たくさんの感想ありがとうございます。
今回はだいぶ駆け足になってしまったと思いますが、とりあえず一期本編前の話は終わりです。
この頃の日常話は番外編とかで書いていくのでよろしくお願いします。
奏ちゃんが死んだ。
戦死だった。
ツヴァイウイングのライブに大量のノイズが現れて、奏ちゃんと翼ちゃんは戦って…戦って…
元々奏ちゃんはシンフォギアに適合出来なかったのを色々無茶して適合させていたらしい。
(部屋が広くなった…)
荷物などは片付けられ、そこにかつて天羽奏という人物がいたことを感じさせない。
俺に優しくしてくれた人はもう帰ってこない。
短い間だったけど、彼女とはいろんな思い出がある。
歌を聴かせるって言ったじゃないか…
「ピー助、ここにいたか…」
翼ちゃん…
奏ちゃんが亡くなってから当たり前だけど元気がない。
二人はとても仲が良かったから…
「すまない、ピー助…お前の主人を守ることが…出来なくて…」
そんな…翼ちゃんのせいじゃないのに…
俺は知っている、翼ちゃんが毎日この部屋で泣いていることを。
どうして、こうなった。
全部ノイズのせいだ…
ノイズ…絶対許さない…!
こうなったら…
ツヴァイウイングは活動休止。
あれからしばらくノイズも現れず、私は無為に時間を浪費していた。
こうして、廊下に意味もなく立っていて…
奏が死んだのは私が弱かったせいだ。
剣であるという誓いが鈍っていたからだ。
防人である私が、私が守らなくてはならないというのに…
「大変です翼さん!」
緒川さんが血相を変えて現れた。
ノイズだろうか?
「ピー助さんが脱走しました!」
「え…」
完全聖遺物だかなんだか知らんけど、俺が大事ならもっと監視なりなんなりしとくべきだったな。
簡単に脱走出来たぞ。
ここから出てどうするかなんて決まりきっている。
ノイズどもを滅ぼす。
それがこのガイガンに与えられた唯一無二の使命だ。
古代人が対ノイズ用に作ってくれたおかげだろう、恐らく次にノイズが現れるだろう位置を察知している。
─殺してやる。
復讐だ。
奏ちゃんの復讐だ。
これ以降、ノイズとは違う謎の生物の目撃情報が続出した。
ノイズが現れる現場に即座に現れて、ノイズを殲滅する。
その手は死神の鎌のようで、黄金の三枚の翼を持ち、高速で飛行しノイズ達を切り裂いていく…
現代の鎌鼬か!?とメディアは伝えている。
ザクッ、炭になった。
ザクッ、炭になった。
ザクッ、また炭になった。
何かが焦げる臭いがする。
辺り一面燃えている。
いつの間にこんなに燃えていたんだろう。
まあいいや。
こいつらを殺そう。
鉤爪で、ノコギリで、光線で。
俺はこいつらを殺す。
殺す。
殺す。
殺す。
殺す…?
なんのために?
……………………
何か、忘れて、しまった、しまった?
俺はこいつらを殺す。
それだけ、それだけの存在。
俺はガイガン。
ノイズを殺す者だ。
「ピー助、いや、ガイガンの脱走から一月は経とうとしている。ノイズが現れるとガイガンも現れていたようだが…」
司令は最近ようやく鮮明にピー助を撮影することに成功した写真を見ている。
写真を見た司令は…
「…かなりでかくなっているな」
そう言いながら写真をテーブルに置き、私にも見せた。
久しぶりに見たピー助の姿は…司令の言うとおり、かなり成長しているようだ。
一緒に写っているノイズと比較すると大体2m程にまで成長している。
ノイズに向かって、腕の鉤爪を振り下ろしているその姿は獲物を仕留める捕食者。
ノイズは人類の天敵だが、ノイズにとっての天敵がピー助…ガイガン。
「恐らくガイガンに仕込まれたプログラムか何かあるんでしょう。ノイズを見たらとにかく殲滅!…みたいな」
「そんな…それでは今のピー助はプログラムに従うただの機械ではありませんか!」
「あくまで可能性よ可能性。もし、別の可能性があるとしたら…天羽奏を殺されたことへの復讐。もしくはその両方」
復讐…
奏も復讐を誓っていた、しかし…
「奏は恐らく、そんなこと望んでいません」
あんなに可愛がっていたピー助がこんなことになるのを望んでいるはずがない。
「ああ。一刻も早く、ガイガンの捕獲を頼む。今はまだ人的被害は出ていないがこれ以上巨大化するとなると甚大な被害を出す可能性がある」
「分かりました…!」
その時、ノイズ出現を知らせる警報が鳴った。
ノイズの出現場所は近隣の港湾。
すぐに出動要請がかかり向かったそこには巨大化し、ノイズを屠るピー助の姿があった。
ノイズだ。
ノイズだ。
殺す。
殺す。
ノイズは殺す。
鉤爪で。
ノコギリで。
光線で。
鉤爪を叩きつけて。
ノコギリでズタズタに切り裂いて。
光線で焼き払って。
あとに残るのは炭だけ。
真っ黒な炭だけ。
これがとっても、おいしい。
ぱくぱく、ぱくぱく。
まだたくさんいるから、殺して食べなきゃ。
「ピー助ぇ!!!私だ!翼だ!」
なんだ、あれは。
人間か。
人間は食べれない。
人間は殺しても意味がない。
無視しよう。
「私が分からないのか!翼だ!奏と一緒にいた…!」
人間が何か喚いている。
関係ない。
それよりノイズだ。
ノイズを殺せ。
鉤爪を振り回し、ノイズを一掃する。
一気にたくさんのご馳走が出来た。
おいしい、おいしい。
「ピー助…ノイズを食べて…やめろ!止まるんだピー助!」
まだ人間がいる。
けど関係ない。
ノイズを殺…
『ピー助…』
懐かしい声を聞いた。
青い髪の少女の隣に、オレンジ色の髪の少女を見た。
懐かしい。
今は、もう、会えないはずの。
『ピー助…もうこんなことやめるんだ。家に帰って…翼の隣にいてやってくれないか?』
か、なで…ちゃ、ん。
『こいつ、寂しがりやだからな。お前が近くにいてやらないとダメなんだ。あたしの代わりにこいつの翼になってくれよ』
けど、俺なんて…
「ピー助!奏を失い!お前までいなくなってしまったら私は…私は…」
『ほらな?今の翼にはお前が必要なんだ。だからもっと自信を持て!お前には三枚も翼があるんだから』
奏ちゃん…
ああ…
分かったよ…
いつの間にか目的すら見失ってノイズを殺して回っていたような俺だけど…
奏ちゃんが…そういうなら…
俺は翼ちゃんの翼になるよ。
『ありがとう…今、なんとなくお前の言葉が分かった気がするよ。それじゃああたしはもう行くけど…約束破って悪かったな…お前にあたしの歌聴かせるって…』
ホントだよ…
約束破るなんて…
『ごめんな…本当に…ごめん…』
そして、奏ちゃんは消えた。
奏ちゃん…
「ピー助…私が分かるか?」
コクリと首を縦に振る。
あれ、翼ちゃんが小さい…
「ピー助が大きくなったんだ。いつの間にか私よりも大きくなって…」
ホントだ…
どうしよう、こんな大きな図体だと生活しにくい。
前は体の小ささを困っていたのに今度は大きくて困るなんて…
なんとか小さくなれたりしないかな…
てか、ちょっと待って…ヤバ…腹が辛い…食べ過ぎ…た…
「ピ、ピー助、大丈夫か?ふらついているぞ…」
つ、翼ちゃん…
ごめんなさい…
ちょっと、戻します…
「ピー助!?ちょっ、こっちはダメ…だぁ!!??!」
ん…
いつの間にか寝てたのか…
お、すごく体が軽いぞ。
すごく調子がいい!
「…ピー助」
あ、翼ちゃん。
って、あれ?
翼ちゃんが大きい…
それになんか体中煤まみれみたいに黒いし。
あとその刀はなんですか…?
「よかったなあ元の大きさに戻れて…」
あ、元の大きさに戻ったのか…
それなら安心、安心…
翼ちゃん、いや、翼さん。
なんで刀を振り上げてるんですか…?
「よくも…よくも私に…ぶちまけてくれたなぁ!!!」
いやあああああああああ!!!!!!!!!!!
ごめんなさい!!!ごめんなさい!!!
思い出したからぁ!
おもいっきり吐いたことは謝るからぁ!
「切捨…御免ッ!!!」
いやあああああ!!!
咄嗟に鉤爪で受け止めたけど…普通にパワー負けしそう…
ひえぇ!刃が目の前まで迫ってるぅ!
あまりの恐怖に目を瞑って…
あれ?軽くなった…
「…ふふっ。驚いたか?冗談だ。さっきのちょっとした仕返しさ」
えぇ…
本当かな…
あとで闇討ちとかされそう。
「さあ、帰ろうピー助。みんなのところへ」
そういって手を差し出す翼ちゃん。
正直、脱走なんてしでかしたから合わせる顔がないけど…
翼ちゃんと一緒にいてくれって頼まれたからな…
鉤爪の先をちょこんと手のひらに乗せる。
「ふふっ。一緒に帰るぞ!」
翼ちゃんは笑った。
久しぶりに翼ちゃんの笑顔を見ることが出来た。
そのことがすごく嬉しくて、思わずお腹のノコギリが大回転してしまったのは秘密だ。
奏ちゃんを失ったことはとても悲しいことだけど、前を向かなきゃならない。
それが、今を生きる俺達がやるべきことなんだ。
だから、奏ちゃんが守ろうとしたものを俺が、俺達が守るんだ。