武装神姫-ようこそ、神姫工房へ!-   作:鞍月しめじ

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第七話『挫折の証』

 工房シノヤマの店をいつも通りに開けた和己。

 数少なくいつもと異なる事といえば、開店時間が午後になった事と、店員に新たな神姫を迎えた事だろう。

 

「ルーシィ、良いかしら? 開店直後はマスターも忙しくなるから、私から仕事の説明をするわね」

 

 レジを開ける和己の傍ら、カウンターでミレイユはルーシィへ語る。すっかり緊張しきった表情のルーシィは拳を握り締めつつ、勢い良く返事を返す。

 

「は、はいっ! なんでも言ってください!」

「いい返事ね。だけど、ちょっと固くなりすぎかしら……」

 

 まるで今から戦にでも行くかのような緊張感。神姫用服の店としては、場違い感がある。

 しかし緊張感をもって挑むのは悪いことではない。ミレイユもどうしていいか分からず苦笑する。

 

「……こほんっ。これからはまず私に付いて仕事を覚えてもらうから。ラフィカの仕事は、もう少し基本を覚えてからね」

 

 優しい語調。どうやらミレイユは良い先輩神姫であったらしく、ルーシィの緊張も次第に解けていく。

 それからはバックヤードで在庫整理のやり方、物の置き方や報告メモの書き方までミレイユから教わった。

 さすがは神姫というべきか、一度聞いただけで完璧とはいかないながらそつなくはこなすようになっていた。

 

「こんにちは、皆さん」

 

 ドアベルと共に入ってきたのは、大会帰りの葉月だった。和己が壁にかけた時計を見上げるが、終了予定の時刻を過ぎてからさほど経っていない。

 まっすぐに工房にやって来たのだろう。恐らくは、大会を棄権した和己たちを追って。

 幸い客はまだ来ていないし、追い出すようなことを和己はしない。接客の邪魔だけはしないように促すと、葉月は頷いてカウンターへ歩み寄る。

 

「体調を崩したそうですが、もう大丈夫そうですね」

「大丈夫じゃなかったら店開けてないよ。まあ、なんだ……優勝おめでとう」

 

 まだ神姫たちは騒がしく準備に奔走している。

 細かい仕事は神姫頼りで、今日からは新人も加わっている。ぱたぱたと走り回る神姫たちを眺めつつ、葉月は和己へ語りかける。

 

「サイフォス、という神姫をご存知ですか?」

「無視かよ……。初期ごろの神姫だな。今はあまり見ないけど」

 

 葉月が唐突に挙げたのは神姫のタイプ名だった。

 騎士型サイフォス。今ではほとんど見ることはなくなった神姫である。

 忍者型であるフブキ型でさえ珍しいと言われるようになった昨今では尚更。少なくとも、大会などでは和己も見たことはない。

 

「では、違法改造のサイフォスと言葉を変えればどうですか?」

 

 何を探っているのか。彼女の言葉は一つ一つを確かめるようだ。

 そしてそれは、少なからず和己にとって何か引っ掛かったらしい。明らかに顔色を変え、拳を握り締める。

 

「当たりでしょうか?」

「マスター、あまりにやりすぎでは……」

 

 端から見れば年下に問い詰められるいい大人、という空気は良くない。だがアルテミスが止めに入った理由は、そんなに単純な事ではなかった。

 

「私はサイフォスという神姫が何かは知りません。しかし、あなたはその違法改造神姫に負けた――違いますか?」

「話はそれだけか?」

 

 遮るように和己は言う。このままならいつも通りだが、葉月はいつか彼にリベンジを誓った。勝ち逃げされているような今の状況を覆すためなら、少しは無茶をするつもりはある。

 

「逃げるんですか?」

 

 店内の空気が重みを増す。バックヤードに居た三奈も、何があったのかと顔を出していた。

 しかしそれをより重く受け止めるのは、ルーシィと準備中だったミレイユ。時計の秒針が時を刻む音だけが喧しく響く店内で、ミレイユが一歩を踏み出そうとした時だった。

 

「明日だ。明日ゲームセンターで話をしてやるから来い。今日はルーシィの件もあるし、店もある。これ以上邪魔はしないでくれ」

 

 折れたのは和己だった。彼の神姫たちが思わず目を丸くする。葉月は押しきったのだ。

 

「……分かりました。では、また明日。次はちゃんと買い物をしにきます」

 

 和己が嘘をつくとは葉月は考えていない。彼がかたくなに真実を語らなくなって、決して短くはない月日が経過している。

 それまで沈黙を守っていた彼がとうとう、語ると言って折れたのだ。それがその場しのぎだと、葉月には思えなかった。しのぐくらいなら、また彼は会話を切るくらいはするだろうと考えていた。

 ドアベルと共に去っていく葉月を見送り、少々重い空気は流れたままだったが、それもすぐに切り替える。

 宣伝がある程度利いたのか、気付くと店内は少々騒がしく服を見るマスターと神姫で混みあっていた。

 

 

「この服、かわいいなぁ……」

「試着も可能ですよ? いかがですか?」

 

 ミレイユも店員だ。服を見つめるマスターと神姫を見つけると、すぐに駆け寄って試着を勧める。

 神姫用に試着室もあって、扱いは人間用の衣類店と変わらない。

 

「あの、篠山さんですよね? 一回戦みてました! ミレイユちゃんが凄くカッコよくて……」

「あ、あはは……。ありがとうございます」

 

 大会帰りのマスターには、和己にも三奈にも皆が声を掛けていく。その神姫であるミレイユ、モニカへの称賛はそれ以上とすら言えた。

 

「この子が例のアーティルちゃん?」

 

 神姫センターでの放送に合わせ、和己と三奈の活躍もあってかルーシィを知るマスターも多かった。

 まだ神姫ネットには公開していないにもかかわらず、店にやってきたかなりの人数がルーシィを見て訊ねていく。

 しかし、やはりルーシィのマスターと名乗る人物は現れていない。

 

「賑やかですね」

 

 カウンターが空いた時間。マスター同士が情報共有や、互いの神姫を自慢しあう店内を眺めてルーシィはふと呟いた。

 比較的静かめな店内では、客の声がより大きく感じる。

 

「何か思い出しそうか?」

 

 ルーシィが声のした方へ振り向くと、刀を携えたラフィカが立っていた。鞘に仕舞った(コート)を左手に握り締め、腕を組む彼女。

 その佇まいは落ち着いていて、騒がしい店内でも無ければ見入ってしまっても気付かないほど。それではいけないと、ルーシィは頭を振った。

 それからラフィカの問いに答える。

 

「この騒がしさが少し懐かしく感じました。けど、なんだかもっと暗い気がして」

「まあ、何か思い出したらすぐにカズミに言え。彼が預かるんだ、神姫ネットにアップロードする前に情報が増えればマスターも見つけやすくなる」

 

 すっかりモデルの仕事はサボってしまったらしいラフィカ。

 ただルーシィには、唐突にラフィカが刀を持ち出した意味がわからない。白いコートを羽織っただけの非武装の外観に刀一本のみを持って、この店内で何をしようと言うのか。

 彼女がラフィカへ問いを投げるのは当然とも言えた。

 

「あの……ラフィカさんは、どうして武器を?」

 

 投げた問いに、ラフィカは何食わぬ顔で返す。

 

「明日カズミがゲームセンターに行くらしいからな。今のうちにアピールしておかないと、またミレイユに取られる」

 

 少々膨れっ面を見せるラフィカ。あらあら、とルーシィは手を口元に当てる。

 ストラーフMk.2型はストイックな神姫だ。ルーシィにもデータベースとしてそれは登録されていたが、どうやらラフィカが思うのはそれだけではないらしい。

 

「ルゥちゃん、ちょっと休憩室来てー! 神姫ネット用の写真撮るから!」

 

 三奈が物品整理を切り上げてルーシィを呼ぶ。写真撮影は彼女の担当になったらしい。

 素早い反応で返事を返すと、ルーシィは和己とラフィカに見送られてバックヤードに消えていく。

 

「そうか、久しぶりにゲームセンターなんて提案したんだもんな……。たまにはやってみるか、ラフィカ」

「……!」

 

 思いがけない提案に、ラフィカの気持ちが高ぶった。記憶が欠如した彼女には、もはやどれだけ戦っていないか分からない。

 それでも長らくラフィカをバトルの場に出そうとしなかった彼が動いたのだ。

 

「よし、マスター! 今日も精一杯働くぞ。なんのモデルをやればいい? 新作のドレスか?」

「……割りと現金なヤツだよな、お前」

 

 うきうきと動き出したラフィカに、憮然と和己は語る。

 そんなものなどどこ吹く風でミレイユの元へ駆け寄ったラフィカはまさに“疾風”と言えるだろう。

 

 工房はまだ客足も絶えない。店仕舞いにするには、少しだけ早いようだった。




第七話、お疲れ様です。
回を追うごとに短くなってきた気がする……気を付けねば。

今回はサイフォスが名前だけ出てきます。
本当に、フィギュアの団子鼻なんとかなればカッコいい神姫なんですけど……そのせいもあって、持ってはいません。
1st素体ならその系統の顔パーツ嵌まらないかな。3rdだと首が合わないので使えないんですが……。
というか、有名どころより手にいれるの難しいかもしれませんね。彼女は。

次回は来年かもしれません。
もっと濃密なものが書けるように精進して参りますので、第八話もゆっくりとお待ちいただければ幸いです。
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