ちっちゃいガイガンになってた   作:大ちゃんネオ

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続いたぞ。
サブタイトルは独りと一匹
個人的にこの番外編はグレと怪獣って呼んでます。


番外編 グレ響に拾われた2

 ノイズが発生したエリアに到着すると既に彼女(立花響)が倒したのであろう炭の山が出来上がっていた。

 辺りは戦いの痕跡だらけ、抉られたアスファルト、なぎ倒された木。

 目線を運ばせると、あることに気が付いた。

 砕かれたのではない。

 斬られた木。切り口に乱れは見られない。

 彼女でもノイズの仕業でもないだろう

 これは…あの子がここでノイズと戦闘したという証拠だ。

 

「ふふ…ふふふ。近くにいるのね、ピー助」

 

 無意識のうちに頬が緩む。

 ああ…待ち望んでいたのだ、再会を。

 お前との再会を。

 確信したよピー助。

 私達は…きっと、近いうちに会えると。

 

 

 

 

 あの夜から数日。

 怪獣を拾って、一緒に生活するようになるとなんというか…生活に張りが出来た気がする。

 

「ピッ、ピッ」

 

「お風呂で泳ぐのは楽しい?」

 

「ピー!」

 

 ペンギンのように腹這いで浮かぶこの子は楽しそうに返事する。

 この子を見てると自然と笑顔が出てしまう。

 そう…和むんだ。

 久しく抱いていなかったものを呼び起こされて、ふっと頬が緩む。

 

「えいっ」

 

「ピッ!?」

 

 顔にお湯をかけると突然のことに驚いて溺れて…。

 危ない危ないと抱き上げて、体育座りしているわたしの膝に乗せる。

 

「ピー!」

 

「ごめん。助けたから許して」

 

 向かいあって謝るがまた微妙にこの子はずれた方を見る。

 目が見えていないのだからしょうがない。

 欠けたバイザーから覗く右目の傷痕。

 縦に一本、深くつけられたこの傷、それから全身の傷は一体誰がつけたのだろうか。

 ノイズではないだろう。

 この子にこんな切り傷をつけられるようなノイズは恐らくいない。

 だとすると…。

 脳裏に浮かんだのは、月下で見えた人物。

 風鳴翼───。

 彼女も自分と同じようなものを纏っていた。

 そしてなにより、その手には剣を携えていた。 

 以前、同じ場所で戦ったが、その剣技は素人目でも分かるほどの強さと美しさを兼ね備えていた。

 彼女ならば…。

 だけど、何故?

 何故こんなことを?

 数日共に過ごして分かったが、この子は悪い子ではない。見た目はちょっと悪役(ヒール)寄りだけど人懐っこいし、行動も可愛らしい。というか人間臭い。目が見えないから危なっかしい時もあるけど、手がかかる子ほどなんとやらというやつで愛らしく思える。

 ご飯だって頑張ってあげてるし、こうしてお風呂だって…。

 つまるところわたしはこの子のお世話をそれなりに楽しんでやっているということだ。

 

「ピッピッ」

 

「こら、つっつかないの」

 

「ピ?」

 

 首を傾げる。

 よくこの子はわたしの胸を爪なり嘴なりでつつく。二年前、あそこでついた傷を…。

 目は見えていないのに、ピンポイントでつついてくるのだ。なにか気になるのだろうか…?鼻は利くようだからなにか匂うとか…いや、匂わない。別に変な匂いなんかない。ないったらないのだ。

 

「そろそろあがろう」

 

「ピ~」

 

 怪獣を持ち上げてお風呂からあがり、脱衣場で身体を拭いてあげる。拭き終わると怪獣は身震いをして残った水を飛ばした。

 本当にペンギンのようだがペンギンじゃない。

 この子の正体は未だ不明。

 怪獣としか言えないまま。

 まあ怪獣でもいいのだろう。

 怪しい獣と書いて怪獣。

 

「ピー」(ラムネを取り出す)

 

 怪しい。

 

「ゴクッゴクッ…ピ~…」(飲む)

 

 獣。

 

「怪しい…」

 

「ピ?」

 

 こんな生き物がいるだろうか。

 器用に泡を吹き出すことなくラムネを開けて飲む生き物。それ以前にどこから取り出した。わたしは買った覚えがない。

 まさかお金を持ち出して…だとしてもお店に行って怪獣が買い物なんて出来るはずもない…とも言い切れない。

 だって怪獣だから。

 怪しい獣だから。

 怪しいから。

 

「ピャ~」(歯磨き中)

 

 ラムネを飲み干した怪獣は洗面台に飛び乗り歯磨きを始めた。

 …あれ、どうやって歯ブラシ持ってるんだろう。

 鉤爪なのに、あれはどうなってるのか。

 まさかくっついているというのか。

 というかなんで鏡見ながら歯磨きしてるの。目、見えてないんでしょう…まさか、実は見えてる?

 

「ピ…ピー?」

 

 いや、やっぱり見えていない。

 蛇口を探して腕を伸ばしているが爪先は空を切るばかり。

 

「蛇口はここ」

 

「ピ~」

 

 ありがとうと言っているように手をあげる怪獣を見て頬が緩む。

 …この子が来てから頬が緩んでばっかだな。

 大きな欠伸をした怪獣を見て、また自然と頬が緩んで…。

 わたしも眠くなってきた。

 やることもないしさっさと寝よう…。

 

 

 

 

 

 

「ん…んん…」

 

「Zzz…」

 

「んッ!」

 

「ピッ!?」

 

 …突然、強い衝撃に襲われ俺は落下した。

 敵襲、ではない。

 数日前に、自分を拾ってくれた少女の寝相によるものだ。

 恐らく蹴飛ばされたのだろう。背中が痛くて痛くて仕方ない。

 とりあえずベッドに戻ろう…えーと、ここはどこだ。目が見えないとこういう時不便だ。とにかく手探りでベッドを探す。

 うん…うん?

 あ、なんか触った。

 けどこれはあれか、感触的にテーブルか。

 俺、結構遠くまで蹴飛ばされたな…。

 しかしここにテーブルがあるということはあと少し歩けばベッドに辿り着くはず。

 いや、それよりも…あの光を目印にすればいい。

 あの、光に向かって…あれは、なんの光なんだろう。

 知っている気がする。だけど、まるで霧に包まれたようにはっきりとしない。

 知っている、はずなのに…思いだそうとすると、頭に音が流れ込む。

 この音は、奴等だ。

 またノイズが出た。

 狩らなきゃ、いけない。

 狩れ、狩れ、狩れ。

 この雑音を消すために。

 うるさい、頭に響く雑音を消すために。

 

 

 

 

 物音で目が覚めて電気をつけると怪獣が扉を開けようとしていた。

 この子がここまで活発になるのはご飯の時か、ノイズが現れた時だけ。

 そして雰囲気的にご飯が食べたいわけじゃないということを察したわたしはさっと着替えて怪獣を抱き抱えて外へと飛び出した。

 

『Balwisyall Nescell gungnir tron』

 

 深夜なので人目を憚ることなく怪獣にどこへ行けばいいか訊ねて進む。 

 辿り着いた先は廃工場。

 人気が少なくていい場所。

 だが、移動すれば近くには住宅地がある。このままにしておくわけには…いや、そんなヒーローらしい理由なんてものはない。

 こいつらを倒すのは…わたし自身の復讐のためだ。

 まずは殴る。

 正面を突破して、あとは手当たり次第にノイズを倒す。 

 あの子も加わったことで戦闘は大分楽になった。しかし、復讐のために戦うわたしにとっては少々物足りない…物足りないんだ。別に嬉しくなんて、ない。ないはず。

 だけど…隣に誰かがいてくれる。

 そのことは嬉しいのかもしれない…。

 いや、それは駄目だ。

 わたしは独りがいいのに。

 独りでいなきゃいけないのに。

 一緒にいてくれる誰かを求めるなんて、駄目だ。

 最後の一体を拳が貫き、この場のノイズは全て倒した。

 この場所は、静かになった。

 空を見上げれば、見本のような三日月が浮かび世界を静かに照らしている。

 だというのにわたしの心はざわついていた。

 

「わたしは、独り…」

 

 独白が月光に吸い込まれていく。

 この場でそれを聞くものは誰もいなくて…。

 

「ピ~?」

 

「ああ…君がいたね」

 

「ピ!」

 

 怪獣が、いた。

 2メートルほどの身長があるので存在感ありまくりだ。

 

「…家に、帰ろっか」

 

「ピー!」

 

 この子を見てると毒気が抜かれてしまう。

 毒気どころか力まで抜けて、変身を解除して帰ろうとした瞬間、歌が響いた。

 

『Imyuteus amenohabakiri tron』

 

 歌声の響いた、廃工場の中を見れば光が溢れて視界を奪う。

 そして、光が収まると…彼女がいた。

 彼女の目を見た瞬間、わたしは恐怖した。

 あの目は…なにも見ていない。

 わたしも、この場にある全てを…いや、違う。

 ひとつだけ、彼女が見ているものがある。

 それは…怪獣。

 あの子だけを見ている。

 あれはなんだ。

 彼女の目に宿るものはなんだ。

 感情は宿っているが、その感情がどういったものか分からない。計れない。

 幾何かの後に彼女は、笑みを浮かべた。

 同性であるわたしですら見惚れてしまうような笑顔を。

 

「ピー助」

 

 優しい声音だった。

 ピー助というのは、この子の名前だろうか?

 名前があるということは彼女と怪獣は飼い主とペットのような関係ということ?

 だというのに怪獣は…警戒している。

 本能で感じているのだろう。

 彼女は危険だと。

 このままではまずいと心が叫ぶ。

 早く逃げなければ…だが、もう遅かった。

 彼女の表情が一瞬の内に凍てつき、感情の一切も消えた。

 そして、だらりと垂らした刀を持つ腕を怪獣に向けて言葉を放った。

 

「ピー助。お前を、殺しにきた───」




重い女って、最高

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