子育て生活二日目にしてガイガンことピー助の調子は崩れ始めていた。
夜泣き対応に追われ、睡眠時間が減ってしまったせいである。
減ってしまった睡眠時間を取り戻すように、ピー助は二度寝していた。
「ピー助が二度寝とは珍しい……」
「そうなんですか翼さん?」
「ああ、ピー助は朝に強くてな。私もよくピー助に起こしてもらっているぐらいだ。二度寝しているところを見たことはないな」
ペットに起こしてもらってるんだ……と思いつつ、乾いた笑いでその場を乗り切る響であった。
二人はピー助の代わりにミニラの様子を見ている真っ最中で当のミニラは日が昇ると同時に活動を始めたはいいものの親代わりのピー助が二度寝しているので構ってくれる相手がおらず暇をもて余している様子。
「……ぴー……」
ドスンとピー助の尻尾が動いた。
人間でいうところの寝返りのようなものである。
それを見たミニラは閃いてしまった。
再び動くピー助の尻尾。
その尻尾をジャンプして避けるミニラ。
これをミニラは繰り返して遊び始めた。
「すごいすごい! 生まれたばっかりなのにもうあんなに動けるんだ~!」
「生後1日とは思えない。やはり怪獣は人間の常識では計れないな」
感心する二人と楽しそうに跳び跳ねる怪獣が一匹。
なんてことない平和な日常の一コマ、であったが……。
「ぴやっ!」
ぶちっ。
「あ」
「あ」
跳び跳ねて尻尾を避けていたミニラであったが、たった今それに失敗。
ピー助の尻尾の先は思い切り踏んづけられた。
「ピーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?!?」
ゾルゲル島に響くピー助の悲鳴。
ピー助の二度寝という幸福はここに幕を閉じた。
よもや尻尾で遊ばれるとは思わなんだ。
子供の発想力はすげーなー。
いやでも俺もなんか色々工夫して遊んだりしてたし、うん、子供ってすごい。
そんな子供ことミニラは今度、石を投げて遊んでいる。
翼ちゃん達に危なくない方向に投げるように言ったし俺も見てるからひとまず安全。
いいぞいいぞ、その調子で石を投げまくれ。
君のお父さんの得意技の一つだからな投石は。
石を投げるわ蹴るわで大活躍よ。
キングギドラにも効いたからなゴジラの投石。
地球のために今のうちから肩を鍛えておいておくれ。
さて、そろそろご飯獲りに行こっかな。
俺は小さくなれるから皆にご飯をタカれ……貰えるけどミニラはそうはいかないので俺が用意しないと。
牛とかデカめの動物がいれば陸地の狩りでいいけどこの島にはいねえからな。
海に魚を獲りに行かないと。
それもデカめのやつを。
けど大丈夫かなそんなに獲って?
漁獲量とか減って漁師さんを困らせたりしない?
とはいえこちらも生きるためなので仕方ない。そこはドライに行かせてもらうぜ。
というわけでア○ヒスーパー……ドラァァァイ(海へとダイブ)
海へと食料を獲りに行ったピー助を砂浜から眺めるマリア達。
新たな任務となったピー助とミニラの行動観察……という名の休暇を満喫中である。
「もうすっかりパパねピー助」
「意外とちゃんと面倒見るんだなアイツ」
「そうね……あんなに世話してあげてたのに今ではあんなに立派になって……」
「記憶捏造するな」
「デース……」
「というかそれだとミニラのおばあちゃんに……」
「調~?」
おばあちゃんは駄目だったかと口を塞ぐ調に詰め寄るマリア。流石の切歌も今ばかりは調を助けることは出来なかった。
マリアの小言を食らった調はしばらくおばあちゃんという言葉を言えない身体にされてしまったのだった。
そんな最中、ミニラの前にまたもカマキラス達が現れた。
動物にせよ怪獣にせよ子供というものは狩りやすく、狙われやすいものである。
「あんのカマキリ野郎! ピー助がいない時に来やがって!」
「狙ってきたのだろう。ピー助が戻ってくるまで私達で注意を引き付ける!」
シンフォギアを纏う装者達。
各々の得物を手にカマキラスへと立ち向かっていくがカマキラスは俊敏な怪獣で装者達を近付けさせない。
クリスの射撃も当たらず、攻めあぐねていた。
逆にカマキラスはその敏捷性と巨体を活かす。
巨体はそれだけで脅威であり、ただ動くだけでも人間にとっては生命に関わる事態になり得る。
一匹のカマキラスが鎌を大地に突き立て、装者を追いかける。
「走れ!」
「あわわ!」
土壌を切り裂き迫る鎌から逃れるため全力疾走。
シンフォギアを纏っていなければ容易く切り刻まれていたかもしれない。
「緑で鎌で……アタシと被ってるデース!」
「言ってる場合か!」
「ピー助はまだ戻ってこないの!?」
対怪獣の切り札であるピー助は未だ海から戻らない。
ピー助はいま……。
こんにゃろ大ダコまでいやがったぞ!
お前あれだろ!
上陸して翼ちゃん達を襲ってあんなことやこんなことする気だろ!
エロ同人みたいに!
そのための触手とぬめりだろお前!
絶対許さねぇ!!!
ピー助は海中で大ダコと死闘を繰り広げていた。
カマキラスに狙われたミニラであったが彼は未来の怪獣王。
やられっぱなしではいられない。
手のひらサイズの岩を掴み、ピー助から教わった投石でカマキラスを迎え撃つ。
「ぴゃっ!」
放り投げられる巨岩。
カマキラスに直撃するコース。……であったが。
ぺしっ。
カマキラスは鎌で岩を打ち返す。
「あっ」
装者六人の声が重なる。
岩は、ミニラの額に直撃。
ミニラはのびてしまった。
「ミニラー!?」
地に倒れ、天を仰ぐミニラの視界は星々が瞬いているかのよう。
カマキラス達はその様を見てケタケタと笑っているようだった。
「よくも私とピー助の子を!」
剣を構え直し、怒りに燃える翼の言葉にツッコミを入れる者はいなかった。
ミニラを傷付けたカマキラスを許さぬ装者達は本気のスイッチが入ったところであった。
しかし、足元から感じるカマキラスよりも強い気配に警戒態勢へと入る。
「この感じは……!」
響く轟音。
揺れる大地。
盛り上がる地面。
突き出る、無数の針のようなもの。
針の先が地に突き刺され、それが足なのだと理解する。
その身にかかる土を振り落とし、土煙の中で青く、怪しく発光する八つの眼。
「く、クモォ!?」
「でかいカマキリの次はでかいクモかよ!」
「ここは昆虫博物館デスか!?」
その怪獣の名は巨大蜘蛛怪獣クモンガ。
恐るべき肉食蜘蛛である。
黒い巨躯に黄色を差した警戒色が動き出す。
カマキラス達もクモンガを警戒し、臨戦態勢を取る。
どちらが先に動き出すか……。
先制はクモンガ。口から糸を放つ。雨のように降りしきる糸がカマキラス達を捕らえる。
糸は止まることなくクモンガの口から吐き出され続け、カマキラスは最早踠くことも出来ない。
そして、死神がカマキラスへと歩み寄る。
身動きの取れないカマキラスはクモンガの口から伸びる毒針を突き刺され、絶命。
「ッ……」
装者達はただ見ていることしか出来なかった。
目の前で行われる巨大生物達の命の応酬。
人間が敵うものではないと、肌で感じていた。
「……ぴゃ」
のびていたミニラが目を覚ます。
タイミング悪く。
ここでもし動き出さなければ死んだものとして扱われ見過ごしてもらえたかもしれないというのに。
「次はミニラを狙って!」
「やらせない!」
ミニラへと迫るクモンガ。
糸を吐き、カマキラスのようにミニラを捕縛しようとするクモンガであったがその糸は巨大な剣が阻む。
【天ノ逆鱗】
更に、巨大な剣がもう一振り。
空からこの剣でクモンガを蹴り貫かんと風鳴翼の歌が奏でられる────。
しかし、怪獣は人の想像を越えてこそ。
放たれる蜘蛛の糸。
翼は糸など断ち切ってしまえとそのまま突き進む。
だが、この糸はこれまでの糸とは違った。
これまでの糸は言わば、線。
直線的なものであった。
「なにッ!?」
翼の目の前で、糸はネットとして広がる。
これがクモンガの技。
【強縛デスクロス・ネット】
「翼ッ!!!」
「くっ……!」
巨大な剣ごと絡め取られ、翼は失墜。
クモンガの巨体が翼とミニラに迫る────。
「翼さん!」
「先輩!」
翼を助けるために駆ける五人。
クモンガの気を引くためにクリスはとにかく撃ちまくる。
だが、クモンガには通じない。
感情を感じさせず、ただの捕食者として翼にその毒牙が剥かれようとする。
「ピー助……!」
愛する家族の名を呟く。
────その想いに、奴は答える。
響達の頭上を何かが通りすぎていく。
その巨大な物体はクモンガに直撃し、クモンガはひっくり返った。
クモンガと衝突したものは……大ダコ。
ドシン、ドシンと地が震える。
そいつは海より戻ってきた。
「ピー助!」
『キシャアアアアア!!!!!(てめぇなにしてやがる!!!!!)』