――浮かれていたのかもしれない。
涙を目じりにためながら、良悟に背を向けて走り去る恵美を背景に、彼は曖昧な思考の海に沈んでいく。
――“お試し”の短い付き合いだ。諦めた方がいい。
自分はどうして、そんなに執着しているのだろうか。思えば、付き合いも短く、交わした言葉も多くない。
けれど、気づけば目で追っていた。気恥ずかしさに目をそらしていた。きっと、決定的なのは……明るくて、幸せそうに笑う姿。自分にはできない、あの姿に惹かれたのだと思う。今でも、あの一番星のように輝く笑顔は瞼の裏に焼き付いている。
――恵美が新田良悟を好きになる要素がドコにある?
自分を好きになる要素? ない、そんなものはない。見た目、見た目といわれるが、そんな理由で、あの少女が「付き合ってみないか」などと提案するとは思えない。かといって、気心知れた仲でもなかったはずなのに。どうして恵美は、提案してくれたのだろうか。
それとも、それを知るために「お試し」で付き合って、そのお眼鏡に適わなかったということか。
――笑顔さえ見せない不愛想な男が、嫌になっただけじゃないか?
そうだ。気恥ずかしくて、素直に笑顔を見せるなんてできていない。恵美に純粋な笑顔を見せたことはない。でも、仕方ないじゃないか。好きな相手に向けて、素直な笑顔を見せられるほど、堂々としていられないんだ。
だからきっと、振られても仕方なかった。
これは、当然の結果。
もっと自分に素直になっていれば、相手に心を開けるほどの度量があれば、もっと長続きできたのかもしれない。
だが、それを今更言ったところで何か起こるはずもない。
――エレナの気持ちはどうなる?
十年来の幼馴染なのに、自分は何もわかっていなかった。そんな想いを向けられているなんて、露ほども思っていなかった。
――ならエレナの気持ちに応えたらどうだ?
もしも、恵美がいなかったのなら。確かに、彼女の気持ちに応えていたはずだ。
――恵美に振られたんだ。エレナの気持ちに応えてもいいだろう?
そんな、不純が許されるものか。あっちがダメだからこっちに行こうなんて、そんな都合のいい話があって堪るか。
――結局。恵美とエレナ、どっちが好きなんだ?
どっちが好き? そんなの――
そんなこと、考えたことがなかった。考える暇がなかった。エレナに告白されたのはつい先日だ。恵美とエレナ、どちらが好きかなんて。そんな比較をしたことは、今まで一度もありはしなかった。
ならば、自分はどっちがより好きなんだ? 実際に付き合い始めた恵美? それとも十年来の幼馴染で、素の自分が出せるエレナ?
エレナともしも恋人になったら、どうなるだろうか。毎日、明るく楽しい笑顔がはじけて、それに釣られて自分が笑う姿。お互いに尊重し合って、いつものように歩調を合わせて、馬鹿な話に軽口を叩いて――そんな日常的で、太陽のように輝いた未来が映像のように見えてくる。
けれど、恵美と付き合っていた時はどうか。気恥ずかしくて笑顔なんて見せられず、距離感を探って、相手をできるだけ尊重して、普段行かないような場所にデートに行って――非日常的で、ぎこちない、それでも精一杯に振る舞う、蓮華の花のように美しかった映像が思い浮かぶ。
――考えたが、答えは一向に出せそうになかった。
一体、自分はこの二人のどちらをより好きなのだろうか。答えが出せない自分が情けなくて、思わず自嘲が漏れ出しそうだ。
でも、もしもが答えを出せたなら。
もっと、大人になって、今度は自分から――
――まっすぐに、彼女に言葉を伝えられたらと、笑顔を向けられたらと。
前に進める勇気が欲しいと、切に想う。
頭頂部からぴょこんと飛び出た一房の髪に、腰まで伸びる長髪。そんなシルエットが隣に見えたとき、良悟は思わずそんな誰かの名前を口にした。
「――」
寝ぼけ眼で、意識もおぼろげで、無意識のうちに口に出た名前。だが、次の瞬間には誰の名前を口にしたのか、どうしてか自分でも思い出せなかった。
頭はオモリでも吊るされているかのように重たく、枕に沈み込むような感触を覚えた。このまま後頭部と枕との境界が曖昧になって、本当に一体化しそうなほど、意識が希薄になっている。
そんな中でも、夢の内容だけは嫌に頭の中にこびりついて離れない。今までの恵美との交流がフラッシュバックしながら、誰かに頭の痛い核心を突かれる夢。今の自分にも答えの出せない問いかけを思い出し、頭に鈍痛が走った。
「うっ――」
まるで、金槌で小突かれたような痛みだった。側頭部から頭の中央にかけて衝撃が走る。あまりの痛みに声が漏れ、曖昧だった意識が一気に覚醒する。
(――あれ、今何時だ? 今日って、火曜日だよな?)
窓の方を見てみれば、カーテンは閉め切られているものの、夏の残り火のようなオレンジ色が隙間から入り込んでいる。夕暮れか、朝焼けか。
痛みを訴える頭。全身を窮屈な服で締め付けられているような感覚。それらを覚えながら、良悟は上半身だけ起き上がらせ、まだ霞む視界で机の方に置いている時計を見た。
デジタル数字は「18:32」と刻まれている。秒数までは見えなかったが、間違いない。夕方だ。
(……夕方、夕方?)
「――学校!?」
ぐぁっ、とカエルの鳴き声のような音が喉から飛び出した。両手に慌てて力を入れて起き上がろうとすると、その支えとなっていた両手が急に脱力して、背中からベッドに叩きつけられたのだ。
「リョーゴ!? まだ起きちゃダメだヨ!」
エレナの声が聞こえた。衝撃が抜けきらず痺れる体に鞭を打って、何とか頭と視線をもっていくと、彼の机の椅子に座ったエレナがいた。紺碧の瞳は、虚を突かれたように驚きに見開かれて揺れている。
ついで、右手が温もりに包まれる。何かと視線を移してみれば、エレナがそっと両手を握っていた。まるで壊れ物を扱うように、丁寧に、柔らかく。
「いま゛――」
声がかすれて、出なくなった。喉が痛い。喉が震えない。空気ばかりがカスカスと間抜けな音を出して吐き出される。
咳ばらいをひとつ。喉の調子を整えて、もう一度、声を上げようとして――
「――っ、――!?」
今度こそ、声が出なくなった。
慌てて左手で喉に触れて、つばを飲み込んだ。飲み込むとき、喉につっかえるような肉質の太い違和感を覚えてようやく、喉が腫れて風邪になっているのだということを自覚した。
良悟は泡を食って周囲に視線を泳がせた。水を探し求めての行動だった。喉の痛みと、腫れと、声の出ない症状が気持ち悪かった。とにかく早く治したい、という考えばかりが先走った。
「リョーゴ、水だネ!?」
「――っ」
そんな様子の良悟を見て、言葉がなくとも理解して、声を張って聞いてきたのがエレナだった。あまりの大きな声に、思わず良悟は体を跳ねさせるが、それがエレナの質問だとわかるとすぐに頷いてみせた。
「わかった! すぐ持ってくるから!」
良悟の右手からそっと手を離すと、彼女は早足で部屋を出ていった。エレナの慌てた行動に、グチャグチャに乱れた思考は冷静さを取り戻しつつあった。人の慌てた様子を見ると、自分は一周回って冷静になるというのは本当だったらしい。そんな無駄な思考さえできるようになって、彼はもう一度今の状況を振り返ってみることにした。
(今は夕方で……昨日は、確か熱っぽくて。それで学校行って……部活休んで帰って、夕飯食べて、寝て……気が付いたら、この時間。だったような)
無意識に額に手を当てると、荒い紙製の繊維が手に触れた。冷えピタが貼られていることに、良悟はそこでようやく気が付いた。既に温度も粘着性も感じられず、ただ密着している感触だけが残っている。右手を冷えピタの上から乗せてみれば、それ越しに自分の手と額の温度を感じることができた。
「リョーゴ! これお水! ハイ!」
そんなことをしていると、エレナが慌ただしい様子でコップを持って戻ってきた。中身がこぼれそうなほど勢いよくコップを差し出してきたが、良悟はそれを素早く受け取ることはできない。口元に苦笑を描きながら、彼は緩慢な動作でそれを受け取ると、ゆっくり口をつけて――
――あまりにも水の嵩が高く、傾けただけで唇を伝って喉元に勢いよくぶちまけられた。
「あっ――!?」
水はよく冷えていたもので、冷蔵庫から取り出したものだと思われる。熱をもつ首元に浴びた冷水が心地よい。寝巻にかかった冷水は、体温程度の汗とのギャップを作り出し、露骨な気持ち悪さを演出している。
――どうしてコップに注いできた。
思わずそんなツッコミを入れたくなる。エレナも焦っている証拠なのだと理解はできるが、寝ている人間としてはペットボトルのままの方が何倍もありがたかった。
「えっと、えーっと……飲みやすくするには……うー……」
エレナは目を回して、何やらぶつぶつと呟きながら考えている。あぁ、これはもうあきらめた方がいいな、と良悟は早々に見切りをつけると、少しは回復した頭を働かせながら起き上がろうとして――
「あっ、起きちゃダメ! えっと、そうだ! ワタシがリョーゴに飲ませればいいだネ!?」
エレナに肩を抑えられ、ベッドに固定されてコップを奪われる。彼女はそのコップを両手で持つと、そわそわと落ち着きのない様子で良悟の口に近づけた。
良悟が口を少しだけ開ければ、エレナはコップのフチを下唇に乗せるように傾けて、彼の口に冷水を流し込む。熱を持った口の中が一気に冷めていく。口から喉に伝い、喉から頭に電流に貫かれるような鋭い痛みが走る。眠気を訴えていた頭は一息に覚醒していく。食道を伝って腹の中に冷たさが伝う。
「――」
コップの中身をすべて飲み切った時、お礼を伝えようとしたが、やはり出てくるのはかすれた息遣いだけだった。喉が冷やされて、キュッと引き締まる感覚はあったものの、腫れが引いたわけではなかった。
「お水、もっと要るかナ?」
エレナからの問いかけに、良悟は首を横に振って答えた。エレナはそれを見て頷いてみせると、良悟のことをジッと見つめ始めた。
「……」
ジッと見つめ続けてくるエレナに、良悟は居心地の悪さを覚えた。眼力というべきか、見つめてくる圧力、集中力というものが前面に押し出されている。まるで、何かを切り出すタイミングを見計らって集中しているような、妙に張り詰めた空気をまとっていた。
一体何なんだ、とエレナに視線で訴えると、彼女もそれが伝わったのか。一瞬、躊躇うように口を開閉してから、弱々しく視線をさまよわせた。
言うべきか、言わざるべきか。そんな様子で迷っているようだった。良悟はエレナから視線を外して、自室の天井を漠然と見つめた。
「今日のコト、リョーゴは覚えてるノ?」
エレナからのそんな問いかけに、良悟は首を横に振った。覚えているも何も、今日最初の目覚めがこれだと思っていたのだから。
「大変だったんだヨ? リョーゴのママンから聞いたんだけどネ、朝にふらふらーってリビングに行って、ご飯食べて。それでパジャマで学校行こうとしてたみたい。リョーゴのママン、それに気づいてすぐに病院に連れて行ったんだって」
(……えっ、そんなことになってたのか?)
完全に記憶が飛んでいた。思い出そうとしても、昨日寝る前のことまでしか思い出せない。そこで初めて、良悟は自分がどれだけ危うい状況だったかを理解して、頭痛に顔をゆがめた。
「頭、痛むノ?」
右手を挙げて、雑に横に振ることで答えた。違う、という意思表示はそれだけで十分だった。エレナはそれを見るとひとつ頷いた。
「ワタシ、すっごく心配したんだヨ? もしもリョーゴが、このままいなくなっちゃったら、って。どこか遠くにいちゃったら、って。ワタシの手の届かないトコにいっちゃったらって! ……そう考えるとネ、胸のあたりが、どんどん痛くなって……」
コップから、ミチ、と異音が鳴った。
「リョーゴが、メグミにとられるかもって思ったらネ。怖かったノ」
紺碧の空が燃えていた。
いや、違う。エレナの瞳の奥に、火が灯されたように見えたのだ。
「リョーゴとメグミが一緒にいるトコ見ちゃって、胸が痛かったヨ? 張り裂けちゃいそうなくらい」
燃える空に見られているようだった。
紺碧の空に夕日が差したような、そんな空を見ているようだった。
「迷子になったら、リョーゴはいつもワタシを見つけてくれたネ?」
声を出せたとしても、口を挟める様子ではなかった。
呑まれていた。大空に。果てしなく続く空を見つめ続けたときに、自分がその空の一部だと錯覚して、その中に溶け込むような喪失感。自分の体の感覚も、重さも、重力も、すべてが浮いて、自分がつま先から溶けて液状になるような錯覚に襲われる。
「見つけてくれるたびに、嬉しかったヨ。寂しかったキモチ、ぜーんぶ飛んでいっちゃった」
紺碧の空に、今度は朝焼けが差した。
耳に届く言葉が、頭の中をドロドロに溶かしていく。囁かれるように、心の隙間に入り込むように。怪しく、艶やかに、それでいて少女然とした垢抜けない声色が、おそろしく頭の中によく溶け込んだ。
「ワタシ、迷子なノ」
カラン、と床にコップが転がった。
ベッドのスプリングが軋む音が、妙に生々しく耳に届いた。
まだ蜜の少ない朝方の初夏の香りが鼻孔をくすぐった。
それ以上に、弱々しく耳に届いた彼女の言葉が、彼の心に深く刻み込まれた。
ジッと、大空が見つめている。視線を逸らそうにも、大空はどこまでも広がっているし、星はどこまでも彼のことを追いかけてくる。
星は大空の奥に散りばめられていた。爛々と燃える炎のように、輝きは揺らめいてやまない。
月は大空そのものだった。怪しく霞む後光を放ちながら、冷然とこちらを見つめてくるのだ。
太陽は大空の外にあった。星も、月も、太陽の中にあった。蒼穹の頂点に座す太陽は、堂々と、彼の上でサンサンと輝いていた。
――すべてを照らし尽くす太陽の笑顔が、彼の目の前いっぱいに広がっていた。
「ワタシの心は、見つかったかナ?」
「――」
太陽が迫ってくる。
星の光が消え、月がその姿を隠し、太陽は近すぎて全貌が見えなくなった。
鼻の頭に、ピタと温もりがくっついた。その瞬間、月と星が突如目の前に現れた。
「きちんと、答えて」
スッと通り抜けるように耳を抜け、頭の中にシミ込むような声だった。
反発なんてできなかった。抵抗しようと思うと、胸を突き刺す罪悪感の刃に気力を削ぎ落とされた。
身を焼くような熱が全身を駆け巡り、頭を朦朧とさせる。
心は飴細工のように溶かされて、隙間が生まれて彼女の声が入り込む。
――圧倒されていた。
その情熱の温度に、大きさに、呑まれていた。言葉が少なくても伝わった。近すぎる距離が、その熱量をも簡単に伝えてくれるのだ。
お互いの心の音が聞こえてくる。
触れ合う肌は焦がれるほど熱くて。
眼差しは何よりもまっすぐ向かってきて。
その笑顔は、心の影を消し去るほど清々しく輝いていて。
――島原エレナはまるで、日輪とヒマワリのように美しく、そこに咲いていた。
だからこそ。
新田良悟は島原エレナに向かって、弱々しくも首を横に振ってみせた。
(……決められるわけ、ないだろ)
良悟が決められるはずがなかった。
雰囲気に、確かに呑まれこそした。だが、そんなことを理由に。
(そんな不誠実に、お前を汚すような決め方……できるわけないだろっ!)
良悟は、エレナを汚すような答え方をできるはずがなかった。
ここで頷いてしまうことがどれだけ簡単なことか。恵美に振られて、傷ついて。だからエレナの告白に縋ることがどれだけ軽いことか。
良悟には確信があった。ここで頷けば、誰よりもエレナを汚してしまうだろうと。
だって、これで頷けば彼女が悪女のようではないか。弱みを見せる男につけ込んで、すべてを掻っ攫う。そこに大義も、理由も、信念も、自分の想いさえも関係なく。ただ流れるように彼女に縋りつけば、良悟自身が彼女の汚点となるだろう。
これでよかったのだと確信している。その思いは、絶対に変わらない。
――だから、良悟はエレナの笑顔を見返して、今できる精一杯の笑顔を返して見せた。
島原エレナが見せる、みんなを幸せにする笑顔が大好きだから。
新田良悟は笑ってみせるのだ。たとえどれだけ彼女が望んでいない答えであろうと、その笑顔だけは汚さないために。伝えるために。
無様で、惨めで、みっともない、弱り切った笑顔でも。精一杯、幸せそうに笑ってみせる。それだけで、島原エレナに伝わることを、新田良悟は知っている。
「……リョーゴ。ひとつ聞いていいかナ?」
ヒマワリのような大輪の笑顔は、春の木漏れ日のように穏やかな微笑みに変わった。
良悟はそれでも、口元に笑顔を張り付けたまま、頷いて見せる。
「ワタシとメグミと、リョーゴでファミレス行ったあの日のコト」
お互いに、いつの間にか開いた距離がある。それでも、一息詰めれば額も、鼻も、唇も触れ合える。
そんな距離から、瞳の奥をジッと探るように見つめられて。
「リョーゴは、ワタシのスマイルを見て、笑顔になったんだよネ?」
どうしてそんな分かり切った質問をするのか、良悟にはわからなかった。
そんなもの、答えはひとつに決まっているのに。
エレナも、わかっているはずなのに。
理解しているはずなのに、エレナは良悟に聞いてきた。
声が出せないことが、これほどもどかしいとは思わなかった。
――良悟はエレナに向けて、確かに頷いて見せた。
その答えを見るや、エレナは良悟から体を離し、ベッドの上から退いた。
彼女が離れたとき、蜜の乗った夏の香りが鼻先をかすめた。
よく見れば、エレナも額と白い首筋をうっすらと濡らしていた。クーラーの効いている部屋の中だというのに。
「お水、持ってくるネ」
床に転がったコップを拾い上げると、エレナはどこか慌ただしい様子で部屋から出ていった。
すると、途端に現実が戻ってきたように、部屋の空気に肌寒さを覚えた。自覚していくと止まらないもので、自分の額も、顔も、首筋も、パジャマの下も。全身汗だくになっている。
エレナがそこにいるだけで、周囲の温度は上昇するのかもしれない。
(太陽みたいなやつだな、ほんとに)
そんなことを考えていると、エレナがコップを持って部屋に戻ってきた。いやだから何でコップなんだ、というツッコミが喉から出ればどれだけよかったことか。
「ハイ、リョーゴ。アーン?」
そんなエレナは、いつの間にかニコニコと笑顔を浮かべながら、良悟の口にコップを近づけてきた。先ほどまでの重い雰囲気はどこへやら。いつもの明るい少女然とした彼女に、良悟は思わず微笑みながら、ほんの少しだけ口を開けると。
彼女はコップをさっさと唇に当てて、冷水を程よい勢いで流し込む。
良悟が水を飲む様子を、幸せそうに笑顔で見守りながら。
良悟もまた、柔らかく笑って、彼女からの看病を受けるのであった。
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