「まず
「はい教授、そこから分かりません。なんで事件でも事故でも無いって、分かるんですか?」
答え合わせが始まって早々、教授の話の腰をポッキリ折るよう、右手を真っ直ぐに、勢いよく上げて、廊下で聞いた時から疑問に思っていたことを、改めて聞いてみる。
教授の口振りから、今回の件は事件や事故では無いと、確信し、断言している。その理由が、私にはよく分からない。
「ふむ……マスターにサーヴァントとして召喚され、
「私は教授みたく、1を知って10まで計算出来る能力は無いですし、頭の回転数が一般人レベルなので、一個づつ、詳しく、詳細に、解説をお願いします」
「この事に関してだけなら、解説は不要だ。なぜなら君は、このような出来事を、近しい出来事を何度も経験しているからだ。理由について「考える」のではなく、理由を「思い出す」のだよ」
思い出す? 何を?
初めてカルデアに来て、成り行きで人類最後の最後のマスターとして走り抜け、苦楽が凝縮された日々。ハチャメチャな特異点や、想像の斜め上を軽々しく飛び越える出来事が押し寄せ、カルデア中がお祭り騒ぎになるイベントの数々。そこから「何度も経験している事」を抽出しようにも、短時間では絞り切れない程に濃く、ある程度絞ったとしても、数え切れない程に多すぎる。
「なーに、それもすぐに分かること! 無理に思い出す必要は無いサ!」
色々な考えが頭の中でループし、頭から湯気が出そうだった私は、教授の一言で一旦考えるのを止める。すぐに思い出せず、もうすぐ分かることなら、ひとまず横に置いておく事にして置いても大丈夫だろう。
それに、これ以上考えていると、知恵熱で倒れた愚患者扱いされてしまう。
「次は誰が関係者が誰かだけど、これがホント【偶然】! 【たまたま】! 【なんとなく】! カルデアベースの廊下を散歩してたら、決定的瞬間を目の前で見ちゃったんだよね〜これが!」
「ふーん……(ジト目)」
「ありったけの
「だって……教授は【偶然】とか【たまたま】とか、低確率で起こる言葉は似合わないし、表向きでは【なんとなく】とか言いつつ、裏ではものスッゴイ悪い顔で「計算通り」って思ってそうだもん」
「いや〜そう言って頂けるのは、悪の親玉として嬉しい限りだネ!」
「ついでに、年中無休で悪い事考えたり、裏でコソコソ仕掛けたりしてそう」
「それは偏見が過ぎるよガール! 悪の組織は決してブラック企業じゃなくて、週休二日。祝日休みの超絶ホワイト企業! 有給や長期休暇など、ちゃんとした休みもあるんだよネ!」
「悪の組織だったら、仕事の内容はかなりのブラックだけどね」
「中々スパイスの効いた、良いブラックジョークだ!」
「「HAHAHAHAHAHA!」」
閑話休題。
「私が彼らを見たのは昨日の夜の事。君の探し人がマイルームに入る前に、彼……項羽君が声をかけた所からだね」
「項羽が?」
人類漂白の原因。史実ではありえない歴史を歩み、進化の階段を登りきり、行き止まりにぶつかった、7つの人類史、『
汎人類史で語られる彼は、秦代末期、西楚の覇王として語り継がれる英傑。しかし、異聞帯で出会った項羽は人で無し──人ですら無かった。
未来視にも等しい演算能力を持ち、主命には絶対服従。敵対する者を圧倒的な武力で殲滅する、中国異聞帯最強のロボット。初めて出会った時から難敵として苦しめられ、空想樹伐採の時には、自壊を厭わない戦闘スタイルで激戦を繰り広げた後、妻を想いながら機能停止した。
サーヴァントとして召喚に応じてくれてからは、妻である虞美人先輩と一緒に、穏やかではないが、異形な者を迫害する者が居ない、幸せな日々を過ごしている。
「項羽君が、傍から見れば、バーサーカーらしい意味不明な行動を起こす。それがどういった意味を示しているか、マスターである君には分かるね?」
「……項羽の未来予知、でしょ」
未来予知。
『未来』を『視』たり、『未来』が『視』える方のスキルではなく、『未来』を『予知』するスキル。
異聞帯に居た頃の項羽はもちろんの事、凡人類史の項羽にも持ち得るスキルであり、戦闘時以外でも、時折天啓を受けたかのように視えるらしく、悪しき未来を変えるため、雄叫びをあげながらカルデアを破壊する行動が度々見られる。
それに加え、何故そんな事をしたのかを詳しく説明せずに去り、意を決して聞いてみても、答えどころか、こちらの疑問が増えるような必要最低限の事しか語らない。なのでカルデア職員や大多数のサーヴァントからは、「項羽はたまに暴走しては何処かを壊すサーヴァント」と言った、表面上では正しく、根本的に間違った認識を受けている。
一方で。未来視が発動した後、項羽が取る行動は破壊や暴走だけでなく、何故そんな行動を取らなければならないのかの理由もわからないまま、視えた未来の通りに動く事もあるのは、バレンタインの時に知った事でもある。
「だけど……」
わからない。わからない事だらけ。
項羽の未来視で視えた未来。日課のトレーニングを途中で切り上げてしまうほどに体調が悪いらしい彼。破壊や暴走をせず、一言二言の言葉を交わすだけで変えれる未来。次の日には解決する程に小さいのか、誰にも言えない程に大きいのか。今回の件は事件でも事故でもなく、いつかは起きていた。言い換えれば必然な出来事。数多くの経験を積んだマスターである私が思い出す事。
新品の箱から出したばかりのバラバラなままのパズルピースのように、頭の中に散らばった数多くのピース。どれとどれか組み合わさるのか。どこから繋げるのか良いのか。繋がったピースはどれと繋がるのか。いくら考えても、私の中には見当たらない。
「二つ、君の勘違いを訂正しよう」
うんうんと頭を捻って悩む私を見ていた教授が、おもむろに口を開く。
「まず一つ。サーヴァントの体調不良は、身体が動かなくなるほどの『魔力不足』。怪我や病気など、分かりやすいものだけではない。心に小さなトゲが刺さるのも、立派な体調不良とも言える。二つ。項羽君は彼と話しただけじゃなく、何かを手渡していたようだったよ」
「いや、そんな細かい所を訂正されても……ん?」
教授の訂正を受けても、不完全だったピースが正しい形になっても、わからないものは、いくら考えてもわからない。しかし、手持ちの欠けたピースかもしれない、新たな疑問が増えた。
「項羽が、何かを手渡した?」
「そうだね……一言二言話した後、手渡すというより、傍から見たら、彼に無理矢理押し付けているようにも見えたよ」
「押し付けるって、一体何を?」
「さて、ね。どんな物かは分からないが、遠目から見た感じでは大きさは握り拳程度。丸いフラスコに入った、透明度の高いオレンジ色の液体。と言うことしか、私には分からなかったネ」
遠目から見たと言う割には、随分と詳しく見えた様子。サーヴァント。いや、アーチャークラスの特性だろうか。
自他共に認めるアラフィフで、撃てば当たる魔弾の使い手なのに。と言う言葉が喉元まで出かかったが、グッと飲み込んだ。サーヴァントが老眼なんて、格好がつかないにも程がある。
「そ・れ・に! 彼に渡した物が何だったのかは、モウスグ分かること! このフカフカな椅子にでも座って待ちたまえ」
「またそれ? もうすぐ分かる。もうすぐ分かる。それっていつ分かることなの? もったいぶるのは「あ!
ホームズだけで十分。そう続けた私の言葉を綺麗に切り取るかのように医務室の扉が開き、一人の少女が姿を表した。
まだまだ成長するのだと言わんばかりの小柄な身体に、短く切り揃えられた銀髪。顔には痛々しい傷跡が残ってはいるが、それだけを見れば、ただのあどけない少女と言える。
しかし、幼い少女が着るには、いや、大人でも着るのはそれなりの勇気がいる、大事な所を最小限隠しているだけとも言える、露出が多すぎる服装を着ている。
更に腰の少し後ろ辺り。軽く手を後ろに回せば届く場所にはそれなりに大きなナイフが二つ、左右のホルダーに一つずつ入っている。
子供らしい無邪気な可愛さと、拭い切れない違和感を感じさせる少女。
「
医務室に入ってきたジャックちゃんは、私を見かけるや否や、アサシンらしい身軽さで飛び上がり、空中で華麗な一回転を決め、私と教授の間に着地した。
「おぉ〜さすがジャックちゃん」
「えへへ〜」
私が素直な気持ちで褒め、パチパチと小さな拍手を贈ると、少しだけ照れくさそうな顔で笑っていたが、何かを思い出したのか、私に向かって聞いてきた。
「
「イジワルな馬?」
馬。と聞くと、一人(一匹?)の、姿は正に馬なのだが、やけにイケボな声で話す。自身を人と主張するくせに生のニンジンが大好物で、未調理のままでもバリバリ食べる、ライダークラスのサーヴァントが思い浮かぶ。
しかし彼はジャックちゃんを初め、少女の姿をしたサーヴァント達と『お馬さんごっこ』をしながら廊下を疾走する姿をよく見る。遊びとしてちょっとした『イジワル』はするかも知れないが、探す時にまでイジワル呼ばわりされるとは考えにくい。
となると、他に居る馬といえば……
「もしかして、項羽?」
「そう! わたしたちもずっと探してるけど見つからなくって……そしたらここに居るよって、美人お姉さんが教えてくれたの!」
「美人お姉さん?」
イジワルな馬と来て、次は美人お姉さん?
傍から……と言うか、一般的な人の私から見れば、サーヴァントはカワイイ方面からカッコいい方面。性別の壁を乗り越えた方面まで、様々な方向性の美女が揃っている。その中でも、ジャックちゃんが美人と称するサーヴァント?
「おそらくだが、彼女は虞美人の事を言っているのだろう」
医務室にジャックちゃんが乱入してからじっと口を閉じていた教授が、そっと助け舟を出してくれた。
「そう虞美人お姉さん! すぐそこの廊下で会って、「
「へ〜先輩が……そうなんだ〜」
伝えたい事が伝わった事が嬉しかったのか、小さくピョンピョンと跳ねるジャックちゃんを、微笑ましい気持ちで見つめながら、チラリと教授の方向を見る。
(ピューピュー)
無駄に綺麗な音の口笛を吹きながら、こちらと視線を合わせないよう、明後日の方向を見ていた。
「教授。ぐっちゃん先輩が見てた事、知ってたでしょ」
「イヤ〜ナンノコトカナ〜? オジサン、シラナイナ〜」
「なるほど。嘘って分かる棒読みありがと。今回の件は、とりあえず宝具ジャンプ10連発で許してあげよう」
「それって許して無いよね!? 私の腰をOverkillする気マンマンだよ!?」
「悪いオジさん、腰も悪いの? 大丈夫? 悪性を摘出する?」
「物騒なナイフを構えるのは止めて、そのまま仕舞ってくれるかいレディ!? それに用があるのは私の方ではなく、マスターの方じゃないかったかい!?」
教授の必死な言葉に、とても残念そうな声と顔をしながら渋々とナイフを仕舞うジャックちゃん。と、本来の用事を思い出したのか、いかにも「わたしたちはすごく怒っているんだよ!」と言わんばかりのふくれっ面で話してくれた。
「聞いてよ
「えっと、項羽がどこにいるかは分からないけど……その薬って、どんな物かわかる?」
「錬金術師さんのお話だと、大きさはわたしたちの両手に乗る心臓くらいの大きさで」
「うん、物騒だね〜」
「飲む所が細い筒みたいになってる、ふらすこ? の形をした瓶の中に」
「……うん?」
「透明なオレンジ色のお薬が入ってるやつ!」
「なるほど……ね」
ジャックちゃんの説明を聞きながら、パチパチと音を立て、頭の中でバラバラだったピースが、少しづつ組み上がっていく。まだまだ分からないことも多少あって憶測の域を出ないが、彼に何が起きたかは仮説を立てることは出来る。
「教授は」
私は未だにふくれっ面になっているジャックちゃんの頭を撫でながら、向かいに座っている教授を見る。
「どこまで予測してたの?」
私の質問に、教授は笑う。
「無論」
目を愉しそうに細め、口を半月状に歪ませ、嬉しそうに言った。
「計算出来る事全てサ!」
教授の言葉と共に9時の時報が鳴り、教授の授業が終わりを告げた。
大変お待たせ致しました! これにて教授のターン終了になります!
教授のキャラがあまり掴めてない気がするのには目を瞑っていただければ……エタらないだけましだと思っていただければ……