャーを掛けすぎたのか? もし何かあるならすぐに言ってくれ、こちらに悪いところがあれば……」

「ラフィカ」

「どうしよう。どうすればいいんだ!? こんなときは……」

「ラフィカー」

 

 ぐるぐると回る思考。考えが全て漏れているとすら思える独り言を和己が止めようとしても、彼女は止まらない。

 

「ラフィカ、ストップ!」

「うわっ!?」

 

 ラフィカの両肩をしっかりと掴み、止めたのはミレイユだった。真っ直ぐにラフィカを見つめると、彼女はゆっくりと言い聞かせる。

 

「貴方がそんなんじゃ意味がないわ。私たちは神姫よ、こういう時に彼を助ける為にいるの」

「それは分かってるさ……でも」

「なぁ、ちょっと良い雰囲気だけどいいか?」

 

 少々申し訳なさそうに苦笑を浮かべ、和己が二人に割り込んだ。

 上半身をベッドから起こし、居たたまれない様子で話す。

 

「もう平気だし、言うほど悪くない。心配してくれてありがとな」

「でもカズミ……」

「いいから。異常無しなんだ、取り敢えずもう少し休んだら医務室から出るぞ」

 

 あまり長く居座る訳にもいかない。心配そうに椅子に座る三奈もほぼ同意見であったようで、彼の言葉に頷いた。

 

「あ、でも何か必要なら買ってきましょうか? 体調を悪くしたことには変わり無いし……」

「いいよ、古谷さんも気にしなくて。それより、あのアーティルがもし来ることになったら忙しくなる。少し考えなきゃな」

 

 拾った記憶喪失のアーティル。既にかなりの回数が放送に流されたが、今のところマスターを名乗り出る人間はいないようだった。

 ハッキリ言ってしまえば、かなり絶望的とも言える。大会が終わるギリギリまで待つ気ではいるものの、彼女がどう思っているのかは分からない。

 

「医務室を出よう」

 

 靴を履きながら和己は皆へ告げた。

 不安は解ききれていないようだったが、彼がそう言うのだから、そうする以外に手段も無い。

 

 

 ふらつく身体を三奈が支えながら、和己は医務室を後にする。ロビーに出ると、ちょうど優勝者が決まったところだった。

 

「葉月か、優勝は」

 

 ステージ上に勝者として称賛を浴びていたのは竹姫葉月その人。

 ステージを横目に、和己は人の少ない一角を目指して歩く。優勝という結果に反して、葉月の表情は芳しくなかった。司会のインタビューにも、不完全燃焼感を感じさせるコメントを返すばかりだ。

 

「まあ、今日はあのアーティルの様子を……」

「篠山さん、でしょうか?」

「はい?」

 

 例のアーティル型。その神姫の様子を見に行こうとしたその時、和己の名を誰かが呼んだ。

 声のした方へ目を向けると、神姫センターオフィシャルのシャツを来た男性が立っている。先ほどのスタッフではないが、同じ立場の人間であると推測するのは簡単だった。

 何やら重苦しい雰囲気を漂わせ、スタッフは口を開く。

 

「よかった。例のアーティル型の件を引き継いだのですが、大会終了で予想以上にメンテナンスの依頼が来まして――」

「これ以上、彼女を置いておけなくなった?」

「はい」

 

 元々限られたスペースを今日一日の話で間借りしただけだ。少しでも予定外が出れば、スペースは足りなくなる。

 和己たちが会場を見る限り、空き筐体を利用した非公式バトルも行われていたから、余計に想定外の依頼が来るのも納得だった。

 

「彼女はなんと?」

 

 アーティル型神姫が目を覚ましているからには、彼女を無理矢理引っ張っていく訳にもいかない。起動直後は『捨てられた』と語った彼女だが、考えも変わっているかも知れなかった。

 

「構わないと。捨てられたと思っているようで……」

「分かりました。じゃあ、預かります。ここに来たマスターなら、神姫ネットにも目を通すはずですし」

「ありがとうございます、よろしくお願いいたします。案内いたしますので、こちらへ」

 

 三奈たちと共にスタッフについていく和己。状況を飲み込めていない彼女に、道中で説明すると「本当なら許せない」と憤りを露にしていた。

 それからすぐに、先ほど見たピンクの神姫がカウンターを歩いてくる。外装は交換されたのか、可能な範囲で綺麗になったようで、汚れもしっかりと落とされている。

 

「本当に今日は諦めるんだな?」

「はい。お世話になります……えっと、篠山さん」

「和己でいいよ。名前は? 神姫ネットにも必要な情報だから」

「ルーシィと言います。少なくとも、メモリーに残っていた名前はそれでした」

 

 ルーシィ。アーティル型神姫はそう自身を名乗った。

 自己紹介もそこそこに、和己が手を差し出すとルーシィはおずおずと遠慮ぎみに手のひらに乗ってくる。まだ会って数時間の他人だ、警戒するのも仕方がない。ルーシィにとってのマスターは別にいるのだから、本来の神姫のルールは通用しない。

 

「まあ、まずは工房にいこうか。大会にはもう用がないし、店開けとこう」

 

 ルーシィのことも神姫ネットに載せなくてはならない。それならば、分かりやすく工房シノヤマの店舗に居た方が幾分か分かりやすいだろう。

 新たにルーシィを一時的とはいえ迎え、和己たちは工房シノヤマへと帰ることにした。




お疲れ様です。しめじです。
第六話、少々とっちらかり気味ですが次からはまた工房のお話になります。

ルーシィは最近引っ張り出したバトルマスターズMk.2で考えてつけました。根性根性テラ根性!

裏話は今回ありません。
第七話まで、暫くお待ちください。
次回もよろしくお願いいたします!
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