余滴は星彩に溶けて   作:沖縄の苦い野菜

4 / 13
最初に、評価の方をありがとうございます。それをモチベーションに繋げて、評価に恥じぬ質をもって作品を書き上げさせていただきます!

さて、今回は短いですが、そんな中でもお楽しみいただければ幸いです。
それでは、本編をどうぞ


第四話 探し物はどこですか

「エレナ―! 聞いて、聞いてよー!」

 

 765劇場ライブシアターの中。休憩室でエレナを見つけた恵美は、エレナに飛びつかんばかりの勢いで呼びかけた。話したい、というオーラを全開にキラキラとした瞳。

 エレナはそんな恵美を見てパッと太陽の様な輝く笑顔を浮かべた。

 

「メグミ! 何かいいコトあったノ?」

「それがさ、それがさ! リョーゴくんと付き合うことになったんだー!」

「――付き合う? もっと遊べるようになったノ?」

 

 仲良くなったってことかナ? とエレナは首を傾げながら考える。

 そんな彼女と裏腹に、恵美は楽しそうに笑顔を浮かべて「うん!」と、声を弾ませた。

 

「これから、リョーゴくんとはいっぱい遊べるかな! またファミレスに行ったり、ゲーセン行ったり、服を買いに行ったり……遊園地とかもいいかも!」

「リョーゴとメグミはすっかりベストフレンドになったんだネ! 順調でよかったヨ。リョーゴは人見知りだから、仲良くなるのって大変なんだヨ?」

「あっ、違うよ。ベストフレンドじゃないよー」

「えっ、でも仲良くなったんでショ?」

 

 確かに、会って早々に彼氏彼女になりました、なんて幼馴染のエレナにとって目から鱗かもしれない。少しの擦れ違いがあったことに、恵美は満面の笑みを浮かべたまま答える。

 

「うん。でも、ベストフレンドじゃなくて――ボーイフレンド、ってね。にゃはは!」

「――えっ」

 

 エレナはそのくりっとした目をまんまると見開いて、ぽかんと固まった。

 その様子を見て補足するように、恵美は「いやー、それがね」と話を続ける。

 

「どーしても、諦められなくってさ。思い切って告白して、それでオッケーもらったってわけ!」

 

 そんな恵美の言葉にも、エレナは反応しなかった。心ここにあらず、といった様子だ。

 

「エレナ? どしたの?」

「――ウウン、何でもないヨ。そっか、メグミはリョーゴとボーイフレンドになったんだネ」

 

 噛みしめるように言葉にして、胸の前で手を重ねて、エレナはしばらく目を瞑った。

 沈黙の間、恵美にはエレナが何を考えているのか、推しはかることができない。だから、ただジッと次の言葉を待った。

 

「――リョーゴ、すごく不器用さんなんだヨ」

「うん」

「ちょっと、冷たいなって思うかもしれないケド。不器用さんだから、見守ってほしいナ」

「……うん」

「照れて、笑顔は隠しちゃうケド。ずっとずっと待ってあげてほしいナ。ポロっといつものリョーゴが出てくるまで」

「――うん」

 

 快活な声ではなく、静かに仕舞い込むように呟かれた言葉に、恵美はしっかりと頷いた。

 エレナもそれに頷き返し――ふと時計が目に映り「あっ」と口を開く。

 

「メグミ、レッスンの時間だヨ!」

「へっ? あっ、ほんとだ! ありがとー! 着替えなきゃ。エレナも一緒にいこっ!」

「うん!」

 

 出口に近かった恵美が先に休憩室から出て行った。

 そんな恵美の後姿を見つめながら、エレナは少しだけ、その場でジッと動かずにいた。

 

「エレナ―? こないの?」

「あっ、今行くヨ!」

 

 恵美に呼ばれて、エレナはようやく休憩室から出て恵美と合流した。

 

「レッスンさ、実はこの前のダンスがうまくいかなくて――」

 

 カチッ、と休憩室の扉が閉まる音と共に。

 

「それなら、レッスンの後にコトハも誘って、ヒミツの特訓ってどうかナ?」

「おっ、それいいじゃん! じゃあ早速――」

 

 日常のスイッチが入るのであった。

 

 

 

 

 

 

「――っ」

 

 ドリブル練習中。一定の距離に設置された赤色の三角コーンにボールがぶつかった。勢いを失ったボールに、狙いを外した足がたたらを踏み、慌てて足の裏で拾い直してドリブルを再開する。

 

「新田! ボーっとしてんじゃないぞ!」

「っ、すみません!」

 

 一セット終わると飛んでくる監督からの檄に、良悟は謝罪を口にしながらすぐ最後尾に並び直す。

 チームメイトが珍しいものを見るように、良悟に視線を向けるが、「よそ見をするな!」という監督からの檄によってそれらはすぐに霧散した。そんな一連の流れに妙な居心地の悪さを覚え、所作なさげにボールを足の裏で転がした。

 

 考えているのは、失敗の反省と改善の方法――ではない。

 先日、夕暮れ時の公園で最後に交えた遣り取りだ。

 

 お試し、という言葉に口が軽くなったのか。あの表情に惹かれてしまったのか。

 安請け合いだったのでは、と後悔の念が過ぎった。その後悔するということが、どれだけ不誠実なことか。

 

 お試しとはいえども、付き合ったのだ。ならば、相手と真剣に向き合うのは当然だ。真剣に向き合って、良い所を見つけて、悪い所を見て、人を見て。話して、触れ合って、そうして時と交流を重ねて、答えを出す。そうじゃなければ、請け負った手前、男として筋が通らない。

 ならば、相手からの連絡を待つなんて。そんなことをして良い筈がない。

 自分から動いて、自分で見つけて。まずはそこからだ。

 

(……連絡先の交換忘れてたし、またエレナ経由か)

 

 ――ピッ、と短いホイッスルの音が鳴って、すぐ前の部員がドリブルを始めた。

 よし、と良悟はひとり頷いて、ボールを目の前にとめる。

 

(その前に――練習だ)

 

 ――ピッ、とホイッスルの音が鳴ると同時に。

 良悟はまっすぐ、前だけを見て進み始めるのであった。

 

 

 




感想、評価、コメント、お気に入り登録などなど、心よりお待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。