少しずつ伸びていくそれを見るだけで、活力とモチベが上昇していくチョロい二次創作者です。
それでは。
エレナと良悟との距離をお楽しみくださいませ
「――祭り?」
「うん。パパンとママンが一緒に行こうって」
それはある日の帰り道のことだった。
すっかり前期末試験も終わり、明日から夏休みというときに、エレナから神社でやるお祭りに一緒に行かないかと誘われた。
エレナは期待と、狙いすますかのような鋭い視線を良悟に向けていた。返答が待ちきれない、とでも言いたげにそわそわと体を揺らしながら、彼のことを下から覗き込みながら。
「そんなに楽しみなもんか?」
そんな様子のエレナに、良悟はいぶかしげに眉をひそめながら聞いた。子どもの時分から、毎年のように通っている祭りだ。もう屋台の種類もすっかり覚えてしまって、目新しいものは何もない。そんな祭りが楽しみなものなのか、良悟にはよくわからない。
「うん! いろんなところ回って、食べ歩いて、みんな笑顔で踊って。カーニバルはいつも楽しみだヨ!」
「まぁ、エレナはそうか。俺は踊るよりも、見ている方が性に合ってる」
「それなら一緒に行こう! ワタシの熱いダンスで、リョーゴを虜にしてあげるヨ!」
「虜にって。お前、それで俺が何回巻き込まれたことか……へたくそなダンスのお披露目なんて二度と御免だぞ」
エレナの踊りは実に見事なもので、それは良悟も認めるところにある。盆踊りだろうと、フォークダンスだろうと。エレナが参加すれば華が出てくる。圧倒させるような超絶技巧の踊りじゃない。心の底から楽しんで、誰よりも自由に踊るその姿に人々が感化されて、一緒に踊り始める。
そんなエレナの踊りに、最終的には良悟も巻き込まれる。足をもつれさせることはないが、キレのない酔っ払いの千鳥足のような情けない踊りは、良悟自身が酷いと自覚しているところにある。
「大丈夫だヨ。……リョーゴもパッションは悪くないからネ!」
「おい。その間はなんだ。というかパッションだけか!?」
「リョーゴはもっとドーンと構えなきゃダメだヨ。そうすれば、もっと上手くなると思うんだけどナー?」
「それ、恵美にも言われたよ。そんなにヘタレに見えるのか……」
良悟がエレナの言葉にへこんで視線を下げていたとき。
エレナもまた、視線を落として少しの間、沈黙していた。
「リョーゴは怖がりだからネー」
「いや、それお前に一番言われたくない――」
「ワタシは今からホラービデオみたい気分だナー?」
「まことに申し訳ありませんでした!」
電光石火の謝罪。良悟は深々と90度腰を折り、エレナに頭を下げた。ただ、その表情はほんの少しだけ笑っていた。
対して、エレナはそんな良悟の様子を見て「ウーン」と聞こえるように悩むそぶりを見せると、彼の手をさっと手に取った。
手を取られて、顔を上げた先に待っていたのは、エレナの夕日に照らされて輝く笑顔だった。
「ヤダ♪」
「――あの、エレナ?」
悪ふざけだと思って笑っていた良悟の顔が、徐々にこわばっていく。それに対して、エレナはますます笑顔を輝かせる。
「リョーゴと一緒に見たいホラーがあって」
「あのエレナさん!?」
「ピエロのホラーって面白そうだナーって」
それを聞いた瞬間、良悟が走り出そうと足に力を込めたが、エレナが良悟の手を掴んで放さない。
「やめろォ! 放せ、手を放せ! 俺は見ない、見ないぞ!」
「ノンノン、もうビデオも用意してるヨ」
「おまっ、やめっ! わかった、祭りに一緒に行こう! 絶対に行こう! だからそんな恐怖を振りかざすな!?」
「ウンウン、お祭りには一緒に行ってくれるんだネ?」
「行く! 約束する! というか端から断るつもりなかったんだけど!?」
「知ってるヨ。だからもう一声欲しいナー?」
「わかった、一緒に踊る! そこまで約束する!」
「約束はちゃんと守ってヨ?」
「破ったら針千本でもなんでも飲んでやる!」
「うん、約束だヨ! それと、早く帰らないとネ!」
上機嫌そうに、鼻歌を口ずさみながらエレナはステップを踏んだ。良悟はそんなエレナに手を引かれながら「早く帰る?」といぶかしげに呟いた。
そんな良悟に、エレナは悪戯が成功した子どものようにニッと笑ってみせた。
「だって、リョーゴと一緒にピエロのホラーを見ないとネ!」
「……まて。それは祭りの約束で免除――」
「ワタシは、その代わりに、なんて一言も言ってないけどナー?」
良悟の顔からサッと血の気が引いていく。エレナが握っている手が強く震え始め、唇がわなわなと痙攣しながら青くなっていく。その目は捨てられた子犬のように、エレナに向けて訴えかけた。
「見ない、って選択肢は――」
「ダーメ」
ギュっ、とエレナの両手が良悟の手を包み込む。良悟にはそれが「絶対に逃がさない」という死刑宣告なのだと理解して、これからの時間に瞳から生気が抜けていく。
「もう、どうにでもなれ……」
やけっぱちに呟いた言葉は、真夏の生暖かい風にさらわれて。
彼はエレナに手を引かれながら、家路につくのであった。
「な、なぁ。本当に、やめよう、な? この前の大会の録画とか他にも――」
良悟の家。エレナの計らいによって部屋の電気は消されて、カーテンから差し込むわずかな茜色が不気味に光るリビングの中。
制服のままの良悟とエレナは、ソファで肩と肩がくっつくほど近づいて座っていた。慣れた様子でリモコンを操作しているエレナの顔は、テレビの明かりによって不気味に白く照らされている。
対して、良悟は顔を青くしてエレナに必死で訴えかけていた。やめよう、やめよう、と。何度言っても、しかしエレナがリモコンを操作する手は止まらなかった。ブルーレイは既に機械の中だ。
「再生っと」
「ちょ、お前ほんとに――」
言い切る前に、エレナは既に再生ボタンを押していた。そして、良悟の言葉を途切れさせたのは、画面に大きく映し出された赤いタイトルロゴと、チュイイイン、と恐怖を掻き立てるような不協和音だった。
「うわっ――!?」
「――あっ」
ギュっ、と思わず良悟は隣にいたエレナの手を強く握った。視線は恐怖で画面にくぎ付けになったまま、しかし絶対に放すものか、という力がエレナの手を握ってくる。まだ始まったばかり、登場人物さえ出ていないというのに、良悟の手は寒空の下にいるかのように震えている。
ただ、その手は心が休まるような温かさを持っていた。強い力で握っているといっても、エレナの手に痛みは走らない。
エレナはその手をそっと握り返して、良悟と同じように画面に視線を向けた。
「――ッ!」
「キャア!?」
子どもがピエロによって行方不明にされる瞬間、良悟が大きな悲鳴を上げてエレナに抱き着いた。その表情は恐怖に塗り固められ、ガチガチと歯を鳴らして体を大きく震えさせている。
対するエレナは、確かに映画のシーンに驚いたものの、それよりも突然良悟が叫び出したことにビックリして、抱き着かれた衝撃に声を上げた。映画よりも、むしろ隣にいる人の行動や声の方に大きく驚かされた。
強く、ギュっと抱きしめられると、薄手の制服越しから相手の体温が感じられた。汗をかいて、じめっとした良悟のスクールシャツがピタリとエレナの制服にくっつく感触も。制服越しに肌に伝わってくる湿り気も。くっつきすぎて、お互いの音が確かに聞こえてくる鼓動の音も。すべて、伝わってくる。
どれだけ怖がっているのか。良悟の手の震えと鼓動が教えてくれる。
今どんな思いを持っているのか。触れ合う肌と体温が教えてくれる。
彼女を抱きしめる力の強さが、彼の優しさと強さと、ちょっぴり情けない本音を教えてくれる。
エレナは、抱き着いてきた良悟のことを強く、強く抱きしめた。
良悟はそのことに、テレビに釘付けになって、恐怖に支配されて気が付かない。それを感じ取ると、エレナはさらに力を入れて、自分と彼の鼓動を間近に対面させた。
「まて、まてまてまてまて! うそ、嘘だろ嘘だろ嘘だろ――」
――肌と肌が触れ合うと、恐怖は自然と鳴りを潜めるものだ。自分は一人じゃない、頼もしい仲間がいるんだぞ、って安心感を得ることができるんだ、と。
そんなことを言っていたのは、良悟自身だ。子どもの時分、エレナが「本当は怖い――」といった番組から目を離せなくなったときに、情けない悲鳴を上げてエレナに抱き着いてきた後に、彼は言い訳じみた早口でよく言っていた。
一度座ると、良悟は決して立ち上がらない。自分がどれだけ苦手なものであろうと、隣に座り続けて、こうして情けない声と姿をさらし続ける。心の底から怖がっているくせに、画面からは決して目を離さない。ビデオを止めることもない。
良悟は誰よりも、ホラージャンルを怖がっている。それなのに、誰よりもまっすぐ向き合い続けるのだ。まるで、自分の醜態で何かを上書きするように。
「えっ、何でそっから声聞こえて……おまっ、おまっ!?」
良悟から感じる力と鼓動だけで、エレナは目を瞑っていても恐怖演出が来ているかどうかがわかった。悲鳴がなかったとしても、間違いなくわかるという自負があった。
恐怖演出が始まれば、エレナを抱きしめる力が徐々に、徐々に強くなっていく。力は強いのに、まるで壊れ物を扱うように、加減だけは間違えない。
そして恐怖演出が終われば、彼の腕から力は抜けて、それでも手をつないだまま、再び隣でくっついて鑑賞するだけの時間が訪れる。
そんな時間が、今のエレナには何よりも心地よかった。たとえ目の前の画面に苦手なホラー映画が流れていたとしても、良悟との距離の心地よさを壊すほどではなかった。
「――♪」
エレナが思わず鼻歌を口ずさめば、それだけで良悟の両肩が大きく跳ねて、またエレナに抱き着いた。そんな良悟の怖がる姿が面白くて、くすくすと忍び笑いを漏らしてしまえば、彼はますます画面に釘付けになって、瞬きすら忘れて震え始めた。
それがおかしくて、嬉しくて。
エレナは時々、そんな風に鼻歌や小さな笑い声を口から漏らした。そのたびに、彼は悲鳴を上げて、怖がって、エレナとの密着度が増していく。
恐怖演出がないときに、そんなイタズラを何度も繰り返しながら。
二人のホラー映画鑑賞の時間は、夜の帳が落ちて、良悟の両親がようやく帰ってくるまで続くのであった。
エレナはこの二次創作において、誰よりも主人公である
あらすじに、嘘偽りなし
感想、評価、コメント、ご指摘、お気に入り登録などなど、お待ちしております。それらはすべて、作者のモチベと活力、執筆の燃料になりますので
それでは、次話にてお会いいたしましょう