さて、今回は短いですが、そんな中でもお楽しみいただければ幸いです。
それでは、本編をどうぞ
「エレナ―! 聞いて、聞いてよー!」
765劇場ライブシアターの中。休憩室でエレナを見つけた恵美は、エレナに飛びつかんばかりの勢いで呼びかけた。話したい、というオーラを全開にキラキラとした瞳。
エレナはそんな恵美を見てパッと太陽の様な輝く笑顔を浮かべた。
「メグミ! 何かいいコトあったノ?」
「それがさ、それがさ! リョーゴくんと付き合うことになったんだー!」
「――付き合う? もっと遊べるようになったノ?」
仲良くなったってことかナ? とエレナは首を傾げながら考える。
そんな彼女と裏腹に、恵美は楽しそうに笑顔を浮かべて「うん!」と、声を弾ませた。
「これから、リョーゴくんとはいっぱい遊べるかな! またファミレスに行ったり、ゲーセン行ったり、服を買いに行ったり……遊園地とかもいいかも!」
「リョーゴとメグミはすっかりベストフレンドになったんだネ! 順調でよかったヨ。リョーゴは人見知りだから、仲良くなるのって大変なんだヨ?」
「あっ、違うよ。ベストフレンドじゃないよー」
「えっ、でも仲良くなったんでショ?」
確かに、会って早々に彼氏彼女になりました、なんて幼馴染のエレナにとって目から鱗かもしれない。少しの擦れ違いがあったことに、恵美は満面の笑みを浮かべたまま答える。
「うん。でも、ベストフレンドじゃなくて――ボーイフレンド、ってね。にゃはは!」
「――えっ」
エレナはそのくりっとした目をまんまると見開いて、ぽかんと固まった。
その様子を見て補足するように、恵美は「いやー、それがね」と話を続ける。
「どーしても、諦められなくってさ。思い切って告白して、それでオッケーもらったってわけ!」
そんな恵美の言葉にも、エレナは反応しなかった。心ここにあらず、といった様子だ。
「エレナ? どしたの?」
「――ウウン、何でもないヨ。そっか、メグミはリョーゴとボーイフレンドになったんだネ」
噛みしめるように言葉にして、胸の前で手を重ねて、エレナはしばらく目を瞑った。
沈黙の間、恵美にはエレナが何を考えているのか、推しはかることができない。だから、ただジッと次の言葉を待った。
「――リョーゴ、すごく不器用さんなんだヨ」
「うん」
「ちょっと、冷たいなって思うかもしれないケド。不器用さんだから、見守ってほしいナ」
「……うん」
「照れて、笑顔は隠しちゃうケド。ずっとずっと待ってあげてほしいナ。ポロっといつものリョーゴが出てくるまで」
「――うん」
快活な声ではなく、静かに仕舞い込むように呟かれた言葉に、恵美はしっかりと頷いた。
エレナもそれに頷き返し――ふと時計が目に映り「あっ」と口を開く。
「メグミ、レッスンの時間だヨ!」
「へっ? あっ、ほんとだ! ありがとー! 着替えなきゃ。エレナも一緒にいこっ!」
「うん!」
出口に近かった恵美が先に休憩室から出て行った。
そんな恵美の後姿を見つめながら、エレナは少しだけ、その場でジッと動かずにいた。
「エレナ―? こないの?」
「あっ、今行くヨ!」
恵美に呼ばれて、エレナはようやく休憩室から出て恵美と合流した。
「レッスンさ、実はこの前のダンスがうまくいかなくて――」
カチッ、と休憩室の扉が閉まる音と共に。
「それなら、レッスンの後にコトハも誘って、ヒミツの特訓ってどうかナ?」
「おっ、それいいじゃん! じゃあ早速――」
日常のスイッチが入るのであった。
「――っ」
ドリブル練習中。一定の距離に設置された赤色の三角コーンにボールがぶつかった。勢いを失ったボールに、狙いを外した足がたたらを踏み、慌てて足の裏で拾い直してドリブルを再開する。
「新田! ボーっとしてんじゃないぞ!」
「っ、すみません!」
一セット終わると飛んでくる監督からの檄に、良悟は謝罪を口にしながらすぐ最後尾に並び直す。
チームメイトが珍しいものを見るように、良悟に視線を向けるが、「よそ見をするな!」という監督からの檄によってそれらはすぐに霧散した。そんな一連の流れに妙な居心地の悪さを覚え、所作なさげにボールを足の裏で転がした。
考えているのは、失敗の反省と改善の方法――ではない。
先日、夕暮れ時の公園で最後に交えた遣り取りだ。
お試し、という言葉に口が軽くなったのか。あの表情に惹かれてしまったのか。
安請け合いだったのでは、と後悔の念が過ぎった。その後悔するということが、どれだけ不誠実なことか。
お試しとはいえども、付き合ったのだ。ならば、相手と真剣に向き合うのは当然だ。真剣に向き合って、良い所を見つけて、悪い所を見て、人を見て。話して、触れ合って、そうして時と交流を重ねて、答えを出す。そうじゃなければ、請け負った手前、男として筋が通らない。
ならば、相手からの連絡を待つなんて。そんなことをして良い筈がない。
自分から動いて、自分で見つけて。まずはそこからだ。
(……連絡先の交換忘れてたし、またエレナ経由か)
――ピッ、と短いホイッスルの音が鳴って、すぐ前の部員がドリブルを始めた。
よし、と良悟はひとり頷いて、ボールを目の前にとめる。
(その前に――練習だ)
――ピッ、とホイッスルの音が鳴ると同時に。
良悟はまっすぐ、前だけを見て進み始めるのであった。
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